シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第30話 8番“拷問”の時間です

 私はミドガル王都に向かう馬車に乗っている。

 同乗者は全員が有名人だ。

 ミドガル王国第二王女アレクシア・ミドガル。

 オリアナ王国第一王女ローズ・オリアナ。

 大人気天才作家美少女ナツメ・カフカ。

 しかし馬車の乗客四人の中で今最も注目を受けているのはなぜか私だ。

 私なんてちょっと最近世間を騒がしている謎の組織に所属しているだけのどこにでもいる普通のエルフ少女でしかないのになぜ?

 

「シャドウの正体教えなさい」

 

 アレクシアの質問を私は無視した。

 

「シャドウガーデンの剣技はやはりシャドウが創り出したのでしょうか?」

 

 オリアナ生徒会長の質問も無視した。

 

「あなたは仲間から8番と呼ばれていましたが、この数字にはどんな意味が?」

 

「加入順です」

 

 ナツメ先生の質問には答えた。

 アレクシアはキレた。

 

「なんでこいつが聞いた時だけ答えるのよ!?」

 

 それは与えても良い情報をベータ様が選別しているからなのだが、そんなこと正直に言えないので嘘と本当を混ぜて言い返す。

 

「私がナツメ先生の大ファンだからだよ。後でサインをくれるって話だから、多少は融通を利かせようかなって」

 

 同じくナツメ先生のファンであるらしいオリアナ生徒会長は納得した様子であったが、アレクシアはそうではない。

 

「なら私の質問はひとつ答えたら金貨1枚よ」

 

「いらない」

 

「10枚でどう?」

 

「お金には困ってない」

 

「くっ……ポチならすぐ食いつくのに」

 

「アレクシア様その話詳しく」

 

 なんでベータ様が釣られちゃうんですか?

 シド様に関する話だから仕方ないことだが、ナツメ先生がアレクシアの言うポチの正体を理解しているとあっては余計な詮索をされかねないため、私は咄嗟に割って入る。

 

「それじゃあこうしよう。この先はあなたたちが私を楽しませることができたら、ひとつ質問に答えてあげる。ただし質問内容は先に言ってね。答えられない場合は事前に言うから」

 

「具体的には何が良くて何が駄目なのか教えていただけますか?」

 

 オリアナ生徒会長は私に『質問』をした。私は自分で決めたルールに従って対応する。

 

「その質問には答えられますよ。じゃあそれがひとつめってことで、頑張ってください」

 

「今のやつくらい普通に答えなさいよ!」

 

「駄目だよ! 質問は既に拷問に変わってるんだよ!」

 

 アレクシアは首を傾げたが、オリアナ生徒会長はぽんと手を打った。

 

「ナツメ先生の『王女様“拷問”の時間です』を真似たのですね」

 

 それはどこかアレクシアに似た容姿で描写されている王女様が敵だと思っていた陰の組織の捕虜となり、拷問と称した超人道的で優しい扱いに絆されて秘密を喋ってしまうというコメディ系の物語だ。ちょろい王女様に親しみを込めて世間ではおうにょ様と呼ばれている。

 

「その通りです。オリアナ生徒会長もご存知でしたか」

 

「ローズでいいですよ。それよりおうにょ様といえば……」

 

 私とローズ先輩は作者であるナツメ先生も巻き込んで盛り上がった。アレクシアは読んだことのないおうにょ様の話を知るたびになんかすっごく不愉快そうな顔になった。

 

「屈する!」

 

 おうにょ様談義が盛り上がって楽しかったので私は屈した。

 

「私個人の情報は自己責任ということでいくらでも話せますが、シャドウ様を筆頭に仲間の情報は話せません。私はここにいる方々を傷つけたくないと思っていますが、仲間の安全を脅かすようなら始末せざるを得なくなります」

 

「はぁ? 始末ぅ? そこの作家は別だけど、私やローズ先輩が何度もシャドウに命を救われたってこと知らないわけ? 私たちに危害を加えたらシャドウが黙ってないわよ!」 

 

「アレクシアすごい脅し方するね……本当にそうなりかねないから結構譲歩してるつもりなんだけど」

 

「足りないわ。もっと譲歩しなさい」

 

「えー……それじゃ、ガーデンのことで既にディアボロス教団に漏れてるっぽい情報も話すよ」

 

 ナツメ先生が何も言わないので、どうやら問題ないようだ。

 それから私たちは沢山遊んで、私は沢山屈した。

 女子会……じゃなくて拷問はつれーわー!

 

          ◯

 

 リンドブルムからミドガル王都まで馬車で四日ほど。現在は道程の半分を過ぎた辺り。

 ここまで来る間、アレクシアは馬車の中から宿までずっとシタラとローズとおまけと遊び続けて、対価としてこれまで全てが謎に包まれていたシャドウガーデンに関する情報をそれなりに手に入れた。

 シャドウガーデンはディアボロス教団を滅ぼして悪魔憑きを救うことを理念とする組織である。

 シャドウガーデンの構成員はシャドウを除く全員が元悪魔憑きである。つまり不治の病と一般に信じられている悪魔憑きは治療できる。

 シャドウガーデンは盟主シャドウと最高幹部七陰が作り上げた組織であり、新しく加入した者は8番から順に番号を与えられる。

 それを聞いたアレクシアとローズは驚愕した。

 

「嘘でしょ!? あんた最高幹部一歩手前ってこと!?」

 

 シタラは強いが頻繁に奇行に走るアホだ。今もかなり間抜けな経緯で身バレしている。こんなのが上の立場でシャドウガーデンは大丈夫なのかと本気で心配した。

 

「それがそうでもないんだよね。私は組織の発足からいるくせに全然出世できない永年下っ端の役立たずだから。でも、こんなお荷物でも一桁の番号もらったおかげで少しはおっきな顔できるんだぜ! これぞ年功序列!」

 

 親指を立てるシタラにアレクシアはジト目を向けた。

 

「あんたみたいなやつを老害って言うんじゃない?」

 

「だってぇ……こんなふうに虚勢張らないと肩身が狭くてやってらんないんだよぉ」

 

 シャドウガーデンでは8番以下から特に優れた能力を持つ者が選抜され、ナンバーズと呼ばれる特別な名前を与えられた幹部となることをシタラは語った。

 

「私はアルファ様に最初に拾っていただいた悪魔憑き。私が弱いわけはないんだよ……! ナンバーズが……強すぎるんだ!」

 

 自分で言う事じゃないよなぁとアレクシアとローズは苦笑いを浮かべた。

 その一方で二人ともシタラの強さは知っているため、シタラよりも強い幹部が大勢いるという話には半信半疑だった。もしかしたらシタラは強いけど知性が足りないから幹部になれないだけではとも思った。

 なお、実際にはシャドウが馬鹿と認識しているデルタが馬鹿と認識しているパイが立派に幹部をやれているため、ナンバーズの選出に知性は考慮されていない。

 

「で? あんたどういう目的で学園に入学したわけ? 別にミドガル王国の騎士団に入るつもりはなかったんでしょ?」

 

 シタラがシャドウガーデンに就職済みというのであれば騎士団体験入団での躊躇のない大暴れも納得できる。

 

「あの学園はディアボロス教団の拠点になってる疑いがあったからだよ。実際アレクシア誘拐した奴とか副学園長とか教団員だったし」

 

「待ってください! ゼノン・グリフィがそうだったことは聞きましたが、バーネット副学園長もですか!?」

 

 シタラは首を傾げた。

 

「あれ、聞いてないですか? ほら学園占拠事件の時の鎧の奴ですよ」

 

「痩騎士……そうですか。副学園長は過去にブシン祭で優勝したと聞いています。副学園長が痩騎士の正体であったのなら、あの強さに不思議はありません」

 

「でも副学園長は事件のどさくさでシャドウに殺害されたって聞いたわ。手配書にもそう書かれてる」

 

「始末したのはシャドウ様で間違いないけど、無関係の教師なんてシャドウ様はわざわざ殺さないよ」

 

「……事件の調査をしたのはこの国の騎士団よ。つまり、まだ潜伏中の教団員が残っているのね。それも、かなり上の立場で」

 

 ミドガル王国上層部教団員しかいない説が共有されて、アレクシアとローズは深刻な表情で頭を悩ませた。眼鏡に光を反射させて目元を隠すナツメは何を考えているのかわからない。にこにこしてるシタラはきっと何も考えていない。

 それからも二人の王女は多くの質問をしたが、シャドウガーデンの情報はだいたいが「禁則事項です♪」のひと言で隠蔽された。そのたびにむかついたのでアレクシアはシタラの頬をつねった。

 代わりにシタラ自身の情報が充実したのは、このアホが聞いてないことまで楽しそうに自分語りしたからだ。

 

「それでね、アルファ様とね……」

 

「はいはい、その話はもう三回目よ」

 

 シタラがアルファに対して並々ならぬ重さの想いを抱いていることは嫌というほど分かった。

 理由も悪魔憑きを治してくれた恩人だからとはっきりしてるので、その感情自体に違和感はない。

 それでもシャドウガーデンのアルファとしての姿は一切話さずプライベートの姿しか話さない理性を残しているのがアレクシアには腹立たしい。

 

「シタラさんとアルファさんは仲が良いのですね」

 

「そう! そうなの! ローズ先輩よくわかってる!」

 

 身を乗り出して迫ってきたシタラにローズは苦笑いを浮かべた。

 そんな様子を他人事だからと呆れて見ていたアレクシアは、ふと気付いた。

 悪魔憑きを治療したアルファと同等かそれ以上の感情を向けられているシド・カゲノーはシタラに何をした?

 

「シタラ、ポチとはどこでどうやって知り合ったわけ?」

 

「シド様? シド様かぁ……シド様とはね……」

 

 シタラは返答に困った。

 学園においてシタラがシドと過去に肉体関係を持ち、現在も片思い真っ最中であると勘違いされていることはゼータから教えてもらった。その上でそのまま勘違いさせておけとも命令されている。

 それなのにシドとの恋愛に関する設定は考えてなかった。アルファへの愛を叫べば周りが勝手に勘違いしてくれたからだ。

 

「その質問は答えていいやつなんだけど……その、ちょっと長い話になるから考えが纏まらないというか……うん、今すぐは無理」

 

「では今日はもうじき宿場町に着くので、続きはまた明日にしましょう」

 

 ナツメの誘導でその日の質問タイムは終了となった。

 

          ◯

 

 その後、密かに宿の一室に集まったベータとシータは一晩かけてシドとの架空の恋愛小説を練り上げた。

 

「なんで……なんでヒロインが銀髪青目泣きぼくろのエルフじゃないのおおおおおお!」

 

「ち、ちがっ、私が愛してるのはアルファ様だけで、これは決して浮気ではっ!」

 

「王女よりマシ王女よりマシ王女よりマシ我慢よベータ我慢我慢シータは仲間仲間仲間敵敵敵んああああああ!」

 

「ひぃっ!? なんでこんな仕打ちを考えるんですか!? エルフちゃんかわいそう……」

 

「駄目駄目駄目駄目駄目ぇええええええ! シャドウ様の初めては私じゃないとやだああああああ!」

 

「やだやだやだやだやだぁああああああ! 私の初めてはアルファ様に捧げるのおおおおおお!」

 

「あぁ……大きな光が点いたり消えたりしてる。あはは……綺麗……シャドウ様かしら? 違う、違うわ……シャドウ様は常に輝いているもの……」

 

「私はアルファ様だ! お前もアルファ様だ! そうだ……私が……私たちが……アルファ様だっ! ん? シド様はアルファ様だった……?」

 

「シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様シャドウ様……」

 

「アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様アルファ様……」

 

 自分の愛するシャドウが他のエルフと肉体関係に至る物語を執筆させられるベータ。

 アルファの愛するシャドウを自分が寝取る物語を読ませられるシータ。

 二人にとってこの時間こそ本当の拷問であった。

 シタラとナツメはときに泣き、ときに怒り、ときに精神崩壊し、ときに殴り合い、朝日が昇る頃にはなぜか互いに全裸となって倒れていた。

 阿鼻叫喚の地獄絵図を経て完成したシドとシタラの恋物語、そのチャプター1——『出会い、そして結ばれる二人』は近日公開! 乞うご期待!

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