シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第44話 散りゆく8番への鎮魂歌

 イータは手元の試験管を揺らして中のどぎつい色をした薬品の使い道を考えていた。

 この薬品は以前シャドウが記憶喪失になった際に急いで作成した『忘れた記憶を呼び戻す薬』だ。シャドウの記憶喪失が演技だったと判明して使われなかった試作品を改良し、理論上完璧な効果を得られる完成品ができたのだが、実験しようにも身近に記憶喪失の実験台がいないので困っているのだ。

 

「イータ様、ミドガル王都滞在中のアルファ様から伝言を預かってきまし……もごぉ!?」

 

 ちょうどシータが訪ねてきたので、とりあえず健常者に対する実験だけでも済ましてしまうことにした。

 人に使う薬品の安全性を確認する場合、世間でも病人だけでなく健常者を投与対象とした試験が行われるので、イータの行動はあながち間違いではない。

 ただし普通は志願者を募ってやる。無断投薬ダメ絶対!

 

「イータ様今何飲ませ……うっ!?」

 

 さて、実はシータには結構な量の思い出せない記憶がある。それは大半が破棄された5億年分の記憶の断片で、例えるならばかろうじて肉体にインストールできたがファイルが破損したために開けずにいた情報だ。

 イータの薬によりシータの破損した記憶が修復され、展開された記憶が一気にシータの脳内で再生された。

 それらは全てアルファに関する妄想の記憶で、その中にはアルファを看取った絶望の記憶が大量に含まれていた。

 

「ああっ、あああああああああああああああっ! ああっ、あああああああっ、あああああああああああああっ!」

 

 頭を押さえて悶えるシータの姿に嫌な気配を感じ取ったイータはすぐに研究室から逃げ出した。

 直後、シータから放たれた赤黒い稲妻のような魔力が吹き荒れ、イータの部屋は吹き飛んだ。

 

          ◯

 

 この時点ではまだ誰にも知られていないことだが、悪魔憑きの中には極めて強い絶望感に襲われることで『魔人化』という現象を起こす者がいる。

 魔人化した悪魔憑きは髪が白く染まり、スライムスーツを着ている場合は精神状態を反映した禍々しい形となり、能力が平常時よりも遥かに強化され、理性を失い狂気に突き動かされるのだ。

 

「アルファさまぁ……どうして……どうして私を残して死んじゃったの……」

 

「正気に戻れ8番!」

 

「アルファ様は御存命だ!」

 

「じゃあ連れてきてよ! 今! すぐに!」

 

 イータのせいで錯乱した8番が暴れているという情報はすぐにアレクサンドリア中に通知され、近くにいたナンバーズのカイとオメガが鎮圧に動いた。

 彼女たちは8番が一般構成員の中では強いと知っているが、それでもナンバーズである自分たちには劣ると認識していたので、それが如何に無謀で命知らずな行動か分かっていなかった。

 

「あ……え?」

 

 シータのスライム要塞ほどではないが普段を遥かに超える密度で形成されたスライムスーツに呆気なく斬撃を弾かれたカイは、反撃として振るわれた剣閃に自身のスライムスーツを紙でも裂くかのように切り裂かれて重傷を負った。

 

「カイ! 8番、お前よくも!」

 

 相棒の負傷に憤るオメガは仲間に対する手心を捨てて8番に向き合うが、彼女の攻撃よりも速く8番の大剣が振り下ろされた。

 かろうじて間に割り込ませたオメガのスライムソードは一瞬すら拮抗することなくあっさりと折れた。今の8番が振るう獲物は普段ナンバーズに挑戦する時に使っていた標準的なスライムソードではなく、暴走後に拠点内で掻き集めた大量のスライムを圧縮した超高密度の大剣だ。オメガのスライムソードと硬度を比較したら便所紙と鋼の塊くらいの差があった。

 オメガはカイと同様に重傷を負って意識を失った。2人とも瀕死だがかろうじて息をしている。

 そんな2人に8番がとどめを刺そうとする。

 

「先にアルファ様のとこに行っててください。みんな送ったら私も追いかけますから」

 

「何バカなこと言ってんのよ!」

 

「ウォシャアアアアアァァァァァ! ぶっ飛ばすのです!」

 

 不可視の魔力斬撃が8番を襲った。

 8番は大剣を盾にそれを無傷で凌いだが、体勢の崩れたところに間髪入れず突っ込んできたデルタの攻撃を受けて吹き飛んだ。

 しかし本来ならば地平線の果てまで吹き飛ぶほどの勢いがほんの数メートルでピタリと消え失せた。背中から3対6本の赤黒い翼を生やした8番は空中で静止し、その次の瞬間にはデルタの目と鼻の先に迫っていた。

 

「デルタ様ぁ! 私を叩いちゃいけませんってアルファ様にいつも言われてましたよねぇ! アルファ様が沢山躾けをしてくださったのに、どーしてデルタ様はいつまで経っても駄犬のままなんですか!?」

 

「デルタ犬じゃない! 8番のくせに生意気なのです!」

 

 8番はシータとならずに剣と飛行能力だけを使ってデルタと接近戦で拮抗している。しかもイプシロンがデルタの援護をしているにもかかわらずだ。これは普段の8番ならば絶対にあり得ないことだ。

 

「あの姿でワンちゃんと互角かそれ以上……イータ、今回ばかりは本気で反省しなよ」

 

「……生き残れたら、考える」

 

 遅れてゼータ、イータ、ラムダが姿を見せた。

 

「ラムダはカイとオメガを連れて退避。ナンバーズ以下は邪魔になるから近付けないで」

 

「サー、イエッサー!」

 

 シータの正体を知るラムダは戦力外通知に不満を持つことなくゼータの指示に従った。ナンバーズが16人がかりでシータに蹂躙された一件は記憶に新しく、無理に参戦しても七陰の邪魔にしかならないことを自覚しているためだ。

 ラムダの指揮によりこの付近の区画が立ち入り禁止とされ、内部には8番、デルタ、イプシロン、ゼータ、イータの5人だけが残された。この場にいない七陰はミドガル王都にいるため、これが現状で集められる最大戦力だ。

 

「……七陰が4人ですか」

 

 8番を4人の七陰が四方から囲んだ。

 

「降参するなら今のうちよ」

 

「シータになる隙は与えない」

 

「……デルタ?」

 

「ウゥ〜」

 

 デルタが毛を逆立てて唸る。これはデルタが野生の勘で相対する敵の強さを自分以上だと見抜いている時の反応だ。

 

「皆様はアルファ様の家族なのに……涙ひとつ見せずに私を虐める……」

 

 スライム大剣が溶けて8番の身体を覆っていく。

 

「させない!」

 

 七陰の想像以上に8番のスライム要塞形成速度が速くなっていた。だがそれでも至近距離で周囲を囲んでいた七陰たちなら完成前に攻撃を間に合わせられる……はずだった。

 

「身体が重いのです!?」

 

「これは……重力!」

 

 接近しようとしたデルタとゼータの動きが鈍り、イプシロンとイータが放った遠距離攻撃は8番に届く寸前で全て地面に落ちた。

 

「もういいです。やっぱりアルファ様の家族は私だけでいい。同じお墓に入るのは私だけでいい。皆様は……お前たちはここで死ね!」

 

 外殻を完成させたシータがスライムカッターを四発同時に放った。

 未だに重力による行動阻害を受けている七陰の四人は回避できないと判断して防御を選択する。

 実は七陰たちは密かにシータを仮想敵として対策を考え続けてきた。ナンバーズと違って七陰の地位は不変だが、それに甘んじてシータに遅れをとったままでは自分で自分を七陰と認められなくなる。

 デルタは人間の構造上あり得ない動きでスライムカッターを回避した。筋力で関節の可動域を強引に超えて、損傷は魔力で即座に治した。

 ゼータは習得したばかりの吸血鬼の霧化能力で物理攻撃を完全に無効化した。

 イプシロンは極まった魔力操作技術で射出直前のスライムに干渉し、武器で受け止め切れる程度までカッターの圧縮率を弱めた。

 イータはスライムを吸収する盾を何枚も重ねて展開し、計算通り最後の1枚でスライムカッターを吸収しきった。

 

「やりますね。でも、いつまで凌げますか?」

 

 普段のシータは10発もカッターを撃てばスライムが尽きる。

 シャドウガーデンにおいてスライムは消耗品だ。700人近い構成員が日々消費しているので、シータが湯水のように使い潰すわけにもいかず、携帯するスライム量は多くてもせいぜい10体分だ。スライム1体で1人の装備が形成できるから、これでもシータはかなり気が引けていたほどだ。

 しかし今回のシータは圧縮しても大剣になってしまうほどのスライムを纏っている。その数は100体分を遥かに超えていた。スライムカッターを乱用しても弾切れは当面起こらない。

 

「……次は防げない。なんとかして」

 

 物理攻撃無効状態のゼータは安全だが、イータは既に特殊な盾を使い切り、デルタとイプシロンもミスをすれば危険だ。

 

「世話の焼ける!」

 

 元凶でありながら泣き言を漏らしたイータに文句を言いながら、イプシロンが両手を胸の前で交差させて掌を左右の大きな偽胸にかざした。

 イプシロンが聖域展開すると見抜いたシータも対抗するために両手でハートを作る。

 

「聖域展開! アンリミテッド・ブレストワークス!」

 

「聖域展開! 好き好き大好きアルファ様ワールド!」

 

 同時展開により聖域の外殻同士が衝突し押し合う……ことなくシータの聖域だけが展開され、七陰の4人を閉じ込める。

 

「……なぜ?」

 

 そして瞬時にシータの聖域が崩壊した。

 

「この私があんな深刻な欠陥を放置しとくわけないでしょ」

 

 以前聖域を外側から破壊されてしばらくスライムメイクアップができなくなったイプシロンは、二度とそんなことが起きないようにと聖域の封印を検討した。

 しかし効果範囲内のスライムを全て支配できる聖域は対シータ戦を想定するとこの上なく有効な技となる。

 聖域は使いたいが破壊は絶対にされたくない。

 だからイプシロンは聖域から脆い外殻を取り払い、閉じない聖域を作り出せるように練習した。

 シータの目には見慣れたアレクサンドリアの城内が映っているが、現在そこにはイプシロンの聖域が重なって存在しているのだ。

 

「私がシータの殻を解くわ! みんな総攻撃して!」

 

 聖域を破壊されて魔力を使えなくなってもシータはスライムの形を維持していた。形状変化は魔力を使うが、圧縮の維持は愛の力だけで行えるためだ。

 しかしイプシロンがスライム指揮棒を振るうとシータのスライム要塞が溶け、さらに鎖に変形してシータの四肢を縛った。聖域の力に後押しされたイプシロンのおっぱいへの執着がシータの愛を凌駕したのだ。

 

「なんか分からないけどチャンスなのです!」

 

 シータにかけられた重力の影響を感じさせない俊敏な動きでデルタが先陣を切って突撃し、普段より動きが鈍っているゼータとイータは邪魔にならない距離で追撃の準備をする。

 文字通り手も足も出ない状態のシータ。

 しかし腹から新たな上半身を出すことはできた。

 

「なんか出た!?」

 

 腹から生えて繋がったままのシータがデルタの両手首を掴んで止めた。

 さらに背中から生えた翼の先端がデルタに突き付けられ、そこに魔力ではない何かが収束していく。

 

「“圧力”」

 

「離すのです! 離せ〜!」

 

 デルタは暴れるが魔人化したシータの腕力はデルタを僅かに超えていた。分裂せずに生やしただけの身体には意思が存在しないため、デルタに蹴られても痛痒を感じず、決してデルタの腕を離さない。

 

「“洗脳”」

 

「バカ犬!」

 

 ゼータが腹から生えた方のシータの両腕を切り落とし、イータがスライム触腕で2人を掴み後退させる。

 

「イプシロン! シータ仰向けに倒して!」

 

 大声でイータが叫んだ。普段なら絶対にあり得ない声量のおかげで、これからシータが放つ攻撃の危険性はイプシロンにしっかりと伝わった。

 

「“自由なき世界”」

 

 イプシロンがスライムチェーンでシータの背を引き、狙いが上空に逸れた状態で放たれた大技……超重力砲〈アルペジオ〉。

 シャドウのライジングアトミックの足元に迫る威力のそれは城の天井を貫き、さらには遥か上空の雲すらも消し飛ばしてしまった。

 

「ゼータ……霧化できるあなたなら、あれが直撃しても平気よね?」

 

 苦笑いを浮かべたイプシロンの質問に、同じように苦笑いを浮かべてゼータが答える。

 

「冗談きついよ。霧は質量が軽いんだ。霧散してそのまま戻れなくなるだろうね」

 

「……こまったわね。ちょっと勝てない……」

 

 イプシロンの表情が一転して悲しみに染まる。

 

「殺してはいけない、という条件下ならね」

 

 スライムを封じてもあれだけの火力を出してくるとなると、もはやすぐにでも殺さなければ誰がいつ殺されてもおかしくない状況となってしまった。

 だから、イプシロンは覚悟を決めた。

 この場にいる七陰の中で、イプシロンだけが聖域の効果による自身の絶対的な優位性を把握している。

 現在シータは魔力を扱えず、扱えたとしても全てのスライムはイプシロンの制御下に置かれている。

 さらにイプシロンの聖域にはスライムを支配する効果に加えてもうひとつ、強力な能力が宿っている。

 

「ごめんねシータ、恨んでくれて構わないわ」

 

 イプシロンがシータの真上にスライムを集め、巨大な球体を作り出す。一見して黒い太陽のようだが、実はおっぱいだ。

 

「押し潰す気ですか? 無駄ですよ……この場の重力は私の支配下にあるのですから!」

 

 重量で圧殺しようにも、シータがスライム球にかかる重力の向きを反転させれば上に落ちるだけだ。

 しかし確かに重力を反転させたはずなのに、スライム球は変わらずシータに迫った。

 

「なんで!? どうして止まらないの!?」

 

「私の聖域の効果よ」

 

 イプシロンの聖域内に存在する全てのスライムは彼女の支配下に置かれ、さらにイプシロン以外による干渉を受けなくなる。

 人為的な干渉も物理法則も関係なく、イプシロンが思い描いたとおりにスライムは動き、それを阻むことは絶対にできない。

 すなわち必中にして必殺の攻撃が実現するのだ。

 

「……これも、あなたに教えてもらったのにね」

 

 イプシロンの頬を涙が伝う。同志として共に歩んできた大切な仲間をこんな形で失うなんて……まるで胸に穴が空いたような……いや、おっぱいを切り落とされたような気分だ。どちらも胸部の負傷だから意味合いはきっと同じだ。

 

「あっ、おっぱい」

 

 肌に触れる感触で自分を押し潰すものがおっぱいであると気付いたシータは、せめて潰されるならアルファ様のおっぱいが良かったと涙を流しながら、床の染みとなった。

 

          ◯

 

 シータが死んだ。

 この場に居合わせた全員がそれを確信していた。

 だが、シータにはスライムの圧縮と重力操作に続く第三、第四の強みがあった。

 

「がっ……!? あっ……ひゅ……」

 

 突如イプシロンの首を締め付けたのはシータの不可視の背後霊オリヴィエ。現在彼女はシータが魔人化した影響を受けて自意識を失い、完全にシータの制御化に置かれている。

 

「イプシロン!?」

 

「見えないけど何かいる! 離れろ!」

 

 デルタが即座に対応したことでイプシロンは首を折られずに済んだが、彼女は首の動脈を強く圧迫された時点で意識を失っていた。

 そしてイプシロンの気絶により聖域が解除され、スライムの制御がシータに戻る。

 

「……勘弁してよ」

 

 ゼータが冷や汗を流しながら見つめるのは、シータの残骸と共に掌に乗る大きさの小さなシータをスライムが包み込んでいく光景だ。

 シータは潰される寸前に小さな分裂体を出して重力操作により安全地帯まで逃がしておいたのだ。

 シータの分裂体が死ぬと魂だけが最も近くにいる別の自分と融合し、肉体はその場に残される。

 実はそうなった場合でも後から肉体を回収すれば魔力も筋力も脳に宿った記憶も即座に元通りにできる。

 生きた個体同士では手を絡ませて額を合わせる必要がある融合の手順も対象が死体なら触れるだけでいい。

 もしもこの情報をシャドウが聞いたら、前世に存在した死亡地点で回収できるタイプのデスペナルティが課されるゲームを想像することだろう。その手のゲームでは回収前に再び死ぬと回収不可能となるのが定番だが、シータは心が強いので何度でもリトライ可能だ。

 

「二度も殺された……教団にも殺されたことないのに!」

 

 シータが怒りを叫び、赤黒い魔力が迸る。

 ここ最近でシータが重傷を負った原因は教団との戦いよりもシャドウガーデンの仲間の場合が多かった。さらに自分を殺したのは初回がシャドウで、二度目がイプシロンだ。

 なお、シャドウガーデンの善良な少女たちの名誉を守るために断言しておくが、そうなった理由は強くなったシータを傷付けられる実力者が教団にいなかったためである。それにイータ関連以外は事故なので申し訳なく思う必要はない。

 

「……頭にきますよ。仮にもアルファ様が大切にしていた仲間だからひと思いに苦しませることなく送ってあげるつもりでしたが、やめです」

 

 シータのスライム要塞がひび割れた。

 これより発芽するのは魔人を超えた魔神。

 8番細胞がアルファの生命活動を感知し続けているため不完全な魔神化だが、それでも顕現してしまえばシャドウガーデンは終わりを迎えることだろう。

 イプシロンは倒れ、デルタは逃げ出し、ゼータとイータは夏に魔龍ニーズヘッグと相対して何もできなかった時の悔しさを思い出して立ち尽くす。

 もはや止められる者はいないと思われたが……それは突如この場に出現した。

 

「……大変なことになっていますね」

 

 空間転移能力を持つバケモンのズルムケを使役して魔神の種子に奇襲をかけたもうひとりのシータは、今にも砕けそうなスライム外殻に触れてそれを躊躇なく圧縮した。

 分裂体が圧死したことにより、分裂後の記憶がシータに流入してくる。大した量ではないのでインストールは瞬時に完了した。

 

「あー……またイータ様かぁ」

 

 アルファが死んだと勘違いした記憶を受け取っても、さっきまでアルファと共にいて、今もマフラーからアルファニウムを補充しているシータは魔人化することなく耐え切った。余裕そうに見えるが正直ギリギリだった。マフラーがあるから我慢できたけど、なかったら我慢できなかった。

 シータは自分の死体を回収しつつ、状況が理解できていない様子のゼータとイータに事情を伝える。

 

「血の女王の分裂能力は聞いていますよね? 私、あれと似たことができまして、アルファ様から皆様への伝言を預かったので分裂体をこちらに寄越したんですけど、いつまでも帰ってこないので様子を見に来たんです」

 

 翼を手に入れたシータは道を無視して最短距離で移動できるため、アレクサンドリアとミドガル王都を往復してもそれほどかからない。

 分裂体もアルファのいるミドガル王都に一刻も早く戻りたいはずなのに、いつまで経っても戻ってこないから、事務仕事は見ていて退屈だからと分裂体に憑いていったオリヴィエが身体を奪って食堂に入り浸っているのだろうと予想した。

 放っておくとアレクサンドリアの食材を食い尽くされかねないので分裂体を送ったのが無意味になると分かっていながら仕方なく迎えに来てみれば、なぜか分裂体はシータの姿になって七陰と相対している。

 

「状況は理解できずとも、私と七陰なら生かすべきは七陰なので、ひと思いにくしゃっと潰させてもらいました。戦いに水を差す形になりましたが問題ないですよね?」

 

「え……あ、うん。助かったよ」

 

「なら良かったです。改めてアルファ様から伝言です。追加で預かった伝言もありますので纏めてお話ししますね」

 

 アルファの当初の指示は、ふたつ。

『イプシロンとゼータはオリアナ王国の任務を進めること』

『デルタとイータはミドガル王都に来ること』

 そこに追加されたのは、もしもアレクサンドリアでイータが問題を起こしていたら研究費を減額するというものだ。何かやらかしているような予感がしたらしい。

 

「私だと私情が混じってしまうので……ゼータ様、ご判断をお願いします」

 

 硬直したイータの肩にゼータがぽんと手を乗せた。

 

「減額決定。ご愁傷さま」




デルタ「腕相撲でボスに負けるのは仕方ないけどシータに負けるのは駄目! もっと筋トレするのです!」

イプシロン「手加減できないのは問題よね……情報を聞き出さないといけない時もあるもの。潰さずにスライムで包んで窒息させれば……」

ゼータ「火力不足を自覚したよ。でも正面から力押しするのはワンちゃんと被るし嫌かな。霧化した身体を体内に侵入させて内部攻撃とかできないか試してみよう」

イータ「……シータに起きた変化……解明して、再現して、制御できるように改良する……研究費、取り戻す……! ……とりあえず、ベータか、ガンマで……実験する」

シータ「おお、シータ……潰された程度で死んでしまうとは情けない。シャドウ様ならあの状態からでも治せそうだし、もっと回復の練習しないとね。……いっそ魔力で蘇生とかできないかな」


少女たちはお互い尻を叩き合って今日も進化を続けています。
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