ユキメ「?????」
月丹の遺言『どんな性癖があろうと、俺がお前を愛する気持ちに変化はなかったがな』
ユキメ「……わっちも同じでありんしたよ」
変な宗教と薬のせいで破滅しても、変な遺言を残しても、ユキメの思い出の中の君は変わらず完璧で究極な月丹です。
ミツゴシ温泉ランドのオープン初日、客の目がある中で地中から現れた龍の魂に対処するべく、休暇的な感じで居合わせた七陰が白のスライムスーツを纏って大立ち回りを演じている。
「しいかげー! がんばえー!」
そして有給休暇消費中の私は偶然持ち合わせていたユキ娘ライブ用の光る棒を振り回して七陰……特にアルファ様を応援している。
「はい! はい! はいはいはい! あ〜よっしゃぁ行くぞぉ! イーター! ゼーター! イプシローン! デルター! ガンマー! ベーター! アルファさまああああああああああ!」
龍の魂はアルファ様の強烈な一撃で蒸発し、黄金の雨となって温泉ランドに降り注いだ。
はっきり言って普通にトラブルなのだが、オープン記念イベントということにして誤魔化したおかげで事なきを得た。
その後、急激に忙しくなった土産物売り場の手伝いに同じく有給休暇中のニュー様共々駆り出されて、解放される頃には日が暮れていた。
さて、温泉ランドを楽しむアルファ様のお姿を堪能したし、最後にいつもと少し違う格好のアルファ様も見られたし、休暇は十分だろう。そろそろ私も次の大きな作戦が進行しているオリアナ王国に向かわねば。
「おや? ジェーンはんでありんすか?」
なんか聞き覚えのある声がして目を向けると、そこには先日の偽札事件でシャドウ様に協力していた狐獣人のユキメさんがいる。
「こんばんわユキメさん。本日はミツゴシ温泉ランドにお越し下さりありがとうございます」
「特別招待券ありがとさん。楽しませてもらいんした」
ユキメさんは事件の後になんやかんやあってシャドウガーデンの傘下に入ってるので、私の仲間ということになる。
特に揉める要素もないので私たちは仲良く世間話に興じた。
「ナツとカナははしゃぎ疲れて寝てしまいんした。うぉーたーすらいだー? ゆう遊びがお気に入りだったようでありんす」
「あれですか……楽しんでいただけているようで何よりです……本当に」
イータ様が設計した温泉ランドの安全確認役はいつものように私が担当した。
……イータ様、滑り台は人を滑らせるものであって射出するものではないのですよ。
そんな感じで談笑しながら歩き、サウナの前を通り過ぎる時、そこから出てきた小柄な赤髪の女性を見てユキメさんが足を止めた。
「ぬしは……」
「……あら? こんばんわ。この前は御迷惑をおかけしたわね」
私は初対面だが、ベータ様から外見の情報を共有されていたので赤髪さんが伝説の吸血鬼、『血の女王』エリザベートであると分かった。
「気にせんといて。寝ぼけてたんでありんしょう。あの人のおかげで最後には全てがまるぅく収まりんしたし」
「……紳士様のことね。本当に、あの方には感謝しているわ」
一般人が大勢いる場所なので名前は伏せているが、2人が話題としているのはおそらくシャドウ様のことだろう。
ユキメさんはともかく血の女王も妙にシャドウ様に好意的だ。
……シャドウ様戦記では現場に居合わせたベータ様の心情描写に文字数割かれてたから血の女王がシャドウ様にどんな感情持ってたのか不明瞭だったんだよなぁ。
「そちらのお嬢さんもユキメさんのお友達かしら?」
いくらか話した後、2人の話題は私に向けられた。
どうやらエリザベートさんはシャドウ様が命を救う程度に気に掛けている相手らしいので失礼があってはいけない。
千年の時を超えて復活したエリザベートさんと同じ時代を生きていたはずのオリヴィエに当時の挨拶マナーを聞きたいところだが、あいつは記憶喪失だから無理だ。そもそもあいつ温泉ランドの限定スイーツ制覇すると言って憑依状態で買い食いに出て以来戻ってきてないし。
仕方ないので、ミドガル王国の無駄に格式張った回りくどく長ったらしい貴族方式とシグマ様に教わった簡潔で奥ゆかしいワコク方式で悩んだ結果、後者で行くことにした。なぜならミドガル貴族式は面倒だから。
「ドーモ、はじめまして。エリザベート=サン」
私は合掌しながらお辞儀をして、数秒後に頭を上げてから名を述べる。
「陰の庭の8番です。明るい場所ではシタラ・アラヴァを名乗っています」
「これはご丁寧に」
エリザベートさんも私に合わせてくれたようで、手を合わせてお辞儀した。
「エリザベートです」
それから私たち3人は一緒にミツゴシ温泉ランド内を歩き回っている。
3人はどういう集まりなんだっけ?
迷子を探す保護者です。
いやね、ミツゴシ温泉ランド広いし今日オープンしたばかりだから誰も土地勘ないしさ、自分のいる場所がどこか分からなくなる人が多発してるんだよね。
そういうわけでうちのオリヴィエと、目覚めて救護室から動いてしまったらしいユキメさんちのナツちゃんカナちゃんと、エリザベートさんちのメアリーさんが行方不明です。オリヴィエはどうでもいいけど、他の人たちは関係者として探してあげないとね。
「見つかりませんねー」
「見つかりんせんなぁ」
「……仕方ないわね。神経削るから疲れるのだけれども」
エリザベートさんが自分の指を噛み切って血を流し、それを粒子に変えて放った。
「吸血鬼の技ですか?」
「ええ。微小な粒子となった私の血が付着した物の形態を感知できるの。今、この付近にはいないようね。私では半径三百メートルが限界だから何度か場所を変えて試しましょう」
便利! 私もできるようになってアルファ様に貢献したい!
悪魔憑きは吸血鬼の技を使える。霧化は練習してもできなかったけど、こっちの技ならいけるかもしれない。
私は自分の指先をガリッと噛み切った。血が噴水のように出てきた。
「いったぁ!?」
「シタラはんは何をしとりんすか……」
「私にも同じことできないかなぁと」
「牙の先端で噛まずに切るのよ。吸血鬼や獣人ならできるでしょうけど、エルフの歯では難しいのではないかしら」
そうか、これやる時って噛まないのか。失敗した。
しかも痛みに気を取られて制御できなかった血がちょうど近くにあった露天風呂のお湯に入り込んでしまった。後で責任取ってお湯を入れ替えないと。
「……待って、さっきまで存在しなかった何かが突然感知にかかったわ」
エリザベートさんが血で武器を作り臨戦態勢になったのを見て、私はスライムソードを、ユキメさんはミスリル製の扇を構える。
「そこのお湯の下よ! 来るわ!」
お湯から出てきたのは全裸に海パンだけの禿げた太り気味のおっさんだ。
誰このおっさん?
「ドーモ、麗しいオジョウ=サンたち。邪ドウテイだってぃ」
◯
ドウテイ・ボーイ伯爵は幼女から老婆まで延べ3万回近いナンパを行っておきながら生涯独身を貫きボーイ伯爵家を断絶させた、『魔法使い』の異名を持つ世界で最も有名な伝説の伯爵だ。
実は8番の血が混入した露天風呂の中には誰かが落とした伯爵の著書が沈んでいた。
また、黄金の龍の魂が成仏したことで彼により封じられていたかつてこの地に攻め込んだ侵略者たちの怨霊が解放された。
ドウテイ・ボーイ伯爵の著書。
8番の血。
侵略者たちの怨霊。
これらを悪魔合体させた結果、誕生してしまった怪物こそが、今8番たちと対峙している変なおっさん……邪ドウテイだ。
「ドーティッティッティ! 何たる幸運! 生前果たせなかったオレっティの悲願を果たす時が来たっティ!」
素材となった者たちの願望が融合した邪ドウテイの悲願、それはすなわち黄金の龍に守られた地に新たに築かれたこのミツゴシ温泉ランドを滅ぼして、世界で最も美しい女性を捕まえて、DTを捨てること!
「来たれ眷属! オレっティに美しい女性を献上するっティ!」
「ティーッ!」
邪ドウテイが叫ぶと、どこからともなく複数の男たちが馳せ参じた。
彼らはミツゴシ温泉ランドの範囲内にいて、ドウテイ・ボーイ伯爵の著書を読んだことがあり、童貞であるという3つの条件を満たしたことで邪ドウテイに支配されてしまったのだ。
その中にはミドガル学園におけるシドの悪友、ヒョロ・ガリとジャガ・イモの姿もある。
「あれは……メアリー!」
「ナツ! カナ!」
邪ドウテイの眷属たちは馳せ参じる直前にそれぞれの近くにいた若い女性を気絶させて運んできていた。
被害者の中にはヒョロジャガコンビにしつこく絡まれていたメアリー、ナツ、カナも含まれている。
ちなみに8番の分裂体に憑依中のオリヴィエの姿はない。あいつは食事スペースで空になった皿の巨山を築いており、誰もが遠巻きに見るだけで近付けない状態となっている。ナンパ男すらもドン引きさせたおかげで彼女は難を逃れたのだ。
「ティー……この中にはオレっティの初めてに相応しい女はいないっティねー。その辺に捨て置けっティ!」
「失礼ね!」
「失礼でありんすなぁ!」
一般通過おじさんだったらまずいと思って様子を見ていた保護者たちは、自分の連れを傷つけられ、さらには侮辱されたことで邪ドウテイを敵と断定し、怒りに身を任せて邪ドウテイに攻撃する。
しかし血の女王と伝説の金毛九尾という圧倒的な実力者たちの攻撃は、邪ドウテイどころかその眷属に過ぎないヒョロジャガコンビに防がれてしまった。
「こいつら……強い!?」
「いえ……違うでありんす。これは……」
「気付いたようだっティね! これがオレっティの魔法! オレっティの近くにいる非ドウテイの魔力は百分の一に! さらに眷属の魔力は十倍になるんだっティ!」
悪魔憑きに共通する性質により七陰に次ぐ膨大な魔力を持つシータでさえも魔力のみで戦うとなれば十五分の一がギリギリのラインだ。
いくらエリザベートとユキメであってもここまで強烈な弱体化を受けると凡庸な魔剣士にすら負けてしまう。
「ティーッティッティッティぎぇぇ!」
「ティーッティッティッティぎゃあ!」
貰い物の力で強くなったヒョロジャガコンビの不愉快な高笑いが響き、すぐに消えた。彼らを含む邪ドウテイの眷属が何かに押し潰されるようにぺしゃっと地面に倒れ伏し、逆に捕まった女性たちはふわりと宙に浮かんだ。
「魔力制限系はもうやられ飽きたよ……たまには魔力以外にも目を向けたら?」
翼を生やした8番が上空から童貞どもを見下す。
8番の重力操作は魔力を一切使っていない謎の力だ。魔力を制限されても威力は変化しない。
救出した女性たちはエリザベートとユキメの背後に運ばれて優しく下ろされた。
「お二人で護衛を。この変態は私が始末します」
「ティーッ!? 童貞でもないのに頭が高いっティッ!」
怒りに震える邪ドウテイが海パンに手を突っ込んでまさぐる。重力に押さえられているにもかかわらずその手の動きは俊敏だ。
「戦闘中に何してんだてめぇ! なめてんのか!」
施設を損壊したくないため大技は使えず、やむなく8番は飾りとして置かれている大岩を重力操作で浮かせて鈍器にする。
「抜刀だっティー!」
邪ドウテイが海パンから手を抜くと、そこには白く輝く巨大な剣が握り込まれていた。
ドウテイ・ボーイ伯爵が生涯溜め込んだ童貞エネルギーを8番の血に由来する能力で凝縮した業物は、迫る大岩を蒸発させただけにとどまらず余波だけで8番を撃ち落とした。
「がっ……」
「シタラはん!?」
「シタラさん!?」
「“圧力”……“洗脳”……」
鼻血を流しながらも墜落寸前で踏みとどまった8番は施設を気にして勝てる相手じゃないと判断し、最大火力の超重力砲を放つ。
「“自由なき世界”!」
「ティーーーーーッ!?」
邪ドウテイが業物を盾に超重力砲を受ける。膨大な童貞エネルギーを8番の能力で固めただけあって頑丈だが、超重力砲の威力も尋常ではない。
「消えろ変態があああああ!」
このままなら簡単に押し勝てる。そう思ってしまった8番は施設を気にかけて無意識に少しだけ超重力砲の威力を下げてしまった。
邪ドウテイはそこに勝機を見た。
「禁断の両刀だっティーーーーーッ!」
神速の手つきで二本目の業物を抜刀した邪ドウテイは、一本目に重ねることで十字の形を作り、そこから童貞エネルギーを練って『グランドチェリークロス』を放った。
窮地の8番を助けようとしてエリザベートとユキメが全力の遠距離攻撃を邪ドウテイに打ち込むが、魔力制限以前の問題として邪ドウテイは童貞バリアにより童貞以外の攻撃を通さない。
「おっ、押され……こんな奴にいいいいいいぃぃぃぃぃ!」
8番の視界は真っ白に染まった。
◯
童貞とは女性経験のない男性を指す言葉である。
しかしこの言葉、ときには女性にも適用される。
たとえば好きな相手が女性で、他の人とは積極的に交流できるのにその女性とだけはなかなか距離を詰められなくて、無理に好感度を稼ごうとすればことごとく奇行に走る変態エルフ……つまり私だ!
創作における聖なる攻撃が悪しき者以外を傷つけないように、童貞エネルギーによる攻撃もたとえ眷属でなかったとしても同胞である童貞を決して傷つけないらしい。さっき墜落しかけた時に受けたのは二次的に発生した剣圧だったから気付けなかった。
だから童貞エネルギーそのものである白い光の奔流に呑まれた私は痛痒を感じることなく、その代わりに本来のドウテイ・ボーイ伯爵の思いに触れた。
ドウテイ・ボーイ伯爵は生涯童貞を貫き、伯爵家を終わらせた。
それはつまり貴族の権力を使って女性に無理矢理迫るといった行為が一切なかったということだ。
ドウテイ・ボーイ伯爵は惚れっぽい性格だったが誰でも良いというわけではなかった。
彼のナンパは本心から愛を求めた相手にしか行われなかった。その愛の大きさは私がアルファ様に向けるものと比べても遜色なかった。
ドウテイ・ボーイ伯爵は死の間際まで同胞たる童貞たちの幸福を願い、自分と同じようになれと呪うことはなかった。
だから彼は自分の失敗を反面教師とした恋愛指南本を何冊も自費出版した。この書籍のおかげで童貞を卒業できた者だって世界中を探せば見つかるかもしれない。
ついでにドウテイ・ボーイ伯爵の容姿は美形ではないが、醜いというほどでもない平凡な男だった。ハゲじゃなかったし、デブでもなかったし、裸族でもなかった。
ナンパが成功しなかった理由も、かつてシド様がアレクシアにわざとやったようなどもりまくりの告白しかできなかったからだ。
そんなドウテイ・ボーイ伯爵を邪ドウテイなんかに変えてしまったのは、黄金の龍に退けられた邪悪な侵略者たちの怨念と……自作の同人誌に教団の女体化ラウンズを凌辱する役として登場させたドウテイ・ボーイ伯爵をハゲでデブの汚いおっさんとして描いた私の血であった。
仕方なかったんだ……。
女性に見境なく手を出しそうな有名な故人が他にいなかったんだ……。
そして教団に対する嫌がらせになりそうな外見にしたかったんだ……。
真実を知った私は汗をだらだら流しながら叫んだ。
「よ……よくも心優しいドウテイ・ボーイ伯爵の名誉を貶めたな! 許さねえぞ邪悪な侵略者め!」
私は全ての責任を侵略者の怨霊に押し付けて、これからはリンドブルムで見た教団のハゲを凌辱役にするので許してくださいと心の中で謝った。
そして自分が童貞判定を受けていると自覚したので、制限されていると思い込んで使っていなかった魔力を滾らせて武装を整えた。
思い描くのは昼頃に見たアルファ様の白いスライムスーツだ。
「ティッ!? なぜ効いてないんだっティッー!」
愛するアルファ様と同じ格好となってテンションを上げた私は、さらに光の剣をイメージして形成した『輝剣アハト』を振り上げて、自分に下向きの重力をかけて落下の勢いを強めた。
いくぞオマージュ神剣!
「ラストバーン……アウトオオオオオオオオオオ!」
「大きくて太いものがオレっティにねじ込まれ……こ、この……童貞風情があああああァァァァァ!」
私の剣が核となっているドウテイ・ボーイ伯爵の著書を消し飛ばし、邪ドウテイは消滅した。
◯
ドウテイ・ボーイ伯爵の皮が剥がれ落ち、8番の血が蒸発すると、後には形状の安定しない侵略者の怨霊が残った。8番が施設にクレーターを作る寸前で剣を引いたおかげでギリギリ消滅を免れたのだ。
「グォォォォォ……マダダ……マダ終ワラン……グァ!?」
怨霊が凄まじい勢いで遥か上空に吹き飛んだ。
「おっ! 浮いてんじゃーん」
施設の損壊を気にせず大技を撃てるようにと8番が重力操作で何も無い空中に怨霊を浮かばせたのだ。
「最後の一発くれてやるよオラ!」
8番が3対6本の翼の先端を上空の怨霊に照準して、詠唱によりエネルギー充填を開始する。
「楽しそうね。私も混ぜてくださる?」
エリザベートが血液の鏃を大量に作り出す。
「よぉわからんけど、魔力が戻ったみたいでありんすからなぁ……うちの子らに手ぇ出したお礼、させてもらいんすわ」
ユキメが9本の尾の先端に狐火のような魔力の塊を顕現させる。
「オノレ……オノォォォォォレエエエエエェェェェェ……!」
金の流れを操り大商会連合を破滅させたキツネ。
千年前に圧倒的な暴力で複数の国を滅亡させたバンパイア。
初めての【CENSORED】はアルファとしたいと願ってやまないシータ。
3人の同時攻撃が直撃した怨霊が跡形もなく消し飛び、混ざり合った3つの攻撃が爆発して夜空に巨大な光と音を刻んだ。
「しゃあ! きたねえ花火だ!」
いつもは自分がきたねえ花火になる側の8番が珍しく敵をきたねえ花火にできたことに喜ぶ。
「……これはちと派手にやり過ぎたんではありんせん?」
「まだ感知効果が残っているのだけれど、近くにいる一般客はみんな空を見上げているようね」
目の届く範囲にはいなかったが、少し離れれば周辺には多くの一般客が存在する。放っておけば誰かが爆発事故を疑ってパニックを引き起こすかもしれない。
「ご安心を。そのための仲間です」
実は邪ドウテイと8番たちの戦闘は始まってすぐに施設全体を巡回し監視しているシャドウガーデンの構成員に認識され、本日の安全管理の責任者であるラムダに報告が届いていた。
ラムダはシータなら単独で問題ないと判断して邪ドウテイの対処を任せ、戦闘範囲を清掃中ということにしてスライムで大きな仕切りを作って封鎖した。さらには視覚的に遮っても大きな音が聞こえるなどで客が違和感を持つ可能性を警戒し、誤魔化せるようにと準備をしておいたのだ。
『ただいまより花火の打ち上げを開始します。ご来場の皆様におかれましては、ぜひ夜空を見上げてお楽しみください』
「あと……そのための花火?」
◯
ミツゴシ温泉ランドオープン記念日は、昼頃の七陰ヒーローショーに続いて夜には内々に予定していた花火大会の開始時間が少しだけ前倒しになるというトラブルに見舞われたが、最終的にはアルファによって大成功という評価を受けることとなった。
「なんか全身いてぇなあ……」
「本もどこかで落としたみたいです……」
客の一部には踏んだり蹴ったりだった若者もいたようだが……。
「俺たちの道程は、これからだ!」
面の皮が厚くポジティブ思考な彼らは自力で立ち上がり走り去ったので、特にこれといったアフターケアはされなかったらしい。
ヒョロジャガ以外で邪ドウテイの眷属にされた童貞たちの中には、不憫ですが暴力行為で騎士団に突き出されてしまった人もいます。
さすがに人目のある場所で誘拐に及んでしまったらどうにもできませんでした。
下手に助けようとしてミツゴシに責が及んでも困るので、コラテラルダメージとして許容せざるを得ません。