シド様がオリアナ王国における決戦の日程をお示しになられた。
私はそれに合わせてドエス派を進軍させ、決戦予定日の前日にはオリアナ王都を完全に包囲し、いつでも突撃できる準備を終えた。
やることがなくなって暇を持て余した私は、時間ができたらやろうと思っていた案件に着手した。
指揮官の天幕にドエス役の分裂体を残して向かったのはサイショの街にある宿屋付きの飲食店だ。
この店をひとりで切り盛りするマリーという女性なのだが、この人はガーデン的にちょっと重要な人物となっている。
マリーさんはちょっと前まで無法都市でユキメさんの管理する娼館の娼婦として生きていた。
エリザベートさんが復活した赤き月の日、グールに襲われていたマリーさんはシャドウ様に救われた。そして無法都市から脱出した彼女は娼婦をやめてオリアナ王国で店を開いた。
自分の部下を助けてもらったお礼をしたいという名目でユキメさんはシャドウ様を呼び出し、それが最終的に偽札作戦でミツゴシ商会を救う流れに繋がったのだから、だしに使われただけの存在であってもマリーさんには恩があると言えるだろう。
しかもこのあいだ私がシャドウ様に地怨虞を教わった時も、シャドウ様はドエム派のクズどもに奪われたマリーさんのお金を取り戻して、わざわざ店まで届けに行ったのだ。
盟主シャドウが率先して行動しているのだから私も恩返しのひとつやふたつはやらなければなるまい!
そういうわけなので私はまずマリーさんの現状を密かに徹底的に調査した。それにより判明したのはマリーさんの店があまりうまくいっていないということだ。
マリーさんの料理はちゃんと美味しかったが、それだけで勝負できるほど極まってもいなかった。
さらに追い打ちをかけるようにオリアナ王国は内戦状態なので、観光客による需要は激減していて、そのくせ物価は上がっている。
では明日にも内戦が終結すれば解決するのかと言うと、むしろ悪化するだろう。どういう原理でそうなるのかは分からないが、アルファ様はガーデンが勝利すればオリアナ王国は他国との貿易を完全に止められて干上がることになると言っていた。アルファ様がそう言うのだからその未来は確実に訪れる。
そうなった時、私の見立てだとマリーさんの店はすぐに潰れてしまう。
それでは困るから私が介入する。
「あっ! いらっしゃいま……せ!?」
◯
時刻はお昼時と夕食時との間の中途半端な辺り。
客のいない店の中で寂しい時間を長らく過ごしていたマリーは、ようやく来てくれたお客さんたちを笑顔で迎えようとして失敗し、声をうわずらせた。
お客さんは3人組で、全員それぞれ何と言うか世界観が異なっていた。
1人目は全身黒ずくめで妖しく光る線の入った仮面の人。身体の至る所に武装らしきものが取り付けられていて怖い。有り体に言って不審者だ。
ちなみに元娼婦の勘はこの人が女性だと囁いている。
2人目はツンツン尖った髪型が特徴的な人で、服装についてはエプロンに襟の大きな上着にサンバイザーと目立ちはするが黒ずくめほどではない。ただしなんかこう……存在自体が暑苦しいのか、この人がいるだけで店の温度が上がった感じがする。冬だから別にいいけど。
ちなみに元娼婦の勘はこの人も女性だと囁いている。
3人目は可愛らしい小柄な女の子で、他の2人よりはましに思えるが、その格好はピンク色のフリフリでヒラヒラした人前で着るには恥ずかしい感じのものだ。その服装でここまで歩いて来たの?
ちなみに元娼婦の勘に頼るまでもなくさすがにこの人は見た目通りの女の子だ。今までの逆で実は男の娘とかいうわけではないらしい。
「はじめましてお姉さん。私、こういう者です」
「あ、はい。ご丁寧にどうも」
代表して話しかけてきた小柄な女の子から文字の書かれた小さな紙を渡された。そこには『ミツゴシ商会 コラボカフェ部門 企画担当者 レイヤ・コスプ』と書かれている。
ミドガル王都の大商会連合が崩壊し、その販路を手にしたミツゴシ商会がミドガル王国の経済を支配するようになった話はオリアナ王国にも伝わっている。
そんな商会の偉い人らしき雲の上の存在がこんな場末の飲食店に何をしに来たのだろうか?
そんなマリーの不安を見抜いたのか、レイヤは優しいロリータボイスで話しかけてきた。
「安心してください。地上げとかそういった話ではありません。私たちはあなたをスカウトしに来ました」
「スカウト、ですか? 私なんかを? どうして?」
よしんばマリーに自覚していない才能があってそれを買われたとしても、そもそもマリーにミツゴシ商会との接点はないはずだ。
まさか詐「欺じゃないですよ」
「!?」
「あと心が読めるわけでもありません。常識的な考えであれば推察は容易なんです」
それからレイヤは順を追って丁寧に説明してくれた。
まず、誰かは内緒だがこれまでにマリーの店に来てくれたお客さんたちの中に、ミツゴシ商会のとても偉い人が混ざっていた。
その人はマリーの料理をとても気に入った。
しかし優れた商人としての視点から、遠からずマリーの店が潰れてしまうと確信した。
「失礼ながら我々の方でも調査させてもらいましたが、あの方の見立てに間違いはないと思われます」
本当に失礼な言われようだが、マリーにはそれが事実であるという自覚があった。
ドエス派によってドエム派から解放された今でもサイショの街に観光客は戻らない。おそらくオリアナの内戦が終結してもすぐには昔ほどの人は集まらないだろう。
そうなると開店当初の想定と異なり観光需要に頼った宿としての収入は全く見込めず、飲食店一本でどうにかするしかない。
それなのに看板メニューとするために頑張って仕入れたミツゴシ商会の珈琲豆はドエム派に奪われて戻らず、新しく買い足せるほどの資金はない。
何の特徴もない平凡な飲食店では街に昔からある地元に根付いた同業者に太刀打ちできず、今はドエス派の人たちがよく来てくれるおかげでどうにか耐えていられるが、内戦が終わって彼らが去った時にどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
ぐうの音も出ないマリーの前でレイヤが話を続ける。
「そこで、ちょっとだけ私たちの口出しを受け入れてくださるのであれば、ミツゴシ商会から資金援助をさせていただきます。もちろん店が軌道に乗った後で上納金を取るような真似はしませんよ。仕入れをうちからしてくれれば十分です」
正直に言うととても魅力的な話だ。
だが無法都市で人間の悪意を沢山見てきたマリーは都合の良すぎる話を逆に警戒してしまう。
「うーん、『絶対に大丈夫』と私が言っても、あの方の言葉と違って信用されませんよね。わかりました。本来ならまだ部外者である方に企画情報を漏らすのは良くないのですが、今回は商売だけのためにやってるわけではありませんからね。どうぞ全てを聞いてみて、それから判断してください」
そしてレイヤのロリータボイスで説明された商売戦略は、なんというか原価率の概念に中指を突き立てるような恐ろしくも画期的なものだった。
「どうですか? よければ短期間のお試しからでも……」
「やります」
説明を聞き終えたマリーはレイヤの新商法に全てを賭ける覚悟を決めた。
「えっ? あの……そんなに急がせる気はないのでもっとゆっくり考えてくださってもいいんですよ?」
「そんな不誠実なことはしません。これで騙されたとしてもその時はその時です。チャンスを与えていただいたからには、私も誠意を示します!」
実はこのマリーという女、一度やると決めたらとてつもなく思い切りがよい。
マリーの場合は幸運にもユキメが人格者だから大丈夫だっただけで、娼館からの足抜けは本来なら間違いなく雇い主から刺客を差し向けられる危険な行為だ。
それをマリーはシャドウによってグールから命を救われたのをきっかけとして、計画的にではなく衝動的に実行した。
しかも行き着いたオリアナ王国という見知らぬ土地で他人に雇われて働く堅実な道を選ばず自分の店を持つという極めて険しい道を選んだのだ。
そんな女が覚悟を決めたら、その凄みには8番だって気圧される。
「やりましょう! 『コラボカフェ』!」
「あっ、はい」
マリーにぎゅっと手を握られた8番は、やべぇ奴に点火しちゃったのではないかと思ったが、時は既に遅かった。
◯
コラボカフェ。
それはジョン・スミスとして活動していた時の隙間時間にジェーンに扮したシータと暇潰しの雑談をしていたシドがナツメイトやユキ娘の存在を聞かされたことでぽろりと漏らした陰の叡智である。
曰く、何の変哲もない料理の盛り付けを少しだけ凝ったものにして、ちょっと変な名称を付けるだけで、本来の適正価格の何倍もの値段で売れるようになる。
曰く、料理をひとつ注文するごとに絵柄のバリエーションが沢山あるシールやコースターをランダム配布するだけで、財布か腹が限界を迎えるまで飲食を続けてくれるようになる。
曰く、コラボカフェ限定のグッズと称するだけで、コラボ対象の世界観的にありえないエプロン姿やウェイトレス姿のキャラグッズをファンの反感を受けずに販売できるようになる。
曰く、曰く、曰く……シドはとても詳細にコラボカフェのメリットを説明した。
当時、シドの中では自分のばら撒いた偽札で大商会連合とミツゴシ商会が滅び、それらの基盤を奪い取って自分の商会を新たに設立する流れが確定していた。
だから新商会で七陰と共に幹部となる予定のシータに自分の考えた最強の金儲け作戦を実行してもらいたくて熱弁を振るったのだが……ミツゴシ商会は滅びなかった。
残された陰の叡智はシータによってガンマに報告され、彼女の頭脳で詳細な計画が作られた。
それを熱意のある実行役に託した結果……。
サイショの街は、オタクの街へと変貌を遂げた。
◯
しばらく先の未来、オリアナ王国が平和を取り戻して以降のある日のこと。
「これは……いったい何があったのですか?」
オリアナ王国の女王となったローズ・オリアナは自分付きのメイドに扮している664番、665番を引き連れて、お忍びでサイショの街の復興状況を視察に来ていた。
「なによこれ、どこを見ても変な格好の奴ばっかじゃない……」
「前に来た時はこんなんじゃなかったのにね〜」
目についた人々は誰もが非日常的な格好で、お忍びのために目立たない格好をしてきたローズ一行が逆に目立ってしまう状況だ。
今日がハロウィンというなら分からなくもないが、だいぶ前に終えたし街にかぼちゃの飾りは置かれていないので違うだろう。
「デュフフフ、非オタは他の街に行ったほうがいいでござるよ。この街はオタクの聖地と化したのでござるからな」
「え?」「うおっ」「わっ」
お上りさんのようにキョロキョロしていた3人に唐突に声をかけてきた太った男は歴戦の魔剣士でもびっくりする格好をしていた。
「へ、変態だーっ!」
664番が思わず変態と呼んでしまった彼は、ピンクのフリフリした衣装を纏って子供のおもちゃのようなステッキを手に持った女装男だった。
「失礼でござるな! これは」
「マジカル☆エリヤちゃん……ですか?」
ナツメ作品を全て把握しているローズは、半信半疑で言った。
「おおっ! 分かるでござるか! さてはお主、ナツメニストでござるな?」
知らない言葉が出てきたが、文脈から推定してナツメの大ファン的な意味だと捉えて返答した。
「は、はい。ナツメ先生の作品はどれも大好きです」
「デュフー! 拙者もでござる! 新たな同志に出会えて嬉しいでござる! 嬉しい! 嬉しい!」
ローズを抱き上げて回転しようと女装男が手を伸ばし、女王の護衛でもある664番と665番が立ちはだかった。
「こら! あんたが自分を男と思ってるのか女と思ってるのかは知らないけど……」
「あっ、拙者こんな格好だけど性自認は普通に男でござる」
「とにかく同意もなしに他人の身体に触っちゃ駄目だっておばあちゃんに習わなかったの!?」
664番のお説教を受けた女装男はしゅんと俯いて謝った。
「申し訳ないでござる。同志を見つけて舞い上がってしまったでござる」
男は格好こそ変態だが妙に礼儀正しく、664番は毒気を抜かれた。
「まったく……気をつけてよね」
「本当に申し訳ない。お詫びに生まれ変わったこの街を案内させてほしいでござる。お主ら、見たところ今のサイショについて何も知らずに来たのでござろう?」
その後、ローズ一行は女装男……オタ・クゥの申し出を受け入れた。
オタは歩きながらこの街が変貌した経緯を解説した。
「以前のこの街は美しい街並みが売りの観光地だったことは知ってるでござるか?」
「はい……」
美しい思い出として記憶に刻まれていたそれがドエム派の横暴により瓦礫の山となったことをローズは知っていた。内戦の渦中でガーデンの任務として来た時に自分の目で確認したのだから。
「建て直そうにも長い年月が必要でござる。観光資源を失ったこの街が衰退すると考えた多くの店が看板を下ろしたのでござる」
観光需要で人を集めていた街だ。それがなくなればいかなる店も客入りは激減する。余力があるのであれば新天地を目指した方が賢い選択だ。
「残ったのはこの街から離れることを拒んだ者と、離れられるほどの資金を持たない者だけでござった。もはや大陸に名高きサイショの街は終わりだと誰もが思った……その時でござる!」
「うわぁ!? いきなり大声出すな!」
「ごめんでござる。でもここからが盛り上がるところなのでござる。テンション上がってしまうのでござる」
オタは湧き上がるテンションを抑えて鼻息を荒くしながら早口で語り始めた。
「それまで何の変哲もないどころか大して繁盛していなかった飲食店がどういうコネを使ったのかミツゴシのナツメイトと手を組んで世界初のコラボカフェに生まれ変わったのでござる!」
びしぃとオタが指差した先に見えたのは、ローズたちが内戦中にサイショの街を訪れた際に利用した宿屋付きの飲食店だ。
「見た感じは前来た時と変わってないよ〜?」
「デュフフフ、そこは中を見てからのお楽しみでござるが……あの店は予約必須でござる。拙者も今日は予約を取るだけで、入店はいつになるか分からないでござる」
オタは店の脇に設置されたアーティファクトに必要事項を入力して入店券を発行した。このアーティファクトには予約の入っていない日時が表示されていて、客がその中で希望する日時を選ぶことで入店券をその場で印刷してくれるのだ。。ちなみに悪戯対策として発券時にかなり高額の手数料兼入店料を取っている。
「……絶対イータ様が作ったアーティファクトだ」
664番の呟きに665番とローズが頷いた。どうやら思った以上に深くシャドウガーデンが関与しているらしい。
「デュフフフ、5日後に予約を取れるとは運がいいでござるな」
「5日は長いよ〜」
「そうでもねェさ! でござる。運が良くないとそもそも予約が取れないのでござる」
「なんとなく話が読めてきたわ。街に残ったお店はこの予約待ちの連中や予約すら取れなかった連中に目を付けたのね?」
「Exactly(そのとおりでござる)。後追いゆえミツゴシと組めたわけではないのでござるが、それぞれ独自に拙者らの趣味に寄せた商売を考え、それがコラボカフェに続く新たな売りとなってさらに人が集まるという好循環を経た結果、このサイショの街はオタクの聖地に生まれ変わったのでござる! 感動的でござる!」
建造物の美しさが評判だったサイショの街並みが変な格好の客引きが立つコンセプトカフェやらごちゃごちゃした古本屋やら中古アーティファクト屋やらに取って代わられた現状をローズは複雑な思いで受け止めた。
自国の民が困窮せずに済んだことはとても嬉しいのだが……なんか、こう、もうちょっと伝統とか歴史を重んじてほしかったような……。
「それでは拙者はそろそろ失礼するでござる! サイショに来たからには名物のメイド喫茶に行かねば無作法というものでござるからな!」
そしてオタは露出の多いメイド服らしき衣装を着た女性が客引きしている店へと駆け込んでいった。
「……あれメイドなの? あいつの同類か、もしくは痴女かと思ってた」
「あの短いスカートでお仕事するのはちょっとね〜。お城の使用人には男の人もいるし」
「だいたいなんだよあのエプロン! 汚れがつかないようにするためのものなのに、あんな短いんじゃ意味ないだろ!?」
最近ローズのメイドとしての仕事が板についてきた2人は、つい本職のメイドとしての目線でメイド喫茶のコスプレメイド服を見てしまう。
「あ、あの、お二人ともそのくらいに。サイショの復興が上手く……いえ復興というか一度全部壊して全く違う何かに作り変えた感じですが……とにかく問題ないことは分かったので、そろそろ王都に戻りましょう」
もともと街の状況をひと目見たら滞在せずに帰還する予定だったのだ。一般人には厳しいスケジュールでも強力な魔剣士である彼女たちなら容易い。
「えー、待ってよ〜。あの店がどんな風に変わったのかだけ見てこ〜よ〜」
「ですが、あの店は予約を取って長く待たなければ入れないと」
「そこはミツゴシのコネとか女王様の権力とかでなんとか〜」
「お忍びで来てるんだから無茶言わないでよ……お前さては自分が腹減っただけだな?」
ごねる腹ペコの665番と真面目な664番が言い争い、ローズが他の店で食事だけして帰りましょうと提案したことで口論が収まりかけた瞬間である。
「話は聞かせてもらったわ!」
コラボカフェ限定グッズの納品を終えて店から出てきたレイヤ・コスプこと8番が首を突っ込んできた。
「えっ、エリヤちゃん!? 本物!?」
クオリティが高いを通り越して本物にしか見えないその姿にローズが驚愕する。
それもそのはず。そもそも8番のコスプレが原因でスピンオフを展開することになったのだ。実質彼女こそがマジカルなエリヤの本物と言ってもいい。
「あっ、分からないか。私だよ私。8番。この姿はスライムスーツとスライム特殊メイクね」
マスクを剥がすと付け直しが面倒だからと素顔を見せられない8番。
そんな彼女にローズたちは証明のために何か私たちしか知らないような話をしてくれと求めた。
「……665番と森に遊びに行ってひとりだけ水着だった8番でーす」
ぱっと思い付いた記憶がそれだった。嫌な記憶ほど印象が強まるものなのだ。
「間違いない! 本物の8番ちゃんだ〜!」
「あんた8番さんに何させてんのよ……」
「いやあれは自業自得だからいいんだ……それより君らコラボカフェに興味があるなら見ていきなよ」
「予約なしで入れますか?」
「大丈夫。ミツゴシからの視察ってことにするから。さ、入って入って」
ローズ一行は8番に促されるままコラボカフェへと足を踏み入れた。
そして陰の叡智に由来した卑劣な戦略にかかったのは食欲旺盛な665番……ではなくナツメファンのローズであった。
「うぷ……も、もう一杯だけ! 次で出なかったら諦めますから!」
「それさっきも聞いたわよ!」
「ろ……いや、ご主……お嬢様もうやめようよ〜。お腹の中で洪水が起きちゃうよ〜」
この8番仕込みのコラボカフェにおいて、ちょっと変な料理名が付いただけで割高になっている普通の料理やコラボカフェ限定販売のグッズを差し置いて最も財布にダメージを与えてくるものとは何か。それは飲み物に付いてくるささやかなおまけである。
8番の温情で貰えるおまけのキャラクターの種類とイメージドリンクの種類は対応しているが、同一キャラクターに表情差分や衣装差分を複数種類作ってランダム配布しているのだ。
「だいたいさっきから見てたけど全部同じじゃない!」
「違うんですーっ!」
推しキャラクターのおまけをひとつ手に入れるだけで満足できる人もいれば、ローズのようにコンプリートにこだわる人もいる。
そしてわざわざ内戦から間もないオリアナ王国にコラボカフェを求めて来るような人間は、ほぼ例外なく後者である。
ランダム商法で儲けまくったマリーのコラボカフェ。その利益は既にチェーン展開を考えられるほどだが、8番が勧めてもマリーは首を横に振った。
8番が理由を聞くとマリーは恋する乙女の顔で答えた。
「いつか、私のお店に来てほしい人がいるんです。いくつもあったら私のいない店舗に行っちゃうかもしれませんから」
それからマリーはちょっと困ったように笑った。
「まあ、あの人がこういうお店に興味があるかというと、微妙なところですけどね」