シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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メリークリスマス!(投稿日:9月27日)


第52話 シータサンタクサンクロース

 偽シャドウ様の脳を破壊し、その代償に自室と私物が蒸発したことでしばらく無気力状態だった私は、ふと大切なことに気付いて正気に戻った。

 私がシャドウ様になろうと思ったのはアルファ様を元気づけるためだったのに失敗してしまった。

 つまりアルファ様は今もしょんぼりアルファ様のままではないか!

 こうしてはいられない、早急にアルファ様のために何かしなくてはと頭を悩ませて、そろそろクリスマスの時期であることに思い至った。

 クリスマスとは陰の叡智であり、近年ミツゴシ商会が広めている新文化である。端的に言えばサンタという名で赤い服を着た老人が子供に贈り物を運んでくる、という設定で親が子供の欲しい物を買ってやりましょうというものだ。

 

「そういうわけだからアルファ様と七陰の皆様に何か贈ることにした。皆様が欲しいものは何だと思う?」

 

 自分の贈り物センスに自信を持てない私はオリヴィエと自称精霊の変な奴……ヌルと輪になって会議を始めた。私はオリヴィエしか呼んでないのにヌルが勝手に首を突っ込んできたのだ。

 

「おい、自分はともかくこいつ役に立つか? 七陰のこと知らないはずだろう?」

 

 オリヴィエの当然の懸念に対してヌルは嘲笑するように言い返す。

 

「ふっ……愚問だよ。ぶっちゃけ僕ほど七陰に詳しい人なんて存在しないね」

 

「ぽっと出のくせにその自信はどこから来るんだ?」

 

 オリヴィエの質問にヌルは自慢げに答える。

 

「ふっ……なぜなら僕はあのシャドウの全てを完全に理解している。シャドウを知る者は七陰を知るということさ」

 

 それが本当なら大したものだ。

 そう、本当なら。

 

「お前がシャドウ様を理解しているというのなら、シャドウ様検定で証明してみせてよ」

 

「何その変な検定」

 

「シャドウ様戦記の巻末に載ってるおまけ」

 

 私の所持していた書籍は全て蒸発してしまったので、私たちは城の書庫に移動してシャドウ様戦記を調達した。

 

「それじゃあ問題は全部で5問。配点は1問20点で部分点あり。合格ラインは60点ね」

 

 第1問。シャドウ様戦記ミドガル王女誘拐事件編においてシャドウ様は犬の真似をしてアレクシア王女が投げる金貨を拾い集めていました。この時のシャドウ様の心情を答えなさい。

 

「お金が欲しかった。犬の真似をするだけで金貨とかコスパ最高!」

 

 んなわけあるか! 0点!

 あれはきっと犬の真似をすることで王家に税を納める民衆を表現していたのだ。

 金貨1枚であっても大切な国民の血税なのだから粗末にしてはいけないと御自身が恥をかくことを厭わずにアレクシアを諭していたに違いない。

 残念ながらアレクシアには伝わらなかったけどね……。

 

「どう? 完璧でしょ?」

 

「一度だけなら偶然かもしれない」

 

 良くも悪くも。

 

「あと4問あるから答え合わせは最後ね」

 

 第2問。シャドウ様戦記ミドガル学園テロ事件編においてシャドウ様はローズ・オリアナとの試合でわざわざ大量の血糊を使って何度もやられるふりをしました。この時のシャドウ様の意図を答えなさい。

 

「学園最強の生徒会長にモブ生徒らしく惨敗したかった。理想のやられ方が沢山あったから全部試そうとしてた」

 

 ……2点。

 シャドウ様が正体を隠すためにわざと弱いふりをするというのなら理解できるけど、数回は失血死する量の流血をしても立ち上がり続けるモブがいてたまるか!

 だいたいなんだ理想のやられ方って!?

 散り際の美しさとか決して散らないシャドウ様には無縁でしょうが。

 模範解答は『ローズに血塗られた道を歩む覚悟があるか見極めたかった』だ。

 これはガーデン上層部の公式見解だ。あれほど血塗れのシャドウ様が相手でも最後まで手を抜かなかった姿を見て、シャドウ様はローズこそ教団とガーデンの代理戦争におけるガーデン側の表の象徴に相応しいと判断したのである。

 第3問。シャドウ様戦記赤き月編においてシャドウ様は血の女王を相手に苦戦しました。なぜなら泣きぼくろがかわいい銀髪美少女エルフを庇いながら戦ったためです。この時のシャドウ様の泣きぼくろがかわいい銀髪美少女エルフへの想いを答えなさいってなんだよこの問題は!?

 このシャドウ様検定の問題を作ったのはベータ様なんだけど……まさかこんな問題が混じっていたとは。

 

「……この問題については無効問題でいいけど、面白そうだから一応答えだけ聞かせて」

 

「そもそも庇っていたのはベータじゃなくて金貨だから想いも何も無かったんだと思う」

 

 ギャグで言ってるならこの返しは悔しいけど超面白い。でもたぶん真剣に考えた上での答えだろうから0点(無効問題なので全員に20点)。

 第4問。シャドウ様戦記偽札事件編においてシャドウ様は全ての真実を記した暗号を他の七陰ではなくベータに託しました。なぜでしょう。

 

「いや別に……誰に渡してもどうせ共有するはずだし、ちょうどそこにいたからとしか」

 

 正解! 20点!

 模範解答は『ベータを最も信頼していたから』となっているがそんなはずはない。それならアルファ様に渡したはずで、そうでなかったのならきっと誰でも良かったのだ。仮にベータ様を選んで渡す理由があったとしても作家であり文字の専門家であることを評価したとかそんなところでしかないはずだ。

 ……さて、現在42点か。60点以上で合格だから最終問題次第だな。

 

「最後はシャドウ様検定からの出題じゃなくて私のオリジナル問題にするよ」

 

 なんか後の巻ほどベータ様の私情が入ってきてたし。

 

「では第5問! シャドウ様は私とアルファ様はどんな関係だと思っているか答えなさい!」

 

          ◯

 

 ヌルは自分の答えが正解であると自信を持っている一方でシータの反応が良くないことにも気付いていた。

 おそらくこれは真実が正解となるのではなくシータ好みの答えを出さなければいけないタイプのクイズゲームなのだ。

 そしてこの最終問題で完璧な答えを言わなければ、おそらく自分は合格点を取れない。

 一言! 一言! 一言!

 別に命がかかっているわけでもないのでほどほどに働いた頭脳が導き出したのは、意外にもシータに媚を売ろうと思うのであれば選択し得ないものだった。

 

「友達……?」

 

 シータが硬直し、オリヴィエが息を呑む。

 その一言を聞いた瞬間、シータの脳内に走馬灯のごとき思い出が巡った。

 口づけした記憶はひとつもない。

 肌を重ねた記憶もひとつもない。

 かろうじてあるのは添い寝の記憶や一緒にお風呂に入った記憶まで。

 もしや私は……客観的に見て友達の範疇を超えられていないのでは?

 いやでもアルファ様と寝たのは事実だし裸の付き合いもしてるし単なる友達よりは上なはずなんだけどでもこれで恋人かって聞かれると自信を持って肯定できない気も……。

 

「ほ、ほほ、本当に……本当に、そう思う?」

 

 血を吐くように、縋るように、シータがヌルに確認した。

 

「そう、思う」

 

 ヌルの言葉でシータは自覚した。

 自分とアルファの現在の関係は……お友達から始めているところだということに。

 

「18点……加点して……ごう……かく」

 

 公正な採点者として理不尽な減点はできない。

 しかしそれでもせめて友達以上恋人未満であって欲しかったからという理由で2点減点したシータは、あまりの衝撃に合否だけ通達してぶっ倒れた。

 

          ◯

 

 マフラーからの喫アルファニウムで精神を安定させ、ようやく私は立ち直った。

 

「……それじゃあ、改めてクリスマスプレゼントについて会議を始めます」

 

 私はオリヴィエとヌルにスライムフリップボードを渡した。

 

「それぞれひとつ意見を出して、一番良さげなものを選ぼう。じゃあまずイータ様……はいいや」

 

「キレてる?」

 

「キレてるな」

 

「キレるよそりゃ!」

 

 他の諸々は許せてもアルファ様グッズを失った恨みはそう簡単に忘れられない。

 そういうわけなのでゼータ様への贈り物から意見を出し合う。

 

『美味しいお魚(私)』

 

『アナザ(オリヴィエ)』

 

『永遠の命(ヌル)』

 

「……まずオリヴィエのそれは実在するか怪しいのでなしで」

 

 オリヴィエが「新たな味覚がーっ!」と喚いているが無視する。現実に無いものはどうしようもないのだ。

 シャドウ様がいなくなった今なら私もあのスープ欲しいなぁ。

 

「……で、ヌルのそれは普通の人ならともかくゼータ様欲しがる?」

 

「僕はめっちゃ欲しいよ」

 

「私もできればアルファ様と永遠……うっ! 頭が痛い! なんで!?」

 

 とりあえずオリヴィエの案は魚みたいなものなので、ゼータ様への贈り物は多数決で私の案を採用する。

 

「次イプシロン様」

 

『おっぱい(私)』

 

『おっぱい(オリヴィエ)』

 

『おっぱい(ヌル)』

 

 知ってた。

 イプシロン様には適当に豊胸効果のある食べ物でも贈ろう。大豆でいいかな。

 

「デルタ様は……肉か」

 

「肉だね」

 

「……完象」

 

 オリヴィエがぼそっと呟いた。

 彼女の意図したものが何かは理解しているが、私はあえて勘違いしたふりをする。

 

「肝臓? あっ、レバーか」

 

「いやちがっ」

 

「デルタ様内臓もよく生で食べてるもんね。さすが食通オリヴィエ」

 

 デルタ様にはワコク牛のレバ刺しでも贈ろう。

 

「次ガンマ様」

 

『お金(私)』

 

『武力(オリヴィエ)』

 

『シャドウとセ(ヌル)』

 

 なぜかヌルのフリップボードは書きかけだ。いや、よく見ると書いた後で消したのか。

 

「いやお約束は守るべきだと思ったんだけど、さすがに女子の前で出したら引かれるかなって」

 

 ……何を書いたんだこいつ。

 まあいいや、深堀りはやめておこう。

 

「オリヴィエのそれは実際に手に入ったらガンマ様すごく喜ぶだろうけど……あの人の運動センスをどうにかする手段なんて私にはないんだ……」

 

 かと言って現金を贈るのもちょっとね。

 

「何か新しい商品になりそうな未知の食材を探してみるのはどうだ?」

 

「私欲を感じるけどそれが無難かな」

 

 では次にベータ様……は魔界に消えてしまったので、いよいよ本題のアルファ様への贈り物を考えよう!

 

「今回はひとりにつき10個ずつ案を出そう。それでいいやつは全部採用する感じで」

 

「贔屓がすごいね」

 

「その熱意をなぜ他の陰たちにも分けてやれない」

 

 オリヴィエとヌルのひそひそ話を無視して、私は他の4人の時よりも時間をかけて10の候補に絞り込んだ。

 

「お待たせ。それじゃ、いっせーの!」

 

『天空の城(私)』

 

『蟹ブタのローストを羽衣レタスで巻いたもの(オリヴィエ)』

 

『シャドウがクレアから押し付けられてなんだかんだ愛用してきたハンカチ(ヌル)』

 

『黄金郷(私)』

 

『霜降り豆腐(オリヴィエ)』

 

『シャドウのサイン入りブロマイド(ヌル)』

 

『伝説の都アトランティス(私)』

 

『にんにく鳥の親子丼(オリヴィエ)』

 

『魔力による変質で知らないうちに名前を書いた人間を呪殺する力が宿ったシャドウのブラックヒストリー(ヌル)』

 

『7つ揃えるとどんな願いでも叶えてもらえる龍神玉(私)』

 

『くりうにのパスタ(オリヴィエ)』

 

『シャドウが成長してもう着られなくなった古着(ヌル)』

 

『約束された勝利の剣(私)』

 

『ローズレモンを一滴絞った生の薔薇牡蠣(オリヴィエ)』

 

『シャドウとアルファのツーショット写真(ヌル)』

 

『ジンの金属器全72種コンプセット(私)』

 

『プリン山(オリヴィエ)』

 

『シャドウが陰の実力者コレクションとして最初に購入した値段控えめだけど庶民感覚だとそれなりにお高いティーセット(ヌル)』

 

『欲張り島の指定ポケットカード全て(私)』

 

『醤油バッタの醤油をかけた焼きクリーム松茸(オリヴィエ)』

 

『実はベータが密かに隠し持っている運動後にシャドウが汗を拭いたタオル(ヌル)』

 

『賢者の石(私)』

 

『ベーコンの葉でバナナきゅうりを巻いたもの(オリヴィエ)』

 

『今では世界のどこを探しても見つからないシャドウが履き潰した最高のぼろぼろ靴(ヌル)』

 

『にじのしずく(私)』

 

『20年モノの水晶コーラ(オリヴィエ)』

 

『シャドウからのラブレター(ヌル)』

 

『私(私)』

 

『あまり現実離れしてないために味が想像できて普通にうまそうなゾンビのフルコース(オリヴィエ)』

 

『シャドウ(ヌル)』

 

「お前ら真面目にやれ!」

 

「お前が言えたことか!」

 

「わーちょいちょい落ち着きなって!」

 

 私とオリヴィエは互いにスライムフリップボードを投げあう。

 

「オリヴィエは愛読書から離れて現実見ろ!」

 

「探せばあるかもしれないだろ! 不死身の霧の龍なんてものがいる世界だぞ! ……待てよ、そういえばあいつの肉は試したことがなかったな」

 

 ……そういえば前に七陰とシャドウ様だけで何かのお祝いをした時に、霧の龍から毒で美味しく変質した猪を贈られたとか聞いたような……いや私は呼ばれなかったから味知らないんだけど。

 

「……わかったよ。霧の龍を調理して味見してみよう。どうせ死なないから肉取り放題だし。美味しかったらアルファ様への贈り物のひとつにするってことで」

 

 その瞬間、なんだか空気が震えた気がした。近くで巨大な存在がくしゃみでもしたかのような感じだったが、特に害はなかったのですぐに意識しなくなった。

 オリヴィエと和解した私は続いてヌルを睨んだ。

 

「ヌル。確認するけど、さっきのは真面目に考えたの? それとも私を笑わせようとしたの?」

 

「真面目も真面目、大真面目だよ。考えてごらん」

 

 ヌルは真剣な表情で私に告げた。

 

「僕の案の『シャドウ』を『アルファ』に変えたら……欲しいでしょ?」

 

「欲しい!」

 

 ほんとだ!

 さっきまで値段のつかないガラクタにしか思えなかった物が値段のつけられない宝物になった!

 

「でもどうしよう……シャドウ様不在だから譲ってもらえないか頼むこともできないし、さすがに勝手にくすねるのはねぇ」

 

「それならクレア・カゲノー経由で実家に残ってる幼少期のシャドウの私物を買い取ればいいよ。カゲノー家お金ないからたぶん応じるはず」

 

「どうかなぁ……」

 

 お姉様も七陰の皆様に負けず劣らずシド様大好きだからね。

 私はシド様に恋していると思われているみたいだから唐突にシド様の不要になった私物が欲しいと申し出ても不自然にはならないけど、よっぽどうまく説得しないと手放さないだろう。

 

「なんにせよシャドウ様の私物っていうのはいい案だから前向きに入手方法を検討するとして……私のはどうよ?」

 

「幻覚を見ずに現実を見ろ」

 

「幻だからいいんだよ! 普通に手に入る物なんかじゃアルファ様喜んでくれないもん!」

 

 ミツゴシがミドガルの経済を支配した今となっては金で買える物の入手難易度は著しく下がった。もはや超高名芸術家ダビンチィの作品ですらアルファ様の琴線に触れることはできないだろう。

 ミツゴシで売ってるトレーディングカードゲームにおいて、どんなに強いカードでもノーマルカードに値がつかず、弱いカードでもカートンに数枚の最高レアなら多少の値がつくのと同じだ。

 価値の本質とは手に入らないこと。

 人は手を伸ばしても届かない物にこそ価値を感じるのだ。

 

「そういうわけだから私は今から旅に出るぞ! 天空の城も! 黄金郷も! 伝説の都アトランティスも! 無いと証明できた奴はひとりもいない!」

 

 私は熱に浮かされて駆け出し、ドンッと書庫の扉を開いて叫んだ。

 

「人の夢は! 終わらねェ!」

 

 そのまま私は変なテンションになって「あははー! 冒険楽しい! 冒険楽しい!! 冒険楽しいー!!!」と笑い声をあげながら城を飛び出し、翼を生やしてまだ見ぬロマンへと飛び立った。

 

          ◯

 

「……行った?」

 

「行ったみたい」

 

「怖かった……」

 

 書庫周辺に隠れていた一般構成員の少女たちが続々と姿を見せる。

 実はシータ、シャドウ様検定から贈り物会議までの一連の流れを普通に他の利用者がいる中で行っていた。

 そしてストレスで思考能力が落ちていたシータはオリヴィエのみならずヌルまでもが自分以外に見えないという事実を失念していた。

 つまり周囲から見ていた者たちの目に映っていたのは……シータがひたすら虚空に向かってぼそぼそ呟いたり叫んだりして、いきなり泡吹いてぶっ倒れたかと思うと髪を振り乱しながら血走った目でマフラーをクンカクンカし始め、やがて沢山のスライムの板に何か書いたかと思えばそれらを投げ捨て、最終的に狂ったように笑いながら書庫から走り去った、というものであった。

 

「8番さんどうしちゃったの? 何かあった?」

 

「またイータ様の実験に巻き込まれたとか? ほら、前にも変な薬飲まされたとかで裸で号泣しながら走り回ってたじゃん」

 

「あっ、そういえば私見ちゃった。今朝ぐらいから七陰の専用エリア近くが工事中で立ち入り禁止にされてたよ」

 

「また爆発したのかな……前にニュー様がイータ様のせいで8番先輩が爆発したって頭抱えてたし、もしかしたら今回も……」

 

「8番ちゃんの部屋ってイータ様の隣なんだよね……かわいそう」

 

 不幸中の幸いと言うべきか。

 8番によって怖い思いをさせられた一般構成員たちが彼女の奇行はイータのせいだと解釈してくれたおかげで、同情は集まれども好感度は下がらずに済んだ。

 実際、8番のテンションがいつになく変だったのはイータによるストレスが原因なのであながち間違いではない。

 

「ねぇ、みんなで8番さんを元気づけるために何か……」

 

 8番を模範として健全に優しく育った少女たちは大先輩のために何かしてあげたいと思った。

 

「みんな大変! シャドウ様とベータ様が帰還されたって!」

 

「七陰の皆様の調子が戻ってすごく忙しくなりそうだから今アレクサンドリアにいる子は全員集まれってラムダ様が!」

 

 ……が、そこに稀によくある8番の不調なんかよりも遥かに重大な情報がもたらされた結果、ガーデンの少女たちはすっかり8番への心配を放り出してしまった。

 これもまた、シャドウと七陰に忠実であるべしという8番の教えによるものであった。

 

          ◯

 

 この先のシータの大冒険は読み飛ばすことを推奨する。

 だって読まなくても結論が分かってしまうから。

 重要な情報なんて出てこないし、大して面白い出来事もない。

 だから先んじて言っておくが、今回の話のオチはこうだ。

 シータの頑張りは報われなかった。

 

          ◯

 

 既にシャドウが帰還していることも知らず、アルファが元気になってくれるような素晴らしい何かを探す旅に出たシータ。

 空を飛んで別の大陸を目指す道中、ワコクで鬼退治をしてきたという冒険者モンキー・ドーンの一味と遭遇したシータは、船旅をしているモンキーに海に関連するという伝説の都アトランティスについて何か知らないか聞いたことで彼の興味を引いてしまい、モンキーが主導するアトランティス探しに巻き込まれてしまった。

 

「いや何も知らないなら私はこれで……」

 

「うるせェ! いこう!」

 

 そんな感じでモンキーの一味11人に加えて、シータ、オリヴィエ、ヌル、そしてシータの指輪の中で眠っている亡霊で一応人類扱いされる面子が15人を超えたことにより、彼らの前にアトランティスについて重要な情報を持った全身青タイツの変な人……『アトランティスの魔剣士』が海中から現れた。

 

「アトランティスに行きたいんだろ? ついてきな!」

 

 平泳ぎでノロノロ移動するタイツ野郎にじっくり付き合っていられるほど気が長くなかったシータは重力操作によりタイツ野郎と船を浮かせて「お前は方角だけ教えろ」と脅迫し、半日とかけずにタイツ野郎が示した座標に到着した。

 

「おい何もないぞ」

 

「そんははずはない! 俺はアトランティスの魔剣士……『伝説の都アトランティス』に導くことだけが俺の存在意義なんだ!」

 

「知るかよ『海』しかねーんだよ」

 

「そうだ! アトランティスは海に沈んだんだ!」

 

 嘘つきタイツ野郎にシータは呆れてしまった。

 でも一応確認しとこうと思ったシータは重力操作で海を左右に割ろうとした。

 その瞬間、かつてアトランティスを魔界送りにした自然発生型のゲートが刺激されたせいで再び開き、居合わせた全員が教団でさえも未観測の魔界に飛ばされた。

 そこは全てが黄金に包まれて静止した世界。遥か昔に飛ばされたアトランティスもその住民ごと全てが黄金に変えられていた。

 黄金化した同胞を前にして落ち込むタイツ野郎を励ましながら黄金郷を探索してしばらくすると、モンキーの一味とシータ一行の前に角の生えた人型の生物が姿を見せた。

 

「……客人は千年ぶりか? 歓迎しよう」

 

「うわあああああ黄金になってく〜!」

 

 タイツ野郎やモンキーの仲間たちが黄金になりつつある傍らで、モンキーとシータには別の現象が起きていた。

 

「うわあああああ人間になってく〜!」

 

 猿になる呪いが黄金になる呪いと打ち消し合い、モンキーは一時的に本来の姿に戻る。

 

「うわあああああ大根になってく〜!」

 

 シータは知らん。なんか知らんけど黄金じゃなくて大根になった。

 

「うわあああああ大根になっちゃうよ〜! もとに戻せやゴラァ!」

 

 万物を黄金に変える魔の者は強かった。しかしモンキーとシータ(手足が生えた大根)のコンビはもっと強かった。

 その後追い詰められた魔の者は自分が死んでも黄金化は解除されないと言い出したが、ここには他者を洗脳して使役する能力を持つ大根が居合わせた。

 思ったより強くて完全な傀儡化こそできなかったものの、魔の者がずっと探し求めていた愛という感情を強制的に教えてやったことで万物を黄金に変える魔の者改めシータ命名ゼニゴルドはシータに忠誠を誓ったから結果は同じだ。

 こうして無事にアトランティスを解放したシータはお礼にアトランティスの国宝だという玉手箱を貰った。モンキーの一味は海賊じゃなくて冒険者だから重くて邪魔になるお宝よりも食料をくれと断っていた。

 アトランティスそのものを魔界から戻すのは難しかったためアトランティスの魔剣士は同胞たちと共に魔界で生きていくことを選んだ。

 そして元いた世界に帰還したシータとモンキーの一味もそれぞれの旅路に戻ることになった。

 モンキーの一味と別れた後もシータは頑張った。

 貰った玉手箱の中身を検分しようと開封したら大爆発を起こして吹き飛ばされた。

 多くの魔剣士が帰らぬ人となった迷宮と呼ばれる塔を攻略したにもかかわらず、唯一所持していた金属製品である指輪に既に居住者がいたせいで何も持ち帰れなかった。

 錬金術師の隠れ里で賢者の石と呼ばれる秘宝を授かることに成功したかと思えば、眼鏡を光らせ怪音を轟かせながら「ナントカカントカパトローナム」と叫ぶ変な男に襲われて賢者の石を砕かれた。

 複数の伝説級の道具と引き換えににじのしずくを手に入れた後で、よく考えると虹の橋を架ける道具よりも雨や太陽光をもたらす道具の方が農業的な観点で考えると便利だったと思い至って落ち込んだ。

 古代の魔剣士王が振るったとされる伝説の剣は鞘しか見つからなかった。

 あるかどうかも分からない世界に散らばる小さな球体に至ってはレーダーもなしに見つかるはずもなく、代わりに食べるとやたらとお腹が膨れる豆を見つけたが、食通オリヴィエの評価では「生きている間の食事回数には限りがある。この豆はそんなにおいしくないのにお腹いっぱいになるからもったいない」とのことだった。

 あと天空の城は見つけた直後にヌルが何かを呟いて目の前で崩壊した。

 そういうわけでシータの大冒険の成果はこちら。

 賢者の石の残骸。

 にじのしずく。

 魔剣士王の剣の鞘。

 壺いっぱいのやたらとお腹が膨れる豆。

 そして満身創痍の自分自身だ。

 魔界があるから世界観はなんでもいいが、正直言ってアルファが喜んでくれるとは全く思えない。

 それでも……それでも機能はともかく見た目は綺麗なにじのしずくならきっとアルファ様も喜んでくれるはずくれたらいいなぁと一縷の望みに賭けてアルファのもとに向かったシータは、途中でシャドウ帰還済みの情報を耳にして回れ右をした。だって微妙機能付きのアクセサリーなんかじゃシャドウが無事に帰還した喜びに勝てるはずないもん。

 その後シータはアルファに合わせる顔がなく、箱が修復されてもアルファグッズが消えたままの自室に滞在する理由もないため、ひとり泣きながらもうすぐ新学期が始まるミドガル学園へと向かった。

 なお、贈り物計画が頓挫したことで不要になったガラクタは意趣返しとして全てイータに押し付けられたようだ。




おまけ イータの秘匿私的研究レポート

シータからプレゼントを貰った。
たぶんクリスマスの時期だから。
最初はガラクタを押し付けられたのかと思った。
でも違った。

まず、赤い石の破片。
これには接触させた卑金属を純金に変化させる効果があると判明した。
しかも効果を発揮した後も赤い破片は消耗しなかった。
つまりこれさえあれば私はいざとなればいくらでも純金を生み出せる。
無限の研究費を手に入れたも同然!

次に中身の剣がない青く装飾された金色の鞘。
効果を解明するまでに時間がかかったけど、瀕死の実験動物に接触させたら傷が治った。
治癒速度はそれほど速くないみたい。
でもこの鞘の真価は治癒ではなく死なせないことにある。
試しに寿命が短い虫を鞘に接触させて観察したら、虫はとっくに死んでいるはずの日数を大幅に経過しても生きていた。
おそらく老化を防ぐ効果があるものと思われる。
ディアボロスの雫のように時間制限があるのかはまだ分からないけれど、研究者の勘は無制限だと言っている。
もしそうならこれを隠し持っておけば私はエルフの寿命を超えて研究を続けられる!

最後に見た目は普通の豆。
食べるとひと粒でお腹いっぱいになる。
それどころか実験に協力させた子たちは食べた後1週間ほどお腹が空かなかったみたい。
それで絶食している間に血液検査しても栄養失調にはなってなかったから、この豆は万能の栄養食だと判明した。
それだけでも便利だけど、もっとすごい秘密があった。
この豆を食べると傷が一瞬で治る。
さっきの鞘とは比べ物にならない速度。
どんなに重い怪我でも文字通り一瞬で復元される。
ただし残念ながら効果対象は外傷だけで病気までは治せないみたい。
なんにせよ私にとっては回復効果より栄養食としての用途の方が有益だから十分。
これで煩わしい研究中の空腹から解放される!
絶対に栽培方法を確立する!

こんなにすごい物をくれるなんて、もしかしてシータは私のこと、アルファ様の次くらいに好き?
マスターの複製脳が暴走した時に素っ気ない態度だったから嫌われたのかと思ったけど、そんなことはなかった。
嫌よ嫌よも好きのうち……マスターの言葉の通り。
シータの嫌が本当は嫌じゃないって分かったから、これからも遠慮なく実験台になってもらおう。
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