シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第53話 アプリボワゼ! 我らミツゴシ十字団!

 シャドウガーデンがオリアナ王国で作戦を遂行している間にもミツゴシ商会は休むことなく運営されている。

 シータの商会での仕事は他人任せにはできない、あるいはしたくないものが多い。そのため過酷な戦いに備えてマフラー、指輪、オリヴィエ、バケモンボールをフル装備したシータがオリアナに遠征している一方で、別の分裂体たちがミドガル王都に残ってせっせと働いているのだ。

 

「ミツゴシ十字団……ですか? うちにそんな関連団体ありましたっけ?」

 

 ガンマによってミツゴシ本店の会長室に呼び出されたシータは名前に『ミツゴシ』と付いているくせに全く聞き覚えのない団体に関する話を聞かされた。

 

「ないわね。この謎の団体がミツゴシの名前を勝手に使っているだけよ」

 

 ガンマによるとこの変な名前の団体を先日までゼータが調査していたらしい。いよいよ実際に潜入してみようという段階でオリアナの諜報にゼータが駆り出されてしまい、仕方ないので潜入をシータに引き継がせたいとのことだ。

 

「そういうことでしたらもちろん謹んで拝命いたしますが……他の諜報部の子たちを差し置いて私が出張ってもよろしいのでしょうか?」

 

 シータは諜報ができないわけではないが、ゼータによる適性検査で不適格の烙印を押されている。敵を皆殺しにしてから情報を回収すればいいと言うような奴を諜報員とは呼べないのだ。

 

「ええ。ゼータは教えなかったようだけど、分裂能力の詳細が判明してからゼータはあなたの諜報員適性を上方修正したのよ」

 

 分裂体が死んでも情報が他の分裂体に届くというのだからこれほど諜報員に向いた能力はない。性格によるマイナスを補って有り余るプラス要素のせいで今ではゼータによる諜報能力格付けでシータはゼータとアルファに続く3位となっている。ゼータは不本意に思いつつも組織に属する者として公正に評価してくれたのだ。

 

「……その分裂能力、やっぱり羨ましいわね。私にも習得できないかしら」

 

 デルタ以外の七陰は例外なく大量の仕事をこなしている。ガンマは特に仕事量が多い部類なので、仕事効率を倍増させられる分裂能力があればと何度もこぼしている。

 

「吸血鬼の血液分身に相当する悪魔憑きの技だと思いますから、できないわけではないのでしょうけれど……」

 

 シータは言い淀んだ。

 残念ながらガンマのセンスの無さでは無理な話だ。

 できることなら「ムリ」を「ム」「リ」と一文字ずつ区切ってはっきり言ってやりたいぐらいには無理だと確信している。

 そもそも分裂能力はあのアルファが習得できていないほどの高難易度だ。唯一兆しを見せたベータも、なぜか自分ではなく揺らぐシャドウの幻影を出すことしかできなくて失敗していた。まあ、実際のところは悪魔憑きと関係ないシータ固有の生態なので当然の失敗なのだが。

 なおベータは「シャドウ様逆ハーレム……いえ、シャドウ様キングダムが現実に!」と失敗したのに喜んでいた。あの様子ならいずれ別種の能力として確立されるだろう。

 

「とりあえず私もどういう原理で成り立っているのか把握せずに感覚でやってますので、申し訳ありませんが御役には立てません」

 

「いえ、気にしないでちょうだい。潜入任務の方、よろしくね」

 

          ◯

 

 ジェーンの時に使った仮面を再利用した不審者スタイルの私はミドガル王都にあるミツゴシ資本ではない定食屋に踏み込んだ。

 この店は偽札事件で崩壊した大商会連合の傘下だったボッタクル商会がどうにか維持している最後の店舗だ。

 値段の割にミツゴシ系の飲食店ほどおいしくないのでたぶん遠からず潰れる。

 

「御注文は?」

 

 席につく前からいきなり店主の男に注文を聞かれた。この男はボッタクル商会会長のダマシテ・ボッタクルだ。

 私はメニューを見ずに注文を伝える。

 

「ステーキ定食」

 

 メニュー表にない料理名が出たことで店主に緊張が走る。

 

「焼き方は?」

 

「強火でしっかり」

 

 ナツメ作品の名場面を丸パクリしたやり取りの後で私はゼータ様が突き止めたミツゴシ十字団の集会所に通された。

 例のナツメ作品のように広い地下空間があるということはなく、ちょっと広めの宴会用と思われる個室に多くの仮面をつけた人たちが集合している。

 集団の代表者らしき上座に陣取っていた若い男が私に声をかける。

 

「……見ない仮面だな。誰の紹介だ?」

 

 そう、この集団に新規加入するためには既存メンバーの紹介が必要なのだ。

 もちろんそのことは既にゼータ様が掴んでいたし、私の方でぬかりなく対処している。

 

「私です」

 

 仮面をつけた赤髪の少女が手を挙げた。

 

「貴様か。ハート隊『スプレマシー造形』代表『カオスノーブル39希望公クリスタルホープ』」

 

 無駄に肩書の長い無駄に変な名前の彼女はミドガル学園で同じクラスのクリスティーナ・ホープ公爵家令嬢だ。彼女とは同じクラスなのに長らく話したことすらなかったが、数か月前に私が生徒会長となったことで接点を持つようになった。

 ゼータ様の調査でクリスティーナがミツゴシ十字団メンバーであると判明していたので、ミツゴシ商会の高級商品を餌に交渉し、こうして私の紹介者となってもらったのだ。

 ……いやそれにしてもまさか大量に在庫を抱えていたひと粒1万ゼニーの『スペシャルビューティードロップDX(原価10ゼニー)』1年分で釣れるとは。

 あの飴イータ様が作ったものだから効果は確かなんだけど、味はオリヴィエですら顔をしかめる不味さだから全然売れなかったんだよね。

 

「他の代表たちはどう思う?」

 

「別にいいと思いますよー。貰えるもんさえ貰えれば」

 

「クローバー隊『世渡り上手』代表『コンセール』は承認……と」

 

 この態度がでかい少女はカナデとかいう名前のミドガル学園の1年生だ。私とは特にこれといった接点がない。

 

「ダイヤ隊『ダイヤモンド・トリオ』代表『グローリーヒーロー』は……どうせ承認して欲しければ俺の女になれとか言うんだろうから不承認でいいよな?」

 

 私は即座に返答する。

 

「じゃあ不承認で」

 

 集団の指導者と私は文句を言っている『グローリーヒーロー』ことヒョロ・ガリと『イモータルジャガー』ことジャガ・イモを無視して話を進めた。

 というかジャガイモてめぇ投票権ねぇだろ名前の似てるジャガノートと同じ末路辿らせてやろうか?

 

「あとはスペード隊『30枚の聖教銀貨』代表『ユダブルータス』……お前次第だ」

 

 こいつは知らないけれども少なくとも学園の生徒ではない。仮面で顔隠しても明らかにおっさんだから。

 

「なら俺は不承認だ……あんたが決めろよミツゴシ十字団団長『ジョン・スミス』!」

 

 なんだと!?

 ……と一瞬驚いたが、ジョン・スミスと呼ばれた男はシャドウ様が変装したスーパーエリートエージェントではない。

 仮面をつけてスーツを着ているのは同じでもシャドウ様が使っていたものとは全然デザインが違うし、身体の方も鍛え抜かれたシャドウ様と違って太り気味の肉付きだ。

 まあ、普通に偶然の一致だろう。

 

「ふ……ふふふ、くくく、はーっはっはっは!」

 

 ジョン・スミスと呼ばれた男が下品に笑いながら立ち上がる。

 

「確かに、それが最も良い選択だろう。なぜならこの俺『ジョン・スミス』こそが! 大商会連合を卑劣な罠にかけて滅ぼし! 新参の弱小商会に過ぎなかったミツゴシをミドガルで一番の商会に押し上げた立役者なのだから!」

 

 いや違うな。言葉の端々にミツゴシとジョン・スミスへの悪意を感じる。偶然じゃなくて意図してジョン・スミスの名を騙っているのか。きな臭くなってきた。

 

「新人よ、貴様が本気でミツゴシ十字団に入りたいと思っているのであれば、今この場でミツゴシへの思いの強さを示してみせよ!」

 

「……ふぅん。ならば、これでどうだ?」

 

 私は懐からカードの束を取り出し、その中から同じカードを3枚抜き出して掲げた。

 

「なんだと!? まさか、それは!」

 

「世界に4枚しか存在しないとされる『碧眼の金髪龍(ブルーアイズブロンドドラゴン)』のカードですって!? ふ……ふつくしい」

 

 私が見せびらかしたこのカードはアルファ様をイメージして私がデザインした特別なカードだ。印刷した数は4枚しかなく、世間に名前こそ知れ渡っているものの流通はさせていない。

 ちなみにこのカードゲームではデッキに同名カードは3枚までしか入れられない。そのため4枚のうち3枚は実用目的でデッキに入れて、残りの1枚は保存用としてアレクサンドリアの自室で厳重に保管してある。

 

「10億は下らない言われるカードが3枚!?」

 

 貧乏な下級貴族家の令嬢であるカナデが羨ましそうに涎を垂らしている。言っとくけど「くれよ!」と言われてもあげないぞ。

 

「3枚もあるなら1枚俺によこせよ!」

 

「せ、先輩の僕にも譲るべきです!」

 

「そして残りの1枚は俺の予備!」

 

 黙れクズども!

 私はイータ様製のアーティファクトを腕に装備して『碧眼の金髪龍』のカードをセットした。

 アーティファクトの力で質量を持った幻影が映し出される。

 

「攻撃!」

 

「ぎゃあああああ!?」

 

「ぐべぇぇぇぇぇ!?」

 

「わはははははー! 粉砕! 玉砕! 大喝采!」

 

 クズ2人を公開処刑したおかげか他の連中は物欲しそうな視線を向けてくるだけで何も言ってこなくなった。

 

「それで……ジョン・スミス。これでもまだ不十分と言うならば、もう1段上を見せることもできるが?」

 

 私のデッキには3体の金髪龍を融合させて召喚する『碧眼の究極金髪龍』のカードも存在するのだ。

 

「いや……十分理解した。貴様はこれよりハート隊『スプレマシー造形』の一員だ。あとのことはクリスタルホープに聞け」

 

「了解した」

 

 どうやら無事に潜入できそうだ。ありがとう碧眼の金髪龍!

 

「ではここに貴様の魂の名を宣言せよ!」

 

「我が名は……『アテム』!」

 

 アルファ様てぇてぇまじもうむりぃ……略してアテムだ。

 

「新たな同志アテム! 貴様を歓迎しよう!」

 

 偽ジョン・スミスが右手の人差し指、中指、薬指の3本を立てた状態で右腕を真横に真っ直ぐ伸ばし、それからシュピンッと俊敏な動きで肘を曲げて3本の指を右目の前に掲げる。

 そして偽ジョン・スミスは高らかに宣言した。

 

「ミツゴシ!」

 

 仮面の集団が私の方を向いて立ち上がり、偽ジョン・スミスと同じポーズを取って声を揃える。

 

「ミツゴシ!」

 

 ダサいし恥ずかしいので気は進まないが、なんかこの団体特有の挨拶みたいなので私も同じようにした。

 

「ミツゴシ!」

 

 こうして私はミツゴシ十字団の一員となり、クリスティーナ改めカオスノーブル39希望公クリスタルホープを代表とする『スプレマシー造形』に配属された。

 

          ◯

 

 結局のところミツゴシ十字団とは何なのか?

 現状で私が調査を完了しているハート隊に限って言えば、なんてことはないミツゴシ愛好家の集いである。

 

「何度見てもミツゴシ商会オリアナ支店は美しいわね。いい匂いもする」

 

 うわぁ……この人紙切れから幻臭嗅ぎ取ってるよこわぁ……。

 イータ様がデザインしたワコク風ミツゴシ店舗の写真を舐めるように見て興奮する変人……クリスティーナことカオスノーブル39希望公クリスタルホープが代表を務めるハート隊『スプレマシー造形』にはミツゴシ商会製の高級インテリアを愛する者たちが集まっている。

 あまり多くないメンバーは家格の高い金持ち貴族ばかりで、普段から新製品が発売されるたびに欠かさず購入しているという上客たちだ。

 

「見ろ! これが真実だ!」

 

 ある時のハート隊の集会で私は暗号文が書かれた紙を机に広げた。そして暗号文の隣にそれを翻訳した内容を書き込んでいく。

 現在ミツゴシ商会では配布しているチラシの暗号文を解読できた者に天才建築家にして天才デザイナーのイータ・ロイド・ライトがデザインしたクリスマスツリー用ミニオーナメントを先着100名限定でプレゼントするという企画が行われており、ハート隊の者たちはこぞって暗号を解読しようとしているところだ。

 

「『ミツゴシ商会は荒地を耕し、道を造り、峠には橋を架けた』……アテムよくこの暗号が読めたわね」

 

「いいやまだ殆ど解読できていないんだ」

 

 ガンマ様がアルファ様級の頭脳がないと解けない難易度で作った暗号だから私は全く法則性を理解できなかった。

 だが私は解読するまでもなく答えがわかった。

 

「……? ではなぜ真実が分かったの?」

 

「? そんなことすぐに分かるだろ?」

 

 だって私がミツゴシ十字団内で功績をあげるために仕込んだ私発案の企画だから。答えなんて最初から知っていたのだ。

 そんな真実を隠して私は叫んだ。

 

「なぜなら私は私のミツゴシ愛を信じている! 私たちは選ばれしミツゴシ愛の申し子! ミツゴシ十字団だ! ミツゴシ!」

 

「おおおおぉぉおお! ミツゴシ!」

 

 それで後日しっかり当選品が届いたことでハート隊における私の立場は急激に上がり、新参者でありながら副代表に任命された。

 ハート隊が特に問題のない集団と判明した後は他の隊にも探りを入れた。

 カナデことコンセールが率いるクローバー隊『世渡り上手』にはカゲノー男爵家くらいの貧乏貴族家の子が集まっている。ホープ公爵家のクリスティーナのように数十万、数百万ゼニーのインテリアに手を出せない者たちのミツゴシ愛は、たとえ高級品であってもインテリアに比べれば安価なミツゴシ商会製の食品に注がれている。

 

「副代表風情がこの私と面会したい? それなら出すもん出してもらわないと……嘘ぉ!? ミツゴシ商会の高級苺がこんなに!?」

 

 代表の立場を利用してクローバー隊のメンバーから数百ゼニー程度のミツゴシ駄菓子を巻き上げていたカナデに取り入るのは簡単だった。

 ミツゴシ商会が扱う食品の大部分を生産しているのはこの私だ。だからどんなに高価なものでも食材であれば簡単に調達できる。

 幼児の握り拳サイズとはいえひと粒で1万ゼニーという狂気の価格設定がされた高級苺をクローバー隊のメンバー全員に渡してなお余るほど用意してやった結果、態度がでかかったカナデは一転して私に媚びへつらうようになった。

 

「うへへ……アテムさん肩とか凝ってません?」

 

 頼んでもいないのに肩を揉んできたカナデは回りくどい言い回しで「今度は最高級の苺とか……どっすか?」とおねだりしてきた。

 

 ちなみにミツゴシ商会が取り扱う苺で最も高いものは平均的な成人男性よりも大きい『金のスゴイチゴ』である。値段は時価とはいえ所詮は食べればなくなり残しても腐るものだから攻め過ぎた価格設定にはできず、同重量の1万ゼニー苺を売り切った時の儲けとそんなに変わらないので、正直に言ってミツゴシ商会で取り扱うには生産と運搬の手間に見合っていない。

 まあ……カナデにやるくらいならアルファ様に贈るわな。

 続いてダイヤ隊『ダイヤモンド・トリオ』にはクズコンビに騙された馬鹿な男子どもが集まっている。連中の目的はミツゴシ商会の金融商品や賭博で大儲けすることだ。

 金融商品にせよ賭博にせよガンマ様の綿密な計算で絶対にミツゴシが儲かるようになっているので、はっきり言ってこいつらはいいカモである。

 それはそれとしてクズコンビが幅を利かせているのが気に食わなかった私は、お互いの追放を賭けてクズコンビに勝負を持ちかけた。

 

「払い戻し額1千万ゼニーのユキチケだとぉ!?」

 

「イカサマですよこんなの!」

 

 勝負の内容はユキ娘レースの賭けでより多く儲けた方が勝ちというものだった。

 いくら私が運営者であってもレースの結果は操作できない。八百長やってばれたらミツゴシ商会のブランドを傷つけてしまうし、何よりユキ娘たちの信頼を損なうからだ。

 しかし私にはユキ娘レースでほぼ確実に稼ぐ方法がひとつあった。

 

「しかもよりにもよって『ヴィルシータ』単勝1点買いで100万賭け!? なんだってあんなダークユキ娘にそんな賭け方できんだよぉ!」

 

 その方法とは私が自分でレースに出て勝つこと!

 絶対王者アイシクルアインに初黒星をつけて以来プリティースケートから姿を消していたヴィルシータはまぐれ勝ちの一発屋と見なされていた。おかげで本命にも大穴にもなれない半端な人気だったのだが、私は自分が絶対に勝つと確信していたので問題なく大金を突っ込めた。

 そして私の100万ゼニーは無事10倍になりましたとさ。

 なお、今回はさすがにアインちゃんとの対決は避けた。いくら私でもあの子が相手だと勝敗が読めなかったのだ。というか敗北を糧に急成長したあの子にはたぶんもう勝てない。

 

「……同志たちの前で宣言した内容を忘れたのか?」

 

 この勝負の前日に私もクズコンビも『決闘の誓約』をダイヤ隊の連中の前で済ませている。

 勝敗はユキ娘の能力のみで決まらず。

 ユキチケ購入者の観察眼のみで決まらず。

 ただ、結果のみが真実!

 

「アーレア・ヤクタ・エスト(賽は投げられた)! 有り金全部溶かした貴様らは追放だ!」

 

「ちくしょおおおおお! まだだ! まだ終わんねえぞ!」

 

「僕らにはミツゴシリボ払いがあるんですからね! 必ず大穴を当てて舞い戻りますよ!」

 

「言っておくけどその先は地獄だぞ」

 

 私の善意の忠告をおそらく聞き流したクズコンビは逃げるように走り去った。その足で奴らはミツゴシ銀行に向かうのだろう。

 ミツゴシリボ払いはミツゴシ銀行における借金の新しい返済方法だ。農家など普段は無収入で特定の時期に纏まった大金が入るような人であれば使う意味もあるのだが、そうでなければ使わない方がいいとミツゴシ関係者の私が保証する。

 そもそも借金で賭け事をしている時点で自殺と大差ない。

 ……これでヒョロジャガは破滅したも同然だな。来月辺りには失踪してミツゴシマグロ漁船にでも乗っているかもしれない。そうなったらシド様には「あの2匹は自ら海に身を投げました」とでもご報告しておこう。

 こうしてミツゴシ十字団ダイヤ隊『ダイヤモンド・トリオ』は代表と副代表を失い、新たな代表にはクズ2匹が隊の最低人数を満たす目的で勝手に名簿に載せていたために奴らに次ぐ最古参となっていたシド様こと『黒の魔導士(ブラック・マスター)』様が繰り上がりで任命された。

 お忙しいシド様の手を煩わせてはいけないので、ダイヤ隊の連中には私からマスター様の指令書と称したミツゴシ金融商品のチラシ裏に適当な指示を書いたものを送っている。

 指示はちょっと悪ふざけ入ってるけど、「ミツゴシ商会で1万ゼニー以上買い物して、それらを全てミドガル学園の右隣の席の学友に贈れ」とか「まぐろなるどでバーガーの具材全抜きパン部分のみを値引きなしで10個購入し、その場で完食しろ」とか「ナツメイトで8巻以上存在する全ての作品の1巻と8巻を購入しろ」とかちゃんとミツゴシに利益が出るものばかりだ。

 クズコンビの話に乗ったダイヤ隊の連中なんて正直どうでもいいからな。これでも我ながら温情だと思うよ。

 さて、それでは最後に残ったスペード隊と偽ジョン・スミスにもいよいよ探りを入れるとしよう。

 これまでは生徒会長としてミドガル学園の生徒たちに穏便な対応をしてきたが、学園と無関係の大人しかいないスペード隊やシャドウ様の偽名を勝手に使う無礼者なんかに気を遣う必要はない。

 調査の結果、ミツゴシ商会に害をなす存在だと判明するようなら……消えてもらおう。

 

          ◯

 

 少し前にナツメイトが主催する同人誌即売会で販売されたとある薄い本を発端としてディアボロス教団フェンリル派から大量の人員が離反した。

 フェンリルを見限った者たちのうち優秀な者は他のラウンズの派閥に受け入れられたが、セカンド以下のほぼ全員と一部のファーストとひとりのネームドは派閥替えに失敗した。

 このネームドなのにひとりだけ不要な人材と見なされた男……自称『風読み』、通称『背面撃ち』のウラギールは裏切りと手柄の奪取を繰り返して成り上がってきたクズだ。

 仮にもネームドになれる最低限の武力はあったので、部下が自ら『暗黒微笑』などというクソダサネームを名乗っても止めてやらないほど部下に無関心なフェンリルだけはその在り方を許容してきたが、他のラウンズはそうではない。ウラギールは教団のあらゆる派閥に門前払いされ、顔を見せたら殺されかねないので裏切ったフェンリル派に戻ることもできなかった。

 それでも一応はネームドだ。旗頭になれるだけの格はあった。

 他の不要と見なされた無能連中が集まって来たおかげでそれなりの人員を確保できたウラギールは再起のための作戦を立てた。

 その作戦こそが、かつてラウンズ候補のひとりだった『剣鬼』月丹が失敗したミツゴシ潰しであった。

 成功していれば月丹はラウンズに昇格していたと噂に聞いたので、代わりに成し遂げれば自分はあらゆるラウンズの派閥から引く手あまた、いやいっそ自分がラウンズになってしまうかもしれない困ったな〜と皮算用で浮かれていたウラギール。

 月丹の作戦に巻き込まれて崩壊した大商会連合の残党を言葉巧みに引き込み、ダマシテ・ボッタクルの息子オドシテ・ボッタクルを偽ジョン・スミスとして矢面に立たせて自らはスペード隊代表のユダブルータスとして隠れ潜み、いつでも逃げられる状態でミツゴシ十字団を作り上げた。

 作戦の決行予定日はクリスマス。ハロウィンのようにミツゴシ商会が盛大なイベントを行う日だ。それまでにミツゴシ顧客のバカな学生を勧誘して人員を増やし、イベント当日に薬を使って暴徒化させたミツゴシ十字団員を街中で暴れさせることでミツゴシの評判を地に落とす手筈であった。

 実際は勝手にミツゴシの名を使っているだけで無関係とはいえ、民衆は単純だ。ミツゴシ十字団を名乗る連中が暴れました。メンバーはミツゴシの顧客です。その2つの事実さえあれば民衆を扇動してミツゴシ商会を攻撃させるのは難しくない。上手くやればミツゴシ商会の会長をテロリストの親玉として死刑台送りにできる可能性すらある。

 

「何がミツゴシだバカバカしい! ドミネ・クオ・ヴァディス(どこへ行かれるのですか?)!  ミツゴシは磔刑だーッ!」

 

 十字団の名もそんな意図から付けたものだ。

 そんなウラギールは現在……自分が磔刑を受けていた。

 隣にはボッタクル親子も磔で並べられている。

 

「ミツゴシ! はいみんなちゅーもーく! 今からこいつらの悪巧みを公開するからよく聞いとけー!」

 

 スペード隊『30枚の聖教銀貨』を強襲して壊滅させ、ウラギールたち3人だけ生かして他を皆殺しにしたのは、新入りのくせに数日でミツゴシ十字団内における地位を確立してのけたアテムだ。

 アテムはスペード隊以外の3隊にウラギールたちの正体と企みを明かした。

 純粋にミツゴシを愛している十字団の団員たちは烈火のごとく怒り狂い、ウラギールたちを処刑しろと拳を突き上げた。

 

「殺せ!」

 

「まだ殺さない! ミドガル王国の法は私的な殺人を禁じているからな!」

 

 お前さっき俺の部下皆殺しにしただろうがと喚くウラギール。

 そんなウラギールの顔面を殴りつけて黙らせ、アテムは大きな声で呼びかける。

 

「こいつらの正体が明らかになった今、私の立場も明かさなければ不公平だろう! だから今明かそう!」

 

 アテムが仮面を投げ捨てる。そのピンク髪メカクレチビが誰なのかミドガル学園の生徒で知らない者はいない。

 

「うぇえ!? 生徒会長!?」

 

 アテムにしつこくおねだりを繰り返したカナデがやべっと言わんばかりに叫んだ。

 シタラ会長は無闇に暴力を振るう人ではないが、それでもやる時はやるし、いざやるとなると圧倒的な暴力の嵐が吹き荒れることで有名だ。

 私の正体バレていませんようにとカナデは祈った。

 もうバレてる。

 

「いかにも私はミドガル学園生徒会長シタラ・アラヴァ! 腕利きの魔剣士としてミツゴシ商会のルーナ会長に認知されていた私は彼女から怪しい団体の調査依頼を受けた!」

 

 アテム改めシタラが調査報告書を掲げてみせる。

 

「こいつらの企みは既にルーナ会長に報告済みだ! こいつらは生かしたままミツゴシ商会に引き渡し、その後の処分はミツゴシ法務部が担当することになった! 細々と生き残っていた大商会連合の関連団体は完全に解体され、ユダブルータスとボッタクル親子はテロの主犯として斬首となるだろう!」

 

 基本的にミドガル王国の法律関係は教団の支配下にあるため、教団関係者を法廷に突き出したところで意味はない。

 しかしウラギールたちは教団から見限られていることがシタラの調査で判明しているので、ここはしっかり公の場で裁きを与えて、裏社会のみならず表社会にもミツゴシに弓を引く愚かしさを知らしめてやる方針となった。

 

「ひぃい!? まさか私も逮捕!?」

 

 カナデの悲鳴を聞いて他の団員たちも罪に問われるのではないかと思い始めたのだろう。逃げようとする者たちが出口に殺到した。

 そんな彼らの足を止めさせたのは、彼らに先んじて外側から扉を開け放った強烈な芸能人オーラを放つ兎獣人だ。

 

「ぱやっ! と登場! ミツゴシ商会公式インフルエンサー! ノウェ」

 

「うわああぁぁぁノウェム・シルワ本物ぉぉぉおお!」

 

「ぱやっ!?」

 

 ノウェムの登場に大興奮して奇声をあげたクリスティーナ。

 他の連中がクリスティーナにびびって足を止めた隙にノウェムが率いてきたミツゴシ法務部の人員が突入して手早く磔の3人を十字架ごと回収して去っていった。

 

「えっ? えっ? 私たちは無視? じゃあ無罪放免ってこと!?」

 

 なんだよびびらせんなよ〜とカナデが小声で悪態をつくが、警戒のため魔力で聴力を強化しているシタラには普通に聞こえた。

 

「その辺の話をするためにミツゴシからあのノウェム・シルワ氏が来てくださったのだ!」

 

「ぎゃー聞こえてた!? 嘘です嘘嘘今の嘘!」

 

 いい加減にうるさいのでシタラはカナデを無視した。

 

「総員、整列のち敬礼!」

 

 シタラの指示でミツゴシ十字団員が整列し、声を揃えて「ミツゴシ!」とノウェムに挨拶した。

 

「うわっ……はっちゃん変な芸仕込んだねぇ」

 

 ノウェムが小声で呟くと、シタラは耳の良いノウェムだけに聞こえる声量で「私の仕込みじゃないです」と返答した。

 それからノウェムがルーナ会長からの通達と称してミツゴシ十字団の今後の扱いを説明する。

 

「今ここにいるみんなに悪意がないことはシタラちゃんの報告で把握済み! だからあとは穏便に解散してもらおうって思ってたんだけど……みんなの活動はミツゴシ的にありよりのありじゃね? ということで幹部会議で検討した結果……」

 

 ノウェムが言葉を溜めている間、シタラが事前に用意しておいたドラムセットで「ドゥルルルルル……ジャン!」と効果音をつけた。

 

「ミツゴシ公式ファンクラブの発足がぱやっと決定しちゃいました〜!」

 

「つまり私たちは十字団からファンクラブに名前だけ変えてこれまで通りの活動ができるというわけだ! ルーナ会長の温情に感謝しろ!」

 

 しかも会員費は無料だ。

 

「ちなみに会員限定で機関紙の販売も決定したから、みんな買ってね!」

 

 その代わりに無料のチラシに載っている程度の情報を纏めただけの機関紙を高値で売りつける。会員費無料で人を集めて機関紙など他の手段で集金するというわけだ。これもまた陰の叡智の一端である。

 

「それでは新生ミツゴシファンクラブ! 今回の集会はこれでおしまいだ! ミツゴシ!」

 

「ミツゴシ!」

 

          ◯

 

 しつこく居座ろうとしたノウェムファンたちを追い出したアテムことシタラこと8番(シータ)は、シャドウガーデンのナンバーズがひとり、ノウェム・シルワことイオタと仕事終わりの気楽なおしゃべりを始めた。

 

「はっちゃんおつ〜!」

 

「お疲れ様でしたイオタ様」

 

「もー! はっちゃんってば普通に話しなって! あたしとはっちゃんの仲っしょ!」

 

 イオタの偽名『ノウェム』はシャドウの前世に存在するとある言語において『9番』を意味する。

 つまりそういうことだ。

 

「いえ私は全構成員の模範なんで……」

 

 一般構成員たる者ナンバーズ以上の者には常に敬意を払って接するべし。最古参の8番がその原則を破っては後輩たちに示しがつかないのだ。

 だから8番は自分もナンバーズであるというのに他のナンバーズたちに対してへりくだった態度を徹底している。心の中でもしっかり様付けだ。

 

「今ここあたしたちしかいないしタメ語でオッケー! それでもありよりのなしって言うならナンバーズとして命令しちゃう!」

 

「……命令なら仕方ないね。改めて、こんなことのために遠くから来てくれてありがとうイオタちゃん」

 

「いいっていいって〜! 久しぶりにガンマちゃんにも会えたし!」

 

 イオタは七陰の中でも特にガンマと仲良しだ。そのせいで何度も『ガンマちゃん』呼びして怒られている。

 それから8番とイオタは少しだけお互いの近況報告をしてすぐ別れることになった。イオタはミドガル王国ではなく別の国における任務を担当していて、ナンバーズとして忙しい彼女はあまり長居できないのだ。

 

「じゃーねはっちゃん! 会えて嬉しかったよ!」

 

「私もだよ。あ、そうそうこれ前にも言ったけど……」

 

 別れ際、8番はにっこり笑ってイオタに忠告する。

 

「アルファ様にだけはナメた態度取るんじゃねぇぞ?」

 

 耳と尻尾の毛を逆立てたイオタは頭を激しく縦に振った。

 この後、帰り道でミツゴシ本店に寄ったイオタはガンマを問いただした。

 

「前にナンバーズみんなでシータちゃんに挑んだことあったっしょ? あん時感じた威圧感とはっちゃんがアルファ様関連で注意してくる時の威圧感が全く同じだったんだよね〜。気付いた時ぱやっとびびったわ〜。……で、実際のとこ、どうなん?」

 

 こうしてイオタはラムダやニューと同様にシータの正体を知る者のひとりとなった。




超古参のイオタはなんとなく察していましたので正体を知ってもそんなに驚きません。

ちなみにファンクラブ機関紙は意外とちゃんとしているので普通に好評です。
全てのチラシの情報が漏れなく載っていて、イオタが情報番組で伝えている内容も文章化されています。
日刊で2百ゼニー、定期購読なら月額6千ゼニーなので31日まである月は少しお得になります。

なおミツゴシから公式に認められた影響で今後ファンクラブは急激に拡大します。
十字団時代の序列などは受け継いでいませんが、挨拶だけはそのまま定着しました。
ミツゴシ!
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