シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

58 / 72
第6章 お☆遊☆戯☆王 シータ編
第55話 もう始まってる(新学期)! 分裂してるから安心!


 オリアナに行った私が戻らないままミドガル学園の新学期が始まってしまった。

 シド様が戻ってきてるのに私は何やってるんだ?

 なんかアルファニウムを補充したわけでもないのにぐっすり寝ただけでストレスが吹き飛んだからもうしばらくは大丈夫だけど……早く戻ってきて欲しい。

 もしくはさっさと死んでアルファ様の手編みマフラーだけ私に返して欲しい。

 近頃は私がマフラーを持ち出す場合は必ずズルムケとトモダチを連れ歩くようにしている。私が死んだ時はトモダチが自己判断でボールから出てズルムケに転移を指示して死体と所持品を回収してくれる手筈になっているのだ。

 しかし残念ながら早く死ね私と願ってもマフラーが転移してくることはなく、私は泣く泣くスライムで作った制服とマフラーを身に纏って始業式に出た。

 初日は始業式だけで授業はなく、お昼前に解散となった。

 その後生徒会長としての業務を手早く済ませた私はシド様に報告することがあって男子寮に忍び込んだ。

 

「報告いたします。シド様ご不在の冬休み中にディアボロス教団の手で学園の生徒が4人誘拐されました。生存の可能性は低いかと」

 

「そうか……ヒョロとジャガにはもう会えないのか。……まあいいか」

 

「あっ、そいつらは違います。借金で首が回らなくなってミツゴシマグロ漁船送りになりました」

 

「存分にこき使ってやってくれ」

 

「はい」

 

 それから軽くトランプで遊びながら細々とした報告を済ました私は部屋の窓から抜け出そうとして、そこに隠れていたゼータ様を見つけた。正確には見つけたというかゼータ様から声をかけていただいた。

 

「例の件は引き継ぐ。呼ぶまで待機してて」

 

「了解しました」

 

 待機命令を受けた私は女子寮に戻り、そこで久しぶりにクレアお姉様に遭遇した。

 

「あらシタラじゃない。久しぶり」

 

 ブシン祭優勝者として色んなとこから引っ張りだこだったお姉様も、アレクシアに生徒会長業務を押し付けられた私も、何かと忙しくて秋頃から会う機会がなかったのだ。

 

「お久しぶりですお姉様」

 

「あんたシドが冬休み中どこ行ってたか知ってる?」

 

 お姉様に肩をがっしり掴まれた。

 

「まさかあんたと2人きりで旅行行ってたとかじゃないでしょうね!? それであんなことやこんなことを……シドにはまだ早いわよ!?」

 

 お姉様の指が肩に食い込んできた。痛い。

 口を開けばシド様のことばかり。『災厄の魔女』アウロラこと『魔人』ディアボロスに取り憑かれた可能性があると聞いていたが特にお変わりないようで安心した。オリヴィエが見える私にもアウロラが見えないということは我々の懸念ははずれていたのだろう。良かった。

 

「ご安心ください。私も冬休み中はシド様と会えていません。生徒会長のお仕事や魔剣士としてのお仕事で忙しかったので」

 

「ふーん、ならいいわ」

 

 お姉様が私からぱっと手を放した。

 

「とりあえず今なら間違いなく寮にいるわよね」

 

「そうですね。さっき挨拶してきました」

 

「ずるい! 私なんてまだ声も聞いてないのに!」

 

 またお姉様のアイアンクローを食らう前に私は一筆したためた。

 

「生徒会長権限で男子寮に入る許可を出しておきますね」

 

「シタラあんたいい子ね」

 

 私から許可書を奪い取ったお姉様は駆け足で自室に戻って行った。何かシド様に渡すものがあって、それを取りに行ったらしい。帰省のお土産とかかな?

 冬休み明け初日はこんな感じで何事もなく終わった。

 

          ◯

 

 ごめん私が気付けなかっただけで何事もあったわ。

 新学期2日目、寮で提供される朝食の席にクレアお姉様が現れなかった。

 これは間違いなくディアボロス教団に誘拐されてしまったのだろう。

 まあああああ!

 まああああああああああ!

 カゲノー家関係者のピンチ見落としちゃった!

 シド様から全然任務を与えられていない現状だと学園における数少ない役割のひとつがお姉様の護衛なのに……みすみす誘拐されちゃったら私がここにいる価値なくなっちゃう!

 アルファ様に失望されちゃうのいやあああああ!

 

「どうかした?」

 

「はい! クレアさまが教団に連れ去られた可能性があります!」

 

「あ、それもう私が探してるから。シータは大人しく学生しててくれる?」

 

「あっ、はい」

 

「クレア様なら大丈夫だから、ね?」

 

 私はめっちゃ動揺してしまったがゼータ様は至って冷静だった。

 ゼータ様のお言葉でどうにか落ち着いた私は大人しく授業に出ることにした。

 

「シタラちょっと来なさい」

 

 教室に向かう途中でアレクシアに捕まってクレアお姉様の行方不明について尋問された。

 とりあえずシャドウガーデンは関与してないことと、冬休み中の行方不明者も含めてほぼ確実に教団の犯行で現在ガーデンの諜報部が行方を追っていることだけは丁寧に説明してあげた。

 

「そう……じゃあ次はオリアナの件よ。誰も見つけられなかったローズ先輩が突然表舞台に姿を見せたかと思ったら、そのままオリアナ王国の女王になったわ。そうなるように誘導したのはあんたたちよね?」

 

「たぶんそう」

 

「たぶんて何よはっきりしなさい」

 

「だって今ここにいる私はオリアナの作戦に参加してないんだもん」

 

「ちっ……これだから下っ端は。さっさと昇進して私にもっといい情報流しなさい」

 

「裏切り者として粛清待ったなしだよねそれ」

 

「既に漏らしてんだから今更じゃない。小も大も変わんないわよ」

 

「変わるよ大違いだよ!」

 

 同人界隈でもお漏らしして恥じらう女の子の需要は割とあるが、スカトロまで行くと一部の特殊性癖の人にしか受けないのだ。

 実際女体化フェンリルのそういう薄い本はあんまり売れなかった。全く売れなかったわけじゃない辺り闇が深いなって。

 

「ミドガル王国の諜報部が掴んだ情報は『ドエス・ムチウッチがローズ・オリアナに成り代わった』とか『軍師サディ・ス・トーが邪法で不死の軍勢を作り出した』とかわけのわからないものばかりなのよ。これもきっと奴らが諜報部に入り込んでいるせいだと思うわ」

 

 なるほど確かにわけわからん。ミドガル王国の諜報部はディアボロス教団によって骨抜きにされているようだ。

 

「……情けないけどこの国はこんな有様だから、私が正確な情報を知るにはあんたに頼るしかないの。お願い、ローズ先輩のことが心配なのよ」

 

 どうやらアレクシアは口実としてローズを使っているのではなく、本心から案じているようだ。

 

「……わかった。機密は漏らせないけど、ローズ先輩の状況だけなら。近いうちに諜報部の人に聞いてくるから待ってて」

 

 そんな約束をしてしまった私はあちこち探し回った末に夜になってようやくゼータ様を見つけたのだけれども、見つけた時の状況が最悪だった。

 現在、ゼータ様は男子寮の裏庭でデルタ様と殺し合いの真っ最中だ。

 

「バカ犬!」

 

「メス猫!」

 

 このような事態は別に珍しくない。デルタ様とゼータ様を近くに置いておくと些細な切っ掛けですぐにこうなるのだ。

 見物してるシド様によると今回の発端はデルタ様がゼータ様の魚を盗み食いしたせいらしい。

 シド様は涼しい顔で余波を回避しているが私ではそうはいかない。

 

「うひぃっ!?」

 

 ちょうど今ゼータ様の血の刃が私の頬を掠めた。

 本来なら私が狙われてるわけではないので逃げてしまえば安全だ。

 しかしデルタ様とゼータ様の喧嘩は確実にゼータ様が逃走して終わるので、ゼータ様に聞くことがある私にその選択肢はない。

 

「ゼータさまー! ちょっと聞きたいことあるんで一瞬だけ戦闘中断してくださーい!」

 

「ならシータがバカ犬始末してよ」

 

「シータも敵なのです? じゃあメス猫ごとぶっ殺すのです!」

 

 デルタ様がスライムで大きくぶ厚く重くそして大雑把すぎる『メスネコころし』を作り出した。

 

「それは駄目ですってデルタ様! この位置だと学園が余波で消し飛んじゃいますから!」

 

「デルタはがっこー行ってないからどうでもいいのです!」

 

 駄目だデルタ様あいかわらず話通じない。

 そうだシド様!

 あなた様の通う学園が消滅の危機です!

 どうか止めてくださいシド様!

 私は期待を込めてシド様の方を見た。

 

「がんばれー」

 

 シド様は笑顔で手を振っていた。

 いや全然笑い事じゃないんですけど!?

 

「おっと。これはまずい。じゃ、後よろしく」

 

 ゼータ様が逃げた!

 

「あっ……」

 

 標的のゼータ様が既にいないにもかかわらず、デルタ様によって振り下ろされた『メスネコころし』が間近に迫っていた。

 終わった。

 私は死んでも復活するが、アレクシアやニーナ先輩といった私の友人、クリスティーナやカナデといったミツゴシファンクラブのおもしれー連中、そして何より学園付近にあるはずのフェンリル派の拠点に連れ去られたクレアお姉様は永遠に失われてしまう。

 見ず知らずの人が巻き添えになっても何も感じないが見知った顔が消えてしまうのは悲しいし、クレアお姉様を死なせてしまうと私の価値(朝同じこと言ったので省略)。

 

「まだだ私! 諦めたらそこで人生終了だぞ!」

 

 そんな窮地に駆けつけて私を励ましてくれたのは、なんとズルムケが作ったワープゲートから出てきたもうひとりの私だった。

 うわっ……なんか目元に沢山泣いた痕がある。

 しかもリカバリーで傷は治したんだろうけど疲労は治せないせいか見るからにくたびれてる。

 さっさと死んでマフラー寄越せとか思ってごめんよ私。

 オリアナの任務がそんなに過酷だったなんて知らなかったんだ。

 ワープですぐ戻れるのに新学期に遅れたってことはシド様が去ってからも後始末を頑張ってたんだね。ほんとごめん。

 

「超重力砲〈アルペジオ〉!」

 

 もうひとりの私が放った超重力砲がデルタ様の一撃と拮抗する。

 超重力砲はスライムカッターと双璧をなす私の奥義なのに、デルタ様は通常攻撃で同じ威力出すのかぁ……ちょっと傷付く。

 なにはともあれ私が作ってくれた好機は逃せない。

 私は下方向への力がゼロになった『メスネコころし』に重力操作を行って上向きの力を付与した。真上に落ちていったメスネコころしはあっという間に見えなくなった。

 

「あー! 飛んでっちゃった!」

 

 デルタ様は吹き飛ぶ前に剣を手放したようでその場に残っているが、武器さえ奪えれば問題ない。

 

「デルタ様! ゼータ様もう逃げちゃいましたよ!」

 

 私に指摘されたデルタ様が鼻をひくひく動かしながら周囲を探る。

 

「ほんとだ! 逃げるなメス猫ォォォォォオオオオオ!」

 

 デルタ様は武器の喪失を全く気にすることなくゼータ様を追って走り去った。

 なんと!

 私は!

 あのデルタ様を正面から退けたのだ!

 2人で力を合わせた時、不可能は可能となった。

 シド様の拍手が鳴り響く中、私は私と手のひら同士を打ち合わせた。

 

          ◯

 

「……ん?」

 

 勝利の余韻に浸るシータたちを微笑ましく思いながら眺めていたシドは、ふと上空から何かが接近していることに気付いて空を見上げた。

 魔力で強化した超視力が捉えたものは、先程打ち上げられた『メスネコころし』だった。

 

「やば……」

 

 シドは全力でその場から退避した。

 その直後、デルタの魔力に加えて重力加速度をふんだんに蓄えた『メスネコころし』はシータたちに着弾した。

 

「ぴぎゅっ」

 

 直撃した方のシータがぺちゃっと潰れた。即死だ。ミンチよりひでぇよ。

 後から来たシータだけが左手の薬指に指輪があった。地面の染みに指輪の残骸が混じっていないのを見るに犠牲者は最初にいた方のシータらしい。

 

「あああああ私いいいいいい!?」

 

 さらに生き残った方も着弾の衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

「あちゃー」

 

 大きな音を立てたせいか男子寮で寝ていた学生たちが目を覚ましたらしい。魔力で強化したシドの耳は学生たちの喧騒を聞き取った。

 しかも既に学園の警備兵たちがすぐ近くまで来ているようだ。声を聞くになぜかアレクシアもいる。

 その後シータの死体を持ち去られないようその場に残ったシドは、暇潰しにシャドウの姿になって意味のない意味深なことを呟いてみたり、ネームドキャラのアレクシアを除くモブ野次馬を瞬時に気絶させて実力者アピールしてみたりした。

 

「ひゅっ……ひゅっ……え? なにごと?」

 

 しばらくすると吹き飛んだ方のシータが這いずって戻ってきた。

 シドがシャドウの姿になっていたり、アレクシアがいたり、男子生徒や警備兵たちが多数倒れていたりと、少し見ていなかっただけで状況に変化があり過ぎてシータは目を白黒させた。

 

「シタラ!?」

 

 重傷のシータを見つけたアレクシアが駆け寄った。

 

「こんな酷い怪我……ここでいったい何が」

 

「いや単なる内輪のケ」

 

「迫りし禁忌の代償は天より来たる裁きの礫」

 

 訳……他人の喧嘩に首突っ込んだ結果、真上に吹き飛ばした剣が落ちてきてそれにやられたよ。

 

「まさか……私がオリアナのことを探らせたせいで制裁を受けたというの!?」

 

「いやちが」

 

「覚醒の刻は未だ遠く……陰は深淵なる闇に伏すのみ……」

 

 訳……まだ起きるには早い時間だし、僕部屋に戻って寝るね。

 

「覚醒? 深淵なる闇? あなたは何を知っているの!?」

 

 アレクシアを無視してシャドウは姿を消した。

 後に残されたシータはアレクシアがシャドウを探している隙に地面とほとんど区別がつかない自分の死体を吸収した。

 

「じゃ、私ももう行くね」

 

 アレクシアが相手でも知られていない自分の手札を晒したくないシータは部屋に戻ってからリカバリーするつもりだった。

 

「待って!」

 

「きゅっ!?」

 

 アレクシアにマフラーを引っ張られて首が絞まり、圧迫箇所が悪かったのかシータは気絶して派手にすっ転んだ。

 本来なら数秒で目覚める程度の気絶だったが、さらに頭の打ち所が悪かったために昏倒、怪我がリカバリーされないまま放置されているので時を追うごとに容態が悪くなっていく。

 ちなみに今は泡を吹いて痙攣してるよ。

 

「ち、違……私そんなつもりじゃ……」

 

 アレクシアは大急ぎで騎士団の救援を呼ぼうと思ったが、よく考えると騎士団には大量の教団員が紛れ込んでいる。

 気絶したシタラを預けたらそのまま行方不明になるかもしれないと考えたアレクシアはシタラを自分の部屋に運んで介抱した。応急処置しかできなかったが恵まれた魔力量のせいか自力でどんどん回復しているので、おそらく1日寝ていれば復活するだろう。

 それからシタラが翌日の授業を休めるようにと手続きをしたアレクシアは欠席の理由を問われて、まさかシタラとシャドウガーデンの繋がりを明かすわけにもいかず、ついこんな嘘をついてしまった。

 

「シタラは学園に侵入しようとしたシャドウと戦ったのよ! それでどうにか撃退したけど無傷じゃ済まなかったわ! 嘘だと思うなら男子寮の裏庭を見てきなさい!」

 

 教員が男子寮の裏庭を確認すると実際に激しい戦闘の痕跡が残っていたこと。

 気絶させられた複数の警備兵が確かにシャドウを目撃していたこと。

 ブシン祭でシャドウが現れた時はアイリス・ミドガルと『武神』ベアトリクスによって撃退されたとミドガル王国が世間に嘘の発表をしていたためにシャドウの実力が過小評価されていたこと。

 教師半殺し事件などでシタラの強さが知れ渡っていたこと。

 以上の要素が重なった結果アレクシアの嘘はすんなり信じられ、翌日のミドガル学園はその話で持ちきりだった。

 こうしてまた、新学期早々生徒会長シタラ・アラヴァの伝説に新たな1ページが追加された。




後日、音もなくシータの背後に立ったゼータ。

「ねえシータ、学園で変な噂が流れてるんだけど。私が去った後で主に剣を向けたんだって?」

もちろんゼータは噂の出所も真相も把握している。
その上でシータを弄りに来たのだ。

「ひいぃっ!? そんなことしてないです! アルファ様に誓って!」

「そこは誓う相手が違うよね?」

「アルファ様とシャドウ様に誓って! 私がシャドウガーデンを裏切るようなことは決して! 絶対に! ありえません!」

「そう…………………………残念だよ」

「えっ?」

シータが振り返ると、既にゼータはいなくなっていた。

「……残念?」

ゼータが言ったその言葉について考えたシータは「あちゃー……シャドウ様ガチ恋勢のゼータ様の前で露骨にシャドウ様とアルファ様の名前だけを並べたのはまずかったかー」と結論付けて、それ以上ゼータの真意を探ろうとはしなかった。




















「どうでしたか?」

「やっぱりシータとは戦うことになりそう……早くアレを習得しないとだね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。