シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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フェンリル(くっ、右腕が痺れる……聖域が再現したリリの治療では不完全だったか? ええい邪魔だ赤いの視界を塞ぐんな! アウロラもどきとフレイヤもどきが手を組むな敵同士だろうが! しかも見えないがもう1体いる! 凄まじく強い何かが!)

シド(テロリスト頑張れ! このままじゃ僕の出番がなくなる!)

その後クレアとアレクシアは魔力残量が100を下回って戦闘継続不可能となり、シド君は無事にやりたいことをやれました。オリヴィエは彼に任せられそうだったので静観していました。



第58話 ワイルドチャレンジャー!(前編)

 ヌルの姿はヌルが自ら見せようとしていなければアウロラやフレイヤのような高位の亡霊に憑かれた者だけが観測できる。

 その隠蔽性能は世界最高と言っても過言ではなく、シャドウガーデンでもシャドウに次いで他者の視線に敏感であろうゼータですらも見つけることは不可能だ。

 シャドウに永遠の命を。

 そのために魔人ディアボロスの復活を。

 そんなことを企んで陰で動くゼータの姿を偶然目撃してしまったヌルはシータに陰の実力者ムーブをさせるための計画を思いついた。

 密かに組織を裏切る幹部……を抹殺する陰の処刑人。陰の実力者的にポイント高い!

 シータにゼータを抹殺させる完璧なシチュエーションを求めたヌルはここしばらくずっとゼータをストーキングしていた。

 そしてシャドウの手でフェンリルが討たれたのを確認したゼータとその仲間たちがいよいよ裏切りを実行するという段階でヌルはシータを呼び出した。

 これでシータが到着する頃にはちょうどゼータがディアボロスの右腕の封印を解除しているはず。

 アルファを裏切ったかつての仲間にぶち切れるシータ。

 戸惑いながらも応戦するゼータとウィクトーリアと知らない人。

 そして陰の実力者であり陰の処刑人でもあるシータはスタイリッシュに裏切り者を葬るのだ!

 そんな展開を妄想してうきうきしていたヌルの期待は裏切られた。

 誤算はフェンリルが弱過ぎたこと。

 あるいは亡霊3人組の助力が強過ぎたことだ。

 ゼータたちはディアボロスの右腕の封印を解除するにあたってクレアの身柄を必要としていた。

 本来の計画ならすぐにでもクレアたちを気絶させて封印解除を行う予定だったのだが……ラウンズであるフェンリルを相手に善戦、それどころか爆弾首輪がなければ勝っていたかもしれないクレアたちの未知の力は警戒せざるを得ない。

 計画は修正され、クレアの身柄は夜になって寝ているところをゼータが攫うことになった。

 つまり現在ゼータたちはまだ何もやっておらず、間の悪いシータはそこに顔を出してしまったのである。

 

「ゼータ様!」

 

「えっ……シータ!?」

 

「なぜお前がここに!?」

 

 後ろめたいことがあるゼータとウィクトーリアは動揺を隠しきれない。

 ちなみにさっきまでゼータの仲間はもうひとりいたが、彼女はクレアたちの護衛兼監視としてこの場を離れている。

 

「なんでって、そりゃ……」

 

 シータはなんか汗をだらだら流しているヌルを視界に入れてふと気付いた。

 ヌルの姿はゼータたちから見えていなかったはずで、ゼータが困っていることをヌルが伝えてくれたと説明しても話がややこしくなるだろう。

 

「クレア様たちの安否確認に来たんだよ。それが終わった後で偶然お前とゼータ様の魔力を感知したから何か手伝うことないかなーって」

 

「ない! 帰れ!」

 

「なんだと! 決めるのはお前じゃないだろ559番!」

 

 ウィクトーリアと言い合いになってもシータは身を引かない。ヌルの嘘でゼータが自分の力を必要としていると思い込んでいるからだ。

 

「ゼータ様はこれからこの場所の調査をなさるのでしょう? お手伝いいたします。そこの元聖女よりは役に立てると思いますよ」

 

「貴様……!」

 

 いまにも飛び掛かりそうなウィクトーリアの前にゼータがすっと手を出して制止する。

 ゼータは自分たちが窮地にいると認識している。

 シータは優秀だがゼータの本気の隠蔽を看破できるほどの魔力感知能力はない。なんならだいぶ鈍い方なのだがシータは咄嗟の嘘でそのことを考慮し忘れたのだ。

 つまりシータは偶然ではなく意図してこの場に来たのだ。

 ではその意図とは……?

 決まっている。ゼータたちの裏切りを察して探りを入れるつもりだ。

 アルファに対する裏切りを確信していれば容赦なく殺しにくるはずなので決定的な証拠は掴まれていないのだろう。

 そうなっていないのであれば現状は怪しんでいる段階ということ。

 シータと戦う準備はまだ整っていない。

 今は何としても誤魔化さなければ。

 そんな無用な心配で慎重に言葉を選びながらゼータはシータに嘘をつく。

 

「ちょうど良かったよ。シータに倒してほしい敵がいるんだ」

 

 どんな敵かシータは聞こうとしない。

 七陰の命令は絶対だ。

 倒せと言われたら道連れにしてでも倒すのみ。

 

「お任せを」

 

「ん。来て」

 

 ゼータはシータを連れてディアボロスの右腕が封印された空間に通じる巨大な扉の前に立ち、そこに置かれた制御装置に触れた。

 フェンリル亡き今、既に制御装置はゼータが掌握済み。防衛機能は全て停止させていた。

 それを今、再び稼働させた。

 ちなみにシータはゼータが何をしているのか間近で見ても理解できずにいる。シータの頭脳は獣人の平均値より上、エルフの平均値より下……つまりそんなに頭が良くない。ゼータはそのことを知っているので目の前で堂々と敵を作り出すことができた。

 

「来るよ」

 

「わっ!?」

 

 現れたのは『獣人の英雄』リリ。

 シータの首に叩き込まれたリリの鋭爪は長きに渡るシータの体液漬けで特級のアーティファクトに似た何かへと変質したアルファの手編みマフラーによって阻まれ、シータの首を断つことなくへし折るに留めて彼女を吹き飛ばした。

 

「てめぇぇぇぇぇ! 何してんだぁぁぁぁぁ! マフラー破れたらどうすんだぁぁぁぁぁ!」

 

 これで死ぬなら話は早いが、もはやシータは首の骨が折れた程度なら瞬時にリカバリーしてしまう。

 さて、ここからどうやってシータを追い返そうか……ゼータが考えを纏める間もなくマフラーに攻撃されて怒り狂ったシータは初手で切り札を使おうとした。

 

「もう許さねぇからな……永遠にアルファ様の奴隷にしてこき使ってやる! ゼータ様離れてください!」

 

 シータが両手でハートの形を作る。

 

「聖」

 

 シータが使おうとしている技は聖域展開『好き好き大好きアルファ様ワールド』だ。

 ゼータはそれが名前は間抜けだが非常に恐ろしい結果をもたらす文字通りの必殺技であると知っている。

 

「域」

 

 ゼータは七陰の権限で聞き出したのでシータの聖域展開の詳細を把握している。

 シータの聖域に入ったからといって死ぬわけではない。

 ただ思考がシータと同じに……すなわちアルファのことが好きで好きでたまらなくなる。

 その効力は知性が人に近い生物ほど強く適用される。

 魔獣のように知能が低いもの、亡霊のように自意識が希薄なもの、あるいは人の形をしていても精神構造が人と異なるゼニゴルドのようなものであればアルファにめちゃくちゃ懐いたペットになる程度で済む。

 だが普通の人類やズルムケのように限りなく人に近い知性を持つものが一度でもシータの聖域に囚われてしまえば、その後は永遠にアルファのことしか考えられない愛の傀儡と成り果ててしまう。

 

「展」

 

 目の前で標的にされているリリの場合はどうなる?

 見た限りでは亡霊らしく自意識が希薄に思える。

 でも、もしかしたらベガルタの遺跡で遭遇したオリヴィエのように本来の意識が残っているかもしれない。

 防衛装置によって操られているのではなく、自分の意思でディアボロスの封印を守っているのかもしれない。

 千年も昔から、英雄として、民衆を守るために自分を犠牲にし続けているのかもしれない。

 そんな尊い存在がシータによって汚されてしまう。

 それをゼータは許容できなかった。

 無意識のうちにゼータの身体が動いていた。

 握り拳を顔の近くまで持ち上げて手首を曲げる、猫を模したその仕草。

 

「か……」

 

「聖域展開」

 

「えっ?」

 

 ゼータが発した単語に驚いたシータは自分の聖域の発動を止めた。

 そのせいでぶつけ合えばシータの聖域に押し負けていたはずのゼータの聖域が無事に発動されてしまう。

 聖域展開……『ディンガー・シュレーの箱入り娘々』!

 アルファの意に反して魔人を復活させようとしているゼータはいつかシータと敵として対峙する時が来ると分かっていた。

 だからシータの凶悪な聖域に対抗できるようにとゼータ派の全員が密かにそれを練習していた。

 あらゆる技能を瞬時に習得する『天賦』のゼータをもってしてもまだ不完全なそれは、ゼータ自身が目指した『聖域に取り込んだ相手の持つ全ての技能を持ち主以上の完成度で瞬時に習得する』能力が半端に発動して、ゼータのみならず聖域に入った全員の思考と能力を反映した何でもありの空間を作り出した。

 やり方は違えどもシャドウを頂点とした世界征服というデルタと同レベルの目標を掲げるゼータ。

 頭シャドウのウィクトーリア。聖域展開は現在練習中だが、おそらくシャドウの信者には恩恵を与えてシャドウを信仰しない罪人には罰を与える能力となる。

 頭アルファのシータ。聖域展開は他者をアルファ漬け洗脳して魔法の球体に封印する『好き好き大好きアルファ様ワールド』。

 頭陰の実力者のヌル。聖域展開は陰人形による陰の実力者ごっこを開演し、実力が低い者であれば思考汚染してごっこ遊びに巻き込む『†閉ザサレシ冥寥ノ箱庭<クル・ヌ・ギ・ア>†』。

 そして獣人の特性か本人の性質か、生前は実年齢に比べてかなり精神年齢が幼かったリリ。聖域展開とは名称が同じだが実態は異なる『英雄の聖域』を作り出して魔人ディアボロスの欠片を封じた史実がある。

 こんな5人の思考と能力をごちゃ混ぜにして作り出された世界がまともなはずもなく……外からは誰も観測できないゼータの聖域内で、これより彼女たちは盛大にハジケる。

 

          ◯

 

 先手を取ったのは8番、エーケーエー、最近は言うほど球体化してない『魔球』のシータ。

 違法マイクを片手にリリに攻撃をしかけた。

 

「千年間もの腕封印。王にはなれず、何も得ず。終いに終いにネコ子孫。ゼータという名のネコ子孫。彼女を守る為に死ぬ。実に空虚じゃないですか? 人生空虚じゃないですか?」

 

 火の玉を超えたマグマグストレートにメンタル実年齢未満のリリが涙目になる。

 唇を噛んでぷるぷる震えるリリに代わってシータに立ち向かったのは『金豹族最後の生き残り』リリム、エーケーエー、『天賦』のゼータ!

 

「乗るなゼータ戻れ!」

 

「ゼータ様!」

 

 ヌルとウィクトーリアの制止を無視して違法マイクを手にしたゼータが悠々とシータの近くに歩み寄る。

 何でもこなすゼータのラップはどれほどのものか……堂々と受けて立とうとしているシータの長いエルフ耳にマイクを近付けたゼータは、そのまま叫んだ。

 

「わーーーーーーーーーー!」

 

「ぎゃーーーーーーーーー!」

 

 ゼータはラッパーではない。

 そんな簡単なことに気付けなかったシータは大音量で頭がアッパラパーになりぶっ倒れた。

 

「悪は滅びた」

 

 やり遂げたゼータにみんなが笑顔で拍手を送る。

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「みんな……ありがとう!」

 

 デデーン!

 ゼータが笑顔を返したその瞬間、警報音が響いた。

 

「全員、アウトー」

 

 ミドガル学園の制服姿でシータと同じ顔をした五等分のシータたちがハリセンを片手に駆け込んでくる。

 

「にゃっ!?」

 

「きゃっ!」

 

「ううっ」

 

「ぺぎょえええええ!」

 

「アッーーーーーー!」

 

 パン。

 パパパパッパッパ。

 パン。

 パパパパッパッパ。

 パン。

 

「何が至教か!」

 

「何が至教か!」

 

「何が至教か!」

 

 パパンパパンパン!

 

「性教!」

 

 お尻の音色に誘われて、性教唯一神マラクレスとその屈強な配下である性教十三性者が虚空から生えてきた。

 

「貴様! よくもまた私の前に姿を見せてくれたな! 殺す!」

 

 正気に戻っているようで戻っていないウィクトーリアがスライムソードを振り回して突撃する。

 

「俺の『輝斑』、加速します」

 

 そして大業物『輝斑』を持つ幹部のひとりに神速の斬撃で止められた。

 ゼータが面白がって放置している間に性教はシャドウガーデンの力を持ってしても気軽には手を出せない巨大な組織へと変貌していた。

 十三性者と呼ばれる性教の最高幹部たち。

 その実力はディアボロス教団のラウンズと同格だ。

 

「戦らないか?」

 

「ちょっと刃ぁ当たんよ〜」

 

「おじさんのこと本気で滾らせちゃったねぇ」

 

「血溜まりに沈め!」

 

 世界の深淵に悪名を轟かせている、『悪兵鬼』、『魔獣先輩』、『迫害おじさん』、『水没天使』の異名を持つ4人の実力者が四方から同時にウィクトーリアへと襲いかかる。

 本物であれば女性を襲うことなどありえないのだが、今対面しているのは主にゼータが調査した情報から作られた虚像であり、実在の人物や団体とは無関係なのだ。

 

「や、殺られる……! シャドウ様!」

 

「ウィクトーリア!」

 

 助けようにもゼータ、シータ、リリはそれぞれ3人の十三性者に足止めされている。

 死を覚悟してぎゅっと目を閉じたウィクトーリア。

 しかしいつまで経っても痛みがないので恐る恐る目を開けると、そこには漆黒の後ろ姿があった。

 見間違えるはずもない、その装束はシャドウのスライムスーツだ。

 

「シャドウ様! また私を救ってくださったのですね!」

 

 倒れ伏す全裸の変態たちを踏み潰してウィクトーリアはシャドウに飛びついた。

 優しく抱きとめられたウィクトーリアは逞しい胸板に頬ずりしてから上目遣いでシャドウの超絶かっこいい顔を鑑賞しようとした。

 そこにあったのは謎の犬もどきの顔だった。

 

「誰だ貴様は!」

 

「もっ!?」

 

 殴り飛ばされたヌルがぽんと音を立てて煙に包まれ、普段の姿に戻る。

 

「前が見えない……」

 

 顔面が奥深くめり込んだヌルは適当にふらふらと浮遊して、マラクレスに接近した。

 ハエのように飛ぶ変な奴をむんずっと鷲掴みにしたマラクレスは重々しい雰囲気で問いかける。

 

「ドゥー・ユー・ハブ・ア・ナイスアス?(あなたはナイスアスですか?)」

 

「ノー。アイ・アム……アトミック(いいえ。私はアトミックです)」

 

 青紫の魔力が爆発して、至近距離にいたマラクレスが瞬時に蒸発する。

 

「爆発オチなんてサイテー!」

 

 叫ぶシータを先頭に他の全員が必死に逃げる。

 

「みなさんこんばんは。ジョン・スミスです。ユキ娘レース、アトミック賞を見ていきましょう。解説はプリティスケート創始者ボンオドリさんです」

 

「よろしくお願いします」

 

「さあ各ユキ娘いっせいにスタートしました。先頭は8番ヴィルシータ、その背後に559番ウィクトーリアが続きます。その次ゴーゴーゼータ、そしてリリノーブル。最後尾のアトミックファイアを除いた全員が鬼気迫る表情ですが、これは?」

 

「足を止めたら死ぬからでしょうね」

 

 レースは佳境、残り1周というところで実況のジョン・スミスが突然コースに降り立った。

 

「おやおや、おやおやおやおや。どういうことでしょう」

 

 いなくなったジョンの役目をシターラ店長が引き継ぐ。

 

「ジョン・スミスが自らの足で走り出したあああああ!」

 

 滑りもせずに氷を踏み砕いて走るジョン・スミスは圧倒的な速度でヴィルシータたちを追い上げた。

 

「馬鹿な! オヌシナニモノ!?」

 

 驚愕するヴィルシータの隣に並ぶ。

 

「アイ・アム……ハヤスギル!」

 

 そして一瞬のうちに追い越した。

 そのままぶっちぎりの1位でジョン・スミスがゴールを突き抜け、風圧で吹き飛んだ他の誰もがゴールすらできなかった。

 

「くっ……なぜ私がバックダンサーなど」

 

「黙って踊りなよ。そういう決まりなんだから」

 

「くるくる〜……ダンスってこんな感じでいいですか?」

 

「ああっ、駄目だよリリ様! それじゃ目を回しちゃう!」

 

 ジョン・スミスの後ろに4人並んで仲良く踊った後は、せっかくたくさんの観客がいるからとヌルが言い出した『ドキドキ! 愛の告白しちゃいまショー』の時間となった。

 くじ引きで決まった1番手はシータだ。

 すーっと大きく息を吸ってから、シータがアルファへの愛を叫ぶ。

 

「私は一番アルファ様が好きーーーーーっ!」

 

「さあ審査員のみなさん! 採点をどうぞ!」

 

 ヌルに促された3人の審査員……ウィクトーリア、ゼータ、リリが出した得点は。

 

『0点。短い』

 

『30点。前から思ってたけど語彙力が足りてない』

 

『100点! リリは良かったと思います!』

 

「うぉい! ウィクトーリア! お前そんな点数つけんなら100点の見本見せてみろや!」

 

「ちっ……いいでしょう。刮目しなさい」

 

 そしてウィクトーリアは歌った。

 

『いと高き御方の唇は陰の叡智を齎し』

 

『その剣は歪んだ世界を暴き立てる』

 

『聖なるかな陰に潜み陰を狩る者よ』

 

『偽神を信ずる衆愚は真なる神の裁きを受け入れよ』

 

『陰よ 救いの輝きよ 憐れみ給え』

 

『嗚呼 選ばれし御方 力持つ御方』

 

『嗚呼 素晴らしき御方 愛おしき御方』

 

『嗚呼 新世界の神よ』

 

 それは元聖女らしくシャドウを讃える信仰心に満ちた古代語の歌だった。

 ゼータとリリが拍手喝采する一方でシータだけは文句を言う。

 

「歌うまかったけど告白じゃないじゃん! 告白っていうのは変に言葉を飾らずに『好きです』って想いを伝えることを言うんだよ!」

 

「誰もが考えなしに好き好き言えると思うな! お前は自分の異常性を自覚しろ!」

 

 シータとウィクトーリア、殴り合い開始!

 

「負けちゃった……」

 

 終了!

 筋力はシータが上でも当たらなければどうということはない!

 七陰級の戦闘勘を有するウィクトーリアを相手に徒手格闘でシータが勝てるわけがなく、これは当然の帰結である。

 ぼろぼろになって打ち捨てられたシータをヌルが引きずって退かすと、続いて登壇したのはゼータであった。

 

「ゼータ様! 頑張ってください!」

 

「ゼータさん頑張れー!」

 

「ん。それじゃ、聞いてください。『主へ』」

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