シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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オリアナ王国で私たちと握手!


最終章 お前も家族だ
第60話 コードネームはシャドウ様仮面


 ミドガル学園は爆弾首輪事件の調査のためしばらく休校となった。

 そこになぜかアルファ様からお休みをいただいてしまった私は何をして時間を潰そうかと考えて、ふと長いことベータ様と会ってないことに気付いた。

 ガーデンの仲間に聞いてベータ様の行方を追った私はオリアナ王国に辿り着いた。

 

「ベータ様!」

 

「し……8番!」

 

 町外れに作られた巨大テントの中で再会した私たちは抱き合って互いの無事を喜んだ。

 

「魔界から帰還された直後にイータ様に変な薬盛られて号泣しながら全裸で走り回ったと聞きました! ご無事で何よりです!」

 

「あなたこそイータのせいで私室が蒸発した衝撃で理性まで蒸発しちゃったらしいじゃない! こうして正気のまま再会できて本当に嬉しいわ!」

 

 感動のあまり背中をばしばし叩き合う私とベータ様。

 そんな私たちを少し離れた場所からぽかんとした表情で見つめるセーラー服姿の少女が5人。

 ……5人全員初めて見る顔だけど誰だろう?

 

「ああ、この子たちはつい先日ガーデンに加入した新人の子たちよ。ちょうど8番やゼータがフェンリル派と雌雄を決している頃に私とイプシロンも大規模な教団の拠点を制圧したの」

 

 昔は最初に新人の子たちの面倒を見るのは私の仕事だったのだが、去年からは何かと忙しくてすっかり他人任せとなってしまい、ローズ……666番より後だとまだ顔を合わせてない子も結構いる。

 

「そうなんですね。ちょっと挨拶してきます」

 

 私は新人の子たちに近寄って気安い雰囲気で話しかけた。

 

「やぁやぁはじめまして! 私8番! もしかしたら任務で組むかもだから仲良くしてね!」

 

「ひ、ひゃい! はじめまひて!」

 

 5人の中でおそらく最も番号が若いリーダー格らしき子が代表して返事してくれた。すごく緊張しているらしく噛み噛みだ。

 

「もー、そんなに緊張しないでよ! 私は先輩だけど君たちと同じ一般構成員だからさ、立場は対等なんだぜ!」

 

 新人たちは互いに「嘘つけぇ!」と書かれた顔を見合わせた。

 ……おかしいなぁ、初対面のはずなんだけど私なんか変なことしたかな。

 他の子たちと小声で何かを話し合ったリーダーの子は意を決した様子で質問してきた。

 

「あの、その、8番様は七陰のベータ様とどのような関係なのでしょうか!?」

 

 あっ、なるほどぉ……確かにさっきのは一般構成員と七陰のやり取りとしては普通じゃなかったね。

 

「……えっとね、私とベータ様はなんというかちょっと特殊な間柄で……なんて言うんだろ、傷を舐め合う関係?」

 

 主にイータ様の人体実験による傷だ。

 

「舐め……!?」

 

 なぜか顔を真っ赤にして黙り込んでしまったリーダーの子に代わり、他の新人の子たちが次々と質問を投げてきた。

 

「ベータ様とはお付き合いして長いんですか!?」

 

「そりゃまあ私は七陰を除けばガーデン最古参だからね。ベータ様とも、他の6名の方々とも長い付き合いだよ」

 

「他の方たちとも!?」

 

「それって七陰の方たちは知ってるんですか!?」

 

「当然、よーく知ってるよ」

 

 新人だと七陰に会う機会なんてそうそうないからね、みんな自分たちが所属した組織の最高幹部がどんな人なのか興味があるのだろう。

 

「誰か興味のある人いるの?」

 

「いっ!? いえ、私はそんな恐れ多いことは……」

 

「それに私は確かに男の人が怖くなりましたけど、だからって女の子となんて……」

 

「で、でもさ、シャドウガーデンは女の子しかいないんでしょ? そういう場所だとそういうことは珍しくないって! 私『マリみて』読んだから知ってる!」

 

 マリみて……ナツメ先生の『マリーさんがみてる』のことかな。

 これは架空の女学園を舞台とした小説で、私は登場人物をアルファ様と私に置き換えて楽しく読ませてもらっている。

 ちなみにマリみてのマリーさんとオリアナでコラボカフェを始めたマリーさんとは無関係だ。よくある名前だから偶然の一致である。

 それからよく分からないが激しい話し合いをした新人たちはリーダーの子と同じように全員顔を真っ赤にして黙ってしまったので、私から別の話題を振ってみた。

 

「ところで、みんなはオリアナで何してるの? ガーデンの新人は最初にアレクサンドリアでラムダ教官のしごきを受けるのが恒例なんだけど、いきなり外に出されるなんて優秀なんだね」

 

 ラムダ様による新兵訓練は教団との殺し合いに参加させても死なないと確信できるまで終わらないのだ。厳しいようだが、あれもまたラムダ様の優しさである。

 

「あ、いえ、私たちはそういう感じじゃなくって……」

 

「訓練はまだ途中なんですけど、ちょっと中断してまして……」

 

 あの訓練って中断されることあるの!?

 ゲロ吐いておしっこ漏らして泣き喚いても休めないのに!?

 

「……みんなここで何やらされてんの?」

 

 訓練を中断してまで新人にやらせなければならないことなんて私には心当たりがない。

 

「私たちは……」

 

 新人の子たちは顔を見合わせて、それから声を揃えて言った。

 

「『セーラー服魔剣士少女』なんです!」

 

          ◯

 

 ベータ様、そして今は不在だがイプシロン様の主導により、シャドウガーデンは現在オリアナ王国にて魔剣士を蔑視する民衆の意識改革を目的とした演劇を計画している。

 荒事にすっかり慣れてしまった古参の兵は雰囲気からして親しみを持ちづらいだろうからと、あえて少女らしい弱さの残る新人に主要な登場人物を演じさせるその演劇の題名は『魔剣士少女セーラー・サン』。

 原作はナツメ先生で戦闘あり恋愛あり生まれ変わりなどの複雑な設定ありの人気作品なのだが、今回の演劇では原作をそのまま再現するのではなく演劇用に簡略化した脚本をイプシロン様が新しく作製したようだ。

 

「これと、これと……これも省略!」

 

「ちょっとイプシロン! そんなに内容薄くしたら何も伝わらないじゃない!」

 

「全部やってたら時間がどれだけあっても足りないでしょ! 小説と違って劇に栞は挟めないのよ! 膨らませるのは胸だけにしときなさい!」

 

「胸は関係ないでしょう!?」

 

 脚本作りの際、ベータ様とイプシロン様はかなり揉めたらしい。

 どれだけ上演時間を延ばしてでも自分の書いた小説を堅実に完全再現させたいベータ様。

 オリアナでの任務中に学んだ引き算の美学の手法で大胆かつ緻密に短く再構成してあげると言い張るイプシロン様。

 最終的にガンマ様が仲裁に入った結果、今回の演劇は魔剣士に興味のないオリアナの人たちが飽きずに最後まで見られるよう20分前後で終わらせる方針となり、そのせいで脚本家の役割をイプシロン様に取られたベータ様は「原作私なのに!」と憤ったそうだ。

 そんな騒動の末に完成した演劇を私は通し稽古という名目で見せてもらった。

 内容としてはセーラースライムスーツを身に纏った魔剣士少女たちが悪者(イータ様製ゴーレム)を倒すだけの話でストーリー性は確かに薄い。その代わりに戦闘場面に力を入れていた。こういうのを活劇というらしい。

 

「……どう思う?」

 

 通し稽古が終わり新人の子たちが舞台裏に戻った後、私は観客席で隣に座っていたベータ様からそんな質問を受けた。

 

「どう、とは?」

 

「これでオリアナの人たちを魅了できそうかしら? 正直、私はこれじゃ駄目だと思っているのよ」

 

「……芸術の国ですからね。ちょっと厳しいかもしれません」

 

 内容は面白い。

 音楽も素晴らしい。

 しかし演者に注目すると粗が見えるのも確かだ。

 これは別に新人の子たちが悪いのではない。たとえナンバーズでもオリアナの舞台俳優みたいな本職の演技なんてできるわけがないのだ。

 

「でしょう!? やっぱり今からでも私が脚本を書き直すべきよね!」

 

「あ、そこは今のままでいいと思いましたよ」

 

「あなたまで……やはり私の味方はシャドウ様だけ……はっ! 何でしょうかシャドウ様!? そうですよねシャドウ様! 畑違いの演劇よりもシャドウ様戦記を書き進めるという使命の方が優先でした!」

 

 口を尖らせて拗ねていたベータ様が突然虚空と会話を始めた。

 怖い……ゼータ様といい、変な風邪でも流行ってるの?

 それともイータ様の毒薬の後遺症か……いずれにしてもベータ様は使い物にならないみたいなので、演劇の不安は私がどうにかするしかない。

 新人をしごいて演技力を向上させようなどとは考えない方が良いだろう。

 彼女たちにはガーデンの兵士としてもっと他に学ぶべきことがあるのだから、こんなことで消耗させたくない。

 その分を他で補う必要があるわけだが……よし、閃いた。

 

「ベータ様、しばらく新人の子たち借りますね」

 

 ベータ様はどうやらシャドウ様戦記魔界編の構想に集中しているらしく、何も言わずに指で丸を作って了承してくださった。

 

          ◯

 

「みんな、ちょっといいかな? 敵と戦う場面だけもう1回お願いしたいんだけど」

 

 大先輩の8番からそんなことを頼まれて、ガーデンの新人たちは元気に返事をした。

 

「は! 了解しました! それではゴーレムを起動してきますので、しばしお待ちください」

 

「あ、待って待って。今度はゴーレムじゃない敵役を用意するから、テントの外に出て待ってて」

 

「……えっと、外でやるんですか?」

 

「そうだね。ここじゃちょっと狭いから。先行ってて」

 

 8番に言われた通りテントの外に出た新人たち。

 どんな敵と戦わせられるのかとドキドキしながら待っていると、やがて8番だけが現れた。

 

「お待たせー。準備できてる?」

 

「私たちは大丈夫ですけど、あの……敵役というのはどこに?」

 

 この場には自分たちと8番以外に誰の姿もなく、新人たちは戸惑った。

 

「今から呼ぶよ。危ないからちょっと離れてね」

 

 8番がぱちんと指を鳴らした瞬間、地面に巨大な黒い渦が出現した。

 黒い稲妻が迸る中、渦から這い出てきたのは5体の巨大な怪物だった。

 “牛頭鬼”!

 “八咫烏”!

 “猪笹王”!

 “馬頭鬼”!

 “モンゴリアン・デス・ワーム”!

 暗黒へカルダ帝国最高権力者『五妖聖』、ここに出現!

 

「ひっ……ば、化け物ぉ!?」

 

 新人の子たちが後退り、密集してびくびく震えている。

 

「……そんなに怖い? その辺によくいる普通の魔獣だよ?」

 

「こんな化け物その辺にいません!」

 

 実際のところこいつらは遠征先で捕獲した魔獣なのでアレクサンドリアの近くにはいないが、そこは言葉の綾だ。

 それほど強力な魔獣ではないので似たような奴は近場でも探せばきっといる。例えば牛頭鬼なんて大きさが10倍くらいになっただけでほとんどミノタウロスだし。

 

「しかもこいつらどこから出てきたんですか!?」

 

「え、いや普通に空間転移して……」

 

 8番がこの場でバケモンボールを投げることもできたが、迫力を出すためにボールから出した状態でズルムケに転移させてみた。

 

「普通じゃない! 全然普通じゃない!」

 

「私たちあいつらと戦わなきゃいけないんですか!?」

 

「無理無理無理! こんなおっきな魔獣に勝てっこないよお!」

 

 訓練されたガーデンの兵であれば上官への返事は「はい」か「サー! イエッサー!」のどちらかだから、こんなに素直に拒否されるのは久しぶりだ。

 とはいえ8番としては厳しくし過ぎて新人を潰すような事態は避けたい。

 

「それじゃあ1体だけに減らすよ」

 

 8番はデスワーム以外の4体をボールに戻した。

 

「一番おっきいのが残っちゃった……」

 

「で、でも他のも強そうだったし……」

 

「それに実戦じゃなくて演劇なんだから! ちゃんと私たちを勝たせてくれるはず!」

 

 確かに脚本通りならセーラー戦士たちが勝つことになっている。

 しかし、8番は思い付いてしまったのだ。

 演技ができないなら……演技させなければいい!

 

「残念だけど魔獣に手加減できるほどの知能はないから! 本気でやらないと死ぬよ!」

 

 8番は有無を言わさずにデスワームをけしかけた。

 それから1分後、8番はデスワームに命じて丸呑みにされた5人を吐き出させた。

 

「げほっごほっ……みんな、生きてる?」

 

「うっ……おえぇ……」

 

「いやあああああ全身臭い汁でべとべとになってるううううう!」

 

「ぶくぶくぶくぶく……」

 

「ひっく……うええええん! おがあああちゃあああん!」

 

 びっくりするほどまったく相手にならなかった。

 デスワームが強かったのか、新人が弱かったのか、はたまたその両方か。

 このままじゃ迫力のある活劇なんてできっこないし、何よりこの先の教団との戦いで命を落としかねない。

 ……仕方ない、ラムダ様の代わりに私が鍛えよう。そう考えて8番は思考を鬼教官に切り替えた。

 

「はい3分あげるから身体洗っておいでー。相手を変えてもう一戦やるよー」

 

 言葉を失って青褪める新人たちを横目に、8番は彼女たちを短期間で鍛え上げるために訓練計画を練った。

 

          ◯

 

「本番前最後の通し稽古、はじめまーす!」

 

 観客席に座るベータ様、ガンマ様、イプシロン様に向かって宣言した後、私は舞台の幕を開いた。

 演劇は『五妖聖』の影絵に向かって角の生えた男が会話をしている場面から始まった。

 

「オシリアナ侵攻部隊総指揮官パイライト、参上いたしました」

 

 結局、敵役にはゼニゴルドが抜擢された。五妖聖は大き過ぎて観客を巻き添えにしかねないため、幹部会議で私以外満場一致で役から降ろされてしまったのだ。

 それでも五妖聖の恐ろしい外見は悪辣なベガルタ……違った、へカルダの親玉としてぴったりなので、こうして影絵だけ登場させてもらえることになった。

 

「……なぜ呼び出されたか分かるな?」

 

「はっ。芸術なんぞにかまけて武力を捨てた弱小国家オシリアナを今なお滅ぼせずにいるためです」

 

「その通りだ、パイライトよ」

 

「貴様ほどの実力者がいながら、この体たらく」

 

「オシリアナには想定外の障害が存在するとしか考えられん」

 

「今ここで言ってみろ、我らの正義の侵略を妨害する愚か者の名を!」

 

「はっ。奴らの名は……」

 

 ここで暗転し、イプシロン様が監修した音楽が流れる中、光に照らされて5人のセーラー服魔剣士少女たちが姿を見せた。

 5人それぞれセーラー戦士としての名を堂々と叫び、最後にセーラー・サン役のリーダーの子が決め台詞を口にする。

 

「オシリアナの平和を脅かす悪者たちぃ! お日様に代わって抹殺よ!」

 

 ここまでは普通の劇。

 そしてここから大迫力の活劇の始まりだ。

 

「現れたな、忌々しいセーラー戦士ども」

 

「パイライト! 今日こそあなたの首を取る!」

 

 セーラー戦士たちは演技であることを感じさせない迫真の敵意を向けた。

 というのも練習の時にさんざんゼニゴルドの手で痛めつけられたので、新人たちはいつしか本気でゼニゴルドを敵として認識できるようになったのだ。

 

「その言葉、そのまま返そう! その身で味わうがいい! 貴様らを討つために五妖聖から賜った至高のアーティファクトの力を!」

 

 ゼニゴルドが能力で形成した黄金の槍を掲げる。

 そしてやはりゼニゴルドの能力でセーラー戦士を除く舞台上の全てが黄金に変えられた。

 これが本当の『種も仕掛けもございません』だが、きっと観客は凄い仕掛けだと驚いてくれるだろう。

 

「現れよ黄金騎兵! そしてセーラー戦士を討ち取るのだ!」

 

 黄金に覆われた床から生えてきた金ピカ全身鎧姿の人形がセーラー戦士ひとりに対して3体ずつ襲いかかる。

 これが実戦なら先に強力な魔剣士が突撃して敵陣を大いに抉り、負傷した残敵を雑兵で刈り取るのが定石だ。

 しかしここは舞台の上。

 最初は雑兵戦。

 最後にボス戦。

 それがお約束なのでゼニゴルドは援護すらせずに突っ立っている。一応は指示を飛ばして指揮に専念している感を出してはいるものの、黄金騎兵に意思はなくゼニゴルドが人型の黄金を遠隔操作しているだけなので言葉による指示に意味はない。

 

「みんな! いくよ!」

 

「了解!」

 

 いよいよセーラー戦士が黄金騎兵と戦い始めた。

 この黄金騎兵の強さは教団のチルドレンファーストの最底辺と同程度だ。

 ラムダ様にしっかり鍛えられたガーデン兵士の平均値はチルドレンファーストよりも上なので黄金騎兵程度問題なく倒せるが、新兵訓練すら終えていない新人にそこまでの実力はない。

 英雄の血を引く悪魔憑き共通の性質として膨大な魔力を有していても、それを適切に扱えるだけの経験が不足しているのだ。

 私はセーラー戦士たちに短い期間で可能な限りの戦闘経験を積ませた。

 しかし残念ながら黄金騎兵に安定して勝利できる実力は身に付かなかった。

 一対一で10回戦えば6回は勝てるという程度なので、2体を同時に相手すればかなり厳しくなり、3体同時は無謀な挑戦だ。

 

「うう……こいつら、強い!」

 

「これがあのアーティファクトの力なの!?」

 

「それでも!」

 

「この国の平和を守るために!」

 

「私たちは絶対に負けない!」

 

 話の展開の都合上、セーラー戦士には雑兵ごとき簡単に蹴散らしてもらわなければ困る。

 そのため私は不本意ながら彼女たちにアーティファクトのような外付けの武力を与えた。

 そう、シャドウ様直伝の秘術『地怨虞』……いや、私が鍛錬によって昇華させた『完全地怨虞』によって!

 5人のセーラー戦士が声を揃えて叫ぶ。

 

「昇る朝日に心を重ねて! セカンドハート・ライジング!」

 

 するとセーラー戦士たちの身体からそれぞれの衣装と同じ色の濃密な魔力が立ち昇り始めた。

 説明しよう!

 これこそが完全地怨虞によって与えられた第二の心臓を活性化させることで発動するセーラー戦士の強化形態だ!

 強化形態自体は原作にもスーパーセーラー戦士というものがあるけど、もちろんそれとは別物だぞ!

 

「水遁! セーラー水断波!」

 

 青のセーラー戦士が水の無い所で高度な水遁を発動し、黄金騎兵を切断した。

 

「火遁! セーラー龍炎放歌の術!」

 

 赤のセーラー戦士が追尾性の火球を放ち黄金騎兵を融解させた。

 

「雷遁! セーラー雷犂熱刀!」

 

 緑のセーラー戦士が雷を纏った腕を振り抜き黄金騎兵を粉砕した。

 

「封印術! セーラー金剛封鎖!」

 

 黄のセーラー戦士が鎖を伸ばして黄金騎兵を拘束した。

 そして主役らしく最も派手に暴れているセーラー・サンはというと……。

 

「セーラー螺旋閃光超輪舞吼参式!」

 

 転移術で黄金騎兵の背後をとって、手の中に作り出した小さな太陽をぶち込んで跡形もなく消し飛ばした。

 人の身でありながら火や水などを放つこれらの技はセーラー戦士たちに移植した心臓の本来の持ち主だった魔獣に由来する。

 完全になった地怨虞は人類のみならず魔獣の心臓も活用できるようになった。

 そしてドエス派の雑兵を強化するために人体実験を繰り返した結果、完全地怨虞で魔獣の心臓を与えられた者は残機数こそ増えない代わりに、その魔獣の特殊能力が使えるようになることが判明したのだ。

 ちなみに人の心臓と違って魔獣の心臓は適合できないと拒絶反応で大変なことになるけど、というか実際何度かなったけど、私がリカバリーしてあげたからだいじょーぶ!

 

「こいつで最後ね! はあああああ!」

 

 強化形態となったセーラー戦士たちの猛攻で黄金騎兵があっという間に全滅した。

 ……ちょっと強化し過ぎたような気もするけど、これから教団との殺し合いが日常になる新人たちの生存率を上げるためなら何でもありだよね。

 そういうわけなので舞台が終わっても与えた力は没収せずにそのまま使ってもらう予定である。

 さて、いい感じに派手な技を使って黄金騎兵を壊滅させたセーラー戦士たちはそのままの勢いでゼニゴルドに襲いかかった。

 

「これで終わりよパイライト! セーラー・ストライクコンボ・アタック!」

 

 5人が連続で大技を放つ必殺の連携だ。

 その威力はたとえネームドであっても致命傷を免れない。

 しかし……。

 

「くくく……これこそが我がアーティファクトの力なり!」

 

 黄金で防壁を作り出して身を守ったゼニゴルドには傷ひとつつけられなかった。

 ゼニゴルドは魔界の種族だけあってネームドよりも遥かに強い。

 演出の都合でセーラー戦士に対する直接の黄金化は控えているが、それがなくてもゼニゴルドは凄まじい実力を有している。

 イータ様が作った『強さわかーる君』によって数値化されたゼニゴルドの戦闘力は550……これはベータ様と同じ数値である。

 新人たちは瞬殺されない程度には強くなったけど、全力で抗って1分耐えられたら上出来で、勝つことは絶対に不可能だ。

 何度も言うけど話の展開的にそれではヤバいのでこれを使う。

 私は取り出した仮面を装着し、髪を黒く染め、フィジカルを小出しして男性の体格となり、スライムスーツをタキシードに変化させた。

 この舞台における私のコードネームは……『シャドウ様仮面』!

 シャドウ様仮面はセーラー・サンの原作にも登場する。見た目は完全にスーツからタキシードに着替えたジョン・スミス様だ。

 本来の脚本では登場しないはずだったが、セーラー戦士たちだけではゼニゴルドに勝てないため、急遽お助け役としてシャドウ様仮面を参戦させることになったのだ。

 

「終わるのは貴様の方だったな! 死ね! セーラー・サン!」

 

「きゃあああああ!」

 

 ゼニゴルドの槍先が地面に倒れたセーラー・サンを貫く寸前、私は舞台に乱入して2人の間に割り込んだ。

 ジョン・スミス様と同様、原作におけるシャドウ様仮面の武器は鋼糸である。しかし舞台上であんな細いものを振り回しても観客席から見えないので、普通にスライムソードで戦うことになった。

 

「お手をどうぞ、お嬢様」

 

 ゼニゴルドを槍ごと弾き飛ばした私はセーラー・サンを助け起こした。

 

「あなたは……師匠! あっ、違った。シャドウ様仮面!」

 

「本番の時は言い間違えないように注意して。今はこのまま続行で」

 

「きゃあああああ! シャドウ様仮面様あああああ!」

 

 観客席からの歓声を背に、私はセーラー・サンと並び立つ。

 

「やはりあの御方には雪狐商会の偽物スーツよりも私のミツゴシ商会の本物のタキシードが似合うわね!」

 

 スライムスーツで再現するにしても現物をしっかり見ないと難しいため、セーラー戦士やシャドウ様仮面の衣装が実際にミツゴシの服飾技術で作られたのだ。

 

「シャドウ様仮面……いえ、いいのよ。この方が盛り上がるのは確かだもの」

 

 唯一微妙な反応を見せたイプシロン様はセーラー・サン原作におけるシャドウ様仮面周りの話があまり好きではないらしい。

 たぶんセーラー・サンの変身前の姿がベータ様そっくりだからだ。

 脚本を書くために原作を読み込んだイプシロン様は前世からの恋人同士という設定のセーラー・サンとシャドウ様仮面との執拗ないちゃつき描写にかっとなってシャドウ様仮面を脚本から抹消していたのである。

 

「そう、所詮は作り話の偽物……ゔっ」

 

 自分のスライム製の胸にブーメランを突き刺してうずくまったイプシロン様を無視して私たちは演技を続ける。

 

「チェックメイトだ。この私が来たからにはもはやお前に勝ち目はない」

 

「ふっ……貴様が来たところで何が変わると言うのか。セーラー戦士もろとも、我がアーティファクトの力の前にひれ伏すがいい!」

 

 戦闘は再開されたわけだが、もちろん剣だけで戦う私が加わったところでゼニゴルドには勝てない。

 だがこの舞台における勝利条件はゼニゴルドの殺害ではない。

 

「……なっ!? 我が至高のアーティファクトに、ヒビが!?」

 

 設定上はアーティファクトの力でセーラー戦士を相手に優勢となっているのだから、それを破壊してやればいい。

 

「今度こそ!」

 

「終わりだ!」

 

 私とセーラー・サンの同時攻撃を受け止めた黄金の槍が粉々に砕け散った。

 

「ば、かな……ぐ、ぐおおおおお!? これはまさか!? アーティファクトを破壊された代償だとでもいうのか!?」

 

 アーティファクトが破壊された時の代償という設定を説明しながらゼニゴルドが黄金の像に変わり、その後砕け散った。

 もちろん砕け散ったのはゼニゴルドが能力で作った中身空洞の黄金像で、本人は一般人の目に映らない速度で舞台裏に下がったのだ。

 

「さらばだ、パイライト……」

 

 私は憂いを帯びた表情を作って黄金の破片を見下ろした。

 実はシャドウ様仮面は五妖聖とその上に君臨する虚王インムに国を奪われたへカルダ帝国の王子で、パイライトを筆頭にセーラー戦士たちに襲いかかるへカルダ七宝剣は彼のかつての忠臣という設定なのだ。

 演劇では匂わせるだけで設定開示しないので、気になった人は物販で販売する原作を読もう!

 

「このシャドウ様仮面と!」

 

「セーラー戦士がいる限り!」

 

「この国の平和は奪わせない!」

 

「何度攻め込んでこようとも!」

 

「必ず私たちが倒してみせる!」

 

「オシリアナの平和を脅かす悪者たちぃ!」

 

 私とセーラー戦士たちがスタイリッシュな決めポーズをとり、声を揃えて宣告する。

 

「お日様に代わって抹殺よ!」

 

          ◯

 

「……というわけでシータが手を加えた結果、脚本を少々変更してこんな感じになりました」

 

 ここはアレクサンドリア城のアルファの執務室。

 最後にピアニスト・シロンが作った曲に合わせてセーラー戦士たちが歌って踊る映像を見終えたアルファにイプシロンが尋ねた。

 

「これでよろしければオリアナでの公演を開始しますが、いかがでしょうか?」

 

「待って……先にいくつか質問してもいいかしら?」

 

 アルファは何とも言えない複雑な表情になっていた。

 

「はい。何でもお聞きください」

 

「……まず、どうしてシータがいたの? 休みを与えたはずなのだけれど」

 

「ベータが魔界から帰って来てから一度も会っていなかったので顔を見に来たらしいです。そのまま新人たちを心配して手伝ってくれたんですよ」

 

「ああ……確かにすれ違いになっていたわね」

 

 魔界に転移したシドとベータはクリスマス頃に帰還して、その後はシドも七陰もみんな一緒に年末年始を過ごすことができた。

 その時はオオイゼアスロンやら正月遊びやらに夢中で全く気にしていなかったのだが、その期間シータはずっと不在だった。

 それからミドガル学園の新学期が始まるとシータは学園に直行したためベータの無事を自分の目で確認する機会がなかったのだ。

 

「そういうことなら納得ね。あの子は昔から後輩の面倒見がいいもの」

 

「はい。新人の子たちにもすぐ慕われるようになって、今では師匠って呼ばれてるんですよ」

 

「……ところで何をどう指導したらあんな技が使えるようになるの?」

 

「……さあ?」

 

 完全地怨虞のことはまだアルファに伝わっていない。

 習得から間もなくシャドウが魔界に失踪したせいでばたばたしていたため、シータがアルファを気遣って報告を後回しにしたのだ。そしてシータはそのまま忘れた。

 そのためアルファもイプシロンもまさかシータが新人たちに魔獣の心臓を埋め込んでいるなどとは夢にも思わなかった。

 

「……私も霧化できるようになったし、英雄の血のしからしむるところ、なのかしら?」

 

「……私も魔力の斬撃を飛ばせますし、英雄の血のしからしむるところ、なのでしょうね」

 

 なお、少なくともシータに憑いているオリヴィエは霧化できないし、魔力の斬撃を飛ばせもしない。君たちは英雄をなんだと思っているんだ。はらぺこエルフと指輪の守護霊ともうひとりのゼータだぞ。なんだこいつら。

 その後もシャドウ様仮面の正体などいくつか気になることについて話し合ったが、ほとんどがシータ関連で「あの子なら、まあ……」と流されたため、オリアナにおける『魔剣士少女セーラー・サン』の公演は承認された。

 セーラー戦士たちは魔剣士でありながらオリアナの小さなお友達から大きなお友達まで幅広く人気を集め、オリアナに根付いていた魔剣士蔑視文化の払拭に大いに貢献したという。




「私はセーラー戦士よりシャドウ様仮面の方が好きなのよね」

            ……とあるエルフの日記より抜粋
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