シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第63話 死体で遊ぶな少女たち

 ここしばらくのアレクシアはいいとこなしだった。

 一緒にディアボロス教団に立ち向かうと誓ったクレアが謎の昏睡状態に陥った。

 王族という立場にありながら裁判で証言を蔑ろにされた。

 父である国王が自分か姉のどちらかを切り捨てる覚悟を決めていると知ってしまった。

 密かに思いを寄せている男性が自分以外の女の家に泊まり込んでいた。

 不本意ながら今のところ身近にいる中で最も親しい友人は、色々と話し合いたいので何度も食事に誘っているのに「馬鹿共を抑えるのに忙しいから後にして!」とわけのわからない理由で一向に首を縦に振らなかった。

 だが、それも今この瞬間までだ。

 アレクシアは学友のクリスティーナとカナデを引き連れてオショク・ホワイト伯爵の屋敷の地下に隠された闘技場に忍び込み、猟奇殺人鬼ジャック・ザ・リッパーに変装していたシャドウが汚職貴族結社『十三の夜剣』を壊滅させる様子を観戦していた。

 全てが終わった後、アレクシアたちはシャドウが後始末のために呼び出したシャドウガーデンの黒ずくめの兵士たちのリーダーに見つかって、無言の顎クイで立ち去るように促された。

 その場は従うふりをしたアレクシアたちだったが、仕事の早いガーデンの連中はどうせすぐにいなくなるだろうからと考えて、しばらく待ってから戻ってみた。すると予想通りシャドウや他の兵士は撤収していたが、リーダーだけは残って何かの作業に没頭していた。

 

「できたー! 『夜剣の断末魔』!」

 

 顔を隠していてもそのお気楽な声を聞けばすぐに正体がわかった。

 アレクシアは何も言わずにそいつ目掛けて剣を投擲した。

 

「わっ!」

 

 突然の不意打ちをシャドウガーデンの指揮官は難なくかわして、剣は壺から生えた夜剣メンバーの死体に突き刺さった。

 

「ギャアアア!」

 

 なぜか死体が断末魔の叫びをあげた。

 

「ぎゃああああああああああ喋ったああああああああああ!?」

 

 カナデも断末魔のような叫びをあげた。まるで喋るスポンジを見たかのような絶叫だった。

 

「……ふっ」

 

 クリスティーナは微笑を浮かべていた。彼女が悪趣味な喋る死体生け花を見て笑うはずもないので、きっとカナデの痴態を笑ったのだろう。

 

「あっ……えっ、ちょ……んんっ! 見逃してやるから出ていけと伝えたつもりだったのだが?」

 

「今更声変えても意味ないわよ……シャドウガーデンのシタラ・アラヴァさん?」

 

 不特定多数に広めたりすればさすがに口封じで殺されかねないが、この場にいるクリスティーナとカナデに伝えるだけならシタラは何もしないというのがアレクシアの守護霊の見立てだ。

 彼女曰く、ミドガル王国第2王女であるアレクシアの動きを誘導できる利益がアレクシアに身バレしている不利益を超えない限りは大丈夫なのだそうだ。

 その話を聞いたアレクシアは「あいつにそんな頭があるかしら」と疑問を呈したが、シタラが馬鹿でも背後にいる連中は馬鹿じゃないと言われて納得した。

 

「はぇ!? あれ生徒会長なの!?」

 

「……アレクシアさぁ」

 

 シタラは観念したようで、フードと仮面を取って素顔を見せた。

 

「うおっ、まじで生徒会長じゃん……」

 

「カナデくーん? 夜剣のクズ共が壊滅してようやく取り戻した安寧を捨てたくなければ……誰にも言うなよ?」

 

「うひぃーっ!? 言いません言いません!」

 

 首を掻っ切る仕草でカナデを脅したシタラは続いてクリスティーナに視線を向けた。

 

「君もだよクリスティーナ・ホープ……クリスティーナ?」

 

 クリスティーナの視線は死体生け花に釘付けで、シタラをまったく見ていなかった。

 そりゃあ蝶よ花よと育てられた公爵家令嬢のクリスティーナがこんな血みどろの生ゴミを見せられたら悪い意味で目が離せなくなるだろうとアレクシアは思った。

 

「……えっ? ああ、いえ……この壺、うちから盗まれたものに似ているなぁと思いまして」

 

 ホープ家の屋敷から超大物陶芸家ダビンチィが作った2億ゼニーの壺……のレプリカが盗まれた話はアレクシアも聞いていた。

 

「シタラあんた泥棒に転職したの?」

 

「違うわい! この壺調達したのシャドウ様だから私じゃねーし!」

 

「どうしてシャドウが価値のないレプリカの壺なんて盗む必要があるのよ」

 

「それはもちろんこのクズ共の死体を晒すためだよ」

 

 シタラによると無価値なレプリカの壺に夜剣の死体を飾ってやることでどうのこうのとのことだが、アレクシアには分かるようで分からない話だった。

 

「……なるほど。そういうことでしたらその壺はそのまま使っていただいて結構です」

 

 まあ大した価値のない血で汚れた壺を返却されても困るのだろうし、所有者であるクリスティーナが文句を言わないのであればアレクシアが口を挟む必要はない。

 

「……とにかく、ここでのあんたの仕事は終わったのよね? ならちょっと面貸しなさい」

 

「ああ待って待って! まだ本命が残ってるから!」

 

 この地下闘技場でシャドウが始末した夜剣メンバーは7人いた。

 そのうちの5人は既に悪趣味な生け花にされて、1人は何らかの手段で土下座姿のまま黄金像に変えられている。大量に転がっていたはずの傭兵魔剣士たちの死体は全てどこかに持ち去られていて、残っている死体はこの地下闘技場の持ち主……オショク・ホワイト伯爵の死体だけだ。

 

「実は私こいつに個人的な恨みがあってね。こいつの死体を最大限辱めたいんだけど、なかなかいいやり方が思い付かなくって……何かいい意見ある?」

 

 そんな品性のないこと私たちに聞くんじゃないわよ!

 アレクシアがそう思っているとカナデがノリノリで意見を出し始めた。

 

「はいはいはい! 人通りが多い王宮前の広場に首を晒すのがいいと思います!」

 

「悪くないね」

 

 シタラは乗り気だったがアレクシアとしては受け入れ難い提案だ。

 

「私の実家前に変なものを設置するな!」

 

「うひぃ! ごめんなさい! ……じゃあミツゴシ商会前とか?」

 

「それならいいわよ」

 

 アレクシアとしてはそれで問題なかったのに、シタラは先程と打って変わって何とも言えない微妙な表情で拒絶した。

 

「いや……やっぱ誰かに迷惑かけるのはなしで。死体を晒す場所はこの屋敷の前にしとくよ」

 

「あんたうちに迷惑かけるのは良かったわけ!?」

 

「アレクシアに文句言われて反省したんだよ」

 

 アレクシアが睨みつけて怒鳴ってもシタラには適当に受け流されてしまった。実力差を考えるとアレクシアの威圧なんて全く怖くないということなのだろう。むかつく。

 

「あの……私からも提案していいですか?」

 

「えっ?」

 

 突然のクリスティーナの発言にアレクシアは驚いた。彼女がこんな悪趣味な議論に参加するとは思っていなかったのだ。

 

「もちろん」

 

「では……こいつの【CENSORED】を【ピー】して【バキューン】して【チーン】を【R18】で【見せられないよ!】するのはどうでしょう?」

 

 クリスティーナが笑顔で提案した内容を聞いた全員が凍りついた。

 

「……おっ、おう。思ったよりすごいの出てきたな……どうしようかな、これ」

 

「悩むな! 駄目に決まってんでしょ!」

 

 アレクシアはシタラの尻を蹴り飛ばした。

 

「いったぁ!?」

 

 そして蹴ったアレクシアの方が悲鳴をあげた。シタラの尻はめちゃくちゃ硬かった。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 クリスティーナから心配されてしまったが、むしろアレクシアが彼女を心配したい。騎士団から連続殺人事件への関与を疑われ続け、さらには夜剣に家を襲撃された彼女は、あんな提案をしてしまうほどにストレスを溜め込んでいるのだから。

 

「平気よ。それよりあなたとカナデはもう帰って休んだ方がいいわ。今のうちに寝ておかないと、また騎士団の事情聴取で身動き取れなくなるわよ」

 

「うぇえ!? 徹夜明けで事情聴取とか最悪じゃん! 早く帰ろ!」

 

「私はもう少しシタラ会長と話したいから、カナデは先に帰っていいわよ?」

 

「駄目だよ! 私ひとりじゃ屋敷に入れないもん!」

 

 渋るクリスティーナの手をカナデが強引に引っ張っていき、2人は今度こそ地下闘技場から立ち去った。

 

「アレクシアも帰りなよ」

 

「私はいいのよ。事情聴取される側じゃなくてする側だもの」

 

「……もしかしなくても事情聴取されるのって私だよね」

 

 シタラは観念した様子でこれ見よがしにため息をついた。

 

「これが終わってからだよ」

 

「待っててあげるからさっさと終わらせなさい」

 

「急かさないでよ。まだどうやって辱めるか決まってないんだから」

 

「そんなの全裸に剥いて高いところに磔にでもしておけば十分でしょ」

 

「んな雑な……あー、でも悪くないかも」

 

 シタラは腰に左右それぞれ3個ずつ装着されている変な球体のひとつを手に取り、軽く宙に投げた。

 球体が自動で開いたかと思うと、どうやってそこに収まっていたのか理解できない大きさの怪物が出てきた。

 

「……あんた、ペットの趣味も悪いのね」

 

 見たところ『ファントム』と呼ばれる有名な大型悪霊に似ているが、ここまで強大な力を感じさせる個体は初めて見た。その力は存在しているだけで周囲の温度を大きく低下させるほどで、地面を霜が覆い、アレクシアの吐く息は白くなっている。

 

「この形の悪霊ってなぜか沢山いるよね。それで私66体ほど捕まえてたんだけど、どいつもこいつもそんなに強くないからどうにか強化しようと思って……シャドウ様に聞いた『蠱毒』っていう儀式を試してみたんだ」

 

 シタラによると蠱毒とは壺に大量の毒虫を閉じ込めて外部から餌を与えることなくしばらく放置することで食物連鎖の果てに残った最後の1匹が濃縮された最強の毒を宿すというものらしい。

 シタラは同じことを悪霊で行い、その結果として誕生したのが目の前にいるやばい奴なのだという。

 

「それでも戦闘力自体は他の一軍の顔触れに比べたら微妙なんだけど、その代わりに面白い能力が発現してね。なんとこいつは分霊を無限に生み出せるんだよ! ……いや、ほんとに無限かは検証してないんだけどね。今のところ底が見えてないってだけで」

 

 ちなみに分霊がワラワラ湧き出る様子から『ワラワラ』と名付けたらしい。すごくどうでもいい情報だった。

 

「……悪霊が生み出す分霊なんて取るに足らない雑魚じゃない」

 

 口ではそう言ったもののアレクシアはこの悪霊の恐ろしさに気付いていた。

 通常は悪霊本体が魔剣士だとすれば分霊は対魔力の武具を装備した非魔剣士の兵士程度とされている。

 シタラが変な儀式で作った特別性の悪霊にこの一般論が適用されるとしても、分霊の強さが本体の強さに比例しているとすれば分霊でも弱い魔剣士程度の力を持つかもしれない。

 そんなものを無限に呼び出せるなら……国を滅ぼすことも可能だろう。

 

「まあそれはそうなんだけど……こういう使い方をすれば話は変わる!」

 

 シタラは悪霊に指示を出して分霊を1体作らせ、オショクの死体に憑依させた。

 オショクの死体は動き出し、なぜか服を脱ぎ始めた。

 

「……こいつ何やってんの?」

 

「ふふふ……このまま素っ裸で王都中を走り回らせて、最終的に集まった大衆の前で卑猥なひとり遊びをさせてやるんだ。そしてついにはひとり遊びで興奮し過ぎて絶命する……間違いなくミドガル史に残る最低の死に方だよ!」

 

 オショク単独だと騎士団に止められてしまうかもしれないからと、シタラは別の球から出した見覚えのある全身の皮がズルムケの化け物に命令して、どこからか大量の死体を持ってこさせた。

 

「こいつらって夜剣が雇った傭兵よね。見覚えのある顔が混じってるわ」

 

「そうそう、シャドウ様が仕留めた奴ら。本当はワラワラの分霊の器として再利用する予定だったけど、こいつらも裸の行進に加えようと思って」

 

 ワラワラの分霊が憑依した全ての死体が立ち上がり、やはり服を脱ぎ始めた。

 

「……ちなみに、こいつらの戦闘力って生前のままなの?」

 

「身体能力とか魔力量とかはそうだよ。脳の状態が良ければ技術もある程度は再現できる」

 

「……分霊をそのまま戦わせたりはしないの?」

 

「えっ、しないけど。だってそのままだとミドガル学園の生徒くらいの力しかないし」

 

 こいつが馬鹿で良かったとアレクシアは切実に思った。

 あるいは無限湧きするミドガル学園生を脅威と思えないほどの戦力がシャドウガーデンにあるということではないかと守護霊からこっそり忠告された。

 いずれにしてもシタラに余計な発想を抱かせないように、さっさと作業を終わらせる方向へと誘導することにした。

 

「人手が増えたならその壺の奴と金ピカの奴もそいつらに運ばせたら? 1箇所に固定するより大勢の目に入るわよ」

 

「おー、いいねそれ」

 

 その後、全裸の男たちは死体が生けられた壺と土下座したおっさんの黄金像をわっしょいわっしょいと担ぎ上げ、もうすぐ夜が明ける王都へと繰り出していった。

 騎士団を蹴散らして突き進む変態共の卑猥な行進は3日3晩続き、今年最初の大事件としてミドガル全土に知れ渡った。

 そして近い将来、この事件が呼び水となってミドガル王国はさらなる厄災に見舞われることになるのだが……この時のアレクシアには知る由もなかった。




シータが強いと評価する基準はアトミックに対処できるかどうかです。
そのため旅パで合格しているのはズルムケ(ワープで逃げられる)、プラチナ(異界に逃げられる)、ゼニゴルド(黄金核シェルターで耐えられる)だけで、トモダチ、バブリアス、ワラワラは不合格です。
オリヴィエはボールに入ってないので別枠ですが、もしもアトミックをくらった場合は仕様の関係でシータが蒸発します。


今回の話はもともと1話分として書いていたものを分割したので、明日も投稿します。
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