【完結】とある水神の半身の神話創造 作:ネシエル
ドアを叩き、返事を得て中に入る。
「何の用だ。」
ここは、フォンテーヌ邸の全貌を見渡せる、
最も高い建物パレ・メルモニアの最上階。
フォンテーヌのあらゆる歴史と裁判に関する重要な資料、
そして、最高審判官すら知らないフォンテーヌの機密文書は全て余すことなくここに保管されている。
ここに、フォンテーヌの神、
水神フリーナはいつもここで業務をしていた。
中性的で少年のように見える少女。
いつものお調子者の表向きの彼女ではなく、
冷静沈着かつ用意周到な裏の顔を見せている。
公私ともに完璧ではないにしろ、彼女は政治家として優秀と言わざるを得ない。
これが普段の彼女とは少しかけ離れている。
まるで別人のようだとヌヴィレットは感じた。
「感謝している、フリーナ。
君のおかげで私は皆に認められた。」
流れるような長い銀髪と氷のような冷たい青い瞳。
彫りの深い貴族的な顔立ちは厳格ながらも優雅な印象を与えられる。
エレガント服装と青や白を基調としたフォーマルな衣装をまとい。
彼の名はヌヴィレット
水の龍王にして、先日の裁判で神に反逆したと巷で話題の男だ。
「その芝居のことか。問題ない。
確かに、フォンテーヌの根幹を揺るがしたが、
キミのおかげで裁判の公平性は保たれ、
神ですら法の支配から逃れられないことが証明された。」
手を組み、笑いながら律儀に話す。
「おかげで、キミはフォンテーヌにとって必要不可欠な存在となった。
神に泥を塗る愚か者に対して怒り狂う神に異議を申し立てる。
法を重要視するフォンテーヌ人が怒りで法を捻じ曲げようとする中で、
キミは法の正当性を訴えた。誰もが君が最高審判官にふさわしいと認めたのだ。」
ヌヴィレットの地位は元々脆弱なものであった。
フリーナの推薦とはいえ、彼は何の実績もなく最高審判官の座を明け渡された。
故に、フリーナに支障が出た場合、彼の地位は地に落ちる。
最悪の場合、フォンテーヌからの追放もあり得る。
しかし、先日の裁判により、彼の脆弱な支持基盤は最早、揺らがないものとなった。
「だか、しかし……」
▲◆▲◆▲◆▲
あの時、俺は悩んだ。
どうしたら、ヌヴィレットが皆に認められるか。
ヌヴィレットの力は凄まじい。
不完全な状態でも並みの七神を越え、
俺に匹敵するポテンシャルを誇っている。
彼をフォンテーヌに招くのはフォカロルスの計画の主軸、
修正不可能な出来ことだ。
故に、彼を皆に認めらせるしかない。
方法は簡単だった。
フォンテーヌにおいて、誰もなったことがない。
誰でも成しえない。
必要不可欠な存在になればいい。
▲◆▲◆▲◆▲
「いや!」
「お許しくださいませ。
フリーナ様。」
「どうか、どうか慈悲を」
罪人は縄で縛り付け、
上空に留まる処刑人の剣に怯え、
神に懺悔する。
だか、神はそれを聞き入れず、
そして、神に賛同する民衆も当然止めようとしない。
「そうだ。やれ。」
「神に逆らうものに天罰を」
元々、貴族に恨むを持つもの。
謎の正義感で自身を正当にするもの。
あるいは、神に恩を売り利益を得ようとする輩。
今、この瞬間、世論が法の支配を逸脱する。
▲◆▲◆▲◆▲
ポセイドンは愚かと思った。
人間の弱さを真似、必要ないものを欲する。
富、名声、力。
人が欲して、
それを、求めるために多くの悲劇が起こってきた。
実に哀れである。
だか、それを自らが欲する愚か者を憐れむ必要がない。
寿命はなく、完成されたものが
不完全なものに憧れるのはポセイドンには理解できなかった。
事実、俺は例え、こいつらを殺しても何にも心に痛まない。
「待った!!」
その瞬間、時が止まった
愚か者の断末魔も
謎の正義の味方も
神の怒りも全て消えた。
「何の真似だ。
ヌヴィレット。」
怒り狂う神は歌劇場の席から下にいる者たちに話しかける。
その姿は普段と違い、恐ろしくも尊い、
圧倒的な元素力を放出し、神の恐ろしさを感じさせるものだった。
「フリーナ。」
だが、それがどうした。天高く飛べる龍の王よ。
玉座から追われた龍は僭主に牙を向け、
噛みつくことを忘れない。
「これは正当な裁判ではない。どんな理由があろうと、
死刑にすることはフォンテーヌの法を捻じ曲げる行為だ。 」
「私が法だ。
神とは完璧な存在であり絶対的な存在。
決して、間違えず
それこそが神だ。
はじめから完璧な存在なのだ。」
「残念ながら、個人の私情で変える法に価値はない。
法とは人々の意見に沿って行うべきものだ。
いくら神であっても法には従わなければならない。
もし従わないならば、私は君の敵となるだろう。」
▲◆▲◆▲◆▲
「君があの舞台を用意しなければ
私もメリュジーヌもフォンテーヌに認められなかっただろう。
感謝する。」
「私はあくまで、舞台を用意しただけだ。
実際に踊ったのはキミだ。」
誰にも神は止められない。
フォンテーヌの法が勝手に作りかえってしまっては大変だ。
だか、もし今後神が暴走してもヌヴィレットはそれを止めてくれる。
フォンテーヌの法はより強固となり、
ヌヴィレットは最早、フォンテーヌにおける必要不可欠な存在となる。
「だか、事前に教えてくれればもっと、上手くできたと思う。」
「嘘で人々の心を動かせるのは役者だけだ。
君は演技が下手すぎる。こうでもしなければ、民衆には響かないのさ。」
ポセイドンは立ち上がる。
「俺は神だ。演じることも感情移入することもできない。
役者としての才能は皆無だ。実に忌々しい。」
▲◆▲◆▲◆▲
部屋を出て、自室のペットで眠りについた。
フリーナは既に深い眠りにつき、
明日のために備え、英気を養う。
精神的な疲労と肉体的な疲労を緩和するために、
眠りは実に効率的な方法だ。
体の支配権をフリーナに譲り、
肉体は睡眠状態に移行した。
分霊を作り、意識を繋げた。
水で生み出した。
分身はフリーナを優しく撫でた。
俺はフリーナをよく知っている。
フリーナはメンツや立場を気にする見栄っ張りな性格で
お調子者の小物のようだか誰よりも強い子だ。
実際、水神としての役を演じることで、
人ではない孤独感、誰かに嘘がばれるのではないかという不安感、
そして嘘がばれて自分の立場がなくなる恐怖ではなく、
フォンテーヌ人が滅ぶ恐怖を感じている。
このようなプレーシャーを感じても
フリーナは泣き寝入りもせず、決して弱音を吐かなかった。
俺を不安にさせたくない気持ちだろうが、
俺はフリーナと融合したせいで、
常にフリーナの感情が滝のように押し寄せた。
決して、否定できない。
フリーナの気持ち。
『怖い、寂しい。
終わりが見えない。
いつまで、続けばいいの』
フリーナはもうとっくに限界だった。
そうだ。いくら、常人よりも精神が強かろうと限度がある。
融合したことでフリーナが考えていることや、
不安などがダイレクトに俺に伝わり、
この負の感情に心が折れそうだ。
人のための神。
それが、フリーナが演じた架空の神。
存在しないものをずっと演じるのは精神的に肉体的にも非常に負担がかかる。
いくら、俺の回復力でも疲労までは消えることはない。
できれば、変わりたい。
フリーナにはその気はなくても、
もっと、この子の力になりたいから。
だか、俺は人を愛せない。
人を愛する神を
人を愛せない俺には演じられない。
だからこそ、フォカロルスはフリーナに託したのだろう。
フリーナを救うためにはフォンテーヌを救えざる得ないと。
常軌を逸した執念と愛。
フォンテーヌ人への献身。
そのために、犠牲となる二人の馬鹿な妹。
許せない。
あいつらのために俺の妹が傷づくなんて。
もう、フリーナが泣くことを見たくない。
最初、俺はフリーナのことをフォカロルスの分身だと思っていた。
でも、一緒に生きていくうちにフリーナはフォカロルスではない、
フォカロルスとは別人でもう一人の妹として見える。
フォカロルスが覚悟したならば、
俺は止めようとしなかった。
でも、フリーナは違う。
フリーナにはフォンテーヌ人を守る覚悟があっても
フォンテーヌ人から罵られる覚悟はない。
フリーナの涙によってフォンテーヌ人の罪は浄化される。
はあ!?
貴様らのためにフリーナを泣かすのか。
俺はそれを、否定する。
フォンテーヌ人の滅亡は高まる。
知るか、フリーナの涙はフォンテーヌ人の命運よりも高い。
俺は分霊を操作して、
フォンテーヌから出る、
この世で最も賢い神、魔神ブエルに会うために
次回投稿5/27