【完結】とある水神の半身の神話創造 作:ネシエル
フリーナの事務室には静かな緊張感が漂っていた。
ヌヴィレットが扉を開けると、目の前には厳粛で豪奢な装飾が施された部屋の中央に、
フリーナが立っていた。
「フリーナ」
ヌヴィレットがその名を呼ぶ。
彼は百年前、フォンテーヌの歴史に名を残した偉大な芸術家たちが創り上げた、
黄金の扉をそっと閉じた。部屋の中には、夜の静寂が静かに流れていた。
フリーナは軽く微笑んで言った。
「随分と遅くに来たな、ヌヴィレット。」
「私の到着を予測できたということは、
すでに事件の全貌は把握しているのだろう。」
「そうだ」
フリーナは簡潔に答えた。
「諭示裁定カーディナルが、タルタリヤ殿を有罪と判定した。しかし、その判決は法の支配に基づいていない。法の下で誰もが平等であるべきだ。たとえ彼がファデュイの執行官であっても」
ヌヴィレットは続けて言った。
フリーナは眉をひそめ、冷静に言葉を返した。
「彼はかつて璃月を壊滅寸前にまで追い詰めた。あの経歴を見れば、
これで全て片付けるのが妥当だ。」
ヌヴィレットは再び反論しようとしたが、フリーナが静かに制した。
「くどいぞ、ヌヴィレット。君は法を変えることはできるが、
法そのものを変えることはできない。カーディナルの最終判決は、
最高審判官の私でさえも覆せない。これで話は終わりだ。」
そう言い切ると、フリーナは立ち上がり、部屋を出た。
廊下を歩きながら、彼女は低くつぶやいた。
「ファデュイとはいえ、彼に全く罪がないわけではない。
しかし、フォカロルス、やり方が少々強引すぎるぞ。」
▲■▲■
ヌヴィレットは一人、フリーナの事務室に残されていた。
やがて彼は立ち上がり、自分の事務室へ向かうためエレベーターに乗った。
彼の心には疑問が渦巻いていた。
「フリーナはなぜ、あのような言い方をしたのだ?以前の彼女なら、
外交関係も考慮して行動していたはずなのに、今はそれがない。」
そんな彼の思索に反して、エレベーターは静かに目的の階に到着し、扉が開いた。
そこには旅人とパイモンが立っていた。
「こんにちは!」とパイモンが元気よく挨拶する。
ヌヴィレットは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、
エレベーターを降りて二人に道を譲った。
旅人とパイモンがエレベーターの扉を閉めようとしたその瞬間、
ヌヴィレットはボタンを押してエレベーターを止めた。
「君たち」と、ヌヴィレットが声をかける。
「ひぃっ!」とパイモンが驚いた声を上げた。
旅人が落ち着いて尋ねた。「どうしましたか?」
「少し、時間をもらいたいのだ」
ヌヴィレットは申し訳なさそうに答えた。
▲■▲■
ヌヴィレットの事務室は、フリーナのそれとは対照的だった。
景色を楽しむ余裕はなく、過去の事件に関する膨大な資料が積み上げられていた。
彼は旅人とパイモンを招き入れ、共にお茶を楽しんだ。
「緊張しなくてもいい。遠慮せずに食べてくれ」と、ヌヴィレットはテーブルに並んだ菓子を勧めた。
旅人はそれを見つめながら、内心で思った。
『フリーナが出してくれた菓子に似ている…』
「なんで、オイラたちを呼んだの?」とパイモンが不思議そうに尋ねた。
「今朝の新聞を読んだか?スネージナヤの執行官が逮捕されたことだ」とヌヴィレットが説明を始めた。
「もちろん知っているぞ!タルタリヤが逮捕されたんだろう?あいつ、フォンテーヌでも何かやらかしたのか?」とパイモンが興奮気味に返す。
「いや、今回の事件にタルタリヤは無関係だということが証明された」とヌヴィレットは淡々と答えた。
「えっ!?」とパイモンは驚き、旅人も少し眉をひそめた。
「つまり、冤罪だということか?」と旅人が確認する。
「実質的には冤罪だろう。裁判と検証の結果、タルタリヤにはアリバイがあり、犯行が不可能だと結論付けられた。しかし、最終的には有罪とされた」とヌヴィレットは冷静に語った。
「それじゃあ、なんで有罪にしたんだ?判決はヌヴィレットが出すんじゃないのか?」とパイモンは不満げに問い詰める。
「厳密に言えば、私は裁判を進め、判決をカーディナルに伝える役割だ。最終判決は彼らが下すもので、たとえ私の判断と異なっても、その決定に従わなければならないのだ」とヌヴィレットは苦々しげに説明した。
「それじゃ、冤罪し放題じゃないか!」とパイモンが憤った。
「フリーナが作った法なんだろう?彼女に問い詰めればいいじゃないか」と旅人が提案した。
ヌヴィレットは小さく息をついて答えた。「私もそうしたが、彼女はうまくはぐらかした。君たちが彼女と親しいなら、何か理由を聞き出せるかもしれない。」
旅人は少し考えた後、頷いた。
「わかった。やってみる。」
▲■▲■
その頃、遠く離れた場所で、ポセイドンが薄く微笑みながら呟いていた。
「さて、もうそろそろかな」
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