【完結】とある水神の半身の神話創造 作:ネシエル
往日の海
蒼い海が広がっていた。太陽の光が海面を通して差し込み、その純潔な水はどこまでも透き通っていた。微かな光の粒が揺らめく中、原海アベラントが静かに漂っている。
その海の中で、旅人はゆっくりと目を覚ました。
「ここはいったい……」
水中にも関わらず、旅人の声は自分の耳に驚くほどはっきりと届いた。
本来ならば、水は空気の波動を抑え、音はくぐもるはずなのに。
「目が覚めたか」
背後からの声に、
旅人は驚いて振り返る。
「ヌヴィレット!? どうして、ここにいるの?
いや、違う。ここはどこ? パイモンとリネたちは無事なの?」
混乱した様子で、
旅人は一気に問いかける。
「落ち着け。彼らは大丈夫だ。
彼らに頼まれて私が来たのだ。
もう、心配しなくてもいい」
ヌヴィレットの落ち着いた声が、
旅人の心に少しだけ安堵をもたらす。
「そうか、ありがとう。
それで、ここはどこなの?」
旅人は辺りを見渡しながら訊ねた。
「ここは、往日の海という場所だ」
「往日の海……?」
聞きなれない名前に、
旅人は首をかしげる。
「ああ、私も聞いたことはあったが、
この目で見るのは初めてだ」
「どうして、ここが往日の海ってわかったの?」
「彼らから聞いたのだ」
ヌヴィレットが右手を差し出す方向に視線を向けると、
そこには蒼い鱗を持つ一匹の竜が静かに佇んでいた。
「ヴィシャップ!」
思わず声を上げる旅人。
「一体ではない。
ほかにも」
その言葉と同時に、
周囲の影から次々とヴィシャップが姿を現した。
数えるだけでも三十体はいるだろう。
「多い……」
旅人は息をのんだ。
ヌヴィレットはヴィシャップに向かって一言、
何かを告げると、ヴィシャップたちはすぐに首を振って去っていった。
彼の言葉には、彼らを従わせる力があるようだった。
「そういえば、けがはないか?」
「うん、大丈夫。
でも、私はどうしてここに……。確か、遺跡に……うっ……」
突然の頭痛に、旅人は頭を抱え込む。
「少し休もう。ちょうど、あそこに洞窟がある」
ヌヴィレットは心配そうに旅人を見つめ、
少し先にある洞窟を指さした。
▲▲
洞窟の中は、外の海とは違い、空気が通っていて呼吸ができた。
旅人はそこで深く息を整える。
「はあ……はあ……」
「大丈夫か?」
「うん……」
「いくら、ここの海水がフォンテーヌと同じ性質を持っていても、君
たち人間は本来、地上で暮らす生き物だ」
ヌヴィレットの言葉に、旅人は彼を見上げる。
「まるで、自分は人間じゃないみたいな言い方ね」
「そうだ」
ヌヴィレットはあっさりと肯定した。
その様子を見て、旅人はふとあることを思い出した。
フレミネが歌っていた、あの古い歌。
『水龍、水龍、泣かないで』
『フレミネ。なんだその歌』
『これは、昔、フォンテーヌに住んでいた龍に関する歌で、
雨が降るときに母様が唱えていたものだよ』
数秒の沈黙が流れた。
「ヌヴィレット、あなた、竜の言葉がわかるの?
いや、竜を従えることができるの?」
「そうだ」
短く答えるヌヴィレット。
「あなた、もしかして……」
「おおよそ、君が想像した通りだろう。
私もそこまで秘密にしていたわけではないが、
あまり周囲に言いふらさないように」
「そう……。私、確か機械竜と戦って、
それから……。あいつはどこに?」
「機械竜なら、君が倒したのではないか?」
「え……?」
ヌヴィレットの言葉に、旅人は目を丸くする。
「その様子だと、忘れているようだな。
私が駆け付けた時には、君と機械竜の戦いはもう決着がついていたそうだ」
「でも、私、記憶にない……」
旅人の顔には困惑が浮かんでいる。
「重度の記憶障害のようだな。私が来た頃には、
機械竜は最早ただの鉄くずに変わっていた」
「そうか……。じゃあ、どうしてここに来たの?」
「機械竜の残骸が発したエネルギーによって、
私たちがここへとワープしたのだ。
私もそれに巻き込まれた。
とにかく、一刻も早くここから脱出しよう」
次回投稿10/19日
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