【完結】とある水神の半身の神話創造   作:ネシエル

33 / 43



新 三十三話 往日の海

往日の海

蒼い海が広がっていた。太陽の光が海面を通して差し込み、その純潔な水はどこまでも透き通っていた。微かな光の粒が揺らめく中、原海アベラントが静かに漂っている。

 

その海の中で、旅人はゆっくりと目を覚ました。

 

「ここはいったい……」

 

 

水中にも関わらず、旅人の声は自分の耳に驚くほどはっきりと届いた。

 

 

本来ならば、水は空気の波動を抑え、音はくぐもるはずなのに。

 

「目が覚めたか」

 

背後からの声に、

旅人は驚いて振り返る。

 

「ヌヴィレット!? どうして、ここにいるの?

いや、違う。ここはどこ? パイモンとリネたちは無事なの?」

 

混乱した様子で、

旅人は一気に問いかける。

 

「落ち着け。彼らは大丈夫だ。

彼らに頼まれて私が来たのだ。

もう、心配しなくてもいい」

 

ヌヴィレットの落ち着いた声が、

旅人の心に少しだけ安堵をもたらす。

 

「そうか、ありがとう。

それで、ここはどこなの?」

 

旅人は辺りを見渡しながら訊ねた。

 

「ここは、往日の海という場所だ」

 

「往日の海……?」

 

聞きなれない名前に、

旅人は首をかしげる。

 

「ああ、私も聞いたことはあったが、

この目で見るのは初めてだ」

 

「どうして、ここが往日の海ってわかったの?」

 

「彼らから聞いたのだ」

 

ヌヴィレットが右手を差し出す方向に視線を向けると、

そこには蒼い鱗を持つ一匹の竜が静かに佇んでいた。

 

「ヴィシャップ!」

 

思わず声を上げる旅人。

 

「一体ではない。

ほかにも」

 

その言葉と同時に、

周囲の影から次々とヴィシャップが姿を現した。

 

数えるだけでも三十体はいるだろう。

 

「多い……」

 

旅人は息をのんだ。

 

ヌヴィレットはヴィシャップに向かって一言、

何かを告げると、ヴィシャップたちはすぐに首を振って去っていった。

彼の言葉には、彼らを従わせる力があるようだった。

 

「そういえば、けがはないか?」

 

「うん、大丈夫。

でも、私はどうしてここに……。確か、遺跡に……うっ……」

 

突然の頭痛に、旅人は頭を抱え込む。

 

「少し休もう。ちょうど、あそこに洞窟がある」

 

ヌヴィレットは心配そうに旅人を見つめ、

少し先にある洞窟を指さした。

 

▲▲

 

洞窟の中は、外の海とは違い、空気が通っていて呼吸ができた。

旅人はそこで深く息を整える。

 

「はあ……はあ……」

 

「大丈夫か?」

 

「うん……」

 

「いくら、ここの海水がフォンテーヌと同じ性質を持っていても、君

たち人間は本来、地上で暮らす生き物だ」

 

ヌヴィレットの言葉に、旅人は彼を見上げる。

 

「まるで、自分は人間じゃないみたいな言い方ね」

 

「そうだ」

 

ヌヴィレットはあっさりと肯定した。

 

その様子を見て、旅人はふとあることを思い出した。

フレミネが歌っていた、あの古い歌。

 

『水龍、水龍、泣かないで』

『フレミネ。なんだその歌』

『これは、昔、フォンテーヌに住んでいた龍に関する歌で、

雨が降るときに母様が唱えていたものだよ』

 

数秒の沈黙が流れた。

 

「ヌヴィレット、あなた、竜の言葉がわかるの?

いや、竜を従えることができるの?」

「そうだ」

 

短く答えるヌヴィレット。

 

「あなた、もしかして……」

 

「おおよそ、君が想像した通りだろう。

私もそこまで秘密にしていたわけではないが、

あまり周囲に言いふらさないように」

 

「そう……。私、確か機械竜と戦って、

それから……。あいつはどこに?」

 

「機械竜なら、君が倒したのではないか?」

 

「え……?」

 

ヌヴィレットの言葉に、旅人は目を丸くする。

 

「その様子だと、忘れているようだな。

私が駆け付けた時には、君と機械竜の戦いはもう決着がついていたそうだ」

 

「でも、私、記憶にない……」

 

旅人の顔には困惑が浮かんでいる。

 

「重度の記憶障害のようだな。私が来た頃には、

機械竜は最早ただの鉄くずに変わっていた」

 

「そうか……。じゃあ、どうしてここに来たの?」

 

「機械竜の残骸が発したエネルギーによって、

私たちがここへとワープしたのだ。

私もそれに巻き込まれた。

とにかく、一刻も早くここから脱出しよう」

 

 




次回投稿10/19日
少し、時間かかります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。