【完結】とある水神の半身の神話創造 作:ネシエル
ヌヴィレットが最高審判官に就いて早くも一週間が過ぎた。
人間ではない彼に仕事を任せてよいものかとポセイドンは心配したが、
その心配を覆すほど彼の仕事ぶりは凄かったとパレ・メルモニア内で評判だった。
本来、人が数時間をかけてやるものをわずか数十分で完成し、
一度で全てを覚え、完璧に業務をこなす。
百年間、パレ・メルモニアで様々な有能な人材を見てきたポセイドンは、
ヌヴィレットのあまりの有能さに目を見張るものがあった。
コネにより、当時のパレ・メルモニアの人々は不信感を抱いたが、
ヌヴィレットはそれを実力で塗りつぶした。
おかげで、ヌヴィレットの力は徐々に認められ、不満の声はほぼかき消された。
しかし、一部の者は不満を持っていた。貴族たちだ。
そもそも、審判官とは何だ。
ポセイドンが居た世界では主に行政機関や特定の機関に属し、
特定の分野や問題について調査を行い、その結果をもとに判断を下す存在だった。
簡単な例として、家庭裁判所の調停委員や労働委員会の審判官などが挙げられる。
しかし、この国の審判官は違う。
他国の審判官はどうなっているかは知らないが、
フォンテーヌの審判官は裁判官と政治家の両方の役割を果たしている。
法治国家にはありえない。三権分立を完全に侵害している制度だ。
審判官には貴族が多く、
その結果、腐敗が進み、しばしば貴族有利な不公平な判決が下されることもあった。
その際、カーディナルが証拠隠滅や改竄、
証拠不十分を理由に判決を却下することが多々あった。
大学の学費を下げ、平民の審判官になる比率が増えたが、
依然としてポセイドンは度々悩まされた。
ヌヴィレットが登場した気に一気に解決された。
というより、ヌヴィレットがあまりにも有能であったためというより、
ある貴族がポセイドンを怒らせて貴族全員解雇されたからだ。
また、解雇する正当な理由も大きいだろう。
審判官はこの国において政治を補う存在であり、
その最高審判官であるヌヴィレットは水神フォカロルスの次くらいに
権力を持つ事実上の№2である。
それを妬む者も多く、嫌がらせや暗殺を企てる者もいた。
ポセイドンはそれを調べ上げて貴族たちを破門したことが最たる理由だろう。
「決して、むかついたからではない」とポセイドンは言う。
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「私たちをここに住まわせてくれて、
ありがとうございます、フリーナ様。」
メリュジーヌの一人、カロレはフォンテーヌで生活することに
協力したフリーナに感謝をしていた。
「いや、僕ではなくヌヴィレットに言ってやって。
まあ、君たちも僕の子供、親戚みたいなものだし。」
捜査官としてお誂え向きの能力を持つためも理由もあるが、
最たる理由はヌヴィレットが最高審判官に就くためである。
「だから、何でも僕に頼ってくれて構わないよ。」
「本当ですか。実は今日も多くの人々が『帰れ』と
言いながら私たちに石を投げてくるのです。
純水精霊たちが守ってくれたから何とかなったのですが、それでも罵声が止まないのです。」
人間は自身の理解できないものを遠ざける習性がある。それは純水精霊から人間になったフォンテーヌ人にも受け継がれていた。原始胎海の擬態能力はその生物の感情、行動原理までも再現し、良い部分も悪い部分も再現される。
「そうか、護衛のためにもっと精霊をつけよう。
ポイントも増えると精霊たちも喜ぶだろう。」
「本当ですか。純水精霊たちはいつも優しくて、
でも、なんかいつも申し訳なさそうにしているけど。」
そりゃ、自分たちの同胞がやったことだし、
無関係ではないからね。とポセイドンは思った
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なぜ、純水精霊は人間に憧れるのか。
その理由は様々だが、簡潔に言えば羨ましいからだ。
「彼らが生み出した物語には価値がある。
心がある。感動がある。ロマンがある。僕は求めた人間だよ、ポセイドン。」
ある者は王になり、ある者は邪悪な魔物を倒し、お姫様と結婚する。
精霊たちは人間のことをずっと見てきて感情移入し、
そしていつからか観客ではなく主人公になろうとした。
それがフォンテーヌ人の誕生理由だ。
最初は人間を真似した。姿を型取り、投射した。見た目は完全な人間だった。しかし、主人公にはなれなかった。当たり前だ、人が文明を作ることも人を助けることも不完全だからこそ成し得ることだ。
精霊は個として完成された存在。故にどれだけ姿を形取ろうと人にはなれない。完成されたからこそ、価値観が違う。
差別がわからない。対象理解の不足によって起こることは、元々、つながっている純水精霊にはない。
財産を欲することがわからない。人間の欲望が時には不合理であり、理性を超えたものがある。それが純水精霊にとって不思議なものであった。
それを手に入れるにしてもできない。人間が持たないものや手に入れられないものを欲する感情は持ち合わせているにも関わらず、人にはなれない。
その願いはやがて大きくなり、大いなる母に届くまで大きくなった。
次回投稿5/20日
遅れてすみませんでした。
いつも、忙しく。
だけど、未完成のまま皆さんに見せるわけにはいかないため遅れました。
大変申し訳ございません。