【完結】とある水神の半身の神話創造   作:ネシエル

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第八話 暴言

「調子はどうだ、ヌヴィレット。」

 

山のように積もった書類を机に置き、椅子に座る少女。

 

パレの最上階の席に座り、この国の神、水神フリーナ。

 

彼女は仕事をしているときは普段の状態とは裏腹にほとんど無表情で、機械のように業務をこなす。

 

普段の自己顕示欲が強く、子供っぽい性格とのギャップには公私ともに完璧だとヌヴィレットは驚いた。

 

「ああ、仕事のほうは順調だ。最初は少々手間取ったが、今はもう大分慣れてきた。」

 

ほとんどストレスはなく、無駄な会話はない。

 

普段からこの状態を維持していればいいだろうと微かに思えた。

 

「それは、よかった。」

 

ポセイドンはいつもフリーナの体を使って、業務をしているときに意識を眠らせている。これは、肉体的な疲労よりも精神的な疲労を癒すための処置だ。

 

フォンテーヌを救うという使命を背負った重圧感、いつ嘘がばれるかもしれない不安感から常にプレッシャーにさらされている状態だ。

 

この状態が続いて早百年。人間の寿命の限界を超える時間によってフリーナの精神は限界に近付いている。いや、もう限界はとっくに過ぎている。

 

自分は人間ではない社会からの孤立感、いつ終わりの見えない演奏による絶望感。融合しているが故に彼女への感情移入は文字通り感情はポセイドンに流れてくる。

 

今まで限界が起きていないのが奇跡だ。あるいは、もうとっくに限界を……。

 

「純水精霊たちのおかげでメリュジーヌは以前よりもだいぶ住みやすくなった。しかし、依然として厳しい状況に置かれているのは変わらない。」

 

「こればかりは私にはどうしようもできない。法改正と注意勧告をしたが、依然としてメリュジーヌに対する嫌がらせはなくならない。今でこそ、徐々に無くなっている。それは単に無視するようになっただけだ。時間とメリュジーヌたちの努力、そして君がどこまで法に忠実なのかがポイントだ。」

 

「わかった。」

 

「あと最近、貴族たちの動きが怪しい。先月の暗殺事件以来、貴族の動きは妙に活発化している。くれぐれも注意しろ。」

 

▲■▲■▲■▲

 

『よく寝たか、フリーナ。』

 

業務は終わり、フリーナの意識を覚醒させ歌劇場に向かう。道中で遭遇した人々と接触し神を身近な存在として認識してもらい、親近感をアップさせるためである。

 

『うぅ、もうちょっと……』

 

『あと、もうすぐ歌劇場だ。裁判の視察が終われば、君が好きだったケーキを買いに行こう。』

 

「本当!ありがとう。」

 

▲◆▲◆▲◆▲

 

「こんにちは!メリュジーヌのカロレです。何か手伝えることはありますか?」

 

最初は巡視をやって、困っている人を助けようとした。そうすれば、みんなから認められると思ったからだ。

 

「化け物は離れろ。汚らわしい!」

 

「こんな正体不明な生物をフォンテーヌ廷に住まわせるなんて、フリーナ様は何を考えているかしら。」

 

「それだけじゃないぞ。あのヌヴィレットとやらのどこかも知らない。馬の骨に審判官どころか、最高審判官の座を明け渡し、裁判もさせるなんて、コネ以外にありえない。」

 

「さっさと失せろ。」

 

『警告、それ以上の暴言は名誉毀損罪に当たります。』

 

「純水精霊も味方につけるなんて、これは、コネ以外にありえないわ。」

 

「下手に宣伝しないで言っただろう。」

 

「ヴォートラン?」

 

「君たち、根も葉もないことを言わないほうがいい、これ以上彼女たちのことを侮辱すると君たちを連行しなければならない。」

 

「チッ、特務隊の隊長がメリュジーヌの肩を持つなんて、ヌヴィレットがいじくった保安組織は、もう完全に腐りきってるらしい。こんなやつらをフォンテーヌに招くなんてフリーナ様の目は腐っているわ。」

 

「誰の目が腐っているって?」

 

「え?」

 

後ろに向き、聞き覚えのある声のほうに向く。

 

「フ、フリーナ様……」

 

「もう一度聞く、誰が腐っているって。」

 

誰も見ていないから、好き勝手言ったらまさかの本人。流石に動揺をしたようだ。

 

「も、申し訳ございません。」

 

「あ、遊び心で。」

 

「遊び心で人を侮辱したのか。君たちはいくら僕が温厚な神だからといって限度があるでしょう。さて、聞こう。僕の判断は間違っているということかね?」

 

フリーナの冷徹な声が響き渡る。

 

「そ、それはいったい……」

 

「メリュジーヌを雇い、彼女たちの能力を駆使して今まで音沙汰されていない事件が発覚し、事件解決を導いた。僕の判断は間違っているのか。」

 

「しかし、証拠隠滅や改竄の可能性も……。」

 

「証拠は?」

 

「証拠は……ヌヴィレットが隠したかも。」

 

「ヌヴィレットはずっと僕と一緒に居た。彼が不正するなら僕は必ず気付く。まさか、僕が不正をしているのか。」

 

「いいえ、違います。」

 

「そうね。ない。ヌヴィレットが不正した事実もメリュジーヌの不正した事実もない以上、意味のない告発はするな。今回は見逃すが、次やったとき君たちは要塞行きになるよ。」

 

▲◆▲◆▲◆▲

 

「ありがとうございます、フリーナ様。」

 

「いや、僕ではなくヴォートランに言ってくれ。僕は神として当たり前のことをしただけさ。」

 

「私からもありがとうございます。フリーナ様。」

 

『フリーナ様。ありがとうございます。』

 

「やはり、メリュジーヌに対する偏見は尽きないのか。」

 

「はい、法改正によって少しはましになったのですが、依然ネガティブな噂は絶えません。一部ではメリュジーヌは災厄から生まれてきた、生まれながらにして災害と巷では噂になっています。」

 

事実、メリュジーヌはフォンテーヌを襲った巨獣エリナスから生まれてきた存在だ。故に、メリュジーヌへの偏見は恐ろしいほど根強い。

 

これは、フォンテーヌ人が純水精霊のころに住処が汚染された恐怖を転生しても根強く残った結果だろうとポセイドンは考察している。

 

「そうか、カロレ。大丈夫か。」

 

「大丈夫です。ヌヴィレット様は仰っていました。私たちにはまだ、時間も努力も必要だって。私にはどれほど必要なのかわかりませんが、できるところまでやってみたいです。」

 

厄災の痕が残り、それでも彼女たちは抗っていく。まるで、100年前の彼の思いに応えるかのように。

 

 




次回投稿5/22日

コソコソ話
フリーナに入れ替わったとき目の模様が左右反対になる。これは、ポセイドンの瞳の向きと同じ。




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