星空の魔法少女   作:ヒィーィジヤロラルリーロロロー

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必要なエピソードを消化しようとしたら二万字近く行ってしまった…
とりあえず半分に切って一度出しちゃえ

後から残りの部分も出すとしよう

本当は1エピソード2話完結にしたかったんだが、創作とは斯くもままならないもので



黒い壁

 

駆ける駆ける人の波掻き分け駆ける。

惜しい惜しい一分一秒が惜しい。

 

 

「マイアさん!ここです!この道が神社の裏手から高台まで繋がっている道です!」

「りょーかい!……確かにこっちから少し気配がするかも!」

 

境内で最も奥に位置する本殿の右手側。そこから山の上へと続くこの道こそが高台へと続く道であり、裏手側へと抜ける唯一の道である。

 

今回の夢界は祭り会場という人が多く集まる場所のほど近くに発生してしまった以上、時間が経てば経つほど一般人が巻き込まれる可能性が上昇していく危険な状態だ。

今は一刻も早く発見しヌシを撃滅しなければならない。

 

念のために靴だけは女の姿に変身すると着ているワンピースとセットで付いてきた…なんだっけ、ローファー?で良かった。

マイアは浴衣着たなら下駄も履いて欲しいと言っていたし、実際に今の彼女は颯爽と下駄で走っているのだが。

……なんで下駄履いてるのに普通の靴の俺より早いんだろう。

 

 

「気配はこの辺りだと思う!スバルちゃん手分けして探そ!アタシは右手側見てくる!」

「分かりました!じゃあ俺は左手側を!」

 

高台へと続く唯一のこの道。石畳が敷かれ道自体は整備はされているが左右に広がるのは雑木林で見通しは良くない。

少なくとも道の真ん中に発生したわけではなさそうで安心はしたがまだ油断はできない。

マイアが近いと言っている以上、道から木一本隔てたすぐ傍に発生している可能性も有る。

 

 

「クソッ急がないと…一体どこに……」

 

俺も夢界の気配とかいうのが分かれば良いのだが、生憎な事にさっぱりである。

コツとか有るのかとマイアに来てみたのだが、彼女は魔法使いになった瞬間に間隔で理解したらしく全く参考にならなかった。

俺も「ムッ!?コレは…夢界の気配!」とか言ってみたかった……。

 

とりあえず道に沿って一通り見て回るが見当たらない。

ダメもとで木の上にでも登ろうか、それとももっと奥に行くべきか────

 

「スバルちゃーん!見つけたー!」

 

残念なことにどうやらこちらはハズレだったようだ。

とりあえず、早くマイアと合流しよう。

 

 

「お待たせしました!」

「あっスバルちゃん!こっちこっち!」

 

一度道まで戻って今度は反対の林へ入ればすぐにマイアの後ろ姿を見つけることができた。

しかし、何やら様子がおかしい。彼女は夢界の入り口である渦を前にしてしゃがみ込んでいたのだ。そこに何か有るのだろうか?

 

 

「……何かありました?」

「これ見て。…ちょっと不味いかも」

 

そう言って指さす彼女の視線の先には()()()()()()()()()()()()()()()人の足跡らしきものが地面に残っていた

これはまさか────

 

 

「もう誰か夢界に誰か入っちゃってるかも……」

 

恐れていた事が起きてしまった。

思わず天を仰ぐが、木々の枝葉が邪魔して隠れ夜空の星も見通すことができない。

 

「……とりあえず、テレーズには被巻き込まれた人が居るかもって連絡して!」

「了解です!……よし。今メールで送りました!」

「おーけー!それじゃあ、これ以上被害が出る前にサクッと解決するよ!」

「はい!」

 

頷き合って二人渦へと飛び込んだ。

 

 

 

落ち着かないような不愉快な感覚とどこか不安を煽る気配。

生き物の気配を感じない、どこか不気味な印象を与える木々。

 

────渦から出た先は先ほどと同じく林の中。

 

「さぁて…ヌシは何所かな~」

 

俺の後に渦から出てきたマイアは風景を軽く見まわしながらもヌシの気配を探っている様だ。

 

「後ろの道が無くなってる。林の中に出たのかな?ちょっとだけ空間が歪んでるのかも」

「厄介ですね……。とりあえず、迷い込んだ人が居ないか探しましょ────」

「イヤァァァァァ!!」

 

空間を裂くように恐怖に塗れた叫び声が木霊する。

一足遅かったか……!

 

「行くよスバルちゃん!」

 

悲鳴の発生源へと向かって走る。

すると程なくして林から抜け出て開けた場所に出た。

靴越しに感じる玉砂利の間隔。大きな鳥居と塀で囲まれた木造の建築物。

ここは……先程まで俺たちが居た神社、その広場だろうか。

 

その中央で倒れ伏す浴衣姿の女性と男性の二人組。そして彼らを見下ろすように立つ黒い人型。

 

2メートルほどの背丈。腕を下ろしていると地面に付くのではないかと思うほど大きな袖に長い裾を持つ白を基調とした和装。

腰には刀の様な物を差し。頭上には冠を持つ。中でも最も特徴的で目を引くの()()()()()()()()()だろうか。

あの恰好、神楽舞でもするのだろうか?

ううむ……見た目だけじゃあ核になった願いは予測できない。

 

 

「……スバルちゃん。アタシが先に突撃してヌシの気を引くからその隙に倒れた人たちをお願い。これ以上ヌシに襲われることは無いけど、巻き込まれたら危ないからね」

「分かりました。……気を付けてくださいね」

「りょーかい!ぞれじゃあ、そっちはお願いね!」

 

 

その言葉の後、駆け出したマイアは浴衣姿から【ビヨンドザ・スカイ】へ姿を変え、直健【ホライズン】を携えて砲弾の如き速度でヌシへと肉薄する。

ヌシは突如として意識外から現れた外敵を迎撃するべく腰に差した刀の抜き放ち、振るわれたその剣を刀身でもって受け止めた。

 

「ぐぬぬぬ……お…重い……ッ!」

 

鍔迫り合いは始めマイアが押している様に思えたが、ヌシが体勢を立て直すに連れてその尋常ならざる膂力を持ってゆっくりと劣勢へと押し込まれていく。

 

「スバルちゃん…い、今のうちに…そこの人達を……」

「今、到着しました!もうちょっとだけ耐えてください…!」

 

マイアの邪魔にならない様、少し遅れるように駆け出しながら【スタリィ・ナイト】へと変身した俺は滑り込むように倒れた人たちの傍へと辿り着いた。

医者ではないので詳しい所までは分からない。

……見たところ気を失っているだけで呼吸も問題なさそうだ。

 

これがテレーズの言っていたヌシには願いや想い…すなわち【】魔力無理矢理引きずり出されたショックで起きる昏睡状態だろう。

ここに倒れたままでは戦いの余波で危険だ。ひとまず二人を抱えてヌシから離れるとしよう。

 

 

「倒れていた人の移動終わりました!……て、うわぁっ!」

 

倒れていた人を比較的安全な後方の木に寄りかかる様に下ろし、それを伝えるべく単身ヌシを抑えてくれている方を見れば、こちらへ飛んでくる赤と空色のシルエット。

途中で落下しゴロゴロと転がって来たそのシルエットの正体は【ビヨンドザ・スカイ】だった。

 

「だ…大丈夫ですか!?」

 

結構な勢いだったが無事なのだろうか…そう思い倒れ伏す彼女の元へと急ぎ駆け寄る。

 

「……ハッ!つ…つよーい!もう二人分も魔力吸ってるからパワーアップしてるー!」

「うわぁッびっくりしたぁ!」

 

どうやら鍔迫り合いの末にパワー負けして吹き飛ばされたらしい。

ひとまずは無事で安心したが、まさか近接戦闘で彼女がパワー負けするとは……。

 

「そういえば、さっき魔力吸ってーとか言ってましたけど、あれはいったい?」

「あれ?教えて貰ってなかった?ヌシの強さは夢界の集めた魔力量と比例してるの。だから出来て時間が経ってたり人から魔力を奪ったりした夢界のヌシはその分強くなっちゃう」

 

なるほど…夢界とヌシは切っても切れぬ関係。夢界が魔力を集めて成長するなら当然ヌシも強くなるのか。

 

「テレーズが言ってたんだけど、なんでも一人分の魔力を吸うだけで3日分は夢界が成長するんだって」

「……一日分がどれ位かわかりませんが、二人吸われて六日分成長してるってだいぶ不味くないです?」

「うーんかなり不味いかも……でも二人掛かりで行けばまだ何とかなるかも!」

 

……確かに今回のヌシは武器は手に持った刀だけで、未だに前回の魚の様に遠距離攻撃をしてこない。

スカイが前衛としてヌシを抑えている間に俺が【トワイライト・スーパーノヴァ】を当てれば勝機は有るだろうが……うまくいくのだろうか?

 

「ヨシ!もう一回アタシが突っ込んでヌシの動きを止めるから、その隙にスバルちゃんが大技をぶつける作戦で行こう!」

「了解です。ただ…何か嫌な予感がします。……気を付けてくださいね」

「りょーかい!それじゃあせーので行くよ!」

 

 

スカイが全身から魔力を放出し【ホライズン】を構える。

俺も彼女を支援しながら確実にチャンスをものにすべく杖へと魔力を集中していく。

 

【準備はおーけー?行くよ!せーのぉっ!】

 

残像の様にリボンをはためかせもう一度ヌシの正面へとスカイが躍り出る。

先ほどの鍔迫り合いで力比べは不利と判断したのか彼女が選択したのは剣戟であった。

 

頭二つ分は大きな相手に懐へと潜り込み、右へ左へ縦横無尽に剣を振るいヌシに反撃の隙すら与えない。

人型をしているヌシはその体格ゆえに懐まで入り込まれれば刀をうまく振るうこともパワー勝負に持ち込むこともできず防戦一方である。

 

そうして完全に劣勢となったヌシは破れかぶれに真上からの叩きつけるような大上段で状況の打破を選択した。

振り下ろされた凶刃がスカイを両断するように迫る。

 

「────それを待ってたよ!」

 

しかして、その刃がスカイに触れることは無い。

完全に見切ったうえでヒラリと躱し、返しに振り切られた刀身を──思いっきり上から踏みつけた。

予期せぬ方向から刀へと急に力が加わって、それは持ち主のヌシまで伝わった。

 

「キッツいの行くよぉー!」」

 

グンと下方向へと体を引かれるヌシの横っ腹に、遠心力を乗せて振り切られた横一閃が突き刺さる。

下方向への力と横方向からの斬撃ででヌシは大きく体勢を崩す。

それこそがスカイの狙いである。

 

 

「スバルちゃん!」

「────この瞬間を待ってました!」

 

体勢を崩し未だ立ち直れていないヌシへと杖の先端を向けて構える。

事前に高めていた分も有り魔力は十分。後は一撃でヌシを粉砕する威力が有ればそれでいい。

 

 

「はぁぁぁぁ……コレで決める!【トワイライト・スーパーノグァッ!?」

 

────無防備な背後からの衝撃。

発射の寸前で霧散する魔力。衝撃で前へと押し飛ばされる体。

 

何が起きた?

分からない。ヌシは目の前に居て今もスカイが抑えている。

せめて何が起きたかを把握しなければ────

 

地面に倒れ込むまでの刹那のひと時。無理やりに体をひねり、背後に有る筈の原因をこの目で捉える────

 

「────は?」

 

────見えたのは黒い人型。手には振り切られた長い棒状の物体。

そしてその頭部には()()()

 

「うわぁぁぁ!なにこれなにこれ!?スバルちゃーん!!」

 

ヌシを抑えている筈のスカイが悲鳴を上げる。

 

天に輝く偽りの月。照らされたヌシの足元から伸びる影から湧き出る黒い人型。

 

今も続々と這い出て来るヒトガタは、外敵を排除せんと襲い掛かる。

身の危険を感じ、思わずヌシを拘束していた手を放したスカイ。

四方から殺到するヒトガタ達を【ホライズン】で次々と切り伏せていくが、物量に押されどんどんと劣勢になっていく。

 

数的優位というアドバンテージの喪失。

不意打ちによる作戦の瓦解。

黒い人型達が今もヌシの影から湧き出し続けているこの状況、非常にマズイ。

 

 

「どうしようスバルちゃん…これじゃヌシに近づけないよぉ」

「ここは撤退した方が良いかもしれないですね……」

「そうだね……これはアタシたちだけじゃちょっと厳しいかも…」

 

ヌシが呼び出した黒い人型はもはや壁の様。

出入り口の渦はここからは少し距離が有るが、今ならまだ撤退は可能だろう。

外に出たらテレーズに状況を説明して何か対策を────

 

 

「な、なんなんですのこの場所は!?わたくし先ほどまで林に居た筈では……」

 

この場には不釣り合いな声に。

この場に居た者全てが一斉に反応する。

声は俺たちの背後、夢界と現実を繋ぐ渦が有る林の方から。

 

そこに居たのは、不安げに揺れる漆黒の髪に仕立ての良さそうな衣服を纏う少女────

【金時 アトラ】だった

 

「これはいったいどういう……それに、あなた方は……」

「……ヤバッ!アトラちゃん逃げて!」

 

────空気が一変する。

黒いヒトガタの群れが動きを変える。

まるで黒い波の様なその群れは俺とスカイ()()()()()()()、新たなる生贄を得んとすべく声の方へと殺到する。

 

「スバルちゃん!ここはアタシが何とかするからアトラちゃんを!」

「分かりました!」

 

【ホライズン】を構え、一人ヒトガタの群れへと突撃するスカイに背を向けて全力でアトラの元へと駆ける────

 

「あ、あなたは……スバル様?その姿はいったい何なのですの……?それに後ろのアレはいったい……?」

「その話は後でする!今は逃げるぞ!」

「は…はい?もう少し説明を!」

「それも後だ!今は走れ!」

 

スカイの大立ち回りによって大半のヒトガタはそちらに釘付けだが、それでも抜けてこちらに来る数は多い。

今は何としてもアトラを安全な場所へと連れて行かなければ。

出口は……ダメか。既に先回りされてる。

ひとまずは林の奥へ逃げて打開策を練るしかないか。

 

先に襲われていた二人の男女もここには置いて行けない。

アトラには自分で走ってもらうとして、その二人は俺が抱えていくしかない。

 

 

「はぁ…はぁぁ…なんとか振り切ったか?」

「……うぅ。なんだってわたくしがこんな目に……」

 

あれから数分。俺たちはなんとか追跡を振り切って、今は木の陰にしゃがみ込んで身を潜めている。

奴らの足はそこまで早くなく、動きも単調で助かった。

……しかし、ここからどうするか。

スカイは未だ敵の群れの中。俺は戦えないアトラと気を失った二人を抱えていて動けない。

非常に不味い状況になってしまった……。

どうする?どうすればいいんだ?なんとかしなければ────

 

「いい加減説明をしてくださいまし!気味の悪い場所によくわからないバケモノ、それにお二人のその恰好!いったい何が起こっていますの!」

 

限界を迎えたアトラの声で深く沈んでいた思考が一気に浮上する。

そうか。今一番不安なのは彼女だ。何も分からずに巻き込まれてよく分からないバケモノに追われている。

 

「────分かった。全部話す。荒唐無稽かもしれないが……それでも信じてくれるか?」

「こんな状況ですのよ?荒唐無稽な話など、それこそ今更ですわ。──えぇ。何を言われようと信じると誓いますわ」

「……そうか。ならば全てを放そう。少し長くなるぞ────」

 

 

そうして俺は語り始めた。

日常の裏に潜む悪夢……夢界現象とヌシの脅威。

そして、人知れず悪夢を払う者……俺たち魔法使いとは何者でその役割を。

知る限り教えられる限りの全てを話した。まっすぐにこちらを見つめる彼女の誓いに報いる為に。

 

「────そう、ですか。確かに、聞けば聞くほど信じがたいですわね。……ですが信じますわ」

「信じてくれるのか?正直、自分でもだいぶとんでもないこと言ってる自覚が有るのだが……」

「もちろんですわ。だって…スバル様の瞳に噓は無かった、と、わたくしはそう感じましたもの。ですので────」

 

喋りながらも徐にアトラは立ち上がりこちらの瞳をまっすぐに見据えた。

 

「────()()()()()()()()()()

「────は?」

 

宣言するアトラの顔にはありありと自信が満ちていた。

 

 

「魔法使いに最も重要なのは強い想いでしたわね?」

「あ……あぁ。そうだ」

「でしたら問題ありませんわね。……わたくしにも夢は有ります。己に誓い刻んだ想いだって」

 

この状況でありながら強い意志を持ち、自然体で立つ彼女の周囲に薄らと魔力が収束しているのを感じる。

 

「────それにこのわたくしを誰だと思ってまして?世界に名高き金時グループその正統なる後継者たる一人娘!やってやれない事などありませんわ!」

 

どんどんと密度を増す魔力はいつしか指向性を持ち渦巻く様にアトラの衣服を揺らす。

 

「これが……魔力?なのでしょうか?ふふっ……これなら行けそうですわね!それではスバル様!刮目してごらんなさいまし!────わたくし【金時 アトラ】ショウタイムでしてよ!」

 

高まり続ける魔力は黄金色に輝きよってアトラの体を包み込む、その光量は薄暗い夢界の空をももはや目を開けていることすら難しいほどだ。

 

 

「────わたくしの願い。それは【震撼】いつの日かわたくしの力で世界を揺るがすこと!」

 

纏う衣服は宙へと溶けていきその端から新たに魔力で編まれた衣装が彼の肢体を飾る。

 

「────わたくしが誓った想いは【守護】 信じ付いて来てくれた部下を。言の葉を交わした友を。そして富める者、持つ者の義務として無辜の民草を守りたいと!」

 

熟れた果実の橙色、深く高貴な赤。サテンで織られた衣に繊細な刺繡を施して、フィッシュテールのスカートですらっと伸びるその足を。かた掻き分け駆ける。

惜しい惜しい一分一秒が惜しい。

 

 

「マイアさん!ここです!この道が神社の裏手から高台まで繋がっている道です!」

「りょーかい!……確かにこっちから少し気配がするかも!」

 

境内で最も奥に位置する本殿の右手側。そこから山の上へと続くこの道こそが高台へと続く道であり、裏手側へと抜ける唯一の道である。

 

今回の夢界は祭り会場という人が多く集まる場所のほど近くに発生してしまった以上、時間が経てば経つほど一般人が巻き込まれる可能性が上昇していく危険な状態だ。

今は一刻も早く発見しヌシを撃滅しなければならない。

 

念のために靴だけは女の姿に変身すると着ているワンピースとセットで付いてきた…なんだっけ、ローファー?で良かった。

マイアは浴衣着たなら下駄も履いて欲しいと言っていたし、実際に今の彼女は颯爽と下駄で走っているのだが。

……なんで下駄履いてるのに普通の靴の俺より早いんだろう。

 

 

「気配はこの辺りだと思う!スバルちゃん手分けして探そ!アタシは右手側見てくる!」

「分かりました!じゃあ俺は左手側を!」

 

高台へと続く唯一のこの道。石畳が敷かれ道自体は整備はされているが左右に広がるのは雑木林で見通しは良くない。

少なくとも道の真ん中に発生したわけではなさそうで安心はしたがまだ油断はできない。

マイアが近いと言っている以上、道から木一本隔てたすぐ傍に発生している可能性も有る。

 

 

「クソッ急がないと…一体どこに……」

 

俺も夢界の気配とかいうのが分かれば良いのだが、生憎な事にさっぱりである。

コツとか有るのかとマイアに来てみたのだが、彼女は魔法使いになった瞬間に間隔で理解したらしく全く参考にならなかった。

俺も「ムッ!?コレは…夢界の気配!」とか言ってみたかった……。

 

とりあえず道に沿って一通り見て回るが見当たらない。

ダメもとで木の上にでも登ろうか、それとももっと奥に行くべきか────

 

「スバルちゃーん!見つけたー!」

 

残念なことにどうやらこちらはハズレだったようだ。

とりあえず、早くマイアと合流しよう。

 

 

「お待たせしました!」

「あっスバルちゃん!こっちこっち!」

 

一度道まで戻って今度は反対の林へ入ればすぐにマイアの後ろ姿を見つけることができた。

しかし、何やら様子がおかしい。彼女は夢界の入り口である渦を前にしてしゃがみ込んでいたのだ。そこに何か有るのだろうか?

 

 

「……何かありました?」

「これ見て。…ちょっと不味いかも」

 

そう言って指さす彼女の視線の先には()()()()()()()()()()()()()()()人の足跡らしきものが地面に残っていた

これはまさか────

 

 

「もう誰か夢界に誰か入っちゃってるかも……」

 

恐れていた事が起きてしまった。

思わず天を仰ぐが、木々の枝葉が邪魔して隠れ夜空の星も見通すことができない。

 

「……とりあえず、テレーズには被巻き込まれた人が居るかもって連絡して!」

「了解です!……よし。今メールで送りました!」

「おーけー!それじゃあ、これ以上被害が出る前にサクッと解決するよ!」

「はい!」

 

頷き合って二人渦へと飛び込んだ。

 

 

 

落ち着かないような不愉快な感覚とどこか不安を煽る気配。

生き物の気配を感じない、どこか不気味な印象を与える木々。

 

────渦から出た先は先ほどと同じく林の中。

 

「さぁて…ヌシは何所かな~」

 

俺の後に渦から出てきたマイアは風景を軽く見まわしながらもヌシの気配を探っている様だ。

 

「後ろの道が無くなってる。林の中に出たのかな?ちょっとだけ空間が歪んでるのかも」

「厄介ですね……。とりあえず、迷い込んだ人が居ないか探しましょ────」

「イヤァァァァァ!!」

 

空間を裂くように恐怖に塗れた叫び声が木霊する。

一足遅かったか……!

 

「行くよスバルちゃん!」

 

悲鳴の発生源へと向かって走る。

すると程なくして林から抜け出て開けた場所に出た。

靴越しに感じる玉砂利の間隔。大きな鳥居と塀で囲まれた木造の建築物。

ここは……先程まで俺たちが居た神社、その広場だろうか。

 

その中央で倒れ伏す浴衣姿の女性と男性の二人組。そして彼らを見下ろすように立つ黒い人型。

 

2メートルほどの背丈。腕を下ろしていると地面に付くのではないかと思うほど大きな袖に長い裾を持つ白を基調とした和装。

腰には刀の様な物を差し。頭上には冠を持つ。中でも最も特徴的で目を引くの()()()()()()()()()だろうか。

あの恰好、神楽舞でもするのだろうか?

ううむ……見た目だけじゃあ核になった願いは予測できない。

 

 

「……スバルちゃん。アタシが先に突撃してヌシの気を引くからその隙に倒れた人たちをお願い。これ以上ヌシに襲われることは無いけど、巻き込まれたら危ないからね」

「分かりました。……気を付けてくださいね」

「りょーかい!ぞれじゃあ、そっちはお願いね!」

 

 

その言葉の後、駆け出したマイアは浴衣姿から【ビヨンドザ・スカイ】へ姿を変え、直健【ホライズン】を携えて砲弾の如き速度でヌシへと肉薄する。

ヌシは突如として意識外から現れた外敵を迎撃するべく腰に差した刀の抜き放ち、振るわれたその剣を刀身でもって受け止めた。

 

「ぐぬぬぬ……お…重い……ッ!」

 

鍔迫り合いは始めマイアが押している様に思えたが、ヌシが体勢を立て直すに連れてその尋常ならざる膂力を持ってゆっくりと劣勢へと押し込まれていく。

 

「スバルちゃん…い、今のうちに…そこの人達を……」

「今、到着しました!もうちょっとだけ耐えてください…!」

 

マイアの邪魔にならない様、少し遅れるように駆け出しながら【スタリィ・ナイト】へと変身した俺は滑り込むように倒れた人たちの傍へと辿り着いた。

医者ではないので詳しい所までは分からない。

……見たところ気を失っているだけで呼吸も問題なさそうだ。

 

これがテレーズの言っていたヌシには願いや想い…すなわち【】魔力無理矢理引きずり出されたショックで起きる昏睡状態だろう。

ここに倒れたままでは戦いの余波で危険だ。ひとまず二人を抱えてヌシから離れるとしよう。

 

 

「倒れていた人の移動終わりました!……て、うわぁっ!」

 

倒れていた人を比較的安全な後方の木に寄りかかる様に下ろし、それを伝えるべく単身ヌシを抑えてくれている方を見れば、こちらへ飛んでくる赤と空色のシルエット。

途中で落下しゴロゴロと転がって来たそのシルエットの正体は【ビヨンドザ・スカイ】だった。

 

「だ…大丈夫ですか!?」

 

結構な勢いだったが無事なのだろうか…そう思い倒れ伏す彼女の元へと急ぎ駆け寄る。

 

「……ハッ!つ…つよーい!もう二人分も魔力吸ってるからパワーアップしてるー!」

「うわぁッびっくりしたぁ!」

 

どうやら鍔迫り合いの末にパワー負けして吹き飛ばされたらしい。

ひとまずは無事で安心したが、まさか近接戦闘で彼女がパワー負けするとは……。

 

「そういえば、さっき魔力吸ってーとか言ってましたけど、あれはいったい?」

「あれ?教えて貰ってなかった?ヌシの強さは夢界の集めた魔力量と比例してるの。だから出来て時間が経ってたり人から魔力を奪ったりした夢界のヌシはその分強くなっちゃう」

 

なるほど…夢界とヌシは切っても切れぬ関係。夢界が魔力を集めて成長するなら当然ヌシも強くなるのか。

 

「テレーズが言ってたんだけど、なんでも一人分の魔力を吸うだけで3日分は夢界が成長するんだって」

「……一日分がどれ位かわかりませんが、二人吸われて六日分成長してるってだいぶ不味くないです?」

「うーんかなり不味いかも……でも二人掛かりで行けばまだ何とかなるかも!」

 

……確かに今回のヌシは武器は手に持った刀だけで、未だに前回の魚の様に遠距離攻撃をしてこない。

スカイが前衛としてヌシを抑えている間に俺が【トワイライト・スーパーノヴァ】を当てれば勝機は有るだろうが……うまくいくのだろうか?

 

「ヨシ!もう一回アタシが突っ込んでヌシの動きを止めるから、その隙にスバルちゃんが大技をぶつける作戦で行こう!」

「了解です。ただ…何か嫌な予感がします。……気を付けてくださいね」

「りょーかい!それじゃあせーので行くよ!」

 

 

スカイが全身から魔力を放出し【ホライズン】を構える。

俺も彼女を支援しながら確実にチャンスをものにすべく杖へと魔力を集中していく。

 

【準備はおーけー?行くよ!せーのぉっ!】

 

残像の様にリボンをはためかせもう一度ヌシの正面へとスカイが躍り出る。

先ほどの鍔迫り合いで力比べは不利と判断したのか彼女が選択したのは剣戟であった。

 

頭二つ分は大きな相手に懐へと潜り込み、右へ左へ縦横無尽に剣を振るいヌシに反撃の隙すら与えない。

人型をしているヌシはその体格ゆえに懐まで入り込まれれば刀をうまく振るうこともパワー勝負に持ち込むこともできず防戦一方である。

 

そうして完全に劣勢となったヌシは破れかぶれに真上からの叩きつけるような大上段で状況の打破を選択した。

振り下ろされた凶刃がスカイを両断するように迫る。

 

「────それを待ってたよ!」

 

しかして、その刃がスカイに触れることは無い。

完全に見切ったうえでヒラリと躱し、返しに振り切られた刀身を──思いっきり上から踏みつけた。

予期せぬ方向から刀へと急に力が加わって、それは持ち主のヌシまで伝わった。

 

「キッツいの行くよぉー!」」

 

グンと下方向へと体を引かれるヌシの横っ腹に、遠心力を乗せて振り切られた横一閃が突き刺さる。

下方向への力と横方向からの斬撃ででヌシは大きく体勢を崩す。

それこそがスカイの狙いである。

 

 

「スバルちゃん!」

「────この瞬間を待ってました!」

 

体勢を崩し未だ立ち直れていないヌシへと杖の先端を向けて構える。

事前に高めていた分も有り魔力は十分。後は一撃でヌシを粉砕する威力が有ればそれでいい。

 

 

「はぁぁぁぁ……コレで決める!【トワイライト・スーパーノグァッ!?」

 

────無防備な背後からの衝撃。

発射の寸前で霧散する魔力。衝撃で前へと押し飛ばされる体。

 

何が起きた?

分からない。ヌシは目の前に居て今もスカイが抑えている。

せめて何が起きたかを把握しなければ────

 

地面に倒れ込むまでの刹那のひと時。無理やりに体をひねり、背後に有る筈の原因をこの目で捉える────

 

「────は?」

 

────見えたのは黒い人型。手には振り切られた長い棒状の物体。

そしてその頭部には()()()

 

「うわぁぁぁ!なにこれなにこれ!?スバルちゃーん!!」

 

ヌシを抑えている筈のスカイが悲鳴を上げる。

 

天に輝く偽りの月。照らされたヌシの足元から伸びる影から湧き出る黒い人型。

 

今も続々と這い出て来るヒトガタは、外敵を排除せんと襲い掛かる。

身の危険を感じ、思わずヌシを拘束していた手を放したスカイ。

四方から殺到するヒトガタ達を【ホライズン】で次々と切り伏せていくが、物量に押されどんどんと劣勢になっていく。

 

数的優位というアドバンテージの喪失。

不意打ちによる作戦の瓦解。

黒い人型達が今もヌシの影から湧き出し続けているこの状況、非常にマズイ。

 

 

「どうしようスバルちゃん…これじゃヌシに近づけないよぉ」

「ここは撤退した方が良いかもしれないですね……」

「そうだね……これはアタシたちだけじゃちょっと厳しいかも…」

 

ヌシが呼び出した黒い人型はもはや壁の様。

出入り口の渦はここからは少し距離が有るが、今ならまだ撤退は可能だろう。

外に出たらテレーズに状況を説明して何か対策を────

 

 

「な、なんなんですのこの場所は!?わたくし先ほどまで林に居た筈では……」

 

この場には不釣り合いな声に。

この場に居た者全てが一斉に反応する。

声は俺たちの背後、夢界と現実を繋ぐ渦が有る林の方から。

 

そこに居たのは、不安げに揺れる漆黒の髪に仕立ての良さそうな衣服を纏う少女────

【金時 アトラ】だった

 

「これはいったいどういう……それに、あなた方は……」

「……ヤバッ!アトラちゃん逃げて!」

 

────空気が一変する。

黒いヒトガタの群れが動きを変える。

まるで黒い波の様なその群れは俺とスカイ()()()()()()()、新たなる生贄を得んとすべく声の方へと殺到する。

 

「スバルちゃん!ここはアタシが何とかするからアトラちゃんを!」

「分かりました!」

 

【ホライズン】を構え、一人ヒトガタの群れへと突撃するスカイに背を向けて全力でアトラの元へと駆ける────

 

「あ、あなたは……スバル様?その姿はいったい何なのですの……?それに後ろのアレはいったい……?」

「その話は後でする!今は逃げるぞ!」

「は…はい?もう少し説明を!」

「それも後だ!今は走れ!」

 

スカイの大立ち回りによって大半のヒトガタはそちらに釘付けだが、それでも抜けてこちらに来る数は多い。

今は何としてもアトラを安全な場所へと連れて行かなければ。

出口は……ダメか。既に先回りされてる。

ひとまずは林の奥へ逃げて打開策を練るしかないか。

 

先に襲われていた二人の男女もここには置いて行けない。

アトラには自分で走ってもらうとして、その二人は俺が抱えていくしかない。

 

 

「はぁ…はぁぁ…なんとか振り切ったか?」

「……うぅ。なんだってわたくしがこんな目に……」

 

あれから数分。俺たちはなんとか追跡を振り切って、今は木の陰にしゃがみ込んで身を潜めている。

奴らの足はそこまで早くなく、動きも単調で助かった。

……しかし、ここからどうするか。

スカイは未だ敵の群れの中。俺は戦えないアトラと気を失った二人を抱えていて動けない。

非常に不味い状況になってしまった……。

どうする?どうすればいいんだ?なんとかしなければ────

 

「いい加減説明をしてくださいまし!気味の悪い場所によくわからないバケモノ、それにお二人のその恰好!いったい何が起こっていますの!」

 

限界を迎えたアトラの声で深く沈んでいた思考が一気に浮上する。

そうか。今一番不安なのは彼女だ。何も分からずに巻き込まれてよく分からないバケモノに追われている。

 

「────分かった。全部話す。荒唐無稽かもしれないが……それでも信じてくれるか?」

「こんな状況ですのよ?荒唐無稽な話など、それこそ今更ですわ。──えぇ。何を言われようと信じると誓いますわ」

「……そうか。ならば全てを放そう。少し長くなるぞ────」

 

 

そうして俺は語り始めた。

日常の裏に潜む悪夢……夢界現象とヌシの脅威。

そして、人知れず悪夢を払う者……俺たち魔法使いとは何者でその役割を。

知る限り教えられる限りの全てを話した。まっすぐにこちらを見つめる彼女の誓いに報いる為に。

 

「────そう、ですか。確かに、聞けば聞くほど信じがたいですわね。……ですが信じますわ」

「信じてくれるのか?正直、自分でもだいぶとんでもないこと言ってる自覚が有るのだが……」

「もちろんですわ。だって…スバル様の瞳に噓は無かった、と、わたくしはそう感じましたもの。ですので────」

 

喋りながらも徐にアトラは立ち上がりこちらの瞳をまっすぐに見据えた。

 

「────()()()()()()()()()()

「────は?」

 

宣言するアトラの顔にはありありと自信が満ちていた。

 

 

 

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