星空の魔法少女 作:ヒィーィジヤロラルリーロロロー
「えぇ~改めて見るとめちゃかわいい~!目とかくりっくりだしまつ毛バッチバチに決まってるし髪とかもう艶々どころか輝いて見えるぐらいじゃん!シャンプーとか何使ってるの?てか、よく見たらノーメイク!?やばっ!?変身してるとはいえ元の良さ出すぎ!服もキラキラ~って感じだし、その杖もかっこよすぎ!もう最高すぎ!美の到達点っていうか?もはや人間国宝じゃん!?てかてか連絡先教えて!?この後空いてる!?服とか見に行かない!?ふぉぉ~インスピレーションバチバチ湧いてきた~!」
押しが…押しが強い…ッ!なんなんだ、この人は…。
顔が近い…すごい良い匂いがする…?これがギャルってやつなのか!?あまりに急な出来事に脳がついていかない…っ!
パーソナルスペースの概念が存在しないんじゃあ無いのか!?
「はいはい…そこまでにしなさいな。突然そんなに捲し立てても困るでしょう【マイア】?」
「へ…?あっ!?ごごご、ごめん!あはは…まだ自己紹介もしてないのにごめんね?」
テレーズの言葉でようやく少女が離れる。助かった…。あのまま行けば意識を刈り取られてる所だった…。
「ようやく落ち着いたようね。紹介するわ。彼女は【
「あ~!アタシが自分で言おうと思ってたのにぃ…。さっきテレーズが言ってたけどアタシの名前は【琴壇 マイア】!気軽にマイアって呼んでね!」
ようやく少し離れてくれたので、改めて彼女の姿を見る。
少し明るめの茶髪を高めの位置で結んだその姿は快活なイメージをこちらに持たせる。服装もフリルのついた白いシャツにミニスカートから覗く素肌が眩しい。
「よ…よろしくお願いします。マイアさん。俺は【
挨拶を返して彼女を見ると、目を開きながら少し震えていた。
「アタシにもとうとう後輩ができるなんて…。長い間この街の魔法使いってアタシ1人だったから本当に嬉しい!これからなんでも聞いてね!」
感動したかと思えば、喜色満面の笑顔になったりと忙しい人だ。
「顔合わせも済んだところで、マイア。貴女を呼んだのはこの新人、スバルの件よ。魔法使いの仕事が何か、それをこの子に教えてあげて欲しいのよ。」
「なるほどぉ…。そういう事ならアタシに任せて!」
「私たち魔法使いは夢界現象へ対処できる唯一の存在。我が組織は魔法使いたちを集め、日夜発生する夢界現象から人々の生活を守る事を目的として活動しているわ。」
「とはいえ、今日の所は夢界現象の兆候も無いし、親睦を深めることも兼ねて、異常がないか軽く外でも回って来てちょうだい。」
「りょーかい!それじゃあ街に出てショッピングでもしよ!服とか見てスイーツ食べよ~!」
言うが早いか腕をマイアはこちらの腕を絡めとると外に向かって引きずって行く。
やたらと力が強いなぁ!
「ストップ!ストップ!待ってくれ!iいくら何でもこの姿のままじゃ俺は街には出れないです!」
いくら何でも、こんなコスプレめいた魔法少女風衣装で街に繰り出せるほど俺は図太い精神は持ち合わせていない。
どう解除すればいいかなんて分からないが、とりあえず戻れ戻れと強く念じてみると衣装や杖が端から光に還元されていく。
そうして、光が収まるとそこには元の俺の姿が─────
「あら…?」
「へー!元の姿もめちゃかわいいー!」
なんてことは無く少女の姿のまま、服装だけは簡素な黒いワンピースになっているが目線の高さも顔に掛かる金の髪もそのまま据え置きである。
「な…なんで……。」
あの姿は一時的なものなのではないのか?何故元の男の姿に戻らないんだろうか。疑問は増えども手持ちの知識じゃ答えが出るわけもなかった。
「それじゃあ!マイア!行ってまいりまーす!」
「一応だけれど、遊びじゃないのよ。仕事だって忘れないようにねー。」
「ちょ…まっせめて心の準備をさせてくだ…!いや力つえぇ!」
状況を飲み込みきれていないというのに、抵抗虚しく引きずられるように俺は外へと引きずられていくのだった。納得いかねぇ…。
場所は変わってここはアルデバランから二駅ほど行った場所に有る、駅と一体化した大型の複合型商業施設だ。
ファストフードから食料品、衣服から家電まで揃うと休日には沢山の客が訪れる。
そして今日は休日。その例に漏れず人の往来は多い。
「ねぇねぇ~何から見る?やっぱり服とかコスメ?それとも先にお昼にする?マスターのお菓子は美味しいけど、それだけじゃ物足りないよね!ハンバーガーとかどう!?」
「もう好きにしてくれ…」
活気付く昼下がりの空気とは反対に、俺はすでに疲労で喋る余裕もない。
それもそうだろう、来るまでの電車内でもマイアはこのテンションで喋り続け、それに付き合わされたのだ。
一体どこからそこまでの元気が出ているのだろうか…。
「うーむ…。悩むところだけれど…ここはやっぱり服!見に行こ!キミなら何着ても似合うだろうし!そのワンピも可愛いけど、もーっとフリフリなヤツとかさ!」
「い…いやぁ…今日はもう持ち合わせもないし、ご厚意は嬉しいけどご遠慮したいかなー…って。」
なんとか意識しないようにしてるが、この姿のまま着せ替え人形なんかにされたら俺の何か大切なものがすり減ってしまう…!
なけなしの尊厳を守るためにも、ここは何としても回避したいところだ。
「ふふふ…せっかく新しく後輩ができたんだもの、先輩として今日はおごってしんぜよう!なーに、この仕事って結構稼げるから後輩に服をおごる程度ならお茶の子さいさい!」
そう言ったマイアはそのまま俺を連れて今女子高生の間で流行りというアパレルショップへと突撃していった。
「楽しかったね~!見たかった服も見れたし、スバルちゃんもその服ちょ~似合ってる!」
「あざっす…。」
そこからの事はもはや何も覚えていない。
気づけばフードコートに居て、上機嫌なマイアを前にただひたすらにフライドポテトを口に運ぶだけの機械になっていた。
マイア曰く最近流行ってるらしいフリッフリの服は動くたびにゆらゆら揺れて違和感が有るし、スカートは落ち着かない。しかし、仮にも奢ってもらった手前、何も言うことができない。
ただ俺自身の不甲斐なさを恨むばかりである。
「いっぱい遊んだし、そろそろお仕事について話そっか。」
そう言ってすこし真面目な顔をしたマイアは話し始めた。
「大まかなことはテレーズに聞いてるだろうから、アタシからは普段の仕事について説明するね。」
彼女は魔法使いの普段の仕事について色々と教えてくれた。
1つ目は昨夜のように発生した夢界に侵入しヌシを倒し消滅させること。これが魔法使いとして最も重要な仕事のようだが大型の夢界が発生するのは稀なのでマイアも実際に体験した回数自体は両手で数える程度らしい。
2つ目に夢界現象の予兆が無いかパトロールし、小型の夢界を消滅させること。偏に夢界と言ってもピンキリで昨夜のように巨大な空間を形成し街を飲み込む程のサイズになるのは稀で、日夜至る所で発生しているらしい夢界もほとんどは精々が人間一人が入る程度の大きさで入ったとしてもちょっとした超常現象を起こす程度のものらしく、都市伝説なんかは大体これが噂の元らしい。強度も大したものじゃなく一般人でも簡単に出ることができるが、それでも放っておけば大きくなりいずれは脅威になりうる事から地味だが大事な仕事らしい。
3つ目にアルデバランのお手伝い。組織の隠れ蓑とはいえ大事な資金源の一つ。テレーズ曰く、偶にはマスターを労ってあげなさいとのことだ。
マイアは「まだ有ったような気が…」と言っているが、待っていても出てくるかは微妙なラインなので後ほどテレーズに聞いてみる方が良さそうだ。
…さて、軽く話を聞く限りは概ね想像通りであったが、夢界という物が意外と身近なもので、知らないだけで魔法使いが俺たちの日常を守っていたと知り自分がその一員になるという事の重大さを今一度認識を改めた方がよさそうだ。
「まぁパトロールは昨日私が終わらせたし今日はもう何もないだろうしパーっと遊ぼ!!」
「まだ遊ぶ気なのか…?」
「もっちろん!!」
少し落ち着いたとはいえ今だ疲労困憊の俺と違ってマイアはまだまだ元気いっぱいだ。…いや、来た時より元気かもしれない。これ以上振り回されては俺の体が持たない…
「むっふふ~次はどこ行こうか?ゲーセンとか行っちゃう…うん?テレーズから連絡だ。なんだろう…?」
マイアの端末にテレーズから連絡が来たようだ。
そろそろ帰ってこいの催促だろうか?なんにしてもこれで解放されそうだ。あのゴールデンレトリーバーに感謝の念でも送っておこうか…。
「なになに…?新たに大型夢界発生の兆候が有ったからすぐに向かってほしい…?嘘でしょ!?2日連続!?」
あれ程楽しげだったマイアの顔が驚きに染まっている。大型の夢界という事は、昨夜俺が巻き込まれたのと同程度の規模なのだろうか?しかし、大型の夢界は珍しいものだと聞いていたのだが…。
「場所は…ここから走って15分って所かな…。ゴメンねスバルちゃん!ゲーセン中止!とりあえずついてきて!」
「は…はい!」
立ち上がり走り出したマイアを追いかけて俺も駆け出す。
……身長とか骨格とか変わったせいか走ってて違和感が凄い!歩幅が小さくなったせいで走るのが普段より遅い!それでも、せめてマイアの背中は見失わない様にしなければ…!
「とうちゃーく!」
「ゼェ…ハァ…フゥ…うぇっ…」
し…死ぬ…。慣れない体で全力疾走するのがこんなにも辛いとは…加えてマイアが想像より早く、追いかけるだけでやっとという有様だ。せめて男の体なら…!
「さて…コレが今回のターゲットね…正直、思ってたより不味いかも。」
そう言ってマイアが目を向けた先は雑居ビルの隙間にできた細い路地だった。
覗き込んでみればそこに有ったのは生温い空気と淀んだ気配、そして最も目を引くのは薄暗いコンクリートの谷間に浮かぶ薄紫色の“渦“だった。
「なんだ…
「
そう言いながらマイアは俺を先導するように前に出ながらも話を続ける。
「ある程度成長した夢界は、最初に一定範囲の空間をコピーして箱庭を作るの。そうやってできた空間は魔法使いしか見えないし入れない。けれど、放っておけば夢界の中の物がどんどん現実の物体と置き換わって最後にはヌシが現実に出てきちゃう。そうなったら最後、戦う力の無い沢山の人が危ない。」
「だから、私たち魔法使いは戦うの。とっても危ないし本当は怖いけれど、それでも、この力はきっと誰かを守る為の物だと思うから。アタシは戦うの。」
そう言ってこちらに手を差し出したマイアの瞳には、確たる信念と意思のような物が宿っているように感じた。
「見た感じまだ現実に影響は出てないみたいだけど、いつ始まるか分からないし、行こう。…先輩らしいところ見せてあげる!」
…正直言って、まだ実感も無いし覚悟も俺にはできていない。
それでも、助けられる力が有るのに誰かが傷つくのを黙って見過ごすような薄情者にはなれない。
だからその手を取った。
「…行きましょう。こんな俺でも誰かが守れるのなら。」
強く握ったその手にマイアは何かを感じ取ったのか、俺の顔を見つめた後、深くうなずいた。
「覚悟はいいみたいだね…。それじゃあ、突入するよ!」
そうして、俺とマイアは渦へと飛び込んだ。
この先に何が待ち受けてるかは分からない。それでも、この力を持った者の責務を果たすために、力なき人々を守る為に。