星空の魔法少女 作:ヒィーィジヤロラルリーロロロー
まぁ過ぎたことはいいか。
魔法使いとなって初めての仕事。それは単純で簡単なモノだった。
街を回りメモを頼りに各地を訪れ夢界を探し、無ければ次へ、見つければそれに対処。危険など欠片も無い、魔法使いの日常を知るために任された仕事。
────それは、何事もなく終わる筈だった。
「緊急事態よ。大型の夢界が発生したわ。あなた一人に任せることになってしまうけれど、直ぐに向かってちょうだい。」
「場所は───貴女に渡したメモの3か所目【
しかし、テレーズからの連絡がその平穏を打ち破る。
「……本当は、魔法使いになったばかりの貴女に任せるべきでは無いのは分かっているわ。」
「───俺、行きます。行って戦います。だってそれが魔法使いの仕事でしょう?」
「……。マイアには今からでも来れないかこちらから連絡しておくわ。危険と判断したらすぐに脱出してマイアの到着を待つのよ。わかったわね?」
「はい。わかっています。」
「最後に、大型の夢界が短期間で立て続けに発生するなんて組織の記録にも無いイレギュラーよ。くれぐれも注意を怠らないように。」
そう言ったテレーズの言葉を最後に通話を終え、俺は伝えられた場所、【
目的地の
昔はよく星を見に行った覚えが有る。いつ頃だろうか星を見に行く機会も無くなり最近では遠くに
……そういえば、あの時の俺は誰と見に行ったんだっけ?
「───いや、今はそんなことはいい。たしか、麓まではここから15分あればたどり着けるはず…そこからはロープウェイで山頂まで向かえば…!」
時刻は既に夕刻。沈みゆく太陽が空を赤く染めている。幸いにもあの山のロープウェイは夜間の運行もしているので日が沈む頃には山頂にたどり着ける。
沈みゆく太陽に背を向けて、湿度を孕んだ生温くも重たい空気をかき分けるように俺はひた走る。
「はぁ…はぁ…着いた……っ!」
転がるようにロープウェイから飛び出して展望台にたどり着いた頃には既に日は落ち、設置された街灯と月明かりがが山の頂点にコンクリートで作られた展望台をうっすらと浮かび上がらせていた。麓まで走ってくる時点で俺の体力は既に限界にだったがそれでも、気力を振り絞り夢界の気配を探して歩く。
「夢界は……展望台の上か…?」
薄らと感じる悪寒は神社で感じたものと同で、それは展望台の屋上を示しているように感じる。まずはその発生源を見つけるべく展望台の屋上に続く階段に足をかけた。
薄暗い階段を慎重に登ったその先に有った屋上は開けた造りになっていて、少し遠くの街明かりと360度見渡す限りの星空が良く見える。そして、その屋上の真ん中に、目的の
大きさは昼に見た神社の夢界と比べて桁違いで、先日入った台風の夢界と同じく人が一人簡単に入れるほどのサイズだ。間違いなく中にはヌシが待ち受けているだろう。
これから自分が一人で夢界に入ってヌシと戦うのだ。そう考えると、正直言って不安が無いと言えば噓になる。
なんせ俺はまだ魔法使いになったばかりで、初めて夢界に入った時は無我夢中でテレーズが居なければ勝てなかっただろうし、マイアと一緒に入った時は後ろで見ているだけだった。
それでも────
「……俺も、魔法使いの端くれ、その使命を果たす!」
俺は覚悟を決めて渦の中へとわが身を投じた。
不快感と不穏な気配渦巻く夢界に脚を着ける。
「……見たところ異常は無い…のか?」
周りを見渡しても景色自体に変化は無いように感じる。しかし、こうも開けている場所ならヌシもすぐに見つかると思ったんだが…。
警戒を続けながらも展望台の端まで行ってみて山の麓を眺めてもそれらしいモノは影も形も無い。
……警戒していた分、少し拍子抜けした気分だ。ヌシが見当たらないのでは戦うも何もないではないか。そう思いながらなんとなしに空を見上げる。
夢界の景色は偽物だとマイアは言っていたが、それでも案外きれいなものだ。
…あっ流れ星だ。偽物だと分かっていても普段街に住んでいると見る機会の無い流れ星の物珍しさについつい目で追ってしまう。
……それにしても長く残る星だな…既に願いを三つは叶えられる程度の時間は経ってるぞ?
それに、なんだか流れ星がどんどんこちらに近づいて来てるような……?
────いや、
俺の頭上までやってきて流れ星がその正体を露わにする。
それは、人の倍のサイズはあろう大きさの光り輝く
その巨大な羽の羽ばたきに合わせて周囲に振りまかれる鱗粉までもキラキラと輝き、その一つ一つが星のようだ。
元になった願いは何だろうか…?ここの展望台は流星群が良く見えると話題になっていたことも有ったし、流れ星や流星群だろうか?
そう考えればヌシの移動した後に残るキラキラと光る鱗粉は、流れ星の
分析している間もヌシは体躯の倍はあろうサイズの羽を振るわせ、こちらを威嚇するようにゆらゆらと浮かんでいる。
どうやら向こうはやる気十分なご様子だ。覚悟を決めよう。やらなければ、きっとこちらがやられる。
勝てるかは分からない。だが、せめて意志だけでも負けないように仁王立ち、全身に魔力を込めて解き放つ────
「想いよ、祈りよ、彼方よりの光よ、夜天を満たせ────」
放出された魔力が形を成す、夜空の様な黒と青のドレスを作り出し、たなびく金の髪とドレスの上に星の装飾が降り注ぐ。
手を前に伸ばせば先端に鏡像の星空を示す天球儀を頂く杖が現れ、それを手に取る。
さながら、その姿は星空の体現。
「我が名は【スタリィ・ナイト】!星の願いを叶えし者!」
……準備は整った。覚悟も出来ている。ここからが本当の勝負だ。
警戒するように少し距離を取って頭上で円を描くように飛んでいるヌシに対して杖を構えながら出方を伺う。
実を言うと、現在の俺が使える手札はそう多くない。攻撃を防ぐ魔力の盾【プロテクション】と魔力を収束して放つ極光【トワイライトスーパーノヴァ】、ついでに変身で強化された身体能力。……以上である。
はっきり言ってこれっぽっちの手札ではまったく勝ち目が見えてこない。ヌシの攻撃を【プロテクション】で防いでも反撃の手段が無いし、かと言って必殺の【トワイライトスーパーノヴァ】は外した時の消耗が大きすぎる。強化された身体能力は逃げ回るのには有効だが、持ち主で有る俺に武術の心得が無いので攻撃には使えない。
……やばいな、改めて整理すると思ったよりも不味い状況だ。どうすんだよこれ…。
「杖で殴って何とかなるか…?いや、いっそ逃げ回って時間かせ……うわぁっ!?」
ふと目線をヌシの方にに向けると、ヌシの巨体がこちら目掛けて高速で迫って来ていた。打開策を練ろうと考え込んでいて注意が疎かになっていた…っ!
衝突を避ける為、倒れるように横っ飛びをしてゴロゴロと転がりながらもなんとか難を逃れたが、相手は常に空を飛んでいて、こちらには決定打が無い。
「考えろ…考えろ…このままじゃ時間稼ぎすらできないぞ…なにか無いのか……」
こちらに対抗策が無いことを知ってか知らずか矢継ぎ早に仕掛けて来るタックル。展望台の屋上を無様にゴロゴロと転がりながらも命からがら回避しながらも考えを止めない。
「そうだ…確か、俺が初めて変身した日にテレーズが何か言っていた筈……っ!」
何だったか…確か、【プロテクション】を使った時だ…テレーズは何と言っていた?もう少し…もう少しで出てきそうなんだが…!
ちょこまかと動き回る俺に痺れを切らしたのか、ヌシは頭上で一度動きを止めると、大きく羽を振るわせ輝く鱗粉を周囲にばらまき始める。
そして、周囲に散った鱗粉の一粒一粒が強く光を放つと少し時間を置いて、急激に加速してこちらへ向かって流星群のように降り注いできた。
「あぁぁぁぁ!!プ…【プロテクション】!」
魔力でできた半透明の盾に鱗粉の雨が降り注ぐ。
鱗粉は直撃するたびにガンガンと固いものが当たるような耳障りな音を立て、次々殺到してくる。
押されるように体制が崩れ膝を地に付けながらもなんとか耐えては居るが、盾をいつ突き破って来るかも分からないし魔力にも限界が有る。…なんとか…なんとかしなければ……っ!
「あの時テレーズは何と言っていた!?思い出せ……っ!?…そうだ、杖だ!」
俺はハッとして今もしかと握りしめ、盾を生み出している杖を見る。思い出した。確かあの時テレーズは「杖に願いなさい!
イメージし、願え。そうすれば杖が力にしてくれる…。そうと分かれば話は早い。
(イメージ…イメージ…今必要なモノ…飛んでいる相手への対策…飛び道具…魔力を飛ばす弾丸…)
想像するものは銃弾。魔力を固め、撃ちだし、遠くのモノを撃ち抜く。
鱗粉の雨を盾で反らし、その隙にその降り注ぐ嵐の範囲から一気に飛び出す。
これが逆転の一手だ…!杖をヌシに向け、その名を叫ぶ。
「喰らえぇぇぇ!【ステラ・シュートォォォォォォ】!!」
裂帛の気合を込めた叫びと共に杖から射出された魔力の弾丸は闇を貫く様に高速で飛んでいき、見事宙舞うヌシの片羽を撃ち抜き、偽物の天の彼方まで突き抜けた。
キィィ。という金切声を上げながら天を舞う資格を失ったヌシは、その身を痛みに振るわせるよう藻掻きながらもグングンと地へと墜ち行く。
この好機を逃してはなるまいと、俺はヌシの落下地点へとコンクリートの地面を踏み切って一気に飛び込む。
────今ならいける!この一撃でこの戦いに終止符を打つ!
(イメージするのは
落下してきたヌシが目の前まで来る。その瞬間に合わせて後ろに構えた杖に魔力を集中し一気に振り抜く!
「コレで決める!!【スラッシュゥゥ・ギャラクシーィィィィィ】!!」
杖に纏った魔力は薄く鋭く触れる物全てを切り裂く。羽を失い避ける事すら叶わぬままにヌシはその身を二つに別たれて、哀れにも爆発四散。
爆発で散った鱗粉だけがキラキラと偽の景色を飾り立てる。
「な…なんとか…なった……。」
ヌシを失いゆっくりと崩壊していく世界をその場に腰を下ろして眺めながら、無事に解決できたことにほっとする。
とりあえず、、テレーズに無事に解決した事だけでも報告をしよう……。
テレーズの連絡先に電話をすれば向こうも待っていたのかすぐに応答が有った。
「もしもし。こちらスバルです。なんとか無事にヌシを倒せたので連絡しました。」
「…そう。どうやら、無事なようね。向かうように指示したのは私とは言え、心配していたわ。」
そう言ったテレーズの声色は少しだが安堵の色が見えた。どうやら心配していたのは本当のようだ。
「本音を言うならマイアに任せて貴女にはゆっくりと経験を積んで欲しかったのだけど。まだ魔法使いになったばかりなのに、まさか一人でヌシを倒してしまうなんて…想像以上ね。」
「とりあえず、今日はもう疲れたでしょう。報告はまた後日にして、もう家に帰って休みなさい。」
「了解です。そういえば、こちらに向かわせると言っていたマイアは……。」
「マイアにはこちらから解決したと送っておくわ。今日はお疲れ様ね。ゆっくりと休みなさい。」
「ありがとうございます…。正直言ってもうヘトヘトなんで帰ります…お疲れ様でした……。」
その言葉を最後に最後に電話を切って、家へと帰るべく立ち上がる。
展望台から見渡せば、夢界の生み出した偽物の景色は既になく。
少し遠くに見える街明かりと、果てなく続く星が天に満ちていた。
chips
ヌシ
夢界が大型になると発生する存在。
その夢界ができる際に元となった願いを核として、一定以上の魔力が集まった時に「これが現実になれば」という「願い」や「夢」に絶対に存在する感情が「願い」や「夢」に肉のう器を与える。
肉体を持った「願い」や「夢」はそれを真の現実にすべく周囲から魔力を集め続け、やがては夢界から現実へと侵食する。
その存在は夢界と密接に結びついていて、ヌシが消滅すれば夢界も消滅する。