虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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色んな人を軽く見てリスペクトしました


プロローグ――――第零章
始まりへ


 

『………私のミスでした』

 

 ――――――名も無き列車の中、私達は眼を開ける。

 

 音が消える世界、何かが崩れていく様な中、彼女は云う。

 まるで世界の終わりを悟っているかの様子だった。鮮やかな世界の中、青が透き通る空、薄く白い雲が遅くも通り過ぎ、寸分の狂いも無く走る列車の中、彼女から流される血液がゆっくりと溜まっていったのか、座席にまで垂れ落ちている。

 

『私の選択、それによって招かれたこの全ての状況』

 

 彼女の名前も、顔も、声だって聞いた事の無いもの。それなのに、身体を動かす事の出来ない私の脳みそには、私の言葉でこう響く。

 

 ――――私は彼女の顔を、どこかで見た。

 目の前に映るその顔は、どこか暗くて寂しくて、とても苦しそうな顔で、それでも不安を隠すべく目一杯の笑みを浮かべていた。

 

『結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて――――今更図々しいですが、お願いします』

 

 彼女は笑顔で私を見つめる。

 私に見える彼女には、託した想いと記憶は、幸か不幸か―――彼女はまだ、変われると信じている様だった。

 

『……先生』

『きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらく貴方は同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから―――』

 

 彼女は私に何を託そうとしているのか、今はまだ分からない。

 私は微かに覚えてている記憶を、感覚を辿って、再びあの場所へと戻る。決して終わることのない無限に続く地獄の様な世界だったとしても、私がそれを諦める資格も、権利もない。

 

 私は、私だけに想いを託した不器用な彼女生徒の為にもう一度、私自身の力で、あの頃を取り戻す。

 

 そう決めた時、不思議と世界に鮮やかな色が付いた。

 

『ですから―――大事なのは経験ではなく、選択』

『あなたにしかできない選択の数々。それを意味する心さえ―――』

 

 一歩、また一歩と踏み出し、刻んできたこの記録アーカイブを思い出す。

 

 もう一度――あの子達に授業をしなければいけない。

 もう一度――皆んなの風紀を正さなければいけない。

 美食を追求する生徒達も、選択を選ばない悪党な生徒達も、諦 めず残り続ける生徒達にも、皆んなを私が、私の力で、あの景色を、情景を思い出させなければいけない。

 どうしようも無く愛おしい、狂える程の皆んなの為に――――それが私、大人としての責任と、義務。

 

 彼女に頼まれた『最期の願い』

 

『ですから、先生』

『私が信じられる大人である、あなたになら―――この捻れてる歪んだ先の終着点とは、また別の結果を―――』

『そこへ繋がる選択肢は――きっと見つかるはずです』

 

 誰も居ない二人きりの列車の中、彼女は最期の瞬間、なんの取り柄もない、失ってばかりだった私に、小さい想いを託した。

 

 だから先生、どうか―――

 

︎ ✦︎

 

「……い」

 

 まるで深海の底に沈んでいる感覚だった。何も聞こえない。何も感じ無い意識の中、籠った声が私に伝わる。

 

「……先生、起きてください」

 

 そんな全てを波にさらっていく様な海の底で、突然鋭い声が私の耳を貫いた。

 

「先生!!」

 

 その声が聞こえた瞬間、体が意志を持たずとも無意識に叩き起される。

 

「っ!」

 

 身体が痺れる感覚を体験しながら目を覚ます。叫び声の様な声が聞こえ、何事かと辺りを見る前にまず真っ先に目に付いたのは目の前の人だ。白い服と白いコートを着て、青いネクタイ、青い目にメガネをかけた黒髪ロングの美少女が私の目の前に立ち、鋭い眼差しを私に向けていた。

 

「……………」

 

「………?」

 

 その少女は何も言わず、ただ私を見続けていた。

 私は状況が追い付かないまま、情報を手に入れるべくぐるっと自分の周りを見てみた。どうやら椅子に座った状態で寝ていたらしく、首から下が痛めつけられたかと思う程痛かったのかこのせいかと勝手に納得し、そんな姿を見て少女は首を傾げ、私の行動を無視して話しを始めた。

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」

「………夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

 そう言われても私からしてみれば目が覚めて見知らぬ場所に飛ばされ、突然そんな事を言われてもこの状況に一切の思考が追い付く訳が無い。あまりに困惑を隠せず戸惑っていると、彼女はため息をつき、何も分からない私に仕切り直しを設けると云った。

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」

「私は『七神リン』、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そして貴方は恐らく、私たちがここに呼び出した先生………のようですが」

 

「せん……せい……?」

 

 私が……先生……?

 それに、七神リンと言う名前に、私は聞き覚えがある。それなのに、水の中にある感覚と全く同じ、名前だけが反復し詳しく思い出せない。

 

 頭を抱えてまで思い出そうとすると、彼女は私の意図を掴み取り優しい言葉で共感を誘った。

 

「……ああ。推測系でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

「……混乱されてますよね、分かります。こんな状況になってしまった事、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」

 

「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」

 

 リンと名乗る子の説明を聞きつつ、私は今さっき見ていた夢の内容を思い出そうとする。だが、霧の様に消えて思い出せない。

 リンは私をまず立つように促すと、メガネを定位置に戻す様に多少上げた。

 

「学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう。それでは、付いてきてください」

 

「……ちょ、ちょっと待って…」

 

「………?なんですか?」

 

 私に背を向け先に正面のエレベーターに歩くリンを止め、リンが振り向くとその視線の先、そこには椅子からずっと立ち上がっていない私の姿があった。

 何とかして立ち上がろうとしても、全身が潰されたか様に痛く筋肉が一切動かない。誰かの手を借りれば何とか動けそうだった為仕方無くリンを止めるしかなかった。

 

「本当に申し訳無いんだけど……全身何故か痛くて、手を貸して欲しいんだけど………」

 

「………仕方ありませんね」

 

 そう言うと、リンは痛む私の手を優しく引き、痛む身体を極力抑え一緒にエレベーターへ乗った。

 ウィイイイイイインと何でかうるさいエレベーターの降りる音が流れる。数秒降りると目の前には全面ガラス張りのお陰で外の景色が見えた。外の景色は一言で言えば近未来の様な街の風景、神秘的な世界が視界に広がり、奥には無限に続く街や学校が見える。それはまるでファンタジーそのものに入り込んだ、幻想的で夢の世界なのかと勘違いしてしまう。言葉を発せず見とれてしまった私の顔を見て、リンは右手で街全体を指した。

 

「『キヴォトス』へようこそ。先生」

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります。きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……」

 

「でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね」

 

「………?」

 

 まだ余り状況が掴めていない。どこか聞いた事のあるセリフだが、ギリギリ届かない位置にある様に思い出せず、曖昧な境界を繋いでおかしくなっていく。

 

「……それは後でゆっくり説明することにして」

 

 そうリンが会話を止めると同時、チンと音が鳴りエレベーターのドアが開いた。そしてドアが開いて早々、奥で怒りを隠せず足をトントンと揺さぶる少女やそれを冷静に聞く少女、会話をしている少女達目に付き、私とリンの存在に気付くと、元々していた会話をすぐに止めて私達の元へと近づいて来た。

 

 そして開口一番、エントランス中に響き渡る怒号が再び私の弱い耳を貫いた。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

 

 リンを指して誰かを呼べと命令するその子は私を一瞬見ると、見間違えたかともう一度私を見ると、そのまま目を取られたかの様に私を見続け、次第に疑問を抱いた。

 

「……うん?隣の大人の方は?」

 

「え……?」

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

 

「うん……?」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

「……えっと」

 

 なんで皆平気で銃持ってるの?そんな事が先行し疑問として浮かんだ。リンはリンでそんな言葉気にせず、寧ろ面倒くさそうにため息をつく。

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

 なんでリンは目の前の子達が銃を持っていているにも関わらずため息をつくまでの余裕があるのかは分からないが、それが普通なのだろうか。

 突然黙り込んでしまい、彼女達をじっと見つめたリンは明らかに訳ありで何処か含みを持たせた黒い笑顔で挨拶を返す。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余してる皆さん。こんな暇そ………大事な方々がここを尋ねてきた理由は、よく分かっています」

 

「今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために―――でしょう?」

 

「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 口を挟む事すら許さない、報告と言う名の文句は耳が痛む程であり、その状況にリンは黙り込んでしまう。そんな中、菫色すみれいろの髪を揺れ動かす彼女が持った疑問をリンに向かい、強くぶつける様に質問をした。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

 彼女達が責め寄るその問にリンは考え、目の前に来た瞬間片手で進行を止め、こう答えを返す。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。……いえ、正直に言いますと行方不明になりました」

 

「……え!?」

 

「……!!」

 

「やはりあの噂は……」

 

 一人一人驚きを隠す事が出来ず、驚きのあまり声を詰まらせ、その追い打ちを掛けるかの様にリンは状況の説明を続けた。

 

「結論から言うと「サンクトゥムタワー」の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。私達も認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」

 

「それでは、今の方法があるということですか、首席行政官?」

 

 この中で一番身長の高い黒髪ロングの子がそう聞くと、リンはその言葉を待っていたと思わせる対応を返す。リンは私の横に来ると、皆んなの視線を左手で私の方を向けた。

 

「はい。この先生こそが、指導者フィクサーになってくれるはずです」

 

「!?」

 

「!」

 

「この方が?」

 

 まるで予想外と言わんばかりの反応見せ、驚いて、私も驚いた。何せ私がそうなるだなんて思ってもい無かったから。だが、皆んなの目は残念な目では無く、予想外でありながらも期待を載せた目を私に向けた。

 

「わ、私が……?」

 

「ちょっと待って。そういえばこの先生は一体……?どうしてここにいるの?」

 

「それが……私にも分からないくて………」

 

 何かを覚えてる気がするがするけど、何も思い出せない。少しでも思い出そうとするだけで、頭が痛くなる。その上無意識に思い出そうとするせいでずっと頭痛が消えない、正に地獄だ。

 

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

「はい。こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

「先生、まずは自己紹介をした方が良いかもしれません」

 

「自己紹介……うん、分かった」

 

 自己紹介―――思えば今までした事が無かった。そんな頻繁にするようなものでは無いが、いざするとなるとあまり良い自己紹介が思いつかない。

 

「私は……先生って言われてるね。みんなの先生……で、いいのかな?これから、よろしくね」

 

 自分なりには結構頑張って作った笑顔で自己紹介を終えると、皆んなは不思議な生物でも見ているかの様に静かになった。

 

「あれ……?みんな……?」

 

 固まって動かない、私何かやったのかもしれない。

 

「っは!?こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……」

 

 少し顔を赤らめる青髪の美少女は慌てながら自己紹介をする。

 

「い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……!」

 

「そのうるさい方は気にしないでいいです。続けますと……」

 

「……名前、聞きたかったな」

 

少し小さめに発言すると、聞こえていたのか、気づいたか。大きな声で名前を云った。

 

「は、早瀬ユウカ!早瀬ユウカです!」

 

「………!よろしくね。ユウカちゃん」

 

「っ!ちゃん付けは…いいです!ユウカだけで……いい、です」

 

「……?そう…」

 

 ユウカが嫌がるのであれば辞めておこう。

 話を戻し、リンはある紙を私に手渡した。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

 

「連邦捜査部「シャーレ」」

「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織の為、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能です。その他にも、各学園の自地区で制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます」

 

「先生を、そこにお連れしなければなりません」

 

「なるほど……」

 

 現在行方不明の連邦生徒会長が何でもできる部活を作り、そこの顧問を私にした。

 顧問である私はどこの学園にもいけるし何にも縛られず自由に活動できる……と。

 

「……私が……キヴォトスここの先生、か」

 

 実感の湧かない言葉、私にとっての役割を考える。

 そんな時、リンはあるものを取り出した。それは『連邦生徒会』の言葉と共に象徴となるマークが付けられたタブレット。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんですが…………」

 

 そう云うと、リンの取り出したタブレットから青い光が広がり、これまたピンク髪の美少女がお菓子を片手に出てきた。

 そして、モモカと云われる少女はぶっきらぼうにしながらその質問に答える。

 

「シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」

 

「大騒ぎ……?」

 

「矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ」

 

「………うん?」

 

「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」

 

「え、焼けの……戦車……?」

 

 私が聞いた言葉が間違いでなければ、類を見ない地獄絵図、え、私がそこに行くの?

 

「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占領しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」

 

「………………」

 

 リンの顔が鬼の様になっていく。怖い。

 

「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たからまた後で連絡するね!」

 

 そう云い、無慈悲にも通信が切れた。

 

「……………はぁ」

 

 リンが今にも爆発しそうに下を向く。溜息をつくリンの後ろ姿は私も誰か助けて欲しい程だった。

 

「だ、大丈夫……?」

 

「大丈夫……です。少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

 声を震わせ、その怒りは未だに消えていない様にも感じる。

 頭を悩ませるリンは何かを閃いたか、悪い笑顔を浮かべながらユウカ達の方を見つめた。

 

「……?」

 

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

 

「………え?」

 

「それって……」

 

 嫌な予感がした。だけど、どこか懐かしい気持ちでもあった。

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

「えっ、ちょ……」

 

そう言い、リンは私の手を掴んで外に出ていこうと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」

 

 ユウカ達も後を追い、文句を言いながらもついてきてくれたた。

 そして、私達は戦場へと向かう。




虚弱体質は地味な所で出てきますぜ
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