『着きましたね、ここがセリカちゃんを攫ったチームのアジト……!』
来る敵を倒していると、私達が通ってきた市街地のマンション。そこがセリカを攫った奴らのアジトだと判明した。
今なら帰る事も出来るが、それは私個人の苛立ちが抑えられる自信が無い。それは他の皆んなもそうだ。誰一人として引こうとはしていない。
その時、セリカが一番に口を開いた。
「ねえ、皆んな。お願いがあるんだけど」
「どうしたんですか?セリカちゃん?」
セリカはゆっくりと息を吸い、息を吐くと、右手を胸に当て真剣な表情で私達に云った。
「ここから先、私一人に行かせて欲しいの」
「珍しいね、セリカがそう云うだなんて」
「……私、ずっと迷惑を掛けてきたから。今日だってそう、私のミスで、皆んなを不安にさせちゃった。だから、恩返しをしたいの……駄目、かな」
そう云った瞬間、ノノミとホシノが同時にセリカに抱きついた。突然の事に驚きながらも、そのまま三秒、三人は抱きしめ合った。
二人が手を離す。そして安心の表情を浮かべ、云った。
「また困ったら、何時でも頼ってくださいね♪」
「怪我だけはしないようにね〜」
「二人共……ありがとう」
セリカは銃を持ち、マンションの方を見る。
マンションはやけに静かで、誰も居ない様だった。セリカが私達の方を振り向くと、私の事を見る。
「先生、指揮をお願い出来る?」
「任せて」
︎ ✦︎︎
中に入る。そこには人の気配も感じない空間が広がっていた。
セリカが率先して前に出る。曲がり角や死角を細かく確認しながら前に進むと、上に続く階段を見つけた。
「私が前に出る」
セリカの後ろに付き階段を上がっていく。
未だ人一人感じさせないこのマンションに不気味さを感じつつ、一番高い階層まで辿り着いた。
セリカが銃を構えながらその階を歩く。やがて、他の場所よりも少しだけ綺麗にされている扉を開け見つけた。その瞬間、セリカが分かったかの様に口を開く。
「ここが、恐らくボスの部屋」
「誰も会わなかったけど……誰も居ないのかな」
多分その通り。そうセリカが云う。
セリカの予想では、このマンションに辿り着くまでの間、異常なまでにヘルメットダンジョン達が居た。それはこの組織の構成員を全て使ったからだと云った。
その通りだとすれば、このマンションにはボスたった一人。
扉を開ける。その目の先には、他のヘルメット団とは違う赤いヘルメットと赤い服を着た少女がアサルトライフルを持ち、私達の前に立っていた。
「先生、お願い」
「うん」
一言で返事を返し、扉の陰に隠れタブレットを起動する。
セリカは銃の焦点をボスの頭に置く。ボスが一歩、速度を急激に速め走り出す。
瞬間、ボスは隠しナイフを取り出し横に一太刀入れる。それを見えた先生は伝えた瞬間、セリカは膝を曲げ横凪を避ける。そのままボスの後ろに行ったセリカは銃を乱射した。
砂埃が立ち、その中からボスか一瞬で間合いをつけた。セリカの懐に入り込み、ナイフを突き出す。後ろに下がるセリカを追撃する様、ボスのアサルトライフルが乱射される。だが、その銃弾を全て零距離でセリカは避けていた。その目には覚悟と覚醒の炎が宿っており、セリカの行動に迷いは感じない。
一瞬焦りを見せたボスを見逃さない様、走り出し一瞬で間合いを詰める。そして、対応する暇も無く蹴りを入れ、廊下よ壁を凹ませる程に飛ばした。
「っぐぅ………!?」
「まだまだっ!!」
そこからは銃を捨て、ボスの腹に拳をぶつけ続けた。一発二発、どんどんと速度は上がっていく。壁も崩れ始めたその時、セリカの腕をボスが掴む。ヘルメット越しに灰色に染まる眼光がセリカに問いた。
「んっぐぅ……お前……はぁ……げほっ、一体……!?」
「……私は、黒見セリカだ」
アビドスに来て半月、アビドスと対策委員会皆んなの為にお金を稼ごうと、何かとチラシや新聞でバイトを見つけては、皆んなの前に見せて駄目だと捨てられる。そんな毎日を送りながらも、やっと見つける事の出来たラーメン屋のバイト。
全ては皆んなの為、まだやってもいいバイトの区別すらつかない様な可愛らしい一年生。
「私は、憧れている先輩達に追いつく為に、無茶をする様な馬鹿な生徒だ。『先生の生徒』だっ!」
「……セリカ」
「私は、アビドス廃校対策委員会所属、一年生の黒見セリカだ!これ以上、私達の学校を!私達の居場所を!思い出の場所をっ!――――傷付けるなぁっ!」
掴んでいた腕を抜き、拳を硬く作る。怒りの言葉と共に謳われた自己紹介は、セリカの人生を表す言葉だった。
最後の言葉と共に繰り出された最後の一撃はボスの腹を凹ませ、壁を突き破る。何棟かの使われていないマンションの壁を突き抜け、大体三棟先の壁を砕き止まった。
たった数分でありながら、常人では無い激しい戦闘の末、セリカに勝利が渡った。
「はぁ……はぁ……お、思い知ったか!これが対策―――うぅ」
「せ、セリカ!?」
戦いに勝利し、セリカが威張った瞬間セリカがなんの動作もなく頭から倒れる。
倒れたセリカに急いで近付くと、最後の一撃に全てを使ったのと、戦いの緊張が解けた反動で一切身体が動かなくなったと云った。
セリカを支え、顔を見る。するとセリカは私に微笑み、聞く。
私は、しっかりと『先生の生徒』に慣れていたのか。
対策委員会の一員として、役目を果たせていたか。
私は、何も答えずに頭を優しく撫でる。
いつもなら何かしらの反応を見せるセリカも、その瞬間だけは少しの抵抗も見せず、それを受け入れてた。
そして、数秒経った後、セリカは脚を震わせながらも自分の力で再び立った。そして、弱みを見せぬ様大きく伸びる。私は残党が居ないかを確認し、全てを終えた私達は帰ろうと踵を返す。その時、セリカが私を止めた。
理由は何となく分かっていた。だが、それは云わない。
「あの……私……!」
「セリカ」
「っ、な、何……?」
私は、感謝をされたくて助けた訳じゃない。私が助けたかったからだ。謝罪だってされたくない。私が、皆んなの為に、セリカの為にやった事。
そんな言葉、云える訳が無い。もう、何回だって嫌われる事はしたくない。もう、危険な目には会わせてはいけない。そう、自分が自分に云った。
「その言葉は、皆んなに云わないとね」
「……うん、分かった」
「それじゃ、行こっか」
倒れそうになるセリカを支え、肩を貸す。建物を出ると、対策委員会の皆んなは入口で手を振っていた。笑うセリカに、皆んなは一番に飛びついて行った。
次は何が起きるのか、流石に予想までは出来ない。覚悟と準備だけはしておかなければ。
「みなさん、お疲れ様です」
「セリカちゃん、ケガはない?」
「うん、私は大丈夫。見てよ、ピンピンして………」
そう証明しようと肩から外れ、手を広げた瞬間、セリカは全身の力が抜けるかの様に当然倒れてしまった。
「おっと……」
「セリカちゃん!」
一番近くに居た私が間一髪に受け止め、ノノミが近付く。私は知っていたが、まさかそこまで瀕死になっているとは思わなかった。よく考えれば、セリカはアビドスに来て初めての一人での戦闘、それを勢いと気合いだけで乗り切ったセリカは凄い事をしている。
シロコが受け代わり、瞼が既に半分まで下がっているセリカをお姫様抱っこで持ち上げ、学校へ戻ると同時に保健室へ連れていくと云った。
「私が保健室に連れていく」
「まあ、既に一回ダウンしてるんだし、その上で変に力を出しすぎちゃ、歩ける方がおかしいって。ゆっくり休ませてあげよっか」
皆んなで足並みを揃え、彼女達の居場所へと歩き出す。
帰っている最中、アヤネが事の事態を振り返りつつ、その危なさに改めて驚きみせた。
『大変なことになるところでした。先生がいなかったら………』
「うんうん。先生のお陰でセリカちゃんの居場所を逃さず追跡出来ました。やっぱり凄いですね☆」
「確かに、ただのストーカーじゃなかったってことだね〜」
軽口を叩きながらも、その裏ではちゃんとした感謝を伝えているようだった。
ホシノは私の事をストーカー等と云っていたが、セリカが行方不明になってから、一番にシャーレとして依頼をしたのは、ホシノだった。行方不明になったその夜から、ホシノと共に、無断でコンピュータ室を使い、場所を特定。
最初から最後まで、全てを繋げてきたのは、ホシノたった一人だった。
その事は口に出さず、二人だけの秘密にする。そうしないと、またセリカを恥ずかしがらせてしまうから。
学校へ戻り、会議室へ戻る。
シロコは保健室へセリカを連れていき、アヤネとホシノ、ノノミと私だけが会議室へ残った。
そして、早々にアヤネが険しい顔を見せ、タブレットを机の真ん中に置いた。
「……皆さん、こちらを見てください」
持ってきてタブレット画面を見せてくれた。そこには、道中で倒してきたヘルメット団の武器、爆発物、あらゆる使い残った物を保存し、遠隔で分析したものだった。
「戦闘中に回収し、散らばった戦車の部品を確認した所、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました。もう少し調べる必要はありますが……ヘルメット団は、自分達では入手出来ない様な武器まで保有していると予想出来ます」
「では、この部品の流通ルートを分析すればヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」
「はい。ただのチンピラが何故ここまで執拗に私たちの学校を狙っているのかも、明らかになるかもしれません」
「うん、わかった。じっくり調べてみよっかー」
︎ ✦︎︎
時刻は夜の十時を迎える。誰も居ない夜の学校で一人、一階にある保健室のドアを開ける。
この学校で今唯一明かりが付いてある部屋、そこには、誰かが居る。その証明になっているものだ。
ベッドから上半身を起こし、肘を立て頬ずえをつく。ドアが動く音に、セリカが私を見た。
「調子はどう?」
「………先生、どうしたの?急に……」
「お見舞い、って感じかな」
ベッドの横に椅子を置き、そこに座る。
セリカは調子を悪そうに溜息をつき、どうかしたのかと聞く。外見は既に完治している様だったが、眠れていないのか、少しだけ眠そうにしているのに加え、少しだけクマがある様だった。
「………ああ、私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし、皆んなも心配してる……バイトにも行かなきゃだし!だ、だから、お見舞いとかいいから!ほら見て、元気だし!」
「……それを云える元気があるなら良かった」
安否を確認し、私も安心を覚え立ち上がり保健室を出ようとした時、セリカが何かを云いた手を弄り、保健室を出る直前、私に声をかけた。
「あ、あの!」
「……どうしたの?」
「え、ええっとね……皆んなは今もう居なくって、云うタイミングも無さそうだから、あの……先生に、ちゃんとお礼を云いたくて」
数回深呼吸をしてから、少し目を逸らし、私に感謝の言葉を伝えた。
「あ、ありがとう……その、色々と」
私が意外そうに驚き固まっていると、その恥ずかしさを打ち消す様に、セリカは大声で宣言する。
「……でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか必ず返すんだから!」
「……ふふっ」
「な、何よ!?何ヘラヘラ笑ってんの!?」
笑う私に、セリカは顔を真っ赤にしながら私に指を指す。
「いや……こんな風に笑える日々が、訪れるといいなって」
「……全く……じゃあ、また明日ね!」
そう云うとセリカはベットから立ち上がり、私より前に出るとドアを勢いよく開ける。
ドアの先を一歩、歩くと踵を返し、私をじっと見つめた。そこ顔には、まだ少しだけ赤さが残っている。そして、ボソボソとしながら、云った。
「……せ、先生」
「……どうしたの?」
「その……また明日、ね」
「……うん、また、明日」
そう云うと、セリカはドアの先を歩いていった。
誰も居ない独りの保健室、もう一度椅子に座ると、保健室の光よりも良い、星空に目が惹かれる。綺麗に輝く星も、いつか消えるのだろう。
「……ヘルメット団は、一体何を……?」
星を見ながら、そう考える。アビドスに出会ったその日から少しづつ、記憶の様なものが戻ってきている気がする。正確には記憶、と云うよりか、それに近い何かだ。
「……セリカ」
昨日、夢を見た。
ずっとずっと先の話、誰かが、どこかでいなくなる話。それが、セリカの様だった。
それを見た日を思い出そうと、頭の中を探った瞬間、割れる様な痛みが全身に走る。もし、あの時、私が居れば、あの時、私が助ける選択肢を選んでいれば――――。
そう夢の中にある曖昧な記憶を頼りに、私はより良い選択を選び続けなければならない。それは、何の為に。
星が常に輝く様に、皆んなが未来まで笑える様に、ハッピーエンドを超え、永遠に潰えないように。
「―――星の様に、輝かせたい」
セリカだって壁を壊せてもいいんだよ。だってアビドスだし。