虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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一章、完


《新》ゲヘナの風紀委員会

 

 アビドスへと戻り、会議室の机の上に集金の書類を広げ、全員で確認する。書類を確認し終えた瞬間、セリカは怒号と共に机を大きな力で叩きつけた。

 

「なっ、何よこれ!?一体どういうことなの!?」

 

「………」

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したと記されている。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない。でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して「任務補助金500万円提供」って記録がある……」

 

「ということは……それって……」

 

 アビドスがお金を渡した後すぐにヘルメット団のアジトに直行、任務補助金を渡していたことがこれで判明した。そこで判明することは、なぜ「任務」という名でヘルメット団にお金が渡っているのかというところだ。

 

「ヘルメット団の背後にいるのは、まさか……カイザーローン?」

 

「ということになるね」

 

 ノノミが疑問を飛ばした。

 それもそのはず、もしカイザーローンがこの学校を破綻させようと貰った金額をそのままヘルメット団に流したとすれば、実際に学校が破綻すればカイザーローンからしても貸したお金は完全に回収できず、カイザーローンにとって利益なんか一つもないからだ。

 

「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない」

 

「……はい、そう見るのが妥当ですね」

 

「今考えても答えは見えてこなさそうだね。あと、ヒフミはずっとここに居ていいのかい?元々はトリニティのはずじゃ……」

 

「……え?」

 

 そう聞き数秒、ヒフミは暫く考えた後今までとは打って変わって表情が一変した。

 

「そ、そうでした!?私、すぐに帰らないと……」

 

「なら、玄関まで送っていこうか」

 

︎ ✦︎

 

「皆さん、色々とありがとうございました」

 

「変な事に巻き込んでごめんなさい、ヒフミさん」

 

「今度遊びに行くから、その時はよろしくね〜」

 

「はい、分かりました……まだ詳しいことは明らかになっていませんが、これはカイザーコーポレーションが……犯罪者や反社会勢力と何かしら関連があるという事実上の証拠になり得ます」

 

「戻ったら、どうかこの事実をティーパーティーに報告します」

 

 ティーパーティー、お嬢様学校と言われるトリニティ総合学園の幹部、トリニティのトップが所属する場所だ。

 

「ま〜、ティーパーティーはもう知ってると思うけどね〜」

 

「は、はい!?」

 

 ホシノはそう言い、ホシノの考えを話す。

 トリニティはキヴォトスの中でもゲヘナに並ぶマンモス校、そんな学園の首脳部、トップならそれぐらいはとっくに把握しているだろう。と語った。

 

「そ、そんな……知っているのに、皆さんの事を……」

 

「うん、ヒフミちゃんは純真で良い子だね〜。でも世の中、そんなに甘くないからさ」

 

「………」

 

 そう語っている瞬間、ホシノの表情が突然と暗く、いや何かを考えているような、遠い所を見つめているような、そんな表情に変わっていた。

 

「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせたところで、これといった打開策が出るわけじゃないし、返っておじさん達がパニくることになりそうな気がするんだよね〜」

 

「そ、そうですか……?」

 

「ほら、今のアビドスって廃校寸前じゃん?トリニティとかゲヘナみたいなマンモス校からのアクションをコントロールできる力がないんだよ〜。言ってる意味、分かるよね?」

 

 それの答えは簡単であり、規模も思考も違う学校からの手助けなんて、いつどんなことをするか分からないし、何をするかも分からない、もしなにかアビドスにとって不利益な事をされても、それを阻止できるほどの力はない。

 

「そ、そうですね……政治って、難しいですね……」

 

 そんな中、ノノミがホシノに問いかける。

 

「でも……ホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか?本当に助けてくれるかもしれませんし……」

 

 その問に、ホシノはゆる〜い笑顔で回答した。

 

「うへ〜おじさんは他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー」

 

 だが、そんな緩い笑顔も、すぐにまたあの遠い目に変わった。

 

「『万が一』ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよ」

 

 その表情と言葉に知らない底なしの重みがかかり、誰もその言葉に反論も、肯定も、言葉を掛けることすら出来なかった。

 

「…………」

 

「……では……その……」

 

「本当に……一日で色んな出来事がありましたね」

 

「そうだね、凄く楽しかった」

 

「……楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」

 

 そうジト目で問いかけるセリカに、ヒフミは自分も楽しかったと答える。

 

「いやぁ〜、ファウストちゃん、お世話になったね」

 

「そ、その呼び方はやめてください!」

 

「よっ、覆面水着団のリーダーさん!」

 

 そう茶化すホシノとノノミにアヤネが止めに入る。

 

「と、とにかく……これからも大変だとは思いますが、頑張ってくださいね。応援してます。それでは……皆さん、またお会いしましょう」

 

 そのままヒフミに手を振って帰らせた後、対策委員会も解散の雰囲気が出始めた。

 

「みなさんお疲れ様でした。今日はゆっくり休んで、明日改めて集まりましょう」

 

「解散〜」

 

︎ ✦︎

 

 一方、便利屋68。

 ムツキが元気よく事務所のドアを開け挨拶をした。

 

「おはよ〜!」

 

「おはよう……」

 

 入って早々、正面椅子に座る便利屋68の社長、陸八魔アルは今でとは違いげっそりした表情で椅子に座っていた。

 

「ビックリした!アルちゃん、徹夜でもした?」

 

「ううん、ちゃんと寝たわ……八時間」

 

「社長、何か悩みでもあるの?」

 

 そう事務所の真ん中の机とその両方にはソファーがある場所にカヨコが武器を手入れしながら聞いてくる。

 

「計画はしっかり立てたじゃん?人をこれまでの二倍で雇って、地の利を生かせる戦場にアビドスを誘き出す」

 

「ハルカは爆弾を設置しに、朝早く出かけた。計画では、爆弾を数十箇所埋設したゾーンでアビドスをコテンパンにするって感じだよね」

 

 そう言ったそばからドアが開き、ハルカが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました!」

 

「お帰り、ハルカ。お疲れ様」

 

「主要ポイントに爆弾を埋めておきました。あとは、このボタンを押すだけで……」

 

「よしよし、頑張ったね〜。場所だけは忘れずに、しっかり覚えといてね♪」

 

 するとハルカは悪い笑顔を浮かべながらボタンを取り出し、ムツキ達に差し出した。

 

「いつでも言ってください。私がこの手で、全部吹っ飛ばしてやりますから……この手で……」

 

「はぁ………」

 

 そんな笑顔の先で、逆にアルは暗い顔でため息を零す。余りの異質さにムツキがもう一度、アルに聞いた。

 

「なぁに死にそうな顔してんの?それなら最初から、例のクライアントからの手付金をもらって、それを資金に充てれば良かったじゃん」

 

「……手付金はもらわない。それがうちの鉄則よ」

 

「手付金をもらうと、クライアントの命令に従わざるを得なくなるから……って理由だったっけ?」

 

 そう言うカヨコにアルは顔を直し、その通りと言わんばかりの顔で立ち上がる。

 

「その通り。華麗に仕事を終えてから依頼料を受け取る。この順番が崩れたら、私たちが追求するビジョンは達成出来ないの」

 

「ビジョン?そんなのあったっけ?」

 

 ムツキは知らなかったようでアルに聞くと、アルは空回りしたかのように口を大きく開けて言う。

 

「あるわよ!!法律と規律に縛られない、ハードボイルドなアウトロー!それが便利屋68のビジョンでしょう!!」

 

 そう言った後、ムツキは理解すると同時に、まるで最初から知っていた上でからかう為に聞いたかのような表情を浮かべた。

 

「そうだっけ?ああ、思い出した、思い出した」

 

「さっきカヨコが言ったように、クライアントの依頼も同じ。それが私たちを縛り付ける足枷になることもあるわ。私たちが望まない行動を強いられるかもしれないのよ。だから、依頼料は絶対に成功報酬として受け取るの」

 

 そう嬉しそうに話すアルに、カヨコはある提案を出した。

 

「そこまでプレッシャーを感じてるなら、全部投げ出しててゲヘナに帰るのも手だよ、社長」

 

「は、はあ!?ぷ、プレッシャーだなんて言ってないわよ!ただ……ちょっとだけ……」

 

「うーん、今更帰るのは無理なんじゃ?風紀委員のやつらが黙っちゃいないよ?」

 

「……風紀委員会、か」

 

 風紀委員会、トリニティと同等の大きさを持つマンモス校であり、キヴォトス一番の治安の悪さを誇る。その均衡を保つ仕事を受けるのが、風紀委員会だ。

 

「確かに風紀委員会は、私たちを目の上のたんこぶみたいに思ってはいるけど……。今の私達は、奴らから逃げてきたわけじゃない。それと、そもそもうちの風紀委員会が時にキヴォトス最強とも言われてる理由は……」

 

「風紀委員長、ヒナの存在があるから。だよね?」

 

 風紀委員会委員長、ゲヘナの治安の悪さから生まれる被害を最小限に抑える組織のトップ、空崎ヒナ。その実力は、ゲヘナに止まらず、キヴォトス最強の一角とまで言われるほどであり、カヨコ曰く、風紀委員会の戦力の大半は、ほぼ全て彼女一人の力と言っても過言では無い。その力はヒナの名前を出すだけで逃げ出す者もいるほどである。

 

「だけど、逆に言えば……ヒナ以外の風紀委員は、大したことないってこと」

 

「計画さえきちんと練れば、十分勝算はある」

 

「そうなの?カヨコちゃん、そこまで考えてたんだ」

 

「いつか必ず相見える事になるだろうから。ヒナ抜きの風紀委員会なら今のアビドスに掛けてる労力を考えれば、難なく戦えるよ」

 

「逆に言えば、アビドスはそれぐらい侮れない相手ってこと。生徒の数が少ないってことが最大の弱点だけどね」

 

「え?そんなに強いかな?」

 

「……強いよ、絶対」

 

 カヨコの一瞬の溜め、それにどれだけの意味があるのか。そんな会話の中、アルは皆の前に立つ。

 

「……いえ、今更ゲヘナに戻るっていう選択肢はないわ。かといって……はぁ」

 

「……一体何が引っかかってるの?」

 

「分かった分かった。つまらない話はこれぐらいにして、アルちゃん、ご飯食べに行こうよ。お腹空いたし」

 

「ラーメン屋にする?柴関?」

 

「また?」

 

「気にしない気にしない。バイトちゃんは午後から入るみたいだし。鉢合わせなきゃ問題ないじゃん?」

 

「まあ……美味しかったしね。とにかく、社長を元気付けないと……」

 

「じゃあ決まり〜。行こ行こ♪」

 

 そしてムツキを筆頭に、便利屋は柴関ラーメンへと向かった。

 

︎ ✦︎

 

 同時刻、アビドスのどこか、市街地から少し離れた廃墟に『なっていた』四階建てのビル。エレベーターが動き出し、暫く待つと、最上階の四階へと止まり、ドアが開く。

 

「……おや、随分と……早いですね」

 

「……そう、なのかもね」

 

 ドアの先は全面ガラス張りの部屋、出てすぐに社長が座るような机と椅子が置いてあり、奥で下の景色を見ている人物が一人。

 

「本来なら、もう少し遅い出会いの筈でしたが……なぜこの場所が?」

 

「あの時、ブラックマーケットで未来の様な、嫌な世界を予知……いや、見えたんだ。その時、数々の景色の中で、この場所と、君が見えた」

 

「……なるほど、では、せっかくですし挨拶でもしましょうか」

 

 人ではない、それだけは分かる。そいつは椅子に座ると、肘を置き、どこが顔が分からない顔で、確かにこっちを見た。

 

「私は、『黒服』と申します。仮の名ではありますが、これが私の名前だと思ってください」

 

「……私は」

 

「いえ、大丈夫です。先生……ですね。ずっとお会いしたかったです」

 

 黒服と名乗る男の様な人は、何故か私の立場を知っていた。名乗りの後、次に黒服は私に聞いた。

 

「特に話す事は無いと思いますが、記憶が見えたとして、何故ここに?」

 

「……ここに、ホシノがいた」

 

「……ほう?」

 

「こんな場所、ホシノは一人で行く訳が無い。何かを隠してるような雰囲気で、君と話してた……何を話してたかは分からなかったけど。明らかに普通じゃなかった……お前は、ホシノに何をしようとしている?」

 

 気付かず詰め寄ると、一瞬の黙りの後黒服は静かに笑いながら答えた。

 

「気にする必要はありません。もし仮にあの小鳥遊ホシノと私が会話をしていたとしても、それは必ずと断言出来るほど、お互いの了解を取った上での話でしょう。先生の思っている様な事はしていません」

 

「……なら、何故ホシノだけを連れていた」

 

「おぉ、人数まで分かるんですか?」

 

「ああ、見えたからな。早く答えろ!」

 

 知らず知らずに言語が強くなる。未知に怒り、黒服は突然と立ち上がり、私の目の前に立った。そしてその問いには答えず、私を見る。

 

「……貴方、一体どこまで見えているんですか?」

 

「どこまでって……知る訳ないだろ」

 

「……なるほど」

 

 黒服は少し考えた後、机の中から幾つものボタンが付いてあるリモコンを取り出した。そして他人事の様に黒服は呟く。

 

「小鳥遊ホシノを一人で連れ出した理由も、今は分かりません。貴方が見ている景色は、未来の世界でしょう。今の私は小鳥遊ホシノに接近すらしていない、私には答えかねます」

 

「……そう、か」

 

 黒服はリモコンをガラス張りの壁に向けボタンを押すと、街の景色が映し出された。そして笑いを含む声で、再び他人事の様に声を上げる。

 

「そんな事より、先生?貴方はこんな所でこんな事をしていていいんですか?」

 

「……は?何を言って……」

 

 黒服がリモコンである場所を拡大し人差し指を向けた、その場所は柴関ラーメン。確かこの時、お昼時だった。

 

「もう少しで、運命が動き出します」

 

 黒服の言葉が地に落ちたその瞬間、突然柴関ラーメンが轟音と共に赤い光を出し、赤い球体がラーメン屋を包んだ。今この瞬間、爆発した。

 

「は……な、何が起き……て……?」

 

「ラーメン屋が爆発してしまいました。犯行をしたのは、恐らく例の便利屋でしょう」

 

 そう言っている間に、爆風の中から便利屋が、その後に対策委員会が走って行っている姿を見た。

 

「っ!皆んなが!」

 

 すぐにでも向かおうと踵を返すが、腕がピクリとも動かなかった。振り向くと、黒服が私の腕を、掴んでいる。

 

「っお前!?」

 

「行かせはしませんよ」

 

 黒服の力はますます上がり、そのまま私を壁へ押し寄せ打ち付けた。背中の衝撃が非力な身体には重く、痛みよりも肺が押される感覚だった

 

「っぐ……!?」

 

「貴方のその力、気になりますね。未来予知ですか……」

 

 黒服は割れた亀裂の中からじっと私の眼を観察する。どれだけ強い力で押し返そうとしても、力は抜けていくばかり。声だけは、出せた。

 

「っ!離せ!」

 

「離す訳にはいきませんすぐにでも貴方を使って研究を……!」

 

 そう言い、興奮のまま黒服の手から段々と力が腕に入っていき、無かったはずの痛みが腕に走る。

 

「っい''!?」

 

「その体と体制じゃ力を入れづらいでしょう。そのままだと折れてしまいますよ」

 

 分かっている筈なのに、そう言いつつも段々と入っていく力に、痛みは皆んなの所へ行けない怒りへと変わっていった。私は憎しみのまま、黒服を睨みつける。

 

「……っ離せ!」

 

 私の中で何か変わった。その瞬間、驚いた様に黒服の動きが止まり、力も突然無くなる。私は黒服を突き飛ばしすぐに皆の元へと走り出す。

 

 その直後、先生が居なくなり、その部屋には黒服しか居なかった。だがそんな事より、黒服は強い衝撃と感動を感じている。

 

「……クックック、なるほど…先生、貴方は既にそこまでの領域にいるのですね」

 

 黒服は立ち上がり、付いている画面を消しガラス張りの方へと歩く。下を向くと、出たばかりの先生が柴崎ラーメンの方へ走っていくのが見えた。

 

「先生、貴方はただの人間ではない。常軌を逸した、この世界の住人とも引けを取らないほどの力……だが、その力はあまりに強すぎる」

 

 走るには少し遅く拙い先生を見下ろし、少し落ち着いた声色で腕を組んだ。

 

「……先生、貴方は近い内に、その力が無意識に覚醒し、見たくもない世界と、貴方が死よりも苦しい事が待っているでしょう。だが、貴方は選択を続けなければいけない」

 

「貴方は、気づいていないだけで、生徒たちを狂愛しており、それは生徒から貴方自身へとも言えます」

 

「次に出会う時は、改めて話をしたいものです」

 

 そう言い、黒服は何も持たず部屋を後にした。まるでもう二度と使わないと言わんばかりに。

 

︎ ✦︎

 

 突然の市街地からの爆発。現場に向かってみると便利屋と遭遇した。爆発をしたのは私達だとアル直々に告発し、その怒りから便利屋68との戦いが勃発。変わらず状況は平行線だった。

 

 そんな中、突然の弾砲が対策委員会たちを襲った。

 

 やった犯人はゲヘナの風紀委員会。便利屋68を捕らえるという目的で、無差別的な攻撃を行い、やがて対策委員会も標的の一つとなる。

 

「先生は来ないの!?」

 

「先生には……突然の襲撃で電波が悪くて中々繋がりません!」

 

「っ先生さえいれば……!」

 

︎ ✦︎

 

「はぁ……はぁ……もう少し」

 

 体力もない癖に一心不乱に、皆んなの居る柴関ラーメン屋まで走っていると、突然爆発音のようなものが聞こえた。

 

「っ!まずいっ!」

 

 その音が私を震わせ角を曲がると、皆んなの姿が見えた。そして叫ぶ、

 

「皆んな!!」

 

 皆んなの姿が見えたと同時に、奥の方では大量の人たちが待ち構えていた。

 

「あれは………」

 

「お前が先生か?」

 

 突然目の前に現れた。気配も無い、銀髪のツインテールで赤いライフルを持っている子はこっちにライフルを向け、脅す様に私に問いかける。

 

「そうだけど……」

 

「なら、都合がいいな」

 

 すると、彼女は突然ライフルのトリガーに指を置いた。

 

「っ!」

 

 考えるより身体が動く。人生で初めて向けられた銃弾は私の本来あった場所へ正確に撃ち抜かれ、避けた安堵と同時にこの態度に後ろにいる子達、明らかに味方ではないということは分かった。その直後、アヤネと同じホログラムの子が目の前の子の名を呼んだ。

 

「待ってくださいイオリ、まだ私達の目的を……」

 

「そんなこと説明しなくても、私たちのやるべき事は決まってる。そこに私情なんて挟めるわけないだろ」

 

 今いるのは、対策委員会。近くには便利屋が隠れている。それに向かいにいる子達には「風紀」と書かれた赤い物が腕に付いていることから、恐らくゲヘナの風紀委員会だろう。

 

 先生になってから大体の学校の部活やらを調べていて、風紀委員会は特に目に止まっていた。恐らく、理由は分からないが聞いた限りでも、目的のためなら最悪武力にでも手を出せる組織。今でも私を撃とうとしている。

 

 だけど、対策委員会に便利屋もいる。勝機は十分。

 

「……っよし!」

 

 次の瞬間、私は彼女達に向かって走り出し、タブレットを取り出す。

 

「っ!来い!」

 

「待ってください!イオリ!」

 

 忠告の言葉も虚しく、トリガーからは銃弾が放たれる。だが、その銃弾は私には当たらなかった。

 

「アロナ!」

 

『はい、任せてください!』

 

 本来なら真っ直ぐ飛んでくる銃弾に当たる筈だったが、その銃弾は本来なら有り得ない動きをし、私の横を通り過ぎる。

 

「な、この距離で外すわけ……!」

 

 予想外の動きに明確な動揺を見せるも、一度距離を取りすぐに彼女は方法を変え、直後ライフルを反対向きに持った。

 

「なら、直接殴るまで!」

 

 私と彼女の間には、まだ相当の距離がある。だが、そんな中でも彼女に向かって走っている私に向かって走り出した。だが、そこで私は走る事を辞め、すぐに逆に後ろへ逃げる様に走り出す。

 

「は、なにをして………っ!」

 

 だが、彼女はすぐに異変に気づいた。なぜ突然逃げるように走り出したのか、その答えは数刻後に分かる。

 

「今だ!」

 

「っこれは!?」

 

 私が叫ぶと、彼女の走っていた真下が突然大爆発を起こす。

 

 今の会話の中で私は建物、地面、空、空間を理解し、すぐ行動に移した。最初は狙ってくるだろうと予想し、アロナの力を使って銃弾を避け、すぐに逃げる。そうすると彼女は銃弾は当たらないと理解し、近接戦に持ち込むはずだ。

 

 そこで、何故か地面が光っていることに気づいた。それは誰かが仕込んだ爆弾だった。誰かは知らないが、風紀委員会じゃなければさっき来たばかりの対策委員会でもなければ、恐らく便利屋だろう。

 

 だったら、合図を送れば期待通りの動きをするだろう考え、一か八かの作戦に出た。

 

「セリカ!真上の看板の根元!」

 

「っ了解!」

 

 追跡を許さぬ様、今にも落ちそうな看板を標的にし落とす。その看板はそのまま彼女がいる煙に直撃した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……これで……少しは……」

 

 そう思ったのも束の間、すぐに看板が吹き飛び、煙が晴れる。

 

「これしきの事で!私は止まらない!!」

 

 怒りのまま彼女がライフルを構えると、静かな声で、冷徹な声で、誰かが彼女の名前を呼んだ。

 

「そこまでにしなさい、イオリ」

 

「この、声は……」

 

 声に冷たさを感じた直後、ホログラムが映し出された。

 

「こんにちは、先生、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「あ、アコちゃん………その……」

 

「イオリ?反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存知ですよね?」

 

「っあ………うん」

 

 数秒前までとは打って変わって何も言えず焦った表情、そして悟ったのかしょんぼりとした表情を浮かべた。

 

「行政官という事は……風紀委員会のナンバー2……」

 

「あら、実際はそんな大したものではありませんよ。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……」

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない」

 

 シロコの指摘は明らかに誰かを示したもので、意図せずイオリが声を荒らげた。

 

「だ、誰が緊張してるって!?」

 

「そんなことより、用件はなに?」

 

「そうですね、では、早めに本題へと移りましょうか。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学校の規則違反をした方々を逮捕するために来ました」

 

「ここまでの武力を働いて、それでも規則違反だからって言うのかい?」

 

「ええ、あくまで私たちの生徒の規則違反、対処は私たちゲヘナの風紀委員会が行います。ですので、ご協力頂けると嬉しいのですが……」

 

「先程も言いましたが、そうはいきません!」

 

 そこでアヤネが反撃に出る。

 

「他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!自治権の観点からして、明確な違反です!便利屋の処遇は、私達が決めます!」

 

「……なるほど。まさか、これほどの兵力を持ってしても、怯みすらしないなんて。これだけの自信は、やはり信頼出来る大人がいらっしゃるからでしょうか?ねえ、先生?」

 

「……え?」

 

「シャーレの先生。貴方も、対策委員会と同じご意見ですか?」

 

「あ……あぁそうだね、今回は便利屋独自で動いた行為、同じ学園だからといって、生徒一人一人全員が風紀委員会に縛られてる訳でもない。それで、今回はアビドス内で起きたこと。幾ら言っても、今回無関係な風紀委員会は、私たちアビドスに手出はできない、アヤネの言っている事が正しいと思うな」

 

「それに、便利屋も悪い子じゃないしね」

 

「いやいや!悪人に決まってるでしょ!ラーメン屋を爆発させたのよ!?」

 

「え?そうなの?」

 

 えホント?便利屋ホント?

 

「……兎に角、今回は便利屋単独で行った行為だから、処罰は私たちが決める。お引き取り願えるかな?」

 

「……なるほど、これは困りましたね……仕方ありません。やるしか、なさそうですね」

 

 そう言った瞬間、突然奥から銃声が鳴り響いた。だが、これは対策委員会への攻撃じゃない、奥のゲヘナ生徒が一人一人倒れていく。

 

「な、なんだ!?」

 

「ハルカ!?」

 

 ゲヘナ生徒の中からハルカが飛び出し、イオリの目の前に立った瞬間、効率を重視したショットガンを腹へ連射する。

 

「ぐっ!?うぅ……っ、」

 

 その衝撃でイオリがよろけると同人、ハルカは思い出切りイオリを蹴り、隣のビルへ吹き飛ばした。そして立っているゲヘナ生徒も少なくなる。

 

「嘘をつかないで、天雨アコ」

 

 無慈悲なハルカの後ろから、知らぬ間に後ろにまわっていた便利屋が現れた。

 

「偶然なんかじゃない、最初からアンタが狙ってたのはこの状況だった」

 

「……カヨコさん」

 

「ハルカちゃんナ〜イス☆」

 

「ス、すいません!助けに来るのが遅くなりました……!」

 

「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私達を狙って?こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはアンタの独断的な行動に違いない」

 

「………」

 

「それに、私達を相手にするには余りに多すぎる兵力。他の集団との戦闘も想定すれば説明が付く。アビドスの全校生徒を集めても五人しかいない……なら結論は一つ」

 

 カヨコは全てを分かった様に指を一本立て、鋭い目つきでアコに向け言い放つ。

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

「え、私……?」

 

「……ああ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れていました。呑気に雑談なんてしている場合ではありませんでしたね。まあ、構いません」

 

 次にアコが指を鳴らすと、全方向からゲヘナ生徒が現れ、知らぬ間に私達と取り囲む。

 

「………増員」

 

「まだ居ただなんて……それに、こんなにも数が……」

 

「うーん……少々やりすぎかとも思いましたが……シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆」

 

「アコ………!!」

 

「話を戻しましょう。私達がこうするきっかけは、ティーパーティーでした。もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会の事です」

 

「そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている……と、そんな話がウチの情報部から上がってきまして」

 

「そんな話……あ」

 

 そう言えば……ヒフミがアビドスの件をティーパーティーに報告するって言ってたな……。

 

「……それで?」

 

「当初は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが、ティーパーティーが知っているとなれば、私たちも知る必要があります。そこで、チナツさんの報告書を確認しました」

 

「連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?」

 

「……それで私を?」

 

「はい。シャーレ自体、トリニティとの条約に、どんな影響が及ぶか分かるようなものではありません。ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです」

 

「ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で」

 

「断る」

 

「……そうですか」

 

「こっちとしては、ゲヘナ学園に行って何されるか分かったものじゃない、提案はありがたいけど、私にも生徒達が居るからね」

 

「では、やはり仕方がありませんね」

 

「……本気でやるのか?」

 

 さっきとは打って代わり気まずそうなイオリがアコに聞くが、答えは変わらない。

 

「ええ、私達は、一度決めたら辞めるなどという選択肢はありませんので」

 

「……はぁ、そうか。それなら私も容赦はしない」

 

 次の手を考えなければいけないその時、奥の方から誰かが歩いてくる事に気づいた。まだ誰も気づいていない、私しか見えてない。あれは……。

 

 白くて長い髪に、同じ風紀と書いた物、私にはその姿に見覚えがあった。

 

「……あっ」

 

 今回の勝負、あっさりと終わりそうだ。

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