「悪いけど、二人きりにして」
「うーん、それはダメです☆」
少し重めな空気が作られる中、ノノミはバッサリシロコの提案を断ち切った。
「……………」
「対策委員会に、「二人だけの秘密♡」みたいなものは許されません。何と言っても、運命共同体ですから」
空気は最初は重かったが、ノノミの発言の方が意味合い的に重かった。
でもノノミのお陰で何とかあの空気からは抜け出せた。
「ですので、きちんと状況の説明もしてくれない悪い子には……」
すると、ノノミはシロコに近づき____
「お仕置き☆しちゃいますよ?」
「う、うーん……」
「……えっとねえ」
ノノミの脅し(?)に何も言えないシロコの謎すぎる空気感を、ずっと黙っていたホシノが状況を説明するよう変えてくれた。
「…実は、おじさんがこっそりお昼寝してたのがバレちゃったんだよね〜」
「私の怠け癖なんて、今に始まったことじゃないとは思うけど、おじさんもここ最近ちょ〜っと怠けすぎたかも。まあ、それで少しばかり叱られちゃったのさ〜」
「あ、う、うん……」
少し歯切れ悪いものの、シロコも流されるように肯定する。
「にしたって、そんなに怒らなくてもいいのに〜。シロコちゃんは真面目だなあ」
「ま、人にはそういう時もあるよね〜。そろそろ集まる時間だし、行こっかー」
そういい、少し雰囲気が変わったホシノがシロコの横を通って教室を出た。
「う、うん……」
ホシノに続きシロコも教室を出る。
「待って…………いや……っ」
「………」
「………くそ」
せっかくホシノのことを聞ける瞬間だったのに……完全にやらかした。
時々雨に濡れたアビドスの夢を見る。
どれだけ手を伸ばしても届かない絶望感、自分じゃどうしようもできない劣等感に、時々苦しめられる。
訳あって私は夢の出来事は実際に起きる予兆だと思っている。それに、ホシノのことも大切だから、対策委員会が大切だから、絶対に助けたい、救いたい気持ちが強く出る。
「…先生、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫」
「結局……何も聞けなかったね」
「仕方ありませんね。誰だって言いたくない秘密はあるものですから……」
「私たちも行きましょうか、先生。そろそろみんな帰ってきてるかもしれません」
「うへ〜……」
「……………」
「………」
「…………」
気まずい。
流石にあんな空気のままいるっていうのも辛いものがある。
早く帰ってきてくれ……二人とも……。
と思っていた矢先、突然教室のドアが大きな音と勢いで開けられる。
「先輩たち、大変!!これ見て!」
「アビドス自治区の関係書類を持ってきました!これを……」
「……?」
「あれ……?」
2人が来てこっちとしては助かったけど、2人からしたら異様過ぎる空気感だ。
「……な、何、この雰囲気?」
「何があったんですか……?」
……2人に話すのは、今じゃないよね。
「いや、大丈夫、それより何があったのか聞かせて欲しい」
「そ、そう!これを見てください!」
会議室の机に置かれたのは、1枚の地図だった。
「これ地図?」
「直近までの取引が記録されてる、アビドス自治区の土地の地図「地籍図」と呼ばれているものです」
「土地の所有者を確認できる書類、ということですか…?」
「でも書類なんて見なくても、アビドスの土地は当然アビドス高校の所有で……」
「私もさっきまでそう思ってた!でもそうじゃなかったの!」
「お見舞いに行った時に、大将から話を聞いたんです」
「柴関ラーメン含む建物はもちろん、このアビドス自治区のほとんどが……私たちの学校が所有していることに、なっていませんでした」
「え………?」
「どういうこと?アビドス自治区がアビドスの所有じゃないって……」
ホシノが立ち上がり、地図の所有者の欄を見ると、あることに気が付いた。
「……これって」
「現在の所有者は……」
「はい……!カイザーコンストラクション……そう書かれています」
「カイザーコンストラクション……カイザーコーポレーションの系列ですか……!?」
「アビドスの自治区を、カイザーコーポレーションが所有している……ということになるね」
だが、それは謎だらけだった。
なんせ、今のアビドスは土地の半分以上が砂漠化、街ももう衰えた大きくなる予兆は無い。
カイザーといえば言わずと知れた巨大企業、そんな大物が明らかに復興なんて絶望的なこのアビドスを、私たちに言わず勝手に土地を買っているなんて……普通に考えたらありえないことだ。
「一体何を企んで……」
その時、黒服と名乗る奴からの言葉を思い出す。
「……もう少しで、運命が動き出す……」
もしかして、あの言葉はこのことを予言して……?
「でも、ならなんでカイザーなんかはアビドスを……?」
「……何か裏がある」
「えっ?」
「これはくろふ……私の個人的な意見だけどね」
「アビドスは、砂漠化される前はゲヘナやトリニティにも負けないぐらいのマンモス校だったんだよね」
「そ、そうだけど……」
「だったら、元のアビドスは今のゲヘナやトリニティにも劣らない何か……兵器や秘密が隠されている可能性は高い」
「それを大企業であるカイザーなら、自分たちの利益のために、どんな手を使ってでも手に入れようとするはずだ……今の状況みたいに」
「な、なるほど……」
「でも、この考察を確定化させるためには……誰が何のためにこのアビドスの土地を売ったのかが鍵になる」
「一体誰がアビドスを………」
その時、ホシノはゆっくりと、冷静で何かを抑え込むような低い声で答えた。
「……アビドスの生徒会、でしょ」
「………!」
「学校の資産義決権は、生徒会にある。それが可能なのは、普通に考えればその学校の生徒会だけ」
「……はい、その通りです。取引のしゅたいは、アビドスの前生徒会でした」
「そんな……アビドスの生徒会は、もう2年前に無くなったはずでは……」
「はい、ですので、生徒会が無くなってからは取引は行われておりません」
「そっか……2年前」
「生徒会がアビドスを売る……そんなことって……」
「何をやってんのよ!生徒会のやつらは!!」
「土地を売る?カイザーコーポレーションなんかに!?」
「学校の主体は生徒でしょ!?どうしてそんなこと……っ!!」
「………………」
「……ホシノは、何かしらない?」
「…っえ?私?」
「うん、ホシノって、確か昔の生徒会の副会長だったよね」
「…あ、ああ〜おじさんにもそんな時期があったね〜」
「でも、そもそも私も生徒会の先輩たちとは、実際に関わりはなくってね〜」
「私が生徒会に入った頃には、もうほとんどの人が辞めちゃってたから」
「最後の生徒会なんて言われてるけど、そんな生徒会も新任の生徒会長と私の二人だけだったし」
「その生徒会長は無鉄砲で、会長なのに校内随一のバカで……私だって、嫌な性格の新入生でさ」
「何もかもめちゃくちゃだったけど………楽しかったな」
「ホシノ………」
そんな言葉を聞いたら、余計に見過ごす訳にはいかなくなった。
「なら、大切で大好きな生徒たちのために、頑張るか」
「みんな、カイザーの件、あれは絶対に裏がある。このままだと、アビドスが大変な目に会うかもしれない」
「カイザーは今の学校を奪おうとしている」
「分かりました。ではまとめましょう」
アヤネは立ち上がり、ホワイトボードにペンで書き始める。
「学校の借金、今のアビドスが陥ってる状況、そして私たちが見つけ出した幾つかの糸口」
「カイザーコーポレーションは、アビドス生徒会が消えてしまい土地を購入する方法が無くなった……そして、まだ手に入れていない「最後の土地」であるこの学校を奪うために、色々な手段を用意していた」
「カイザーコーポレーションの狙いはお金ではなく土地だった、という結論で良いと思います!」
「ですね、バッチリかと。そうなると、次の疑問としては…どうして土地なんでしょうか?」
「それにはカイザーたちの計画があると思う」
そして、私は前にヒナから聞いた情報をみんなに伝えた。
捨てられたアビドス砂漠でカイザーコーポレーションが何かを企んでいることを。
「これは、アビドスだけの問題じゃなくなってきた。シャーレの先生であり、みんなの先生でもある私の問題でもある」
「私は、みんなについて行くよ」
「先生……」
「なら、こうしちゃいられない!」
「今のアビドスがこうなってる理由に、カイザーコーポレーションがいて、そのカイザーコーポレーションがアビドス砂漠にいるなら、この目で確かめればいいじゃん!」
「今考えるより、この目で見た方が早いよ!」
「セリカちゃん……」
「…ん、そうだね」
「いやぁ〜、セリカちゃんがこんなに逞しく育ってお母さん嬉しい、泣いちゃう」
「よく言ったぞセリカ!」
「…っ!!そういうのいいから!!!」
「……なら、みんな準備が揃ったら向かおうか。アビドス砂漠に」
「うん!」
みんなの青春を邪魔する奴らは、何人だろうと許さないからな。
会議を終え、私はシロコに呼び出された。
「先生」
「どうしたの?こんな所に呼び出して」
すると、シロコは何か言いずらそうにしていた。
「その……これ」
そして、シロコがポケットから取り出した物は………。