アビドスから少なくとも数十kmは離れているゲヘナ学園。常に何処が爆発するか破壊力されるか誰かしら暴走している頭のおかしな学園。
そんなゲヘナ学園の均衡を保っている唯一の会「風紀委員会」
アビドス襲撃の一件を終え、風紀委員会ツートップのアコとヒナは風紀委員会専用の部屋で二人きりだった。
「…委員長…その…これは、いつまで書けば良いのでしょうか……?」
部屋の中にはカリカリとペンと書く音と太陽の光しかなく、久しぶりに人の声が部屋に響いた。
「今200枚目ぐらいでしょ。自分で1000枚書くって言ってなかった?」
「それはその……それくらい反省していますという比喩でして……」
アビドスの無断襲撃が委員長のヒナにバレ、無事鼻を折られたアコだが、しっかりとヒナの命令には従う。実にアコである。
「口より手を動かしなさい」
「が、頑張ります……」
そしてまたペンよ音だけが響き渡るが、ある疑問がアコの口を動かした。
「そういえば……委員長」
「?」
「あのアビドスのホシノという方は、お知り合いなのですか?」
「いや、実際に会ったのは初めて」
「そうでしたか。どことなく、よく知っている方のように話されていたので……」
「……………………」
ヒナの沈黙、その間、ヒナは昔のことを思い出しながらも、口を開いた。
「……小鳥遊ホシノ」
「「天才」と呼ばれた、本物のエリート。2年前の情報部の分析では、ゲヘナにとっての潜在脅威の一つとしてリストアップされていた」
「何と……全くそういった感じには見えませんでしたが……」
アコの想像した小鳥遊ホシノは、ピンク髪の長髪、光るオッドアイにいつも柔らかい笑顔を浮かべた緩い存在だった。
「アコ、外見で相手を判断するものじゃない」
「……でもたしかに、2年前とは随分と空気が違った」
「元々は攻撃的戦略を得意とした、かなりの好戦的タイプで……荒っぽくて、鋭い印象だった」
「……あの時、あのまま戦っていたら、きっと風紀委員の大半が戦闘不能になっていた、アコ、貴方の早とちりでね」
「それに加えて、あの時には「シャーレ」もいた。被害はそれ以上深刻になっていたかもしれない」
「戦力の分析はしっかりしたはずですが……そういった情報なんて……」
「…………小鳥遊ホシノ」
ヒナの見る先には、''あの''小鳥遊ホシノが浮かび上がっていた。
今と違い短いショートカットのピンク髪、光を失った戦いの為だけに付いているオッドアイに、笑顔の面影はなかった。
その実力は、一対一なら勝てる者はいないと言われる。実際に単独での組織破壊も何度か行ったことがあり、知る者は言った……あの''雷帝''にも対抗できる数少ない実力者だと。
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ」
「今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」
「それはどうでもいいけど、貴方がアビドス高校を騙して摂取した張本人ってことで良い?」
そう強気の姿勢でシロコは理事に銃を構える。
「ほう?」
「あんたがヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちを苦しませてきたってことなんでしょ!?」
セリカも続いて強い口調で同じく銃を構える。
「あんたたちのせいで私たちは……アビドスは……!」
「……はぁ、最初に出てくる言葉がそれか」
「勝手に私有地へと侵入し、善良なるPMC職員たちを攻撃し、施設を散々破壊しておいて……」
「その件に関して、アビドス砂漠の私有地を変えたことを、今の私たちに伝えなかった貴方たちにも非はあると思うけど」
「なるほど、だが買ったものは仕方がないだろう。買った時に報告はしたさ、それを確認できていないのはアビドス…そちらの問題だろう?」
「…………………」
「まるで私たちが不法な行為でもしているかのような言い方は辞めてもらおうか。わざわざ挑発をしにしたわけではないだろう?」
「ここに来たのは、私たちが何をしているのか気になったからか?なぜアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいのか?」
「それならば教えてやる。私たちはアビドスのどこかに埋められている宝物を探しているのだ」
「……!」
「そんなでまかせ、信じるわけないでしょ!!」
「もしそうだとしても、このPMCの兵力については説明がつかない」
「この兵力は、私たちの自治区を武力で占領するため、違う?」
理事はしばらく沈黙した後、こう言った。
「何百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬」
「たった5人しかいない学校のために、これほどの用意をするとでも?」
「冗談じゃない。あくまでどこかの集団に宝探しを妨害された時のためだ。君たちのために用意したものではない」
「本当にそうか?」
「…ほう?」
「お前は、どこかアビドスに対しての恐怖を抱いている。自分でも気づけないほどに……実際に、このPMC、お前がアビドスのために用意しただろ?」
「…なるほど」
「お前は……何をそんなに怖がっている?」
そう疑問を投げかけると、理事はスマホを取り出した。
「ならば、私はこう対抗しよう」
「私だ……そうだ、進めろ」
「な、何……?急に電話?」
「残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ」
そう言った時、アビドスに電話がかかってきた。
カイザーローンからの電話、内容は、突然のアビドスへの信用評価の低下、そして変動金利が3000%の上昇、結果として利子の返済額は9130万となった。
「きゅ、9000万!?」
「そんな暴動、許されるわけが……!」
「これで分かっただろう?君たちがどういう状況下なのか」
「っ……!」
「そうだな、9億の借金に対する保証金も貰うとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに3億円を預託してもらおうか」
『そんな……』
「……っ」
「お前……いい加減に……!」
あまりの暴動に許せなくなり、殴ろうとするところをギリギリ強い握り拳を作るだけで済ませた。
『そんなお金、用意できるわけが……利子だけでも精一杯なのに……』
「ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?」
『!!』
「は?」
「自主退学し、転校すれば解決だろう、これは個人の借金では無い」
「学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが背負う必要はないだろう?」
「そんなこと、できるわけないじゃないですか!」
「そうよ!私たちの学校なんだから、!見捨てられるわけないでしょ!」
「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」
「みんな………」
「ならばどうする?他に何か、良い手でも?」
「お前……絶対に……!」
限界を超え、理事を殴りに前に出ようとすると、ホシノに腕を掴まれた。
「先生、大丈夫」
「…ホシノ……でも………」
「みんな……帰ろう」
「ホシノ先輩……!?」
「……これ以上言い争っても、意味が無い……弄ばれるだけ」
「ほう……副生徒会長、君は賢そうだ」
「……ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな」
「……………………」
「ホシノ……?」
今、一瞬にして雰囲気が変わったような……。
「では、保証金と来月以降の返済についてはよろしく頼むよ。お客様」
その言葉を無視し、私たちはその場を無言で歩き去った。
「迎えは、いらないか」
理事はアビドスから背を向け、施設へと戻って行った。