虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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ホシノ救出作戦

ホシノ誘拐から半日が経ち、私はまたあるビルの中にいた。

 

エレベーターに乗り、最上階に着くと、扉が開いた。

 

その部屋にはほぼ何も無く、目の前には机の椅子、その後ろは光が差し込む窓が貼り付けられており、それを遮断するためのカーテンもあるが、半分も閉めていなかった。

 

そして、その光に当てられるある人物も、その椅子に座り、肘を机に置いてわたしを見ていた。

 

「貴方の事ですから、今この瞬間に私の前に出るとは思っていませんでした。」

「あの日ぶりですね、シャーレの先生」

 

「…今回は話をしに来ただけだ」

 

そう伝えると間髪入れず奴も話し始める。

 

「もちろん、分かっております」

「先に言っておきましょう。あの日のあの態度に関しては、謝罪致します。私は、貴方と敵対するつもりはありませんので」

「おそらく私の名前は既に知っているでしょうが、一応自己紹介を改めて」

 

「私は貴方と同じキヴォトス外部の者……ですが貴方とは違う存在」

「私達の事は『ゲマトリア』とお呼びください」

「そして、私の事は『黒服』とでもお呼びください」

 

「本来なら提案でも一つ出そうと思ったのですが、貴方の目を見る限りその必要は無さそうです」

「話を戻しましょう。改めて、貴方の目的はなんなのでしょう」

 

「ホシノを返してもらう。それだけだ」

 

そう言うと、黒服は奇妙な笑いを浮かべ、少し声色が変わった。

 

「クックック……今、貴方の行動には正当性がない。貴方はどんな権利を持ってそのような要求をしているのでしょうか」

「感情論ではなく、現実的な話では小鳥遊ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認していれば分かるでしょう」

 

その問いに、私は既に対策を作っておいた。

 

「いや、まだだ」

 

「…ほう?」

 

「アビドス顧問である私が、その届け出にサインをしていない。私がサインしない限り、ホシノはまだアビドス生徒だ」

「お前の言う通り、現実的に見るのなら、今でもホシノは私の大切な生徒の一人だ」

 

「……なるほど、その事を忘れていましたね」

「確かに、貴方がアビドス顧問である限り、小鳥遊ホシノはまだアビドスの生徒である……ふむ、中々に厄介な存在ですね」

 

「お前達は、生きてちゃいけないんだ。子供達を理不尽に利用する。決して許される事では無い」

 

その言葉に黒服は引っかかった様ですぐに考える事を辞め、私の発言に言い返した。

 

「先生、確かに私達はアビドス生徒を利用している、これは事実です」

「ですが、全てが私達のせいではありまん」

「アビドスの厄災、数年前に突如起きた砂嵐での影響は恐ろしいものでした。それはあれだけの規模と地位を持っていたアビドスをあそこまで追い詰めるほどに」

 

「ですが、私達ゲマトリアも、カイザーPMCもその件に関しては予想出来ていませんでした」

「あくまで私達がやっている事は事後のアビドス利用。貴方の考えている憎悪には勘違いが含まれています。そこだけは訂正していただきたいですね」

 

そこで、黒服はある提案を出してきた。

 

「存在を維持するためには、それだけやらなければいけない事がある。そのやらなければいけない事が今回のアビドスだったという訳です」

「これは大人である貴方だって理解できる事です」

 

「貴方なら理解出来る、だからこそ、今アビドスから手を引いていただきたいんです。先生」

「小鳥遊ホシノさえ諦めれば、あの学校を守ると約束しましょう」

「カイザーPMCに関しても、私達が対処します」

 

「あの子達も、なんとかアビドス高等学校に通い続ける事は出来るはずです」

「これは、小鳥遊ホシノ本人も望んでいる事です。決して私達の私利私欲だけではありません。いかがですか?」

 

そんな提案、私の答えはもちろん決まっている。

 

「断る」

 

「……なぜでしょう?貴方はそれ程までに私達の敵対するつもりなんでしょうか?」

「貴方は無力です。戦う手段など無い」

 

そう問われ、私はある物を出した。

 

『大人のカードを取り出す』

 

その物を見た時、黒服は少し黙った後、また口を開いた。

 

「…先生、確かに、それは貴方だけの武器でしょう。ですが、そのリスクは測りきれません」

「使えば使うほど、失われていくんです。貴方の生が、時間が」

 

「それに、その眼だけでも、全てを支配出来るはずです。そちらもそれなりのリスクがありますが、メリットの方が圧倒的です。そんな物は使う必要はありません」

「そのカードはしまってください。貴方も生きるためです」

 

「あの子達よりも、もっと大事な事に……」

 

その言葉に、私は無意識に反応した。

 

「私は、あの子達の為に死ねるなら本望だ」

「私の心臓が直接伝えるんだよ。あの子達の為に死ねと」

 

「私は死ぬまであの子達を導く。この事だけは絶対に譲れない」

 

「…………なるほど」

 

するとフレンド黒服は立ち上がり、私の目の前に立った。

 

「本当に、死んでもいいんですね」

 

「あの子達の苦しみを受け持てるなら、わたしが全ての責任を取る」

 

「ただの他人に?そんな思いを寄せても所詮他人は他人です。貴方とは無関係だ」

 

「それが、大人の責任だと思ったから」

 

そう言うと、黒服は黙り込み、その後に私に背を向けた。

 

「貴方はやはり他の存在とは次元が違うようです。私では手に負えませんね」

「____彼女を、助けたいですか?」

 

すると、黒服はタブレットを私に見せてきた。

 

「小鳥遊ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます」

「「ミメシス」が観察した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することが出来るか___そんな実験を始めるつもりです」

 

「時間は間もなく来ます。精々頑張って生徒を助けると良いでしょう」

「微力ながら、幸運を祈っています」

「………最後に」

 

私が帰る前、黒服は私を引き止めた。

 

「……貴方は、なぜ小鳥遊ホシノを助けたいのですか?」

 

「………ホシノにとって、対策委員会の皆にとって」

「決して手離したくない。何物にも変え難い、たった一つの居場所だから」

 

________ホシノ救出作戦実行まで、残り五時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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時間帯はとっくに深夜になり、誰もが寝静まる頃に会議室のドアを開ける。

 

「おかえり、先生」

 

深夜帯でも学校には電気が付いており、その理由にはホシノを助けるということしかなかった。

 

「先生、お待ちしておりました!」

 

「先生!」

 

「先生……」

 

「何か掴んできた顔だね」

 

「うん、もう大丈夫」

 

「それじゃあ、先生」

 

ホシノには助けられたことがたくさんある。それを恩返しもしずにさよならなんて嫌に決まってる。

私たちは、ホシノのために命をかける。

 

「絶対に後悔はしない……ホシノにだって、後悔はさせない!」

「ホシノを助けに行こう!!!」

 

「ん、行こう」

 

「ホシノを必ず連れ戻す」

「連れ戻したら、しっかりと怒って、ホシノに分からせてあげよう」

 

「はい!自分で言ったことを守れなかったんですから、お仕置てす!きちんと叱ってあげないと!」

 

「ホシノに帰る場所を作ってあげて、おかえりって言ってあげよう。そして、ただいまって言わせよう」

 

「うん……えっ!?」

 

そう提案した瞬間、セリカも肯定したはずなのに突然赤面しだす。

 

「何それ恥ずかしい、青春っぽい!!背筋がぞわっとする!」

 

「私はする」

 

「え、え!?」

 

「セリカちゃんがしなくても、私もします!」

 

「え、えぇっ!?」

 

「わ…私も、ちょっと恥ずかしいけど……する」

 

「か、勝手にして!私は絶対、そんな恥ずかしいことしないから!!」

 

「………っふふ」

 

こうやってみんなの姿を見ると、対策委員会のみんなはこんなことすら出来なかったんだって思う。

一度しか訪れない最初で最後の青春、こんな形で終わらせるわけにはいかない。

 

だって、まだもう一人、青春を出来ていない子が、居るから。

 

「それじゃあ、救出の準備を……」

 

そこでシロコはある問題を私たちに聞いてきた。

 

「でも、今の私たちだけじゃ勝つのは難しい」

「誰か協力者がいれば……」

 

「便利屋は?」

 

「確かに助けてくれましたが……もう一度お願いしても良いんでしょうか?」

 

便利屋……か。

そうだ。いいこと思いついた。

 

「私に考えがある」

 

そこでアヤネがどんな考えがを聞いてくる。

 

「絶対に手を貸してくれる。もちろん便利屋だって」

「助けを求めたら無理にでも助けてくれる。優しい子たちが居るから」

「それじゃあ、みんなは準備してて、私は今からゲヘナに行ってくる」

 

「………え?」

 

________ホシノ救出作戦実行まで、残り四時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゲヘナ風紀委員会部前

 

「はあ?風紀委員長に会いたい?ゲヘナの風紀委員長にそう容易く会えるとでも思ってるのか?」

 

「お願いイオリ!本当に今じゃないと不味いんだよ!」

 

「いや、というか私に言っても………」

 

そうイオリが言う間もなく肩を掴み至近距離でお願いしますと言い続ける。

 

「お願い!本当に今助けが欲しいんだ!」

 

「いや、あの……っ私に言っても…!」

 

「何でもする!何でもするから!」

 

「な、なんでも……?」

 

するとイオリは少し考えた後、ちょっと良い顔で私にあることを提案した。

 

「な、ならそうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら……」

 

「分かった」

 

「っへ?」

 

その刹那、人とは思えない速さで靴と靴下をしっかり畳んで横に置き、膝を着いてイオリの足に顔を近づける。

 

「え、ちょ、ちょっとまって!?本気じゃ…!?」

 

そんな焦りも耳を貸さず、そのまま足に………。

 

「ま、まって!分かった!分かったから辞めて!!」

 

そう言いながらイオリは私の頭を手で受け止める。

 

「え、いいの?まだやってない……」

 

「大人としてのプライドとか、人としての迷いは無いのか!?というかちょっと悲しそうにするな!!」

「っ〜!本当に…!」

 

「何だか楽しそうね?」

 

すると、イオリの後ろから委員長であるヒナが訪れて来た。

 

「い、委員長……」

 

「ヒナ、今頼みたいことが!」

 

「……生徒のために膝をつく先生を見たのは初めて、顔を上げてちょうだい、先生」

「言ってみて、私に何をしてほしい?」

 

そう聞いてくるヒナの後ろでイオリが複雑様な表情と小声で呟く。

 

「いや、その……先生は跪いてるんじゃなくて……その…足を、舐め……」

 

「………?」

 

「ヒナ、お願いがあるんだ」

 

________ホシノ救出作戦実行まで、残り三時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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トリニティ総合学園、ティーパーティーにて。

 

大きな建物のベランダ的存在の場所ではあるが、その大きさはベランダとは言えないほどの大きさだった。

端をフェンスで囲んであり、大きな屋根で太陽の半分を覆い隠すほどの大きさであり、そこの真ん中には横長い白い机があり、その上にはスイーツが置いてあった。

 

そこの近くに座り紅茶を飲む白く神々しい羽を持つ彼女は、隣にいる彼女との対話をしていた。

 

「なるほど、ご説明ありがとうございます。ヒフミさんが仰っていることは良く分かりました」

「その先生の言葉が本当だとするのなら、このままという訳にはいきませんね」

「例の条約もあります。今下手に動くことは吉ではありませんが、そのPMCという存在が、我が校の生徒たちに良くない影響を与えそうなのは確かですね」

 

「分かりました。私たちも多少ですが力を貸しましょう」

 

「あ、ありがとうございます、ナギサ様……」

 

「ですが、力を貸す代わりに、その指揮はヒフミさん自身が行ってください」

 

「……え?」

 

「愛は巡り巡るもの……ヒフミさんがいつか私に愛をお返ししてくれる時を、楽しみにしています。ふふっ」

 

「……へ?」

 

________ホシノ救出作戦実行まで、残り二時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アビドス、便利屋68にて。

 

ハンマーの叩く音が街に響き渡り、やがて音が無くなると、木で作られた屋台に大きく『ラーメン』と書かれた赤い軸が掛けられていた。

 

「おっ、屋台も良い感じじゃん!」

 

「元々、柴関ラーメンは屋台から始めたこともあったからな、懐かしい気分だよ」

 

どうやら便利屋も屋台作りを手伝っていたようで、全員で屋台み見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

580円とは思えない量の柴関ラーメンを4つ用意され、便利屋はゆっくりと食べ進んでいた。

 

そうして数十分、全員がしっかりと食べ終わると、全員席を立つ。

 

「あー美味しかった。さて、じゃあそろそろ行く?」

 

「……社長、本当に行くの?」

「この戦い、私たちには何のメリットもない。報酬も無しに、PMCと戦うなんて……」

 

そんなカヨコの問に、アルは当然答えは一つと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「カヨコちゃん、よく見てみなよ」

 

「ん?」

 

ムツキに言われカヨコはアルの顔をよく見ると、アルは真剣な顔で砂漠の方を見つめていた。

 

そう、この顔は。

 

「「依頼料なんて、このラーメンが味わえただけで十分よ」って今にも言い出しそうじゃん!」

 

「……………」

 

そんなわけないでしょみたいな顔を帰すカヨコに、ムツキは知っている上での期待の目を向ける。

 

「な、なるほど!さすがアル様です!多くは語らず、一杯のラーメンで地獄へと赴くその姿、まさにハードボイルドです!」

 

ハルカ自身は多分素で言っている。

 

すると、アルは突然笑いだし、便利屋のみんなへ問いかける。

 

「さあ、私と一緒に地獄の底までついてくる覚悟はいいかしら?」

 

そのかっこいい姿のアルの心の中では、アルは膝をついていた。

 

(言っちゃったーーーーー!!!)

(元々ラーメン食べたら帰るつもりだったのに、何だか流されて〜!)

 

もちろん。アルは最初から強かったわけではない。

逆に、今でもみんなが背中を押してくれるから行動に移せているだけだった。

 

(今から逃げ……逃げ……うぅ……でも……)

(先生……のためなら)

 

そうは言おうとも、相手は生徒のような子供とは違う大人、勝敗は目に見えている。

だけど、そんな中でもみんなは手を貸してくれた。

 

「ほら、じゃあ行こ!アルちゃん!」

 

そう言って背中を叩いてくれるムツキ。

 

「じ、地獄の底までお供します!」

 

何があっても付いてきてくれるハルカ。

 

「はぁ、何だか損してばっかりだけど……仕方ないね」

 

どんな状況でも笑って来てくれるカヨコ。

その時に、アルは気づいた。

 

(そうじゃない……私、一人じゃなかったわね)

 

この三人がいれば、どんな状況でも打破できると信じ込める。

だからこそ、便利屋68の社長でいられると気づいたアルは、さっきとは違う、本当の覚悟と笑顔を見せ、アビドス砂漠へと向かい歩き始めた。

 

________ホシノ救出作戦実行まで、残り一時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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太陽も登り始め、少しづつ空が光り始める時刻。

 

「ん、準備完了」

 

「補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!」

 

「こっちも準備できたわ!睡眠もしっかり取ったり、お腹もいっぱい!どっからでもかかってきなさい!」

 

「私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました」

 

「___よし、それじゃあ、行こう」

 

「はい!ホシノ先輩救出作戦………!」

 

過去を辿れ、未来を見据えろ。覚悟はとっくに終わらせてきた。

 

「ホシノ……待っててくれ」

 

「____開始です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……そうだったな」

「忘れていたよ……ダメになったんなら、またやり直せばいい」

「大事なのは、ラーメンを食べに来てくれる人の方だ」

 

お客さん先生がいる限り、アビドスは消えない。そういうもんだ。だから………」

「……行ってこい、対策委員会」

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