虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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決して忘れない記憶の箱

 

「先生、大丈夫ですか!?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 地下室の扉が強く開き、息を切らしたユウカ達が私の元へ駆け寄ってくる。

 一言目に云われた言葉は安否の確認。私が大丈夫と返すと、一変し安堵の表情を浮かべた。

 

「先生が無事で良かったです」

 

「ありがとう。皆んなの方は大丈夫だった?怪我とか、してない?」

 

「私達は特に……まあ、不覚にも手に傷を負った程度です」

 

 そう云って見せたハスミの左手には包帯が巻かれており、それでも少しだけ赤色に滲んでいた。

 痛々しく、ハスミの左手を手に取る。おでこを手の甲に当て、休まる様祈っておく。

 

「……こういう時、どんな事をすれば良いのか分からなくて。この位しかやれなくて、ごめんね」

 

「い、いえ!全く……ありがとう、ございます。先生」

 

 その後、何故か全員意識を逸らしていると云うか、目を逸らしている様な気がした。

 何と云えば良いのか分からない変な空気が流れていた時、部屋の扉がゆっくりと開かれる。

 

「お待たせしました。………ん?何かありましたか?」

 

 地下室の確保から七分と二十秒後、七神リンが到着した。

 変な空気に察して何かあったと聞かれる。あるにはあるが、まあ別に今話す事ではない。

 

「ううん、大丈夫」

 

「………そうですか。では早速ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています」

 

 そう云い、リンは裸で机の上に置いてある鉄の板を持ち、私に差し出した。

 

「……幸い、傷一つなく無事ですね。……受け取ってください」

 

 リンが差し出した物は、ワカモも持っていた板。リンから云われた言葉、それはこの板が一台のタブレットだという事。

 

「タブレット端末……?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。名を『シッテムの箱』」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭にある景色と言葉が浮かんだ。

 だが黒く塗り潰され、目の前に居た人の様なものも顔が誰なのか分からない。それに、変な雑音のせいで周りの音も聞き取れない。

 

 だけど、それには見聞き覚えのある''世界''だった。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。制作会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと云っていました」

 

「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるでしょうか。それとも……」

 

 リンは少し遠い目をシッテムの箱に向ける。リンは、私に、シッテムの箱それに期待しているのだろうか。

 

「………………」

 

 私は、何も返せる言葉が無かった。

 それは、私には誰かを笑顔にさせられる言葉を知らないから。

 

「……では、私はここまでです。ここから先は全て先生に掛かっています。この先は先生一人……私は邪魔にならないよう、離れています」

 

 私が言葉を詰まらせていると、リンそう云い、何の抵抗も無しに背を向け、ゆっくりとした足取りでこの地下室から出ていってしまった。

 

 背を見送り、次は私はシッテムの箱を見る。怪しむ事も何かに迷うことも特に無く、直ぐにホームボタンへ指を伸ばし、押した。

 

 

『シッテムの箱を起動させる』

 

 

 頭の中でそう唱える。すると、青い背景に謎のマーク、その下に英語で何かが書かれているが、所々が文字化けしていて読めなかった。

 

 そして直ぐに次の文字が現れる。

 

 

 

 

『……Connecting To Crate of Shittim………』

 

 

 

 

 

『システム接続パスワードをご入力ください』

 

 

 

 

「………パスワード………は………」

 

 

 何なのか分からず、一瞬頭が空っぽになった。だが、その空の頭に、突然にある文字が浮かんだ。

 それは何故かパスワードの答えだと云っている様で、忘れる事も意識から離す事もできなかった。

 そして、頭では疑いを掛けながらも指は自然とその言葉を入力する。

 

 

 

 

『―――我々は望む、七つ嘆き』

『―――我々は覚えている、ジェリコの古則を』

 

 

 

 

『………接続パスワード承認』

『現在の接続者情報は―――――確認できました』

 

 

 

「シッテムの箱」へようこそ――――先生」

「生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N,Aに交換します」

 

「今、私の名前を……」

 

 そう云われた次の瞬間、タブレットが光り輝き輝く―――――

 

︎ ✦︎︎

 

「…………え?」

 

 目を開けると、そこは教室だった。

 だが、この教室は私の知っている教室とは何かが違う。異質な雰囲気を感じた。

 

 教室の半分は壊れていて、奥には無限と云える海が広がっている。崩れている教室の日が当たる方、そこら一帯には机と椅子が無造作に重なっていた。

 そして、日陰を作る方、そこでは一人の女の子がうつ伏せで机の上に突っ伏し寝ていた。

 

「くううぅぅ……Zzzz……むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……くううう……Zzzzzzz」

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ………?」

 

「………可愛い」

 

 その瞬間だけ何も考えられず、人差し指を近づけ、頬を突いてみた。

 

「うにゃ……まだですよぉ……しっかり噛まないと……」

 

「……ふふっ」

 

 突かれても表情を崩さず、蕩けた寝顔を見て思わずもう何回か頬を突いてしまった。

 

「あぅ、でもぉ………うぅぅぅんっ」

 

 夢中になってずっと頬を突いていると、流石に目を覚ましてしまい、ゆっくりと机から体を起こす。

 

「むにゃ……んもう……ありゃ?ありゃ、ありゃりゃ……?」

 

「え?あれ?あれれ?」

 

 しばらく固まっていると、ビクリと体が動き、椅子から勢い良く立ち上がる。

 

「せ、先生!?この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさかせんせ………あれ?」

 

「せ、先生……?」

 

「どうしたの?」

 

「あれ……気づいてないんですか……?」

 

「な、なにが……?」

 

「―――先生、泣いてますよ」

 

「え……?」

 

 数秒前に泣きそうになっていたとは思えない少女にそう云われ、ゆっくり指を頬に持っていくと、何か水のようなものに触れた。自分が泣いている。そう理解した瞬間、視界が一気にぼやけていく。てのひらから涙が零れ落ちる。

 息も荒く、心臓の鼓動もどんどんと速まっていき、何時しか大粒の涙が溢れ出すように零れる。

 

 少女が急いで私の元へ近付き、両手で私の顔に触れる。

 

「せ、先生!?大丈夫ですか……!?」

 

「……いき……てる……生き、てる」

 

 少女の声が、突然あるはずのない記憶へと変換されていく。

 幾年の時を君と一緒に過ごして、ずっと一緒と約束したこの場所で――――私と、君は。

 

「……あろ……な………?」

 

 意識が混雑とする中、突然頭にこんな言葉が浮かんだ。

 この目の前に居る女の子の名前はアロナ。そう云って聞かない。彼女の名前は、アロナ。

 

「君の名前は、アロナ……だよね………?」

 

「な、なんで私の名前を……まだ、云ってないのに……?」

 

 戸惑うアロナを引き寄せ、変だと分かっていながら突然アロナを抱きしめてしまった。

 突然抱きしめられるアロナはより戸惑ってしまい、両手をあわあわとさせ、同様の声を上げる。

 

「せせ、先生!?これは一体……?」

 

「………少しだけ、こうさせて欲しい」

 

 知らない過去を思い出し、悲しくも声が震える。震えた声でそう云うと、アロナは少し静寂を作り出すと、その両手で優しく背中をさすってくれた。そしてこう云ってもくれた。

 

「大丈夫です。アロナは、どこにも行きませんよ」

 

「………うん。ありがとう」

 

「……やっと会うことができました。私は、ここで先生を、ずっと……ずぅ〜っと待っていました」

 

「お帰りなさい。先生」

 

︎ ✦︎

 

 この空間で暫くお互いに抱きしめ合って後、私も事の重大さに気付き、落ち着いた様子でアロナと離れた。

 

「ごめん…急に抱きついちゃって」

 

「大丈夫ですよ!私も凄く嬉し……あ、いやじゃないので!」

 

「そう……?とりあえず、これからよろしくね。アロナ」

 

「はい!よろしくお願いします!あ、そう言えば忘れる所でした。実はまだ身体のバージョンが低い状態で……特に声帯周りの調整が必要なのですが………」

 

 アロナは手を見た後に手を耳に当て、少し赤らめながら目を逸らして云った。

 

「もう、必要はなさそうですね…………はっ!?と、とりあえず!これから先、頑張って色々な面で先生の事をサポートしていきますね!」

 

 そう云った後、会話に入る隙も無く、また別の何かに気づいたアロナは声を上げた。

 

「あ、そうだ!先生、形式的ではありますが生体認証を行います♪……あぁ、す、少し、恥ずかしいですが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方へ来てください」

 

「うん、分かった」

 

 アロナに目の前まで行くと、アロナは私を見上げ、再び少しだけ目を逸らした。

 

「きゅ、急にこんなに近いと……ま、まあいいです。さっきはこれよりも………いえ、これは、私だけのものです」

 

「…………?」

 

 変な独り言云っていたアロナは、私に人差し指を向けてきた。そして、笑顔を向ける。

 

「さあ、この私の指に先生の指を当ててください」

 

 何の事かも分からず、アロナに云われた通り人差し指を当てると、青紫色の波動が生まれた。

 

「うふふ。まるで、指切りして約束するみたいですね」

 

「……ごめん、分からない」

 

「え………あ、えっと、実は、これで生体情報の指紋を確認するんです!画面に残った指紋を目視で確認するのですが……すぐ終わります!こう見えて目は良いので」

「――――はい、もういいですよ♪」

 

 嬉しそうな顔をするアロナを見ると、私も自然と顔が緩んでくる。アロナは元気な顔で私の顔を見ると、明るい声で聞いてきた。

 

「先生、現在の状況を教えてください!」

 

「……うん、いいよ」

 

 私は事の経緯を説明すると、聞いたアロナは何度か首を縦に振った。

 

「なるほど……先生の事情は大体わかりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……」

 

「アロナは、その連邦生徒会長さんのことについて、何か知ってることはない?」

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……」

 

「お枠に立てず、すみません」

 

「だ、大丈夫だよ、ただ知ってるか気になっただけだから……」

 

 まさかそんなにも重々しく捉えられるとは思わず、悲しそうに謝るアロナを慰め、落ち着かせた。

 そんな意気消沈していたアロナも、ある事を始めに元気な表情を取り戻す。

 

「……ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです!」

 

「それじゃあ、お願いできる?」

 

「はい!分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

 

 アロナが目を瞑り、何かに集中していると――――

 アロナの周りに青や紫色のオーラが波を打ち、広がっていく。目を開くと同時、現実世界で何かの起動音と共に、地下室の電気が付いた。

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了」

 

「先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。

今サンクトゥムタワーは、私アロナの統率下にあります。云わば、今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然です!」

 

「先生の承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます………けど、本当に良いんですかね……?」

 

 アロナが不安の声を洩らす。

 それもそのはず。私もアロナもその場の勢いで従っているだけであり、実際にはキヴォトスと云う存在も、連邦生徒会と云う存在も何も分からない。

 

 そんな怪しいとも云える組織に、簡単に私で良いものか。そう理解し、言葉が詰まる。

 

「え……?ん〜どう、だろう」

 

「大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……?」

 

「大丈夫……な、はず」

 

「先生が持っていても良いんですよ?」

 

「わ、私……?流石に………」

 

「………分かりました。では、これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

︎︎ ✦︎

 

「……はい、サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね」

 

「ありがとう、リン」

 

「はい、先生もお疲れ様でした。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表者して深く感謝したします」

 

 そう云ってリンは深く頭を下げた。

 連邦生徒会を代表した感謝の表しは、そう直ぐには終わらず、私が何かを言うまでずっと頭を下げ続けていた。頭を上げさせ、さっき起きていた事の対処方法を聞く。

 

「さっきの不良の子達は、どうするの?」

 

「ここを攻撃した不良達と停学中の生徒達についてですか?その件に関してはこれから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく。これで『シッテムの箱会長の渡し物』はお渡しましたし、これで私の役目も………あっ」

 

 役目を終えた筈のリンは地下室を去ろうとしたが、一つやる事を忘れていたと云った。

 

「最後に……ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」

 

 そう云い、リンは再び私の手を引いてくれた。

 手を引くリンに、もう身体の痛みも引き十分に動ける事を伝え忘れていた事に気付き、リンを引き止める。

 

「あ、あの……もう立てるから手は――――」

 

「それでは、行きましょう」

 

 不機嫌なのか、声のトーンが少し下がった上、握る手の力も少しだけ強まった。

 表情が見えない筈なのに、何故か怖い顔をしていると思ってしまい、謎の恐怖でYESはいと答えざるを得なかった。

 

「……はい」

 

 その瞬間を境に、私はリンに逆らったりしない方が良いと決めた。

 

︎ ✦︎︎

 

 そのまま手を引かれ階段を上っていくと、空室と書かれた紙が扉のど真ん中に貼ってある部屋の前へと着いた。

 

「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」

 

 そう云い、ドアを開けメインロビーへと着くと、ガラッと暫く整備されていない事が分かる広い部屋、机にの上には数台のパソコンとキーボードが置いてあり、奥は窓一面となって、キヴォトス全体を目渡せるほどに高かい位置にある事が分かる。道理でただ階段を上がるだけなのにこんなにも息を切らしている訳だ。

 

 机の左側の壁には棚やダンボールが置いてあり、窓側の方には銃を整備する台が置いてあり、その壁には銃が数丁掛けてあった。

 

「そして、ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」

 

「お仕事……か。具体的には、私は何をすればいいの?」

 

「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させる事も可能です」

 

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、要約すれば何でも先生がやりたい事をやって良い……ということですね」

 

「………なるほど」

 

 リンの言葉一つ一つに何か意味がありそうな、気のせい……なはず。

 

「………………」

 

 リンさん?何で黙ってるんですか?

 何故かリンが意味深な表情で私を見つめてくる。別に何もしないけど?

 

「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま私たちは彼女を探すのに全力を尽くしている為、キヴォトスのあちこちで起こる問題に対応できるほどの余力がありません」

 

「今も連邦生徒会に寄せられるあらゆる苦情、支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、各部の支援要請などなど……」

 

 リンの言葉一つ一つ聞けば聞く程頭がギシギシと痛くなる。これからそんな問題達を対処し、キヴォトスの先生をしなければならないと考えると、私はここで生きていけるのかと不安にもなる。

 

「……もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』になら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。その辺りに関する書類は、先生の机の上に沢山置いておきました。気が向いたらお読みください」

 

「は………はい」

 

「それではごゆっくり。また必要な時には、ご連絡します」

 

 そう云い、早足でリンは部室の扉を閉じて行ってしまった。

 

「……さて、どうしようか」

 

 気が付けば見知らぬ場所に居て、そこを『キヴォトス』と呼ぶ。私はそこの先生であり、守る存在に成った――――

 私が何者で、何を持って生まれたのかも分からない。勿論、先生と云う存在にも。それを知る為には、まず経験を積まなければならない。

 

「………ん?」

 

 そんな考え事をしていると、窓の外に目が行った。そこには、晴天の空の下、光に照らされ少し暑そうにしている、数十分前にシャーレの入口で戦ってくれた皆んなだった。

 

「……お礼ぐらいは云っておかないと」

 

 上から見ていると、また直ぐにでも移動しそうな雰囲気を感じ、流石にお礼の言葉も無しとは考えられなかった。お礼を云う為に、そのついでにこのシャーレの構造を理解しておこうと、私も部屋を出て一階の入口まで再び長い階段を降りていった。

 

︎ ✦︎

 

「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」

 

「ワカモは自治区逃げてしまったのですけど……すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。後は、担当者に任せます」

 

 シャーレの入口に集まり、各自連絡事項を終えた末その電話を切った。

 溜息をついて少し、シャーレのドアが開く。そこにはタブレット端末を片手に急いで降りてきたであろう先生の姿。何度目かの汗を落とし辿り着いた先生は一言ハスミ達に向けて感謝の言葉を伝える。

 

「皆んな、お疲れ様。助けてくれてありがとう」

 

「先生……!こちらこそ、お役に立ててうれしい限りです」

 

 ハスミは互いに感謝の言葉と礼を重ねる。

 他の生徒達も先生を見て早々近付き、その中でユウカは少しにやけながら声を掛けた。

 

「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。もう既ににSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」

 

「……それは、困るなぁ」

 

 目立とうと思いやった事でも無ければ、私自身目立つことは苦手だ。それに私特に活躍する様な場面は無かった筈だが、一体何処で……?

 

「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生」

 

 そう笑顔で云うハスミに、同じ学園に住むスズミも同意の様で、ハスミの後ろで笑顔を向けお辞儀をした。

 それに続きチナツ、ユウカも各学園代表としての宣伝を受けていると、時間を告げるチャイムが鳴った。

 

「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃったときは、ぜひ訪ねてください」

 

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?待ってますね。先生、ではまた!」

 

 チャイムを聞いたユウカ達は学園に戻る準備を終え、別れる間際に先生と生徒を分からせる様に「さようなら」を云い、その言葉を反復させながら、皆んなが帰っていく背中に小さく手を振ってお別れをした。

 

「……さて、と」

 

 私もオフィスに戻ろうと踵を返した瞬間、シャーレの角、建物としての端っこに十何分前見た狐のお面が見えた。

 お互いに認識しているであろう位置で数秒間目が合う。頭の中ではあの時見た子以外考えられず、固まった時間は無限の様に感じ、先に意識を取り戻したであろう狐の子は慌てた様子で角の奥に消えて行ってしまった。

 

「ま、待って!」

 

 急いで追いかけるも私何かが追い付ける訳も無く、角に着いた時には既に跡形も無く消えていた。

 

︎ ✦︎

 

「あはは……なんだか慌ただしい感じでしたが………ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした!」

 

「うん。アロナも、お疲れ様」

 

「はい!でも、本当に大変なのはこれからですよ?」

 

「うぅ……うん。分かってる……よ」

 

「はい!これから先生と一緒に、キヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決していくのです……!単純に見えても決して簡単ではない……とっても重要なことです」

 

「それでは、シャーレを……キヴォトスをよろしくお願いします。先生」

 

「こちらこそ、よろしくね。アロナ」

 

「それではこれより、連邦捜査部『シャーレ』として、最初の任務―――お仕事を始めましょう!」

 

︎ ✦︎︎

 

 突如呼び出された数千の学園が集まった巨大都市キヴォトス。その先生として目を覚ました私は、行方不明となった連邦生徒会長の行方を探しながら、出会い、歪み、絶望のバットエンドを潜り抜け、ハッピーエンドへと向かっていく。

 

 そんな、ありふれた青春の物語を―――私たちは、見ることができるのだろうか。

 

 虚弱で、弱い私でも―――青い空を見上げることができるのだろうか。

 私が、皆を幸せな世界へと導けるのか。

 

 

 そんな近くも遠い幸せを手に入れる為の、長く儚い物語。




プロローグ終わり!

次回、対策委員会編第一章。よろしくお願いします。
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