虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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水面に潜む影。合宿の日

第一次特別学力試験が終わると、辺りは暗くなってしまい、本来なら生徒たちは帰るはずだった。

補習授業部のみんなも既に帰っており、このトリニティ本館にはほぼ人はいない。

 

そんな中、夜にも限らず椅子に座り、夜風に当たっている彼女の姿が、扉を開けた先に見えた。

 

彼女が私の存在に気づくと、直ぐに体を私の方へ向けた。

 

「あら、先生。お疲れ様です」

「補習授業部の方はいかがですか?」

 

彼女は直ぐにそんなことを聞いてきた。

私が答えようとする前に彼女は試験で上手くいかなかったことを既に知っている様で、残り2回のチャンスがあると言うが、そんなことよりも彼女の手元に目がいった。

 

「……ああ、これですか?チェスです、趣味でして」

 

「……そうなんだ」

 

チェスについては何も知らないが、1体1で戦うことだけは知っている。私の目には彼女一人しかいないのに、チェスをできていることについて気になっていた。

 

「一人でやってたの?」

 

「はい、今は私一人で。うるさいミカさんもいないですし」

「こんな話もなんですし、本題に移りましょう。今日は先生に、お伝えしたにことがあったのですが、それよりも先に、先生の方から何か言いたげなことがあるように見受けられますね」

 

「………」

 

彼女の人を見る目は異常と言えるほどに良い。まさかここまで見透かされているのは思わなかった。

だけど、聞かれているのなら質問をしてもいい。

 

「ヒフミから聞いたんだけど、気になってね。もし3回の試験に全て落ちちゃったら、4人はどうなるの?」

 

「……そうですね」

 

彼女は笑顔でその質問を受け取るが、答える際に笑顔とはまた別の可憐な表情でチェスの駒を置いた。

 

「簡単なお話です。試験で不合格を繰り返す。落第を逃れられそうにもない、助け合うこともできない……だとすれば、みなさん一緒に退学していただくしかありません」

 

「退学……!?」

 

「もちろん、トリニティにも落第、停学、退学などに関する校則が存在します」

「ただ、手続きが長くて面倒でして、たくさんの確認と議論を経なければなりません。ゲヘナとは違って、我々は手続きを重要視しますので」

 

所々ゲヘナを刺すような発言をするが、現在進行形で対立しているトリニティとゲヘナではこの位の刺し合いは日常茶飯事だろう。

 

「ですか今回急造された補習授業部には、この校則を無視できるように調整してあります。シャーレの権限を少し組み込まさせていただき、このような措置が可能となっているのです」

「そもそも、補習授業部は……」

 

「生徒を退学させるために、作ったものですから」

 

彼女は笑顔ではない真面目な表情で、補習授業部の本来の目的を語った。

 

「………!?」

「どうして、そんなことを……?」

 

彼女は手に持ったチェスを置き、覚めた紅茶に見向きもせず、私の目をしっかりと見てこう答えた。

 

「あの中に、トリニティの裏切り者がいるからです」

 

「裏切り者……」

 

「その裏切り者の狙いは、エデン条約締結の阻止」

「この言葉が持つ重さの理解していただくには……「エデン条約」とは何か、というか説明が必要ですね」

 

エデン条約______

 

「簡単に言いますと、トリニティとゲヘナの間に結ばれる不可侵条約です」

「その核心は、ゲヘナとトリニティの中心のメンバー全員が出席する、中立的な構成を設立することにあります」

 

「「エデン条約機構Eden Treaty Organization」、「ETO」と呼ばれるであろうこの団体が、トリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時に介入し、その紛争を解決することとなります」

「これにより、二つの学園の間での全面戦争が起きることはなくなります。誰かが踏み入れれば、両陣営が仲良く共倒れしてしまうことになりますので」

 

そう語り終えると、彼女は席を立つことはなく、夜風に当たったまま、私の方をじっと見ている。

 

「トリニティとゲヘナの長きに渡る対立関係は、お互いに大きな重荷となっています」

「エデン条約には、その無意味な消耗を防ぐ、唯一の方法。そしてキヴォトスのバランスを保つための方法でもあります」

 

「元々連邦生徒会長が提示した解決策でもありました。ですが彼女が行方不明となり、この条約も空中分解しかけたものを、私の元でここまで立て直した」

「いくら私といえど、連邦生徒会長には敵いません。この条約が締結される直前、このタイミングでこの条約を妨害しようと考えている者たちがいると情報を耳にしました」

 

エデン条約の締結、これが終われば無事にトリニティとゲヘナの戦争は無くなり、キヴォトスのバランスも保たれる。

だが、その条約を妨害、もしくは破壊しようとしている者がいる。誰なのかは分からない。だがその可能性、それに関与しているであろう人物を「補習授業部」という名で一箇所に集めた。

 

もし誰なのか分かればその一人を消し、他三人は解放。分からずとも、試験で全員を落とし、退学させる。

人道的で考えれば、人の所業とは思えない作戦。だが、この条約を締結させるために必要なものでもある。

 

こんなことすらもできてしまうのは、私が関わってしまったから。

私が先生という権利で、この計画を完成させてしまっていた。

私を利用し、この計画を進行させていた。

 

そんなことを言い終えた彼女から放たれた言葉は、謝罪だった。

 

「……ごめんなさい」

「こんな血生臭いことに先生を巻き込んでしまった。私のことは、罵っていただいても構いません」

 

「……いや、いいんだ」

「私を利用しようと考えていたのなら、今こうして会うこともできてないでしょ?」

 

「……そうですね。理解が速い」

 

話が一段落つくと、彼女は願いを込め、私へ伝えた。

 

「……補習授業部にいる裏切り者を、探していただけませんか?」

「先生を、トリニティを騙そうとしている者がいるのです。私たちだけではない。キヴォトス全体の平和を、自分たちの利益のためだけに天秤にかけているテロリストです」

「裏切り者を探し出すことがキヴォトスの平和へと直結する。いかがですか?連邦捜査部シャーレとしての、ご理解をいただけると幸なのですが_____」

 

「……………そうだね」

「もちろん、私も手を貸すよ」

 

「では___」

 

「でも、その代わり私にも条件がある」

 

少しの間を置き、彼女は私に聞いてくる。その条件は?と。

 

「もし、補習授業部に裏切り者がいたとして、その子を消そうとしても、私がさせないよ」

「もう、愛着が湧いちゃってね。私は、全員を幸せにしたい主義なんだ」

 

「………なるほど」

 

そう言い終え、私は扉に手をかける。その瞬間に後ろから声が聞こえた。

 

「……ですが、先生。ゴミを細かく選別して捨てるのが難しい時は、箱ごと捨てるというのも手段の一つ……そうは思いませんか?」

「それから、もう一点。試験については、基本的に私たちの手のひらの上にあります」

「例えば「急に試験の範囲が変わる」ですとか「試験会場が変わる」ですとか「難易度が変わる」ですとか……」

 

「そういったことも……起こるかもしれません」

 

「……確かに、ゴミの場合は、そういった選択も必要だね」

「ただし、生徒は違う。私は先生だからね……生徒なら、話は別」

 

扉を開き、中へと入る。

 

「私が先生なら、生徒には愛を送って、改心できるようにするかな。それが先生としての義務なら……尚更ね?」

 

そう言うと同時に、扉が締まりきった。

 

エデン条約が進みつつある。裏切り者……大体予想はついてるけど、疑いすぎないようにしないと自分を保っていられなくなる。

 

先生としての義務……そう、言い聞かせてきた。

先を生きる人としての義務を果たすように、みんなの先生となったならば、先生としての義務を果たさなければいけない。

 

「苦しいけど、失いたくはないから」

 

夢で見たような結末を迎えないように。失わないように。

 

明日から、合宿が始まる。

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

朝早くに集まり、指定された場所に来た。

 

扉を開けると、ベッドが人数分、タンスや絵画が貼ってあったりなど、正しく寮といえる部屋だった。

 

「ようやく着きましたね、ここが私たちの……」

 

「はい、合宿の場所です。ようやく着きましたね、ふぅ……」

 

「しばらく使われてない別館の建物と聞いたので、冷たい床で裸になって寝ないといけないのかと思ってましたが……」

「広いですし、きちんとしてますね。可愛いベッドもあって何よりです」

「これならみんなで寝られそうですね、裸で♡」

 

そう言い放つハナコの周りにピンク色のオーラが漂っているが、コハルがそれを断ち切る。

 

「さっきから何で裸を強調するのよ!?ベッドの数もちゃんとあるんだしみんなで寝る必要無いでしょ!?」

 

「楽しそうだね、コハル」

 

「楽しくないわよ!?」

 

「あら?もちろん先生もですよ♡」

 

「………ェ」

 

「エッチなのはダメ!死刑!」

 

こんな風になってしまったのも、学力試験に落ちてしまったからである。

まさかヒフミ以外まともな点数を取れないとは思わなかった。いやほんとに。

 

これから一週間、衣食住全てを勉強と共に過ごす。これはティーパーティーが決めたことです。もちろん先生の私も同伴です。リンちゃんに凄い顔されました。

 

そんな感じで荷物を置いていると、ヒフミがあることに気づいた。

 

「って、あれ?アズサちゃんは……?」

 

「あら、先ほどまでは一緒にいたのですが……」

 

そう言った直後にアズサが部屋の中に入ってきた。

 

「偵察完了だ」

 

「て、偵察……?」

 

「トリニティの本校舎からはかなり離れてるし、狙撃の危険は無さそう」

「外への入口が二つだけというところも気に入った」

 

そんな風にスラスラと別館を戦場と思っているのか分からないけど、色んな所を見てまわっていたようだ。

 

「あ、あの……アズサちゃん……?私たちはここへ戦いに来たのではなく、勉強をしに来たんですよ……?」

 

「うん、分かってる。一週間の集中訓練、外出禁止、自由時間は皆無、24時間一挙手一投足まで油断することは許されないハードなトレーニング」

 

「うん、違うね」

 

「きちんと準備もしてきた。体操服や細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食、毛布、水筒……」

 

「うん、みんなと一緒に確認したからね」

 

「そうだったな」

 

そんな感じでゆっくりと準備を始めていると、気づけば数時間経っていた。

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

「……と、いうわけであらためて」

「一次試験に落ちてしまったので、この別館で合宿をすることになりました。私たちは二次試験までの一週間、ここに滞在することになります」

 

別館は普段から使われているわけではなく、今いる部屋は綺麗にされているが、別の場所は汚れてたり使えなかったりする。

 

アズサ曰く、外にプールもあるらしいどうなってるかは察し通り。

 

食料の心配もなし、それにこの間私も何故か一緒に居ることになってる。何かあっでも心配無し!

 

「あ、あと向かい側にもお部屋があるのですが、先生は……」

 

「………!」

 

何か閃いたハナコはヒフミに近づき_______

 

「ダメッ!絶対ダメ!同衾とかエッチじゃん!!!死刑!!!」

 

「えっと、コハルちゃん?私、まだ何も言っていませんが……?」

 

「何言い出すかだいたい分かるわよ!!というかまだってことはこれから言うんじゃん!?なんでヒフミに近づくのよ!」

 

「あらあら、コハルちゃんは目が良いですねぇ……」

 

「私は先生がいても構わない、ベッドも余ってるし、部屋を幾つも使う必要はない」

 

「わ、私は混ざる必要もないし、みんなで交流して中を深めて……」

 

「で、ではそういうことで。そしたら、荷物も片付け終わったので早速お勉強を……」

 

そうヒフミが言いかけた時、ハナコがヒフミにあることを聞いた。

 

「あら、でもその前にやることがあると思いませんか?ヒフミちゃん?」

 

「えっ……?」

 

「なるほど、敵襲を想定してトラップ設置……」

 

誰もハナコの質問に答えられず、迷っているとハナコは直ぐに答えを出した。

 

「やること……それは」

「お掃除、ですよ♡」

 

「……お掃除?」




自分が想定しているよりも伸びてて嬉しいと同時に驚き通り越して怖いです。
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