虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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小さな幸せの時間

外で10分程待っていると、玄関の方から普段の服装から一変した体操服の姿で私の元へやって来た。

 

「先生、お待たせしました!」

 

「体操服……?」

 

「はい、動きやすいですし、洗濯も楽ですから。それに服装から入るのも大事ですからね」

 

トリニティの体操服は初めて見たけど、夏場にはもってこいの涼しい服装だ。布面積が少ないと思うのは私だけ?

 

「先生、その服装……暑くないですか?」

 

「ん?これ…?」

 

ヒフミが見るのは私の服装だ。少しずつ暑くなり半袖や半ズボンになる時期に長袖の服を着ているからだろう。

 

「まあ……色々あるから」

 

「そうですか……あまり無理をしないでくださいね」

 

「うん、もちろん」

 

「……で、私は何をやれば良いの?」

 

「っ!?……びっくりした」

 

急に後ろから服を少し引っ張りながら声をかけられて思わず体がびっくりしてしまった。

 

「コハルちゃん早かったですね」

 

「お待たせ」

 

コハルが来たすぐ後にアズサも到着したが、アズサは何故か体操服越しに銃を背負っていた。

 

「アズサちゃん……ど、どうして銃を……?」

 

「肌身離さず持っていないと、銃の意味がない。襲撃はいつ起こるか分からないから」

 

「え?いえ、それはその……そうなんですけど……なんと言いますか……」

 

ヒフミが困っていると、アズサの後ろからハナコがやって来た。

 

「お待たせしました、みなさん早かったですね?」

 

ただし、何故か水着姿だった。

 

「アウトーーーー!!!」

 

「!?」

 

心臓が止まった。

 

「あら……?どこか変でなところでも……?」

 

「いやいやあるでしょ変なとこ!?なんで掃除するのに水着なの!?バカなの!?バカなんでしょ!?バーカ!!」

 

「ですが動きやすいですし、汚されても大丈夫で、洗い流すのも簡単で……」

 

「そういう問題じゃない!?普通水着はプールで着るものなの!?だっ……誰かに見られたらどうするの!?」

 

「ここには私たち以外いませんよ……?」

 

ニコニコと青い水着を揺らすハナコに、コハルの顔はどんどんと赤くなっていく。

 

「と、とにかくダメ!アウトったらアウト!あんたはもう水着の着用禁止!!」

 

「あらあら……」

 

「せ、先生……先生?」

 

ヒフミがふと振り向くと、心臓を押さえつけている私がいた。

 

「せ、先生!?一体何が……」

 

「い……いや大丈夫……ただびっくりして」

「ちょっと心臓が痛いだけ……そろそろ掃除しに行こうか……」

 

「いや、出来ませんよ!?」

 

その後、私が落ち着くまでヒフミは付き合ってくれて、知らないうちにハナコは体操服に着替えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

建物付近の道は随分と雑草が増えており、みんな手袋を付けて玄関付近に集まった。

 

「それでは、まずは建物付近の雑草から抜いていきましょう!」

 

掃除が早速始まり、雑草をしばらく抜いていき、放置されたガラクタなども片付けていると、思ったよりは多くないようで、意外にすぐ片付け終わった。

 

そして、中に入っていくと、中にはホコリや汚れがあり、箒やモップを使って掃除をしていく。

 

みんなの様子を見ていると、初めて会った時とは格段に仲良くなっていると感じた。

馴染めるか不安だったアズサも、ヒフミと多少笑い合えるような関係になっており、コハルとハナコも……別の方向ではあるが、お互いの仲が深まっている。

 

改めて、ハナコの提案は正解だったかもしれない。勉強をするにしても、仲が良くなることは良いことだ。

 

ヒフミがまわりながら一人ずつ場所を指定していく内に、無意識ではあるが、ヒフミと三人の中で、口調が砕けていったり、表情が柔らかくなっていっている。

 

そうして、掃除が終わっていくと、みんなで最初の場所に戻る。

 

「うん、大体綺麗になったんじゃない?悪くない気分」

 

「……うん、悪くない」

 

「そうですね、お疲れ様でした!」

 

終わりの雰囲気が出ている中、ハナコがまだもう一つあると言った。

 

「あと一ヶ所……?」

 

「はい、屋外プールが♡」

 

「プール……あ、そういえばさっき……」

 

思い返してみると、確かに一度だけプールを見に行ったけど、試験と関係ないという理由でやらなかった。

もう一度見に行ってみると、他の場所とは全く違う汚ればかりで、中々に難しそうなものばかりだった。

 

「でも、試験と関係ないでしょ!やる理由ないよ!」

 

「いえいえコハルちゃん、考えてみてください」

「キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒たち……」

「………楽しくなってきませんか?」

 

「………?え!?わ、分からないんだけど!?なんか、私の分からない高度な話してる!?」

 

「でも、こうして放置されてしまったプールを見ていると……何だか寂しいきもちになりますね」

 

「こんなサイズなんだし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう。元々は……賑やかな声が、響き渡っていた場所なのかもしれない」

「……それでも、こんな風に変わってしまう……『Vanitasvanitatum』……それが、この世界の真実」

 

「……?」

 

「えっと……?」

 

「ばにたす?」

 

「古代の言葉ですね「全ては虚しいものであるVanitasvanitatum」……確かにそうなのかもしれません」

 

ハナコは普段の笑顔とは違い、少し遠い目でプールを見つめていた。そして、次の瞬間にハナコはみんなの方を向いて声を出した。

 

「……アズサちゃん、コハルちゃん、ヒフミちゃん!」

「今から遊びましょう!」

 

「えぇ!?」

 

ハナコの目が普段より少しだけキラキラして見えた。そして笑顔でハナコはこれからの事を話す。

 

「今から掃除して、プールに水を入れて、みんなで飛び込んだりしましょう!」

「明日からはお勉強を頑張り続けないといけない、そうなると今日が最後のチャンスかもしれません」

「今のうちに楽しく遊んでおかないと!途中からはまた別のことで、色々と疲れてしまうかもしれませんし……どうですか…?」

 

「……うん、いいと思う」

 

「先生まで……」

 

「先のことは分からない。今のうちにやれることやっておかないと。いつか後悔する時がくるよ……絶対に」

「だから、出来る限り、自分たちの楽しいことをしよう。ね」

 

そうは言ったものの、今はどうしてもハナコを大切にしたかった。初めて会った時から、変な人というより、変に''なってしまった''人に見えた。

それでどうしても、ハナコに強く出れなかった。

 

でも、今あの瞬間に、ハナコのやりたいことが見えた。だから、それを尊重したかった。もちろんさっき言った言葉も嘘じゃない。

 

「さあさあ、早く濡れても良い格好に着替えてきてください!プール掃除を始めましょう!」

 

「……うん。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない」

「問題ない。ちゃんと水着も持ってきてる。待ってて」

 

アズサがそう言うと、飛ぶように水着を取りに行ってしまった。

 

「あ、アズサちゃん!?早っ……!?」

 

「さあヒフミちゃんも!コハルちゃんも早く水着……いえ、何でも良いので濡れても良い格好に!今のままでもいいですよ!」

 

なんか一言多い。というかハナコの欲望が見えた。

 

「う〜ん、でも確かにここだけ掃除しないのも何だか気持ち悪いですし……私も、着替えてきます!」

 

「え、えぇ!?補習授業とは全然関係ないじゃん……うぁ、何で……」

 

「コハルちゃんはそのままでもウェルカムです!!」

 

「それどういうこと!?イヤに決まってるでしょ!私も行く!」

 

そして飛ぶように三人ともいってしまった。

 

「……ふふっ、先生も着替えていいんですよ?」

 

「…え?いや、私は……持ってないし」

 

「なら、そのまま濡れるんですか……?」

 

「え、いや……まずそもそも一緒にしない……」

 

「プールの掃除以外は手伝ってくれたのに……ここの掃除は手伝ってくれないんですか…?」

 

「いや……その……無理、です」

 

「………残念ですね」

 

そうしてちょっと気まずい雰囲気が流れた後、全員が再集合した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

「「「………」」」

 

四人中三人は水着だった。

 

「さあ、これでびしょびしょになっても構わないということですね♡」

 

ただ一人は制服だったが。

 

「うん、問題ない」

 

「……は、はい…一応」

 

「では、お掃除を始めましょうか?」

 

・・・・。

 

「待て待て待てっ!!」

 

コハルがそう止めると、ハナコは不思議そうな顔をした。

 

「コハルちゃん?どうかしましたか?」

 

「あんた掃除の時は水着でどうして今度は制服なの!?本当にばかなの!?濡れても良い服って言ったのあんたでしょ!?」

 

「これが「濡れても良い格好」ですよ?」

 

「……え何言ってんの!?分かんない!制服が濡れても良いの!?」

 

「コハルちゃん、水着と制服、どちらの方が濡れた時に「良い感じ」になると思いますか?」

 

「い、良い感じって何!?何の話!?」

 

「ふふっ、まあ半分は冗談ですよ。ほら、実は中に着てるんです。お小遣いで買ったビキニの水着♡」

「ちなみに、どちらが良い感じになるかは……」

 

「いや解説しなくていい!知りたくない!!」

 

「なら仕方ないですね」

 

そして、ハナコは少しの間目をつぶり、笑顔で掃除開始の掛け声をかける。

 

「……では、あらためてお掃除、始めましょうか!」

 

そう始め、水を出し始める。

 

ホースの水やプールの掃除道具を使い、色んな場所を綺麗にしていく。

 

無理やりにでも始めなければ起きなかったプール掃除は、みんなが笑顔で終えることができた。

 

ハナコも普段とは全く違う笑顔で水をかけたりかけられたりしている。

見ているだけでも癒されるような、小さな幸せの時間。決して忘れてはいけない思い出になる。

 

「先生も、ほらっ!」

 

「ん?え?」

 

少し遠くで見ていると、ハナコから思いっきり水をかけられた。

 

「っけほ…っけほ……びっくりした」

 

まさか水をかけられると思ってなかったから、油断してた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫……ちょっと水が口の中に入っちゃって……」

 

髪も濡れちゃったな。どうしよ。

 

「……なに…?」

 

何でそんなにじっと見られてるの私。

 

「えっと……何かした?」

 

「……あ、えっと……はい」

 

「え?何かしたの?今?」

 

「先生、それはちょっと……」

 

「ハナコまで!?」

 

でも何で誰も直視しないの?

 

「先生、死刑」

 

「へ?」

 

そんなよく分からないハプニング……?もあったけど、無事に終えることができた。

そして、掃除し終えすぐに水を入れたが……。時間が足らなかったようで、プールが完成する頃には日が暮れ夜になってしまった。




夏が終わりを迎えそうで泣いてる今日この頃です。
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