辺りが暗くなり、みんなが既に帰っているであろう時間帯に補習授業部のみんなは、屋外の電柱の明かりに照らされキラキラと輝いているプールを見つめている。
「結局、プールに入って遊ぶことはできませんでしたね……」
「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね…ごめんなさい。失念していました」
そう謝るハナコに、アズサは真顔だが、雰囲気でキラキラとした視線をハナコに向けながら楽しかったと伝えた。
「……綺麗」
夜に見るプールは不思議といつものプールとは全く違う景色に見える。明かりに照らされるプールの水は、正しく綺麗と言えるほどの美しさを誇っている。
屋外プールの周りに設置されているベンチに座って見つめていると、コハルの目が少しずつ小さくなっていくのと同時に、体が小さく揺れていた。
「あら、コハルちゃんおねむですか?」
「そ、そんなことないもん……でも…ちょっとつかれた……」
「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたもんね」
「では、そろそろお部屋に戻って休むとしましょうか」
ヒフミの提案に全員が了承し、寮へと戻る。
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部屋へ着くと、全員が各自のベッドに座る。
「それでは、お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「はい、ではまた明日」
「……お疲れ様」
「お疲れ様、あっちの部屋にいるから、何かあったら呼んで」
流石に同じ部屋で寝るのはまずいからと思い、私だけすぐ向かいの部屋に一人で寝るようにした。
別れの挨拶をし、私は一人で部屋に戻る。
一人でベッドに腰を掛け、目を瞑る。
「……さて」
思い出すのは、ナギサとの会話だった。
この補習授業部は、生徒を退部させるために作られた部活。その真相は、裏切り者を見つけ出すため……。
裏切り者が誰かは分からない。ただし、あの力を含めなければ。
数ヶ月に渡って、私の眼の力を観察、研究してみた。
その結果、過去に使って見たものも含め、ある一つの力がが分かった。
それは、未来を見る力。
ただし、あまりいい未来を見れる訳では無いし、見れても数日、数ヶ月先を見ることなんで出来ず、たった数秒、数十秒先ぐらいだ。
それと、もう一つの力も分かった。
それは、自身にとって最悪な未来を見させる力。
過去に見た荒廃したアビドス、これもこの力の一つだと思う。
しかもこの力は制御ができず、勝手に見せられることばかりだ。
「……難しいな」
アビドス以外にもたくさんの悪夢を見てきた。そのお陰で精神的にダメージを負いすぎて体が重くなって、日常生活に支障が出る可能性もある。
「どうにかしないと……」
とりあえず、未来を見る力は感覚ではあるが制御ができる。だからその力を使い、裏切り者も見つけ出す。
そういえば、未来以外にも別の力がある可能性もある。しっかり視野に入れておかないと。
「じゃあ……やるか」
ゆっくりと不思議なものが目元へと流れていく。
右目が少しずつ温かくなっていき、体全体が不思議な感覚と共に温かくなっていく。
すると、部屋からノック音が数回鳴らされた。
「……ノックの音…?」
生徒かもしれないと慌てて力を抜き目を開けベッドから立ち上がり、頭が正常に動いていないが小さな声で入って良いと許可を出すと、ゆっくりと部屋のドアが開いた。
「あ、えっと…失礼します……」
外から入ってきたのは、ヒフミだった。
体操服の半ズボンにジャージを着た寝間着の姿で来たヒフミは、私が手招きするとすぐ隣に座った。
「どうかした?」
「その…何だか眠れないと言いますか……」
「じゃあ、少しお話しようか」
そうして、しばらく二人で最近の話や趣味の話をしていると、眠くなるほどの時間帯となった。
ドアを開ける前に、ヒフミは私の方を向く。
「先生も、今日はお疲れ様でした」
「ヒフミも、お疲れ様」
そうお互いに見合っていると、ヒフミはふと明日のことを考えて不安の声を上げた。
「明日から本格的な合宿、なのですが……私たち、このままで大丈夫でしょうか……」
「もし一週間後の二次試験におちてしまったら、三次試験…万が一、それにも落ちてしまったら………」
少し不安そうな顔をするヒフミ、それはそうだ。なぜなら……。
「…落ちたら、全員退学……だよね」
「……先生も、知っていたんですね」
「まだ、誰にも言っていませんが……そもそも、言っても良いことなのかも……」
ヒフミが言うように、ただの学力試験のための寮と、退学がかかっている学力試験の寮じゃ、全くと言っていいほど気持ちや緊張感も変わる。
「それに……うぅ」
「……不安?」
「あぁ……えっと……」
「なんと言えばいいか……」
「……ナギサから、何か言われたりした?」
「……はい」
「トリニティの裏切り者を探して欲しい……って?」
ヒフミは過去のことを話すと、私と同じようなことを言われたらしく、ヒフミはそのことで気になることが多くあると言った。
「みんな、同じ生徒なんです……私は、裏切り者なんて探したくないですし……いるとも思いたくないです」
「……ふふ」
そう言ってくれるヒフミは、人想いの良い人だと思った。
手が無意識にヒフミの頭の上に置いて頭を撫でる。
「ヒフミは、凄く優しい子だ」
「せ、先生……!?」
「大丈夫、ヒフミは気にする必要はないよ」
「先生……?」
「私に任せて……私が……」
「先生……先生!」
視界が急に揺れて……頭が……。
話していると、急に全身の力が抜けて意識がプツンと途切れ、真っ暗な空間へと意識が落ちていった。
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「……んぅ」
目を開けると、ベッドの上にいた。
「…あれ…?」
確か、ヒフミと話してたら急に目の前が暗くなって……それで…?
「…先生……?起きましたか……?」
「……ヒフミ?」
体を起きあげると、隣りでヒフミが私を見つめていた。
「ごめん……寝ちゃって……」
「いえ、凄い疲れていたようなので、大丈夫です」
「……はぁ、今日はこのまま寝ちゃおうかな」
「いいと思います。では私はこれで……」
頭が上手く回らない……まあいいか。
「ヒフミも……一緒に寝よ」
「え?私は……え、ちょ……先生!?」
そのままヒフミを捕まえて抱きしめてしまった。
「先生……!?これは……」
「……………」
「先生……?……寝ちゃった……どうしましょう」
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同時刻。
寮内のロビーを通ると、アズサちゃんがロビー内の椅子に座っていた。
アズサちゃんが私の存在に気づくと、私の方へと近づいて何をしているのかを聞いてきた。
「ハナコ?こんな所で何を?」
「アズサちゃん。まだ起きていたんですね。それに制服で…?」
「もう十分寝たからな。見張りをしている」
「見張り……?」
この深夜帯に見張りをするような環境ではないし、そんなことが起きるような学校では無い。
その上、アズサちゃんが言ったほど、寝ているようには見えなかった。
「アズサちゃん……しっかり寝れてますか?そうは見えませんよ……?」
「……ごめん、違う環境だとあんまり寝付けなくて」
そう謝った後に本当のことを話すアズサちゃんは、その後に訓練を受けているから大丈夫という。
「ハナコは散歩?ヒフミも散歩に行ったらしいけど、みんなが安心して動けるように、見張りをしてるだけだから」
「気にしないで大丈夫」
「……アズサちゃん、あんまり無理しないでくださいね」
「うん」
そう言ってアズサちゃんは離れてロビーの奥へと歩いていった。
「………」
奥へと歩くアズサを見て、ハナコは少し不安な表情を浮かべながらも、自分自身も反対方向へと歩いていった。
各自で色んなことがありつつも、合宿の夜は明けていく。