《新》砂の味と砂狼
少女は独り、夢を見た。
少女は独り、選択を与えられた。
︎ ✦︎︎
街を埋め尽くす砂が、山を形成し跡形も無いモノと成っている。ビルを半分も埋める砂は砂漠と同化している。少女それを遠目に、ロードバイクで通り過ぎ道を下っていく。
長い道を超え、砂漠とは程遠い市街地へと出る。
数少ない人々が街を歩く。そこをも通り抜け、暫く走ると人気の無い街へと出た。
街を走り、開けた場所へと出る。そこには大きな校庭、その奥には一般的な大きさの校舎、その隣にくの字型を作る副校舎。その他にも大きめのプールや体育館、他の学園と比べても引けを取らない大きさの学校だった。
留まる事も無く、少女はロードバイクで校庭の中へと入る。
駐輪場へロードバイクを止め、バッグと青い線の入った銃を肩に掛け、校舎の中へと足を運んだ。
少し砂が混じる校舎の中、吊るされた小さな看板『対策委員会』と書かれた教室のドアを開く。
「あ、来た来た」
「……ん、おはよう」
「おはようございます♪」
ドアを開き席に着く二人、そして大きなホワイトボードに立つ少女にも挨拶を交わし、銃を直ぐ横に立て掛けた。
ふと視線を前に送る。大きな会議用の机の一番奥、そこには顔が埋まる程の大きなクッションに言葉通り頭を埋め、寝ている少女が居た。
「……まだ寝てるの?」
「うん、皆んなが集まるまでおじさんは寝てるねぇ〜だってさ」
「もうそろそろ会議を始めたいので、起こしたい所なんですが……」
全員が視線を少女に向ける。
彼女はこのアビドスで唯一の三年生、起こす事なら簡単なのだが、幾ら慣れているとは云え、仮にも先輩。そう簡単には起こせそうになかった。
その上そこまで重要では無い、普段の定例会議。その気持ちにはより強い押しが入る。
「まあ、そう言ってても仕方無いよね。そろそろ起こし―――」
いつも通り起こそうとした瞬間、少女は直前立て掛けた銃を取り出し、寝ている彼女に向けた。
その姿を見て、全員が唖然とする。突然の行動に戸惑う対策委員会を横目、その引き金は躊躇無く引かれた。
人気の無いこの街では、その引かれた一発の銃撃は大きく轟く。
そこに居る全員が彼女に惹き付けられる。心配の表情を見せ、振り向いたその瞬間、再びその場に居るほぼ全員が目を見開く結果を見せた。
「―――シロコちゃ〜ん。もう少し優しい起こし方をね〜……」
「ん。ホシノ先輩なら、このくらい余裕」
確かに放たれた弾丸は彼女、ホシノへ直撃する『筈だった』
音速を超えるスピードで放たれた弾丸は直撃する瞬間、片手で見えもしない弾丸を掴んでいた。そんな芸当をどうやってやったのかは不明だが、掴んだその手すら無傷であり、その弾丸はそのままゴミ箱へと投げ捨てられる。
身体を伸びさせ、クッションに再び頭を乗せる。
次は寝ないと片目を開き、普段の聞こえる柔らかい声で「それじゃあ、やろっか」と一言受けた。
唖然としていた三人も正気を取り戻し、何事も無かったかの様に席に座り直す。
「と、取り敢えず……始めましょうか」
「ん〜……何か変な感じだけど。まあいつもの事か」
変わった事は、今に始まった事では無い。
その廃れた世界で、彼女達は今日も抗っていく。
いつかこの街全体を砂で埋もれさせない為、今日も対策を探していく。
この砂漠化した街で、たった五人の生徒達が守り抜こうと、今日もまた立ち上がった。
「―――それでは、アビドス対策委員会。定例会議を始めます」
︎ ✦︎
「おはようございます、先生!」
「おはよう、アロナ」
先生としての役目を果たすようになってから数日が経過した。
突然起きたらキヴォトスを担う責任を押し付けられた時はどうなるかと思ったが、この数日間、特に何事も無く任された資料の整理、街のパトロール等を繰り返す。そうやって時間が過ぎていった。
それでも、私として気になっている所は沢山と言って良い程ある。
例えば、この数日間、風呂場等で身体を見る度に、原因不明の傷やアザ、焼け跡の様なものが無数と云っても足りない程に沢山付けられていた事に気付いた。
勿論、痛みは無い。だが、見続けていると気分が悪くなっていき、吐き気を催す程だった。先生としての自我がまだ幼いとは云え、こんな醜い身体を生徒に見せられる訳が無いと対策として長袖長ズボンは常に、そして手先まで満遍なく付いている傷を隠す為支障を出さない程度の薄く黒い手袋を着ける事にした。
変に考えると頭が痛くなる。
唯一首から上まで傷は見られなかったが、もし見えていない所でこの傷がバレてしまえば―――
「………先生?」
「ん?どうしたの、アロナ」
「え……?いえ、気のせい……でしょうか」
アロナが不安そうな目を私に向けてくる。直前までの記憶が曖昧になり、無意識に手で頭を抑えていた。
私のいつも通りの声が、アロナを惑わせているのか、アロナは逃げる様にメールボックスを取り出した。
「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まっているみたいですし、他の生徒達から助けを求める手紙も届いていますね」
「………そう、だよね」
この数日間、私は私のやるべきことを最大限やってきたつもりだ。
だが、人を助けるようなことはどうしても私ができるという確証的なイメージが湧かなかった。
私が、できるのだろうか。
アロナは私の異変に気が付いたのか、急ぎ声で励ましの言葉を送ってくれる。
「ですがそれは良い兆候です!つまり、それは私たちの活躍がこれから始まるということですから!」
「……うん、そうだね」
アロナから励ましの言葉を云って貰い、私は先生だと改めて自覚させてくれた。私は私のやるべき事をしっかりやる。そう心に決めていると、打って代わりアロナの不安な声が聞こえた。
「ですがその中にちょっと不穏な、こんな手紙がありまして」
そう云い、アロナが一通の手紙をモニターに表示させた。
「これは先生に一度読んでもらった方が良いかなと」
「分かった。どれどれ……?」
表示された手紙の中身には、丁寧な文で自己紹介から始まる。
差出人は、『奥空アヤネ』と云う子。
アヤネは自分の所属している学園『アビドス高等学校』の名を出すと、単刀直入にアビドス高等学校が追い詰められていると語った。それも、地域の暴力組織によって。
理由は分からず、何故かアビドスの校舎を狙っていて、今はどうにか食い止めているが、そろそろ弾薬などの補給が底に突きそうだといい、このままでは暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況だと云う。
『それで、今回先生にお願いできればと思いました。勝手なお願いだとは重々承知です。でも、私達の想い……私達の学校を、守りたいんです。直接手を出さなくても良いです。ただ、少しでも手を貸して頂きたいんです』
「先生、どうか私たちの力になっていただけませんか……?」
「なるほど……」
それは、私が想定していたよりも重く、先生としてはそう簡単に見放せない手紙内容だった。
「うーん……アビドス高等学校ですか……。昔はとても大きな自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。どれほど大きいかというと、街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるぐらいだそうです!」
そうアロナは手を大きく広げてアビドス自治区の大きさかどれだけデカイのかをアピールをする。かわいい。
「そんなに大きいんだ」
「巷ではそう噂されています。でも、そんなことがあるでしょうか……?いくらなんでも街のど真ん中で遭難でなんて……流石に誇張だとは思いますが」
そう呟きながら、続けてアロナは疑問を生み私に聞く。
「それより学校が暴力組織に攻撃されているなんて……ただ事ではなさそうですが……何があったんでしょうか?」
「……そう考える事が、普通だろうね」
アヤネの伝えられた手紙の内容を見れば見る程、今はそんなことを考えてる場合じゃない。今この瞬間にも、アヤネたちは苦しい状況が続いているんだ。
何故か、苦しいという言葉を聞くと、私も底なしに心が締め付けられるように苦しくなる。こんな苦しい想い、子供たちにさせる訳にはいかない。私が助けないと。先生としても、大人としても。
私は席から立ち上がり、専用のバッグを取り出す。
「考えても仕方ない。今からでもアビドスに行こう」
「はっ!すぐに出発ですか!?さすが、大人の行動力!」
「……苦しんでる子たちをすぐにでも助けたいからね」
タブレット端末をバッグに入れ、直前に聞いていたアビドスの広さからも軽い食料もバッグに詰める。そしてシャーレの部室を後にした。
燦々と降り注ぐ太陽光は建物に強い影を作る。暑さには強く無いが、そこまで時間の掛かるものでも無いだろうと、その瞬間までは思っていた。
その傲慢が、後悔を作る事となる。
︎ ✦︎︎
シャーレを出発しそして、アビドスの自治区に着いたはいいものの。学校と云う学校は見当たらず、何日も迷い続け、アロナが云っていたように、街のど真ん中で遭難してしまった。
勿論、ここがど真ん中なのかも分からないが。
「げほっ……げほっ……」
元々体が弱い事は知っていたが、この炎天下の中に放置されたら私で無くとも死ねる程に体力が削られる。
「ぁぁ……げほっ」
声も出ない、眼も霞み意識が朦朧とする中、弱い力で何とか電柱にもたれかかっていると、どこかから何か自転車のようなものが止まる音がした。
「……あの」
ぼやける視界をなんとか押し退け、声のする方を見上げる。すると、ロードバイクに乗った美少女がこちらを心配そうに見ていた。
それに、何か銃の様なものも背負っているりあれは、なんだ?
「……大丈夫?」
「ぁ―――もう、だ……」
誰か来たという安心感と共に、意識が突然プツンと途切れ、視界が真っ暗になった。
︎ ✦︎︎
「………んぅ」
「あ、起きた?」
体が軽い、気を失ってたのか。
目の辺りも回復し、ゆっくりと目を開けると、目の前には確か気絶する直前に見た美少女が私を見下ろしていた。
「こ……こっ……は………?」
全身が軋み、捻れる様に痛い。それに動こうとしても体が云う事を聞いてくれない。
助けて欲しい、今の状況は?と云おうにも、それを云える体力すら残っていないとその時感じた。
それを理解した私は、頑張って話そうとしている私を察し、この状況を話す彼女の声を聞く事しかできなかった。
「ここはアビドス高等学校の中、貴方が倒れちゃったからここに連れてきたの」
「………………」
優しい声が私の耳まで届く。
とりあえず今死ぬ気で声を出さないとまた気絶する気がし、肺を動かし絞りカスのような声で助けを求める。
「たす……けて……」
「大丈夫?水、飲む?」
「……ぅん」
最後の力を振り絞り、頷く。それを見た彼女は近くに置いてある水のペットボトルを取り出し、私にゆっくりと飲ませてくれた。水を飲んだお陰で多少声も出せるようになり、今の状況を理解し始める。
「……あれ……これって……?」
水を飲んだだけでここまで動ける様になるのかと内心驚きつつ、今の状況に頭を回す。私の目の前には彼女がいて、彼女は私を見下ろしている―――その一瞬まで追いつかなかったものの、それは一瞬にして理解は追いついた。
「っ!?」
突然目が覚醒し、反射的に体を起こす。
ソファの様な場所に寝かされていたのか、身体が落ちる。その痛みに全身が悶えるも、それを諸共しず私は身体を起こし膝を着く。そして彼女を見つめた。
「ご、ごめん……膝、借りてたね」
「ん、大丈夫だよ」
余りの衝撃でまともに考えれるようになった。
一先ず、彼女の名前と感謝の言葉を伝えなければいけない。
「さっきは助けてくれてありがとう……あれがなかったらどうなってたか……」
「大丈夫、私も急でびっくりしたけど、見捨てるほど私は鬼じゃない」
「そう……あ、それで君の名前を聞きたいんだけど……いい?」
「……ん、私は砂狼シロコ」
「シロコ……か」
名前も聞けて感謝の言葉も伝えられた。
シロコの言葉を思い出し、ここがずっと追いかけていたアビドス高等学校だと分かると、私は立ち上がり一緒に持ってきてくれたバッグを受け取る。
「さて……こがアビドス……なんだね」
「そう、ここがアビドス高等学校」
「なら、ちょうど良かった…かな」
私は立ち上がり、シロコの方を向く。そして自分なりに笑ってみた。
「シロコ、私が皆んなを助けに来たよ」
「………?」
シロコはよく分かっていなさそうだったが、続けて次は私がシロコに手を差し出した。
「一緒に行こう。みんなの所へ」
シロコはどう云う事かも分かっておらず、少し戸惑いながらもゆっくりと手を差し出し、私の手を取った。
「……分かった?」
︎ ✦︎︎
シロコがドアを開ける。
開けたドアの部屋には「アビドス廃校対策委員会」と書かれた看板が吊り下げられていた事を覚えている。
「みんな、云ってた人、起きたよ」
「あ、やっと起きたの?」
部屋に入ると、お世辞にも余り広くない部屋だが、真ん中には会議用の大きな机があり、それを囲むように椅子が五つ置かれてある。奥には窓が一面にあり、横長い机と椅子がある上に、何かミニガンのような重機が置いてあった。
棚やホワイトボードには色々なことが書いてあったり物が置いてあったりしたある。そしてドアの直ぐ横には銃が立て掛けてあり、普通のようで普通じゃない異様な空間となっていた。
一先ず、私は挨拶を送る。
「こんにちは、皆んな」
「こんにちは、アビドスへようこそ」
「あんまり大きくは無いけど、ゆっくりしていって」
「……あ、そういえば貴方ってどうしてここに来たの?」
皆んなが挨拶を交わす中、ふと疑問に思ったのかシロコがそう聞いてくる。
その答えは簡単だと、私は人差し指を堂々と立てた。
「ここに来た理由は一つ―――私が『シャーレ』の顧問先生だからさ!」
そう云うと、聞いた瞬間皆んなは案の定驚いた様子で目を見開いた。
「……え、ええっ!?まさか!?」
「連邦捜査局のシャーレの先生!?」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はいっ!これで弾薬や補給品の援助が受けられます。あ、速くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」
「………ホシノ?」
その名前は本当に、どこかに突っかかるような言葉。だけど、それがなんなのか、私には分からないと言葉が頭を埋め尽くした。私は得に気にしない事にした。
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。」
そう云い、黒髪の可愛らしい子が部屋を出た瞬間、部屋に響き渡るような銃声が鳴った。
窓のガラスを破り、破片が辺りに散らばる。飛んできた破片が私に向かい凄まじい速度で襲い、隣に立っていたシロコが破片を掴んだ。
「先生、大丈夫?」
「う、うん。助かったよ」
「銃声!敵は目の前に居ます!」
「っ!!」
窓の外を見てみると、奥の方には黒いヘルメットを被り、黒い制服を着た数十人の子達が校門の前で銃声を鳴らし、銃口をこちらに向けながら世紀末のように叫んでいた。
「ひゃーっはははは!!」
リーダーらしき赤いヘルメット、そして赤い制服を着た子が黒い子達全体に指示を出す。
「攻撃、攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!!学校を占領するのだ!!」
そう云い、リーダー含む全員で校庭の中へと躊躇無く入り銃を乱射する。
「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「かた……かた……?」
「あいつら。また性懲りもなく来てる」
全員が掛けられた銃を手に取り、臨戦態勢へとなる。反撃の直前、部屋のドアから出ていったあの黒髪の子が帰ってきた。
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」
首根っこを掴み荒く振るうと、あぁ〜と揺れた声を上げた。連れてきた子は、他のみんなよりも一回りほど体の小さい子。だが、その姿に、私はどこか違和感を覚えた。
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよ〜」
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生です」
「ありゃ〜そりゃ大変だね……あ、先生?よろしく〜、むにゃ」
「え、あ、うん……よろしく」
どこか掴めない、風が吹けばそのまま流されてしまいそうな少女だと、最初に私はそう思った。
黒髪の子はホシノの云われた子を降ろし立て掛けているショットガンを手に半ば無理矢理手に取らせる。
「先輩、しっかりして!出勤だよ!装備持って!学校を守らないと!」
「ふぁあ〜……むにゃ、おちおち昼寝もできないじゃないか〜、ヘルメット団め〜」
「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分」
「はーい、みんなで出撃です☆」
そう云い、眼鏡を掛けた少女だけを残して全員が窓から飛び降り戦いに出向く。
「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」
出会いに経路はあれど、無事にアビドスへと辿り着いた。今この目で見た彼女達は、あの手紙で見た様に疲弊している。私が、皆んなの力になって、この現状を変えなければ。
「私もやる。アロナ、行こう」
『はいっ!お任せ下さい!』
私の言葉と共にタブレット端末にも電源が入る。付いた瞬間アロナが顔を出す。アロナは両手を差し出し準備OKだと表情だけで私に伝え、その周辺には色が生まれた。アヤネの飛ばしたドローンから見える景色を頼りに、指示体制へとなる。
「私が指揮をする。私の指示に従って」
『――――了解!』