虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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8月が終わる―――エデン条約第一章、最終回です。


守ってほしい人(トリニティの裏切り者)

時刻は0時に達し、自分の部屋で一対一で向き合う。

暗夜の世界、自分の部屋以外の電気は全て消えており、唯一照らされている部屋。

 

「……先生」

「ハナコちゃんの事、なのですが……」

 

向かいのベッドに座り、ヒフミは私を見てそんなことを言ってきた。

私は黙ってヒフミの話を聞く。

 

「……模範解答を集めている最中に、何故か束になって保管されていたんです。珍しいことだから保管されていたのか、その理由は分かりませんが……」

「昨年の試験、1年生から3年生までの全ての試験における模範解答がまとまっていました。どういう訳か、その全ての回答した方がいたようでして……」

 

「それが、ハナコだった……と」

 

それをヒフミは肯定し、何があったかを語る。

 

「昨日見つけた1年生の時の成績に引き続き、盗み見る形になってしまったのですが……」

「ハナコちゃんは去年の1年生の段階で、3年生の秀才クラスでも難しいとされている課程を含めて「全ての試験」で満点をだしています……完膚なきまでに秀才、と言えるレベルです……」

 

今のハナコを見るとお世辞にもその情報通りとは言えない。では何があったのか。

ヒフミの言うように、去年起きた情報から、1年でここまで学力が落ちるとは考えれない。昨年の時点で全ての問題が解けているのなら、わざと解いていないという事になる。

 

「ハナコちゃん……どうして……」

 

「………」

 

ハナコの頭の良さを考えるのなら、トリニティに即抜擢される程の逸材。トリニティが逃すとも考えずらい。

自分が思っているより、ここ補習授業部の闇は深いのかもしれない。

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

その同時刻、別館ロビーにて。

 

寝静まる頃、アズサはゆっくりとした足取りでロビーの奥へと歩いていく。

そのまま奥へと消えていき、その背中を後ろからハナコは見続けていた。

 

その姿を見たハナコは、アズサのいつもしている見張りかと思い、体の心配をしつつも、その足を止めさせるような事はしなかった。

 

そして、その日の夜が明ける。

 

 

 

朝の光が部屋を照らし、体をベッドから起こしたヒフミは少しの欠伸の後、朝の挨拶をした。

 

「ふぁ……おはようございます」

 

そうして、朝が始まった。

 

いつものように勉強が始まり、しばらく経った頃。

順調に皆の学力は上がっていき、このまま良い風に進む中ヒフミの頭の中にある疑問が浮かび上がった。

 

(………あれ?そういえば今朝から、先生が見当たらないような……)

(一体どこに……?)

 

その教室の死角となる場所、そこには屋外プールがあった。

朝、皆が起きる少し前に、私は屋外プールへと向かって歩いていた。

 

「……何がしたいんだろう」

 

その日は寝ずにずっと起きていた。その時にモモトークから連絡が届いた。

開いてみると、彼女からの連絡だ。

 

何があったのか、その連絡を受け取り、待ち合わせ場所を誰にもバレない屋外プールへと設定した。

そうして、屋外プールで待っていると、彼女がやって来た。

 

彼女はやって来て光に照らされるプールを見ると、笑顔を見せこう言った。

 

「わあっ、水が入ってるー!」

「あはっ、ここにも水が入ってるのなんて久しぶりに見たなー。もしかしてこれから泳ぐの?それとも皆でプールパーティ?」

 

「まだ入れてないんだけど、そういうのも良いかもね」

 

この場に来たのは、聖園ミカ……ティーパーティーの一員で、お姫様の様な輻輳をしている可愛らしい子だ。

 

「それより、私は気になる事があるんだ」

 

「ん?なに、先生?」

 

「なんで私の連絡先知ってたの?」

 

「……あはは」

「まあ気にしない気にしなーい」

 

「いや気にするけど」

 

教えたつもりはないんだけど……いつ言ったっけ。

 

「ま、まあいいや……じゃあ、聞いた通り、用件を聞いてもいい?」

 

そう聞くと、ミカは小さく笑い、私に近づく。

 

「先生は上手くやってるかな、って思って」

 

その瞳は、嘘とは感じられなかったが、底なしの見えない黒が、私の背中を這いずった。

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

「にしてもナギちゃん、随分入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって」

 

プールを見てそう言うミカは、話を変えるように再び私の方を向く。

 

「ところで、合宿の方はどう?遠いのを良い事に、何か楽しそうなことしてたりしない?例えば皆で水着でプールパーティとか!」

 

陽気な音楽が流れそうな会話と共に、ミカは笑って合宿の様子を聞いてくる。

それを元気に返せる言葉も無く、私は無言でミカを見つめる事しか出来なかった。

 

それを見たミカは、雰囲気が変わり、冷たい目で私の事を見つめる。

そして、見続けたミカは突然に乾いた笑いを上げた。

 

「……あはっ」

「何だ……先生もそっちだったんだ」

「その目、実は全部見えちゃってるの?」

 

私のめのまえまで近づき、ミカはじっくりと私の眼を見る。

 

「でも、そこまで警戒されちゃうと私も傷ついちゃうな。私、こう見えて傷つきやすいんだよ?」

 

「ミカとしては、どこまで見えてると思う?」

 

「……それは、どういう意味?」

 

「いや、ミカから連絡が来るって知ってたから……ついでに、ね」

 

どこまで見えているのか、それは自分でも分からない。

決して良いものではなかったが、今はミカを見て言える勇気は無かった。

 

「じゃあ、本題に入ろっか」

「あっ、ちなみに私がここにいる事について、ナギちゃんは知らないよ?見ての通り、付き添いも無しの私の単独行動!」

 

この会話をできる限り安全にさせたいのか、盗聴や盗見は無いと遠回しに言ってくる。

ミカの単独と分かった上で、ミカは話を始める。

 

「……先生、ナギちゃんなら取引とか提案されなかった?」

 

「それは、「トリニティの裏切り者」について?」

 

「むぅ……やっぱり、言われてた?」

「ナギちゃんったら、先生に言わなくたって良いのに……先生は、無関係なのに……」

 

私の方を見ず、少し虚ろな目をしたミカはすぐに気を取り直し、私へ質問を付け足す。

 

「他に何か聞いたりした?ただ「探して」って言われただけ?」

「理由とか、目的とかは言われた?なんであのメンバーが揃ったかとか、そういうのはナギちゃん教えてくれなかった?」

 

「いや、特には言われてないよ」

 

「……そっか、何にも教えずに先生にこんなことを……」

 

「でも、その提案自体は断ったよ」

 

そう告げると、ミカは不思議な表情を浮かべた。

その理由は、自分の生徒達を疑いたくないという線もあったが、私としては、役目として違うと思ったからだ。

 

その言葉に、ミカは納得した。

私はあくまで「シャーレ」としての役目を果たしているだけであって、無関係のトリニティに首を突っ込む程の力はあるにしても、やろうとは思わない。

 

その時、ミカは私に一つの問い掛けをした。

 

「それじゃあ、先生は誰の味方?」

「もしトリニティの味方じゃないんだとしたら……ゲヘナの味方?連邦生徒会の味方?それとも、誰の味方でもない……とか?」

 

「私は、生徒達の味方だよ」

 

「……あ、あぁ……生徒達の味方、かぁ……そっかぁ……うん、先生はそうだったよね」

 

そう感じ、考えたミカは突然どもり始めた。

一瞬私から背を向け、ゆっくりと深呼吸をする。そして私の方を再び向き、少しゆっくりな口調で私に聞く。

 

「あ、あの……先生、その……聞きたい事があって」

「その……一応、先生は私の味方でもあるって考えでも……良いのかな?私も一応この立場とはいえ、先生に変わりはないんだけど……」

 

「もちろん、ミカの味方でもあるよ」

 

「……わーお」

「さらっと凄い事を言ってのけるね、先生……でも、嬉しいかも」

「味方……か……味方かぁ……えへへ」

 

そのまま余韻に浸っていると、しばらく時間が経過し、気づいた時には自分が何を言おうとしていたのか忘れていた。

 

「あれ……なんて言おうとしたんだっけ……まあいいや」

「私としては、先生と取引をしたいの」

 

「取引……」

 

ミカは私に近づき、2人にしか聞こえない距離で、ミカはある事を教えると言った。

 

「補習授業部の中にいる「裏切り者」が誰なのか、教えてあげる」

 

「……………っ」

 

「ナギちゃんの言う「トリニティの裏切り者」今必死に探して退学にさせようとしているその相手」

「実際のところ、もう少し複雑で大きい問題でもあるんだけど……」

「今このまま、先生がナギちゃんに振り回される姿をただただ見てる……なんていうのは、ちょっと申し訳ないなって」

 

「でも、先生なら……もう知ってるよね?」

「その眼……知ってる。最悪の未来を見せると言われている悪魔の眼」

「誰が、何をして、どうなるのか……このトリニティも、ゲヘナも、条約も……知ってるんでしょ?先生」

 

「……そう、なのかな」

 

私としては、この眼が見る景色が本物なのか、真実なのかも分からない。

むしろ、この眼が真実を映していたとしても、虚無だったとしても、私の精神が削られ続けられる事は変わらない。

 

「補習授業部にいる裏切り者……それは」

「………白州アズサ」

 

その言葉を聞いた時、私の眼は本物なのだと、そう感じた。

何故なら、私の眼もそう見えていたから。

薄く見える世界の結末は、今の私の中では真実だと自分に言い聞かせた。

 

彼女は、いつも毎晩、独りで夜のロビーで見張りをしていた。だけど本当に誰もが寝静まった頃、彼女は独りである場所へと向かっていた。

暗く、人は居ない。学校の様な場所だが、ガラスは割れ、夜の光だけが辺りを照らしていた。

 

彼女は、最初からトリニティ生ではなかった。

随分と前、トリニティから分かれ、分派となった学校『アリウス分校』出身の生徒。

『戦い』に縛られた世界では、息がしづらい。そう感じるほど、辺りの雰囲気は霞み、息苦しかった。

 

ミカは私から数歩離れ、手を後ろに組み、正しく綺麗と言える笑顔で、その「提案」を話し始める。

 

「私からの提案はこれ」

「あの子……アズサちゃんを、守ってほしいの」

 

ミカの提案は、私の眼には映らなかった言葉だった。

その言葉を聞き、私の望む世界は、もう一度歯車を回し始める。

 

 

第一章――補習授業部――[完]

 

――――――to be continued in chapter2




知らない内に一章は終わってしまった様です。自分らしく、生きましょう。
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