準備を経て数十分が経ち、学校を出てすぐ近くの街中へと出向く。
全員トリニティの象徴である制服を着て人も居ない夜中だからと横並びで歩き、その姿は正しく特別であると言える。そしてその良き異様な光景にハナコは思わず笑みを浮かべてしまっていた。
「うふふ……♡」
「あはは……き、来ちゃいましたね」
「どうですか?もう既に楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、そして同時に皆で一緒にしているからこその安心感、この二つが合わさって……!」
熱く語るハナコの隣では、夜景と共に小さな明かりだけが街を魅せる。その姿にアズサは物珍しい様で、目を離せていなかった。
「なるほど、深夜の街はこんな感じなのか……思ったより活気がある」
「そうなんですよ、24時間営業の店も多いですし」
「あれはスイーツショップ?24時間開いている所があるのか……あ、喫茶店も開いてる」
アズサが指を指した先にはスイーツショップ、その隣には喫茶店があり、その隣には………という様にほぼ無限に何かしらのショップ、もしくは食べ物、それに関係するお店なとがずっと続いている。流石お嬢様学校。
「ここからもう少し行くと、モモフレンズのグッズショップもあるんですよ。その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れたお店もありまして……」
「ふふっ、流石はヒフミちゃん、詳しいですね」
「あ、あははは………」
三人が話をする中、コハルは一人ある事について悩んでいた。
「うぅ……結局乗っちゃったけど、こんな所万が一ハスミ先輩に見られたりしたら、すっごい怒られそう……」
「あらっ、そうなのですか?ハスミさんは後輩達に優しい方だと聞いていましたが……?」
「も、もちろん優しいわよ!それに文武両道、さいしょくけんび……?で、品もあってすっごい先輩なんだから!」
「で、でも怒る時はほんとに怖くて……」
「安心してコハル」
私はそれを言うと同時に、コハルの頭を優しく撫でてあげる。コハルは少し戸惑いながらも、その理由を聞こうとした。
「な、なんでよ……?」
「……ふふっ、逝く時は一緒だよ」
「それじゃあダメじゃん!?」
あぁ、流石に騙せなかった。
「あ、でも確か前にハスミが本気で怒ると凄いって聞いたな」
「う、うん……前に一回あって、私もその場に居たんだけど……」
︎✦︎
それは、ある日起こった事らしい。
その日は、正義実現委員会が集まり、そこにはもちろんハスミやツルギも居た。
その中心、ハスミは怒りを顕にして辺りの物が多少壊れてしまう程だった。
「ハ、ハスミ先輩、落ち着いてくださ―――」
「絶対に、絶対に許しません!万魔殿!ゲヘナっ!!どうして、どうしてあそこまで……!!」
「ひっ……」
その威圧感は周りにいる正義実現委員会の子達ですら声を出す事がやっとだったらしい。
︎✦︎
「あら……それは激しいですね。一体何が……?」
「それは……エデン条約の件で、ゲヘナの首脳部と会議した時で……」
︎✦︎
「……よく、よく聞いておいてください。私は今ここに、宣言します」
「これから私は……私は………っ!」
「今度こそダイエットをしますっ!!」
「!!?」
「っ!?」
「だ、ダイエット……ですか?」
その言葉は、正しく予想外……と、いう訳では無かった。
そこに居る大半の人はある意味で驚いていたが、ツルギはまた他の人とは違う驚き……いや、呆れを浮かべていた。
「はい、ダイエットです!」
「これから私が一日二回以上食事をしたり、おやつを口にする所を発見したらその場で指摘してどうか叱ってください!」
「こういった事は自分だけの力では難しいので、宣言しておく方が良いと聞きました!皆さんの助けが必要なんです!」
「は、ハスミ先輩……ゲヘナとの会議で一体何が……?」
一人の子が何があったのかと聞くと、ハスミはその時の事を思い出し、再び怒りを顕にし、言葉一つ一つに怨念が宿っているかの様な風に話始めた。
「……許せません……!なんて、なんて事を……!」
その時、ゲヘナ「万魔殿」の会議室での出来事。
「……なるほど、お前が「トリニティの戦略兵器」と呼ばれる剣先ツルギか」
「……え?あ、いえ、私は―――」
ハスミが訂正しようとした時、万魔殿の長である羽沼マコトは一瞬で何かを理解した。
「そうか、想定以上に規格外だな。不愉快になるくらいに」
「キキッ!だがそんな戦略、このマコト様には通用しない!出会い頭のインパクトで我々に勝とうなど甘いわ!」
「………はい?」
「イロハ、サツキを連れてこい!トリニティの奴らに負けてなどいない事を示してやるぞ!」
戸惑う暇もなく、マコトは後ろで待機している部下を呼ぶ。
後ろの席で座って本を読んでいる赤髪の人は、本をパタンと閉じると静かにため息をついた。
「マコト先輩、この方は委員長のツルギさんではなく副委員長のハスミさんです。予め書類にもあったと思いますが」
「それと、今もし胸の大きさの話をされているのであれば、多分サツキ先輩が来ても勝てないと思いますが」
「な、なにぃっ!?ツルギじゃないだと!?なるほど、代役か……舐められたものだ、この期に及んで小細工とは……!」
「はっ!つまりそもそも、この会議はフェイクという事か!?我々を呼び出しておいて、身長と胸の迫力でこちらの出鼻を挫いておこうだなんて……!」
「いえ、ですから元々ハスミさんです。私の話聞いてますか?聞いてませんね?」
マコト議長が名を呼んだイロハという人は、ハスミの目からしたらゲヘナには勿体無いと言える程のまともな人という印象だった。それと同時にマコト議長のおかしさも際立つ。
「くっ、不愉快なくらい大きな胸を見せつけおって……!喧嘩を売っているのか、この万魔殿のマコト様に対して!!」
「落ち着いてください、後もう胸の話辞めてください。そろそろ万魔殿として恥ずかしいです」
「イロハ、こうなったらあれを用意しろ!このままのデカ女に負けてたまるか!」
その言葉を聞いた瞬間、ハスミの動きが止まり、ある言葉が頭の中で響いていた。
「デカ……女……?」
「「あれ」と言われても何の事かさっぱりですが、とりあえずこの会場がおしゃんなのはよく分かりました。もう逃げましょう」
「………ん?」
二人がハスミの存在に気づいた時、ハスミは体を震わせ、爆発したかのように叫び声をあげる。
「ああ……あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その後はお察しの通り……らしい。
︎✦︎
「それで、その会議自体ダメになって………それ以降ハスミ先輩、あんまりご飯も食べてないから心配で……」
「そんな事があったのですね……ゲヘナの方々に怒るのも分かります、無理もありません……」
「ハスミ……大丈夫かな」
「でも、ハスミ先輩は色んな意味で強いから大丈夫!」
「あれからずっと、自分との約束を守ってるし……!」
そう話していると、アズサがある場所に指を指した。
「ここにもスイーツ屋が」
「何だか食べ物の話をしていたらお腹が減ってきましたし、ここで何か食べましょうか?」
すると、ヒフミは指された方の店を見ると、見覚えがある様で、嬉しそうに声を上げる。
「あ、ここの限定グッズパフェすっごい美味しいんですよ!24時間やってるとは知りませんでした」
「パフェか……うん、悪くない。行こう」
「え、えっ……!?」
「うぅ……だ、誰も見てないよね……?」
「行こっか」
優しく手を引き、気持ちは正しく子供の手を引く親の気持ちだった。
中に入ると、夜とは違う明るい照明に照らされ、机や椅子が綺麗に手入れされた状態で置かれていた。
「いらっしゃいませ」
「あはは、真夜中にスイーツ屋さんだなんて……緊張もありますが、何だか凄くワクワクしますね」
「確かに」
「五名様でしょうか?ご注文をどうぞ」
「えっと……あ、限定パフェってまだありすか?」
ヒフミが聞くと、対応をした店員は申し訳なさそうな表情を浮かべ、謝罪の声を上げた。
「ああ、申し訳ございません……限定パフェは丁度先程、別のお客様が三つ購入されたのが最後でして………」
「あ、そうでしたか………」
「一歩遅かったか……こんな時間まで狙われているなんて、侮れないな」
「………?」
皆が限定パフェが売り切れている事に悲しみを抱いている中、奥の方で見慣れた黒く大きな翼が目に入った。
私の目線に気づいたのか、皆も私の見ている方向を見ると、同じ様な情景が浮かび、一瞬世界の時が止まる。
「……ハスミ?」
「せ……先生…?」
「は、ハスミ先輩!?」
真夜中だった事もあり、人が居らず注目される事はなかったが、その分コハルの声は建物の中で響き渡った。
同時にハナコは机の上に置かれた丁度話していた限定パフェに目がいった。
「あら、それが限定パフェですか?何やら沢山……」
限定パフェは三つ三角形型に置かれており、私の存在に気づく数秒前までそれはもう美味しそうに食べているハスミの姿があった。
ハスミは気まずそうにしている。
「先生、それに補習授業部の皆さん……」
「あ、あぁあぁぁぁ………!」
「ハスミさん、奇遇ですね♡あら、真夜中にパフェを三つも……たしか、ダイエット中だと伺いましたが?」
「こ、これはですね、その………」
「はい、心中お察しいたします。真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれ、ここまで来てしまったのですよね?」
「え……!?い、いえその……」
何かを抑えた時、抑えている欲望は意識せずとも常に強くなり続ける。という事があるが、今の光景が正しくそうだろう。そして欲望に耐えれなかったのも、抑え切るという点の難しい所だ。
「そうして欲望のままめちゃくちゃにしてしまった後、理性を取り戻した頃にはもう取り返しのつかない程に乱れて……」
「ハナコ、言い方がちょっとダメだね」
「夜中ってお腹空くし、仕方ないよ」
「せ、先生……こほん。その、自分の事を棚上げする様ですが、補習授業部の皆さんはそもそも、合宿中の外出が禁じられていたはずでは……?」
「………ここは、お互いに見なかった事にしましょう」
「は、ハスミ先輩……」
「コハル、お勉強頑張っていますか?」
話を変え、同じ正義実現委員会として、コハルを大切にしているが故か、ハスミは今の進捗を聞くが、コハルは少しドギマギしている。
「あ、えっと、それは、その………」
「コハルは最近、凄く頑張ってて成績も上がってるよ、ね、ヒフミ?」
「は、はい!コハルちゃんこのままいけば全然合格出来るくらい、頑張っていて……!」
「なるほど、そうでしたか……」
「うぅ……その、えっと……」
コハルは恥ずかしそうに顔を赤くし、声を詰まらせていた。
逆にハスミは嬉しそうにコハルの近くに行き、優しく頭を撫でてあげた。
「それは何よりです。言ったではありませんか。コハルはやれば出来ると」
「あの時も言った通り……」
そう話し始めたのは、私とコハルが一緒に本館へと向かった際に、二人が会話していた内容。
︎✦︎
「応援していますよ、コハル。お勉強、頑張ってください」
「本来の目標達成を忘れないでください、ただ目の前の勉強の話だけをしている訳ではないのです」
ハスミは本来の目的を忘れさせない様にしながらも、コハルの事を心から応援して言葉を掛けるが、コハルは自分に自信が無いよと弱音を零した。
「私には……無理、です……」
「そんなすぐに成績を上げるなんて……先輩と一緒に居たい気持ちは本当にですが、私にはあまりにも難しい事で……」
「それではダメなんです!」
弱音を吐くコハルに、ハスミは大きな一言で意識を向けた。教室の壁を超え聞こえる程の声を出したハスミは、一度謝罪するが、すぐにコハルの意識を戻さぬ様に言葉を紡ぎ続ける。
「ごめんなさい、急に大声を出してしまって……ですがコハル、私達なこれからもずっと一緒に居る為には、今頑張って貰わないとダメなのです」
「それに先生も、必ず手助けしてくれます。そんな先生の為にも、勉強を頑張るのが今コハルがやるべき事です」
「……はい。私、精一杯頑張ります」
︎✦︎
そう覚悟を決め、その結果ここまでやり遂げれた事、それはコハルにとっても、苦渋の決断で厳しく言ったハスミにとっても嬉しい事だった。
嬉しそうに顔を緩ませるコハルに、ハスミはずっと頭を撫でている。
「……えへへっ、は、ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから」
「…はい。引き続き応援していますよ、コハル。早く正義実現委員会に戻ってきて、一緒に任務が遂行出来る時を心待ちにしていますから」
「はい、頑張ります……!」
「私のコハルが一番可愛い」
「ハスミさん本音出てるよ」
軽い談笑を終えようとした時、机に置かれたハスミのスマホから振動が起きた。
「……?こんな時間に、連絡……?」
「はい……イチカ?どうかしましたか?」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして、いまどちらに?』
「問題……?詳しく聞かせていただきますか?」
『どうやら学園の近郊にゲヘナと推測される生徒達が無断で侵入、さらに無差別に銃撃を行いつつトリニティの施設を襲撃している、との情報が』
「襲撃……ゲヘナの風紀委員会ですか!?それとも万魔殿がついに本性を……!?」
『あ、いえ、それが………』
電話越しにイチカと言う子はまだ何かを言いずらそうに言おうとしたが、それを構わずハスミは怒りを顕にした。
「誰であれ、きっとエデン条約を邪魔しようとする意図に違いありません………!規模は何個中隊ですか?場所は、その施設はどこですか!?」
「落ち着いてほしいっす先輩。とりあえずゲヘナの風紀委員会ではなく、兵力も全然少なくて、確認されてるのは四名だけっすね」
「風紀委員会ではなく……四名……?」
『はい。それで襲撃されたのは……アクアリウムみたいっすね』
「あ、アクアリウム……?どうして、そんな所を……?」
『さあ。私もよく分からないっすけど、何だか展示中だった希少種の「ゴールドマグロ」を強奪して逃げてるとかで』
何か聞いた事のあるマグロとゲヘナで風紀委員会ではなく、希少種の食べ物を強奪しようとする四人組はどこか知ってるというか既視感がある。
『すげー高い魚らしくって、多分どこかに売り飛ばそうと……あ、追加で幾つか情報が送られてきたっすね』
『えーっと……どうやら正体はゲヘナのテロリスト集団「美食研究会」らしいっす』
『首謀者は会長の黒舘ハルナ、ゲヘナの中でも要注意人物とされてる例のやつっすね。で、どうします先輩?』
︎✦︎
一方その頃現地では。
銃声が蔓延る中、四人組がゲヘナでありながらトリニティの領域に入っていると、一人の子が気づいたらしい。
「ねぇぇぇ!!何でこんなとこまで来ちゃったの!?トリニティのど真ん中じゃん!?」
「仕方ありません、あの「ゴールドマグロ」と聞いては黙って見ているわけにはいきませんし︎★」
「ふふっ。あの伝説のマグロを、ただ鑑賞として扱うだなんて……そんな事、美食に対する礼儀がなっていないというものですわ」
「美食というのは孤高でありながら、普遍的でなくてはありません……ただ見せ物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、この「ゴールドマグロ」さんも望んでいないはず」
「私達はただ、その声に共鳴しただけ!そうですよね、フウカさん?」
そうお姫様抱っこしているもう一人のゲヘナであろう人に喋り掛けるも、その子は口が塞がれて喋る事が出来なかった。
「んんっ!?んーーーっ!んんんんんっ!」
「御覧なさい。このゲヘナの給食部部長の、感涙に咽び泣く程の同意を!」
銃弾がちょくちょく彼女の髪や角、顔に当たりかけて叫ぶが塞がれているからしっかりと届いていなかった。
「猿轡のせいで、何を言っているのかさっぱりですけどね★」
「うわっ、マグロがまだピチピチ跳ねてる!ヒレでビンタされてるっ!?」
「イズミ、ちゃんと捕まえてて!それすっごい高いんだから!」
「所でこれいつ食べられるの?マグロにビンタされるし、黒いセーラー服の子達に追いかけられるし、そろそろお腹空いたんだけど!」
「黒いセーラー服って、それ正義実現委員会じゃん!?こっちの風紀委員会と同じぐらいヤバイよ!どうするのハルナ、逃げ切れるの!?」
「ふふっ……逃げ切れるのかどうかなんて、大した問題ではありませんわ」
「大事なのは食べられるか、否か!」
銃弾を避けつつ、四人に向けて名言の様に一言掛けた。
「つまりは「食べるか、死ぬか」!ただその二択のみ!それこそが、私達美食家が歩むべき孤高な道なのです!」
「結局、こういう事ですね★」
そう言っている中でも、銃声は鳴り止まず、なんなら何発か当たっている。
「そんな高らかに喋ってないで、適度に戦って早く逃げないと!!」
「さあ、包囲網を破って退却です!一刻も早くフウカさんに、新鮮なマグロのお造りを作っていただかねば!!」
「んんんんーーーーー!!」
︎✦︎
「……美食研究会?」
『所で先輩、今どちらです?早くご命令を頂かいないと、このままだとツルギ先輩が発射……飛び出しちゃいそうっすけど』
「つ、ツルギはとりあえず止めてください。私は今その、私用で少々外に……」
『いや〜無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃ、そう止められな……』
「あっ、ツルギ先輩!行かないでください!そっちはドアじゃなくて壁――――――」
デカイ爆発音の様な音が電話越し、スマホ越しの私達にも届き、ハスミは何かを察していた。
『あー……とりあえず私らも一旦追いかけて、出撃しますね』
そうして電話が切られ、ハスミは物凄く嫌そうな顔をしながらも、私達には向けなかった。
スマホをポケットの中に入れ、席を立った。
「こういう事もあります……仕方ないのですが」
「うん、大変だね……頑張って」
「……はい、ありがとうございます」
そう言い皆に知らせる事もなく、姿を消して恐らく現地へと向かって行った。
元々短編の民だったので長編慣れないんですよ……投稿に間が空くのは目をつぶっていただけると幸です。