スイーツ屋さんからは聞く事がないであろう爆発音がここまで聞こえたが、思ったより皆驚いてなくて恐ろしい。
「近いな。爆発音からして、ここから1kmの所か」
「え、えぇっ……!?」
「ん……ハスミ?」
話している最中にハスミから連絡が届いた。確認してみると、こう書かれていた。
『あの……先生。勢いで飛び出してしまいましたが、少々手間が掛かりそうなので、皆さんの力も必要です。お願いできますでしょうか?』
『今はエデン条約を目前に控えて、色々と過敏な時期です。この問題が傍から見て「トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突」と捉えられてしまうと、状況が不利になる事は想像に難くありません』
『つまり、補習授業部と「シャーレ」が一緒に解決してくださる……そういう構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか……?』
『うん、任せて』
『ありがとうございます……お願いします』
そうして、モモトークを切り、タブレットを仕舞うと、全員に号令を出す。
「補習授業部、全員出撃準備」
「……了解した。先生の指示に従う」
銃を手に持ち、アズサは真っ直ぐに私の眼を見た。私の訳も聞かずに指示に従うと言ったアズサにも、心の変化が現れているのかも知れない。
アズサ以外の皆も驚きはしても逃げようとはし無かった。
「い、いきなり戦闘ですか……あ、あうぅ……」
「ふふっ……まあ、先生がそう仰るのであれば♡」
「あっ、わ、私も……?先生と……ハスミ先輩と、一緒に……?」
「見せ場はここだよ。コハル」
「う……うん、分かってる……!」
「そういえば、しっかり先生の指揮の下で戦うのは初めてか。遠慮は要らない、先生。私の事は存分に使って」
「じゃあ、怪我だけは無しでね……それじゃあ、行こうか」
と言っても、あの爆発音とこれだけ時間が経ってたら、ある程度正義実現委員会が終わらせてそうではある。
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現地に着くと、奥の方で美食研究会らしき姿が走っている様で、その後ろを正義実現委員会の子達、その前をハスミ行き、美食研究会と対面していた。
状況は互角に見えるが、正義実現委員会はあくまで「美食研究会の確保、もしくはゲヘナ地域へ返す」を目的とし、展示品であるゴールドマグロは傷付けない様にしなければいけない。それ故に全力を出せずにいた。
じゃあまずは、ゴールドマグロの奪還、それと戦力の分散だろう。
「アズサ、煙幕は持ってる?」
「ああ、持っている」
「よし……じゃあ、思いっきり投げちゃって。最悪当たっても大丈夫だと思うから」
「了解」
四人で固まって移動している美食研究会に、野球選手もビックリなエイムで丁度真ん中に煙幕を当てて魅せた。
「わぁ!?な、何!?」
「び、ビックリした……ってイズミ!マグロは!?」
「あ、あれ……?」
煙幕の衝撃で驚いたのか、ゴールドマグロが見事に空を飛んだ。
「え………?ちょ……危な……」
飛んだマグロをハスミは受け止め、そのまま地面へと置く。まだギリギリ鮮度を保てている内に他の正義実現委員会の子達に受け渡し、ハスミ一人で受け止めたものを三人程で運んでいた。
「では、私は追いかけます」
ハスミは再び前を向き、もう一つの問題である美食研究会を捕まえる為、さっきりより速いスピードで追いかけると、数百m先に居た四人の元へとすぐに辿り着き、飛んで上から奇襲を仕掛ける。
だが着いた瞬間、四人は全員が違うバラバラの方向へと走り始め、意識を分散させていく。
「くっ、小癪な……!各自、分かれて追撃を!!」
「「はいっ!」」
「ここはトリニティ自治区!私達から逃れる事は、不可能です!」
ハスミが士気を上げると、そのままその場に居た全員が移動を開始した。
「先生、私達も行く?」
「……そうだな」
目的な達成されたし、大きく動く必要は無いけど、一つだけ心配な事がある。
「……じゃあ、少し移動しよう」
そう、今この近くには正義実現委員会全員が集まっている。それを意味する事とは―――――
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人気の無い真夜中の広場へと抜け出した美食研究会の一人、ジュンコは全速力で逃げた先、音一つしない場所へと辿り着いた。多少息は切らしているものの、まだ元気を保っており、辺りを見渡す。
「こ、ここまで来れば流石に大丈夫よね……?」
煙幕の影響か、戦力の分散かが吉と出た結果、相当多かった正義実現委員会から逃げ出す事に成功したのだ。
そう安堵しているのもつかの間、ジュンコはまたもやある人影が目につく。
「……え?」
ジュンコの目の前にはもう一人の美食研究会であるアカリが満身創痍の状態で誰かと向き合っている光景が映し出されていた。分散する直前まで無傷だったアカリがたった数分でここまでボロボロになっている事に疑問を持ちながらも、同じ仲間と出会えた事に安堵を覚える。
「あ、アカリ……!ど、どうしてそんなフラフラの状態で!?」
そう聞くと、アカリは普段どうりの純粋な笑顔をジュンコに向ける。そうして、一言言葉を発した。
「まあ、端的に言いますと……無理でした★」
そう言った瞬間、アカリは静かに目を閉じてその場で倒れてしまった。
「アカリっ!?」
「くひひっ……きひひひひ………」
「……えっ?な、何っ!?鬼……!?」
ジュンコの目の前に居たのは、鬼その者ではなく『正義実現委員会の委員長』であった。その圧倒的なパワーと人ではない様な発言を発する事から名付けられた二つ名は『トリニティの戦略兵器』
「きゃははははははっっ!!」
「いやあああぁぁぁぁぁっ!?ごめんなさいぃぃぃぃぃーーーっ!?」
そんな叫び声を聞く事もせずに、委員長ツルギは近くにあった車を凹む程強く掴み、そのまま片手で勢い良くジュンコに向かい投げた。
流石に生存本能が働いたかギリギリで避けるが、後ろにあった建物を数軒貫通させた後、奥で車が煙を出してぺしゃんこに潰れていた。
(……あれ?私今日死ぬ?)
そう考えた隙も見逃さず、後ろを向いて車を確認していたジュンコの目の前まで既に居た上、既に攻撃の拳を握っていた。
ツルギの方を向けば既に目の前におり、拳を上げている姿に戦意喪失したジュンコは目を瞑り、神に祈りを捧げる。
「今日私は死ぬんだ………もっと色んな美味しい物食べたかった……」
「………………」
「…………あれ?」
いつまで経っても拳がジュンコの頭に直撃する事はなく、不思議に思いゆっくりと目を開けた瞬間、拳は目の前に迫っていた。
だがその拳はジュンコの数cm隣の地面へと直撃する。
「………な…んで……?」
そのまま何も言う事無くその場を去るツルギの背中を、ただ見る事しか出来なかった。
助かったと思う反面、懺悔して改めようとした姿を認められたのかと思ってしまったジュンコは、自首する事を考える。だがそう考えた途端、地面がゆっくりと揺れ始める。
「………?」
次の瞬間、地震の様な音から爆発音、地面は大きく裂け、クレーター型の穴を開けた。
瞬間ジュンコの身体は急に落下し始め、背中に打撃を食らう。
「痛ったた……なに……これ」
その穴にジュンコも落ち頑張れば登れたが、それを真隣で体験したジュンコは、二度とトリニティ自治区に行かない事と、ある意味風紀委員会よりヤバイのは正義実現委員会だと感じ、自首する事を決意した。
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一方その頃。
「まだ追って来てますね……あら?」
ハルナは多少離れた場所まで着き、後ろで追いかけてきている正義実現委員会を警戒しながら奥へと進むが、ふと前を見ると誰かがこちら側に銃を向けている姿が目に映った。人数は二人、特に気にしずに進もうとした時、片方から声を掛けられる。
「と、止まってください!」
「私は正義実現委員会よ……!止まらないと撃つ…!」
「あらあら、それだけでは私は止められませんよ!」
そう叫んだ瞬間、ハルナは走りながら、互いに銃を構え引き金を引く。
走りながら撃ち合っている為銃弾が直撃する事はないが、所々お互いに傷を付け合っている。そして至近距離になった瞬間、もう一人の声が聞こえた。
「ヒフミ、コハル!二手に分かれて!アズサは接近戦に持ち込んで!」
「了解」
そう聞こえた瞬間、撃っていた二人組のヒフミとコハルはお互いに反対方向へと分かれ、その間からアズサが近づき、足で地を飛び立った。
「これは……不味いですね」
飛んだアズサは空中で一回転すると、そのまま踵落としで戦闘を始める。
当たる直前にハルナは回避行動を取っており、横へと回避する。直撃する事はなかったが、その踵落としは地面へと突き刺さると数m先まで裂け目と小地震を軽く起こした。
「っ!?」
「その位置じゃ、次は避けれない」
一瞬の地震でハルナの動きが止まり、体の制御が効かなくなった。その瞬間を狙い、アズサは中に浮いたハルナに向けて既に横蹴りを行っていた。
その一瞬でハルナも左腕で当たるであろう脇腹を守るが、それをした直後、ハルナは数m吹き飛び、近くにあった建物を破壊しながら瓦礫と共に戦闘不能となった。
「アズサ、お疲れ様」
「うん、これぐらいなら」
今初めて見たが、アズサの蹴りは相当な威力があると見た。誰かに教えてもらったのか、それとも自力で覚えたか。どちらにせよ、アズサはまた規格外の力を持っている事が分かる。
「ヒフミも、コハルも損な役回りさせちゃったね。ごめん」
「いえ、大丈夫です……ちょっと怪我しちゃいましたけど」
「ヒフミちゃんとコハルちゃんも手当てをするのでこちらに」
ヒフミもコハルも、戦闘が出来るという印象はあまり無かったが、意外と撃てていた事に驚いている。回復役のハナコの事もあって、何だか勇者パーティの様にも感じた。
「コハル、役に立てて嬉しそうだ」
「うん、どうしても使ってあげたかったから」
本来なら、アズサとハスミでやろうと思ったが、後でハスミに褒めて貰う為にも、コハルを出させてあげたいと思ってしまった。ハスミは残りの美食研究会を探すと言って別れてしまったし、指示された場所にハルナを連れていこう。
「……お疲れ様、皆」
素直に褒める事は後にして、今は誰にも聞こえない声でお疲れ様の声を掛ける事にした。
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指示された場所に着くと、既に二人が捕まっていた。でも一人は倒れてて、もう一人は何かに怯えている様な気もする。
「あら、ジュンコさんにアカリさん」
気づけばハルナも意識を取り戻しており、仲間である二人に声を掛けた。
その声に気づき、ジュンコは顔を上げる。
「あ、ハルナ……あんたも捕まったの?」
「ふふっ、10メートルくらいは頑張ったのですけれど」
「短……」
タブレットで生徒名簿を確認してみると、あと一人足りなかった。それと同時にハルナがその一人、イズミの事を話し始める。
「では、無事脱出に成功したのはイズミさんだけという事でしょうか。良かったですね、私達の犠牲は無駄では無かったようです」
「正義実現委員会……それにあの正体不明の三人もトリニティ生でしょうか、流石はトリニティ。凄まじい戦闘能力です」
「本当に怖かった……あの鬼……いや……鬼と言う言葉じゃ収まらない……怖い」
「もう、だからトリニティの本拠地にまで来るだなんて……いくらマグロだからって、どうしてこんな所にまで……!」
「……私達、これからどうなるのかな」
さっきとは変わり、不安そうな表情を浮かべるジュンコ。それはこの先の処罰の事だった。
今のエデン条約の話、トリニティやゲヘナ生なら皆知っていて互いに敵意がMAXで向いている時期に、こんな事をしてしまえばどんな処罰が待っていてもおかしくは無かった。
「まあ順当に考えて、風紀委員会に引き渡しじゃないでしょうか?」
不安そうにしているジュンコの真隣に無音で近づき、さっきまで潰れていたアカリが突然声を上げた。
「びっっっくりしたぁ!?無言で起き上がらないでよ!?無事で良かったわねアカリ!?」
「ふふ、まあそうそう簡単にはやられません★」
「……処罰なら、無いよ」
私は一度美食研究会と会話をすべきだと判断し、三人の元へと近づく。
「あら、貴方は……?」
「私はシャーレの先生をしている者だよ。よろしく」
「シャーレの先生って……あの最近有名な?」
有名になっているの私。
「まあそれは置いといて、さっきアカリが言った通り、恐らく風紀委員会に引き渡しされるはずだよ」
「なるほど……参りましたわね……ヒナさんの手に私達の命運が託されるのは、出来れば避けたかったのですが……」
「今回は事情を説明するからそこまで厳しい事は無いと思うけど、今回だけだよ?」
というか、ずっと放置されてるけど、あそこにいる紫髪の子って確か名前はフウカだったっけ。何で居るの?
美食研究会でも無ければ接点のない給食部のはず………いや、まて。給食部?
「……なるほどね」
何か理解したくないものを理解した気がする。
こうして、突如起きた深夜の事件は幕を閉じた。そして私達は再びトリニティへと戻った。