虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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投稿が遅れても、起きていればその日は続く。


正義を貫く者よ、我が道をいざ行かん

 

ヒフミ達と先生の自室へ繋がる廊下には、もう一つ玄関へと繋がる廊下があり、その先へ進んでいくと寮で一番でかい広場へと出る。そして、その先には全面模様付きのガラス、そして扉があり、その扉を開けるとベランダとなっている。

夜中、一日の事を振り返っていると予想以上に時間が掛かり、気付けば全員で就寝してから一時間程経っていた。

 

あまりに寝付けず、少し外の空気を吸いに行こうと、他の三人にバレずにゆっくりと扉を開け、広場へとゆっくりとした足取りで向かって行く。

そうして広場へと続く道を歩いていくと、少しづつ涼しい風が私の体をゆっくりと冷やし始めた。まだ広場やベランダにはある程度距離があり、なんだろうと気になり、足取りが少しづつ軽くなっていった。

 

やがて広場へと着く。そして目の前にある扉は既に全開にされており、そこから風が吹き、髪が揺れる。

その扉の先には、思わず息が止まってしまう程、美しい姿で、ベランダで月を見上げる先生が居た。

 

何とか足を動かし先生へと近づくと、私の存在に気づき私に視線を向けた。

 

「先生……起きていたんですね」

 

「ヒフミ、ちょっと寝れなくて」

「ヒフミも、眠れない?」

 

「はい………今日は色々な事がありました。まさか、少し抜け出しただけでここまで疲れるなんて、思いもしません」

「先生は、今日……どう、でした……?」

 

自分でも分からなくなる様な質問をつい先生に聞いてしまった。自然と先生が見れなくなって、つい上を見上げてしまう。そこには、驚く程に綺麗な満月が私達を見つめていた。

 

「今日……そうだな、凄く新鮮だった。かな」

「起きちゃった事態は今にとっては吉では無い。でも、関係があるとはいえ、逃げる事も出来た。それでも補習授業部の皆は助けになろうって言ってくれて」

「初めて皆の役割を見たけど、凄い驚いたよ。アズサってあんなにも強いんでってね」

 

同じ月を見上げ、月は私達を見下ろす。そんな当たり前な光景が、今この瞬間、何よりも特別な時に見えた。

 

「まだまだやるべき事は沢山あるけど、この風と、この音を聞けている間は、皆に安心して託せそうだよ」

「………ヒフミは、エデン条約について、どう思ってる?」

 

ふと、先生はそう聞いてきた。

エデン条約、今も計画され続け、この条約が完了した時、キヴォトスが変わると予想される条約。少し考えた後、率直な考えを話す。

 

「私には……難しいです。ナギサ様の考えてる事も、裏で色んな事が起きているかもしれない……それでも、こんな平凡な私じゃ、理解する事なんて……」

「でも……皆で平和で、仲良く笑い合える世界になるのなら……エデン条約は、良い事なんだと思います」

 

「……そう」

「それじゃあ、トリニティの裏切り者についてはどう思う?」

 

「そうですね……どんな事を企んでいるのかは分かりませんが……それが、その人にとっての''正義''なんだと思います」

「だから、否定はしません……皆さんに危害を加えるのなら、また別ですけど……」

 

「正義……か」

 

その言葉を聞いた時、先生は黙り込んでしまい、視線を向けると、ある事に気づく。

よく顔を見ていなかったが、先生の眼を見ると、右眼が鮮やかな蒼眼へと変化していた。そして、先生は少し顔を傾け、口を開いた。

 

「私は……人を信じる事が出来るのかな」

 

「……先生ど、どうしたんですか……?」

 

「………いや、なんでもない」

 

そう言っているが、右眼は常に光り輝いている。それを気にしようとせず、風は先生を揺らし続ける。

 

「皆の事を、信じていたい……でも、ふと頭の中で、響くんだ『もし、裏切られたら』って」

「ヒフミは……私の事を信じてくれる?」

 

「………っ、もちろん……です」

「そんな顔をしないでください……私は、先生の事をずっと信じています……人を信じる事が、私にとっての''正義''ですので」

 

「そうか………うん、そうだね……だから、安心して預ける事が出来るんだ」

「ヒフミ、左手を出して」

 

「………?はい……」

 

言われるがままに手を差し出すと、先生はスーツに付いている胸ポケットから一つの指輪を取り出した。

黒の手袋で取り出すと、それをそのまま私の左薬指に優しく、丁寧に嵌めた後、少しだけ手を撫でる。

 

その時は、不思議と恥ずかしい感情なんかは無く、そうしてくれる先生を見つめる事しか出来なかった。

 

「その正義、絶対に忘れないで。そして、その道を進んで行って」

 

そうした時、その眼と、その手。その奥深くにある黒い闇が、気づけば先生に問い掛けていた。

 

「先生は……何者、なんですか」

 

「………私は、何者でも無いよ」

「皆を導く為に生まれた、一つの工程」

 

そう言う先生は、儚い眼で私を見つめるが、その言った言葉が先生にとっての役割だと言わせる程の眼と言葉だ。

 

「そんな訳……ありません」

「先生……先生にとって、私達は……この世界は、どう見えているんですか?」

 

震えた声で再び問い掛けると、先生は二回ほど深呼吸をし、もう一度蒼眼を私に向けた。

すると、満月は雲に隠れ、一瞬、世界が闇に包まれた。その時には、先生が映し出す『蒼』だけが私だけを照らす。

 

「今は……話せない……けど、いつかその時がくる」

「その時がきたら、きっと驚くだろう。失望や、軽蔑の目を向ける事だってあるかもしれない」

「私には、まだそれを受け入れる程の覚悟が無い……私は、弱いから」

 

泣きそうで、消えそうで、震えている声が私の頭の中へと直接入り込んでくる。

やがて雲が晴れ、再び満月が辺りを照らすと、先生は少しだけ驚く様に目を見開いた。

 

「ヒフ――――」

 

気づけば、私は涙を流していた。だが、それすら気にならない程込み上げてくる想いが私の口を流す様に動かす。

 

「――――私は、絶対にそんな事しません……!」

「だから………!その時がきたら――――自信を持って、誰にだって負けない想いで……話してください」

 

「私は……ずっと待っていますから」

 

「ヒフ……ミ……」

 

そう言った時、その言葉を聞いた先生の表情の変化を一つ一つ正確に記憶し、不安と恐怖、不信感で満たされていた表情が安心する様に、柔らかくなった時―――――私も、不思議と安心感を抱いていた。

 

「うん……こんな弱い先生でごめんね」

 

「……いえ、弱くなんてありません……誰だって……私だって、そうですから」

 

お互いがお互いの顔を見つめ合っていた中、少し強い風が私達を横切った。流石に長時間で居た事もあり、体が冷え始めている事に気づき、踵を寮へ引き返そうと向きを変える。

 

「もう遅いですし、戻りましょうか」

 

「……うん、そうだね」

 

歩く私の半分程で戻る先生を見ていると、まだ少し恐怖心が残っている様にも見える。そうなった時、今私に出来る事を考えるとある事を思いついた。

歩く先生の手を指輪の嵌った左手で引く。その指輪は月で光る程綺麗で、手入れされている物だ。

 

「そんな表情していたら、皆に心配されちゃいますよ」

 

「ぁ………ふふっ、うん。そうだね」

 

先生の足取りも軽くなり、私の隣へつくと、手を繋いでまま寮へと入っていく。

 

「ヒフミのお陰だよ。私も私の正義を貫こうかなって思わせてくれたのは」

 

「そんな大層な事はしていません。それは先生自身の力ですよ」

 

「……この事は、皆に内緒だよ?」

 

「……はいっ、二人だけの秘密ですね♪」

 

そうして別れた夜。その日は眠れなかった事が嘘の様に、優しい気持ちで眠る事が出来た。

 

 

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

朝起きて食堂に行くと、アズサだけが居なかった。

 

「あ、先生。おはようございます」

 

まだ意識が朦朧とする中、朝食を食べているヒフミが私に気づくと、箸を置いて私に駆け寄ってきた。あまりに返答が帰ってこず多少揺さぶられると、その衝撃で目が少し覚めた。

 

「おはよう………今日は、四人で食べてないんだ」

 

目を擦って目を開けると、そこにはヒフミ、ハナコ、コハルの三人しか映らなかった。

普段なら、四人で朝食を取っている所ばかり見ていたが、今回初めて四人ではなく、アズサを除いた三人で朝食を撮っている。その為ヒフミに聞いてみる事にした。

 

「アズサは、今どこにいるの?」

 

「それが、私達にも分からないんです」

 

「………え」

 

その言葉で一気に目が覚めた。だがよくよく考えてみると、アズサがいなくなったにしては随分と皆落ち着いている様子だ。

 

「アズサがいなくなったのは分かったけど……随分と皆んな落ち着いてるね」

 

「それは……」

 

「―――信じてるから、ですよね」

 

ヒフミの話す瞬間、横からハナコがコップを二つ持ちそう言って私の方へと歩いて来た。

 

「信じてる………」

 

「はい。きっと、アズサちゃんはどこに行っても必ず帰ってくる。変な事はしていない。そう、言いたいんですよね?」

 

「……はい、ハナコちゃんの言う通りです」

 

ハナコにそう言われるが、否定どころかその通りだと言う、そして、優しい笑顔を私に向けた。

 

「アズサちゃんは普段どんな事をしているのか、分からないですけど……でも、初めて会った時より表情も柔らかくなって……だから、私は…いえ、私達は、アズサちゃんがどこへ行っても、絶対に帰りを待つって決めたんです」

 

「ヒフミ……」

 

そんな事を言われてしまえば、そんな皆んなの事を尊重するしかなくなってしまう。

 

「はい、先生コーヒーです」

 

「あ、ありがとう」

 

まだ温かいコーヒーを一口飲み、ヒフミの目を見る。

 

「じゃあ、帰るまで待とっか」

 

「……!はい……!」

 

とは言っても、ミカの言った通りであればアズサはアリウスの人間だ。先生の立場からして気にしない訳にはいかない。もしアズサが裏切り者守るべき人だとすれば、条約が進む今、動きを見せてもおかしくない。

ついに行動し始めたかと思ったが、朝食を終え、教室の扉を開けると同時にその予想は外れる事となる。

 

「遅い!おはよう!」

 

扉を開けて早々、私達の目に映ったのは仁王立ちで挨拶をしたアズサの姿だった。

ここに居たという驚きと、多少の安心感を覚えながらヒフミはアズサに話しかける。

 

「あ、アズサちゃん。早いですね?」

 

「日が昇る前には、既にここで予習と復習をしていた」

 

扉の前で仁王立ちし話していたアズサの横を通り、アズサが座っていたであろう机に近づくと、机の上に置かれたノートには、黒文字で問題文と答え、赤文字で丸バツを書き模範解答がビッシリ満遍なく書かれており、アズサの言った通りずっとやっていた事が分かる。

 

「これは凄いな……やる気だね」

 

「もちろん、私はいつだって本気だ」

「何せ今日も模擬試験がある。だよね、ヒフミ?」

 

上機嫌に鼻を鳴らすアズサは、今日の模擬試験の対策としてやっていた事を明かす。明らかに範囲外もやっているが、覚えることは悪い事ではない。

 

「はい、そうですね。アズサちゃんはその様子ですと、もう試験への準備は万全という感じですね」

 

「うん。第二次特別学力試験まであと二日しかないし、いつまでも皆に心配をかける訳にはいかない」

「そして、今回こそ……!」

 

目に見えない集中線がアズサを浴びさせる。全員の覚悟を背負っているかの様に意気込む程、今回の模試と試験に努力していた。

 

「す、凄い気合入ってるじゃん……」

 

「試験範囲の予想問題も、もう何周もしてある。準備は完璧だ」

 

その言葉を聞き、気合に押されていたコハルも負けじと声を上げる。

 

「わ、私も負けないんだから!正義実現委員会のエリートの力、見せてあげる!」

 

「では、私も精一杯頑張るとしましょうか♡」

 

最初はアズサだけのはずだつたのに、気づけば全体の士気が上がっている。その皆の姿を見ているだけで、皆は絶対にやり遂げると確信出来た。

 

「皆、張り切ってるね」

 

「はい……!ではせっかくの勢いですし、早速模擬試験を始めましょうか?」

 

「ああ、分かった」

 

全員の勢いが良い今がチャンスだと思い、ヒフミは模擬試験の提案をするが、全員快く受け入れすぐさま次の模擬試験の準備を行った。

 

 

✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

第三次補習授業部模試

 

「じゃあ、スタート!」

 

私の掛け声と共にタイマースタート。全員が一斉にペンを持った。そして、紙にペンを走らせる。

 

「………」

 

「……ふふっ♪」

 

アズサは静寂に溶け込み、静かに答案用紙へ文字を書いている。その隣では、左上ということもあり、全員を見る事のできる位置で、初めての模試の時の様に、ペンを起き頬ずえをついて笑を浮かべるハナコの姿があった。

 

「こ、これ、知ってるはず………!えっと、んと、んんん………っ!」

 

コハルも前回と比べて焦りながらもしっかりと問題を読み取り、答案へ回答している上に、声も小さくなっている。

いつもは全員の様子を伺ってしまうヒフミも、ペンの音と、手の動きが速くなっている事に気づき、もしかしたら―――――――

そう期待と喜びをコハル抱え、ヒフミは安心した表情で答案用紙へ視線を移した。そうしてタイマーが鳴る数分前には、既に静寂だけが教室に残っていた。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

採点を終え、封筒を持ち教壇に立つ。

 

「先生……発表をお願いします!」

 

待つ暇もない程意気込んでおり、ヒフミは早速発表をお願いする。

封筒を開け、白い紙を取り出す。

 

「それじゃあ、発表するよ」

 

第三次補習授業部模試、結果―――――

 

 

ハナコ―69点(合格)

アズサ―73点(合格)

コハル―61点(合格)

ヒフミ―75点(合格)

 

 

「―――全員、合格!」

 

一人一人の点数を言っていき、それを聞いた皆の表情が固まっていた。そして全員のを言い切り、数秒の静寂の後、合格の声を上げると、全員の表情が一気に明るくなった。

 

「や、やりました……!?」

 

「ほ、本当っ!?嘘ついてない!?」

 

「………!!」

 

「あらあら♡」

 

教室中に歓喜の声が響き渡り、ヒフミは真っ先にアズサの元へ行き、驚きで固まっていたアズサに思いっきり抱きついた。

 

「凄いです!アズサちゃん、60点所か70点を超えてしまいました!本当に凄いです!頑張りましたね……!」

 

「……うん!」

 

アズサも悪い気がしないと笑顔で抱きしめ返した。そして元気な声で頑張ったと、そして報われた嬉しさでの答えを返した。

 

「コハルちゃんも!ギリギリでしたが、これは紛う方なき合格です!凄いです!やりましたね!」

 

「ゆ、夢とかじゃないよね……?ほ、本当に……!」

「あはっ……こ、これが私の実力よ!見たか!!」

 

「はい!これぞ正義実現委員会のエリートです!流石です!」

 

なりふり構わず褒めまくるヒフミに、コハルも同じく褒められるとコハルの乗ってエリートとという事実を見せてくる。もちろんヒフミは褒めまくっている。

 

「それに、ハナコちゃんも……」

 

「……運が良かっただけですよ、うふふ。良い感じの数字です♡」

 

「良かったです……ハナコちゃん、うぅ……」

 

あまりに嬉しくなり過ぎて涙すらも流してしまうヒフミに、ハナコは少し戸惑ってしまった。

 

「ハナコちゃんに以前何があったのか、何を抱えているのかはまだ分かりませんが……でも、良かったです……」

 

「ヒフミちゃん………はい、ありがとうございます」

 

「前の実力をすぐ取り戻せるよう、私もお手伝いしますね。本当に、本当に良かったです……」

 

ヒフミはハナコの事情を知っているからこそ、こうやって成長―――取り戻そうとしている姿に、嬉しさと感動を感じれずにはいられなかった。

涙を零すヒフミに、ハナコは優しく包んでくれる。

 

「………ごめんなさい。ご心配をおかけしてしまって………」

 

「うぅ………だ、大丈夫です」

 

涙を流すのを止め、少しだけ休憩をした後、再び全員が席に着く。そして、祝を記念しヒフミが今度は笑顔で教壇へと乗った。

 

「………という事で、約束通りモモフレンズの授与式を始めますっ!」

 

「………!!!」

 

「あはは………」

 

「………」

 

さっきの勢いがなくなった。やはりアズサとヒフミを除くハナコ、コハルにはまだモモフレンズに慣れていない様で、未だにコハルは嫌悪の目を向けていた。

 

「さあ、どうぞ!皆さん好きな子を、欲しい子を自由に選んで良いですよ!」

 

「なるほど、となると………!むむ……!」

 

「えっと、私は謹んで遠慮しますね」

 

「わ、私も……」

 

嬉しそうに悩むアズサ、普段の異常さが無くなるほどの真面目な遠慮、嫌悪の目でド直球の要らないを伝えるコハルと個性が沢山の中、その対応にヒフミは少し残念がっていた。

 

「ど、どうしよう……私は、私は……!」

「だ、ダメだ……この中から選ぶなんてそんな難しい事……!」

「あの黒くて角が生えたのも良いし、メガネのカバも……!」

 

「か、カバではなく、ペロロ様は取り戻そなのですが………」

 

単純にアズサも間違えていた。

 

「どうすれば………このどちらかを選ぶなんて私には……!頼むヒフミ、ヒフミが代わりに選んで……」

 

「わ、私ですか……?」

 

突如指名されたヒフミは戸惑いながらも、今さっきアズサが迷っていた二人を見つめる。

 

「えっと、スカルマンさまとペロロ博士ですよね。強いて選ぶとすると……」

 

そして、ゆっくりと歩いていき、ヒフミが手に取った物は――――ペロロ博士だった。

 

「こちらの……ペロロ博士でどうでしょうか!」

 

「……!よし、じゃあこの子だ!」

 

ヒフミが選ぶと迷う暇なくペロロ博士をアズサは受けとった。そして、優しい顔つきでペロロ博士の顔をじっと見つめていた。

 

「実はこのペロロ博士は、物知りで勉強も出来るという設定なんです」

「まさに今お勉強を頑張って、凄い成長している真っ最中のアズサちゃんにぴったりかなと!」

 

「……なるほど」

 

そういった理由で選んだとすれば、ヒフミにも愛があると感じる。

 

「ちょ、ちよっとだけ勉強のしすぎたせいで少しおかしくなっているという裏設定もあるのですが……」

 

それさえなければ完璧だったかもしれない。

 

「良かったね、アズサ」

 

そういって必要かは分からないけど、優しく頭を撫でてあげた。そしてアズサは気に入った様子で、ペロロ博士を抱きしめている。

 

「ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする」

 

大切に抱きしめながらそう言ってしまうものだから、ヒフミも驚いてしまった。

 

「あ、有り難いのですが、そこまで言っていただけるとちょっとビックリしてしまいますね……!?ですが、私も嬉しいです。それは、アズサちゃんがやり遂げたからこそですよ」

 

「うん。それでも同時に、友達から貰った初めてのプレゼントだから……これからはこのカバの事を、ヒフミだと思って大事にする!」

 

「そ、それはちょっと恥ずかしいですね……!?そ、それとカバではなく鳥でして………!」

 

初めてプレゼントを渡すと言った日と同じ様な光景を、もう一度見ている。それは、どんな事がどれだけ起ころうとも、この日常が変わりはしないと伝えている様だった。

その二人のやり取りを、私達は優しく見守っている。





あの日の夜、先生と別れてから再び部屋へと戻り、誰にも気づかれない様に自分のベットへと入り込んだ。その数十秒後、落ち着いた私の脳内にさっきのやり取りが思い浮かぶ。

「………あれ……?」

あの瞬間、自分でも格好つかない様な発言をした上、先生から何かを受け取った様な気がする。

(………まさか、そんな………)

暗い部屋の中、ゆっくりと目を開け自分の左手を見る。

「…………!」

そこには、薬指にしっかりと輝く指輪が嵌められていた。

「………ぁ……ぁぁ」

途端に、全身が燃え上がる程に熱くなる。先生は何してこんな事を……いや、特に意味は無さそうにしていた。なら、これは一体……?
先生の純粋な心といえど、どこの指にどんな意味があるのかぐらいは知っているはず――――だが、その頭の中に先生がそんな事を知っているという想像が出来なかった。

つまり、先生は無意識、無自覚に''そういう事''をする人なのだ。だがそれは、意味を知っている私達からしては爆弾当然。だがもし言ってしまえばその意味を知り先生がどんな反応をするか。想像は出来ずとも、生徒を自分より何倍も大切にする人だ。無事では済まない事が容易に想像できる。

では、この気持ちはどこに当てれば良いのだろうか―――――

「っ〜〜先生……ずるいですよ………」

その日はよく眠れたものの、朝誰よりも早く起き、指輪をそのままにしておいても不味いので、バッグの潰れない大切な場所に保管し、少し気分が良いまま、ヒフミは朝日を見つめていた。




︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

先生がいつも指輪を持っている事が変だと言わないでください。先生は変人ではありません。しっかり指輪の意味も出てくるので少々お待ちを。
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