虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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気づけばもう六十話となりました。こんなに続くと思っていなかったですマジで。


第二次特別学力試験までの道のり

 

 今回の試験場所であるゲヘナの廃墟は別館からは相当遠く、だが深夜三時を開始時間にしている事によりギリギリ着く範囲へと縮まっていた。その分早歩きで行かなければ間に合わないが。

私達は何かが起きても大丈夫な様に走ろうという結論に至った。進む先々、アズサは皆んなより前に出て辺りを確認する。誰も居ない事を確認すると私達に手招きと小声で合図を送った。

 

「……よし、来ていいぞ。皆んな」

 

「ありがとう、アズサ」

 

「アズサちゃんって、いつもこうやって周りを確認しているんですか?」

 

「ん?ああいや、これは昔からの癖だな。小さい時からよく周りを確認したり、安全に利用する為に敵が居ないか注意して動いたりする事が多かった」

「……ここに来てからそういった事もやっていなかった。これも、変化の違いなのかもしれない」

 

「アズサちゃん……」

 

「…あの、お二人共?」

 

普段のアズサなら口にしないであろう言葉が、ヒフミの足を止めた。だがそんなヒフミを見てアズサは急に止まってしまった事に少し困惑している、その二人の間にハナコが入り中断させた。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「いえ、何かあったというか……現在進行形というか……私達、余裕を持って間に合える様に走っているんですよね」

 

「はい、そうですけど……」

 

「……一度、ゆっくり歩きませんか?先生が……厳しそうなので」

 

「「……え?」」

 

ハナコが指を指した方向を見ると、初めてと言える程焦りながら何とかしようとあわあわしているコハルと、虚弱体質が仇となり灰になっている先生が近くのベンチに座っていた。流石に二人も焦りを隠せず先生の元へとすぐに近づく。

 

「せ、先生大丈夫か!?」

 

「これは……まずいな」

 

アズサは先生の胸に手を当てると、手を通してでも心臓の鼓動音が伝わる程大きく、手を当てている内に少しずつ小さくなっていった。

 

「っ!まずい!先生が死ぬ」

 

「ど、どうしましょう!?」

 

「先生!気を確かにして〜!!」

 

涙目でコハルが先生の肩を全力で揺らし、余りの揺れに魂が戻って来る様に意識が取り戻ってきた。その代わり死ぬ程うるさい鼓動音と心臓の痛み、息が切れすぎて呼吸が浅い。

 

「は……ぁ……し…ぬ」

 

「と、とりあえず先生、これを飲んでください」

 

ハナコが持ってきた水入りのペットボトルを手渡し、息が切れて飲みにくいが何とか飲み込み朦朧とした意識を安定させる。酸欠で頭がズキズキと痛むが何とか生きれた。

 

「はぁ……はぁ……ありがとう、ハナコ」

 

「いえ、先生が無事なら」

 

「でもどうしましょうか。時間に余裕はありますが、少し休まないと先生の体が持ちそうにないです」

 

「どのぐらい休む?」

 

「それは先生次第ですが……長くても10分程でしょうか」

 

「……それじゃあ間に合わない可能性があるな」

 

「……ごめんね、私のせいで遅らせちゃって」

 

「いや、先生が謝る必要は無い。むしろ普段なら出来ていた仲間の体調管理が怠っていた私の責任だ」

 

目的までの道のりはまだ半分もいっておらず、今から休んで向かう残り時間と合わせると、間に合わない可能性が大きい。どうしようかと全員で考えるも良い考えは浮かばない。サイアク私を置いて行ってもらう事も出来たが、私は今補習授業部の顧問であり試験の監督でもある。もしここで私が不在であれば試験は進行できず不合格になる可能性が高い。

 

「……どうしましょうか」

 

「……そうだ。私に良い考えがある」

 

「良い考え?」

 

「ああ、これなら全員間に合う可能性が高い」

 

アズサが何かを思いついた様で、提案を出した。するとアズサは持ってきたバッグの中を探り始め、見つけ出した物を私達に見せた。

 

「これは……縄?」

 

「ああ、正確には軽く柔らかく、耐久性の高い素材で作られた縄だ」

 

「……何でそんな物持ってるのかはいいとして、それをどう使うの?」

 

「今からこれを使って先生を縛る」

 

「えぇ!?」

 

「何でよっ!?」

 

「……まあ、一旦落ち着いて話を聞いてくれ」

 

少し顔が赤く驚きの声を上げるヒフミと、さっきまでずっと先生を心配そうに黙って見つめていたコハルが林檎並に顔を真っ赤にして反応した。余りの声の大きさに耳を塞いだアズサが二人を落ち着かせ、改めて説明をし始める。

 

「別に変な意味じゃない。ただ、このままじゃ間に合わないからこの縄で先生を縛って、私が先生を持って一緒に移動する。私なら地形が違っても同じスピードが出せるし、軽めの重りが付いたと思えばいい」

 

「……確かにそうですね。今まではアズサちゃんが速すぎたので先の警戒をお願いしましたが、この調子でしたら辺りに人は居ないですし、先生を持ったアズサちゃんなら私達でも追いつけるはずです」

 

「そう。これなら時間にも間に合うし」

 

「何だ……アズサがついに先生に変な事をするんだと……」

 

「私はコハルじゃないから」

 

「ちょっとそれどういう意味!?」

 

「とりあえず先生、縛るからこっちに来て」

 

傍から見たら自分から縛られに行っている変人だが、これも皆んなを合格へ導く為だと考え込み両手を合わせてアズサへ差し出す。アズサは三回ほど縄を巻き縛ると、もうどう頑張っても両手が動かなくなった。

 

「……先生としてはこの状況好ましくは無いんだけど……仕方ないかぁ……」

 

「……先生?」

 

「ん?なにアズサ」

 

「まだ縛る部分はあるぞ」

 

「……え?」

 

そうアズサが言い、思わず思考が停止してしまった。私が固まっている間にアズサは縄を使い私の両手足も一緒に縛ってしまい、私は立つ事が出来なくなってしまう。

 

「え……ちょ、アズサさん?」

 

「ん?何だ?」

 

「いやあの、ここまでする必要……」

 

「ダメだ。例え先生を抱えてたとしても相当なスピードが出る、その影響で先生が怪我なんて考えたくもない。これは先生の為だ」

 

「うぅ……そう言われると……言い返せない」

 

言いくるめされ了承し、再び出発を始めようと皆んなが立ち上がる。私はというと、アズサにお姫様抱っこで抱えられた。

 

「先生、先生は普段とは全く違う速さで行くから驚くと思うが、決して頭を動かしたり、体を動かして振り落とされる様な事はしないでくれ。先生の場合、何かに障害物に当たったりでもしたら体が吹っ飛ぶ事は間違いないからな」

 

「は……はい、気をつけます」

 

「……出来るなら、私の方へ常に近づいておいてくれ」

「それじゃあ、改めて出発しよう。このまま行けば開始時間よりだいぶ早く着くはずだ」

 

「あともう少しでゲヘナ自治区なので、頑張りましょう!」

 

「よし……それじゃあ、行こう!」

 

最初は速いと言っても陸上選手並み程だと思っていた。だがそんな考えも虚しく、走り始めの一歩からその異質さを感じ取った。踏み出した一歩は辺りの小石が少し浮く程の衝撃、そして気づけばアズサはその場から生み出された強風と共に居なくなっていた。

 

「っ!あ、アズサちゃん!?って速!?」

 

「あれは……早く私達も行かないと置いてかれますよ!」

 

「ああもう!あいつは加減を知らないの!?」

 

三人はアズサより多少遅れたものの、全速力で全員が走り始め目標だったゲヘナ自治区まで相当あった距離を、経った五分程で辿り着き、その間私は戻りかけていた意識がもう一度飛びそうになるほどの移動が出来るアズサが少し怖かった。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

夜の街でも光が絶える事は無く、電柱や電番の光は常に輝いている。ゲヘナ・スラム街へと辿り着いた。

 

「ここからはもう、ゲヘナの自地区ですね……」

 

「……そろそろ解いてもいいか」

 

ずっと抱き抱えていた先生を下ろし縄を解く。解いて数十秒はよろよろと不安定に動いていたが、少し休憩してヒフミとアズサに手を引いて貰った。

記憶が曖昧だが、ここはきっとゲヘナ自治区かその近くだろう。たぶん。ハナコ曰く、ここはもうゲヘナ自治区ではあるが、スラム街らしい。ここは都市の学園のはず……。

 

「ん〜?何だか見慣れない奴らだなぁ?」

 

「……無視で」

 

「無視とは冷たいねぇ、そんなに急いでどこ行くのさ?」

 

「わあ、「無法地帯と言えばこれ」みたいな古典的な感じですねぇ」

 

「え、えっと、私達は試験を受けに行く途中でして……」

 

スラム街に入った瞬間チンピラとゴロツキに襲われた、あまりにもゲヘナが自由過ぎて一周まわって感心する程だ。ハナコは古典的と感心していてヒフミは何とか状況を説明しようと頑張っているが、チンピラ達は一言で一掃した。

 

「……はぁ?試験?頭大丈夫?」

 

「ま、まあそうなりますよね……」

 

「まっ、理由はどうであれ、ここら一帯を歩くにはうちらの許可が必要なんだよ!」

 

「……はぁ……頭痛い……気持ち悪い……」

 

「先生も体調が悪そうですし……ここでの戦闘は避けたいですね」

 

「……ん?よく見たら、この制服……トリニティ生じゃね?」

 

私が右手で頭を抑えて座り込んでいる間に、チンピラ達はヒフミ達がトリニティの制服を着ている事に気づき、さっきよりもテンションが上がった様子で声を高める。

 

「……マジじゃん。ひゅーっ、お金持ちのお嬢様達がこんな所にねぇ。あれ、って事はこいつらを攫ったら、身代金がたっぷり貰えるって事?」

 

「おおっ、ナイスアイディア!」

 

「や、やっぱりこういう展開に……」

 

「……時間の無駄だ。強行突破あるのみ!」

 

アズサが突然足を踏み出しチンピラの目の前へと近づくと、チンピラは数秒遅れて銃を構える。だが、その間はアズサにとっては遅すぎた。構えた瞬間アズサは銃を蹴り上げ、衝撃で銃は中に舞い、アズサの後ろへ落ちる。

 

「っい''!?」

 

「遅い!」

 

チンピラの手首が赤くなり、手で抑えている間にアズサはチンピラの頭に向かって踵落としで意識を落とす。その踵落としでチンピラの頭は地面まで埋まり暫く先まで小さなヒビが入り込んだ。

 

「っはや……!?」

 

「よそ見は禁物だ」

 

ゴロツキが余りの速さと勢いでチンピラが潰された事に同様している間に、既にアズサはゴロツキの間合いへと入り込んでいた。そのままゴロツキの腕を掴み背負い投げをすると、物凄い衝撃と音が地面から鳴り背中を打ち付けたゴロツキは衝撃で気を失ってしまった。

「あらあら、流石に相手が悪かったですねぇ♡」

 

「先を急ごう」

 

「ま、待って!先生早く!」

 

「ちょっと待って……よし、これなら大丈夫!」

 

ずっと頭痛かったし気持ち悪かったけど力で何とか押さえ込んだ。そうすると頭痛も気持ち悪さも無くなっており、調子が戻り体力も回復、コハルの手を引き四人でチンピラ達から離れ目的地へと向かい走る。

 

「おい!待て!」

 

「凄い人が増えてきてます!?」

 

「っ!やるしかないか……!」

 

後ろを振り返るとその仲間らしきチンピラ達が数人私達に向かって銃を乱射してきた。銃弾が当たる事はそうそう無いが、不安はある。

 

「これで……どうだ!」

 

私はチンピラ達の方向を向き、手袋を取った力を纏っている右手を横凪し、そこには青いオーラの様なものが生み出され、そのオーラは長方形の青いシールドが変わり、放たれた銃弾を全て受け止めた。

 

「な、なんだありゃ!?」

 

「先生、そんな事出来たの!?」

 

「最近見つけた技だけどね……それよりも早く行こう!」

 

「は、はい!」

 

前を走っているアズサが煙玉を投げ、爆発する。その霧が晴れた頃には、誰もそこにトリニティ生は居なかった。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 

何とかゲヘナの自地区内へと入り込み、近くのベンチに座る。さっき初めて使ってみたが、まさかここまで効果があるとは思わなかったな。

いつもの力で使えるのは、未来視、威力は無いが謎の重みが加わる拳が使える力の不要。そして今さっき行った力の具現化。銃弾程度なら受け止める事が出来るっぽいが、さっきの数秒間使っただけで体に相当な負荷が掛かる。使い所を間違えたら簡単に逝ってしまいそうだ。

 

「何とか内部には入れましたね……」

 

「ですが……幾ら夜中とは言え、人気が無さすぎませんか?」

 

「……銃声だ。どこかで戦闘が起きている」

 

「……ほんとだ」

 

余りの人気の無さに辺りの音が良く聞こえ、耳を澄ますと遠くの方だが銃声が複数聞こえる。だが最悪なのはその方向が丁度私達の行く廃墟の方向と一致している事だ。

 

「目的地はこのまま進むしかありませんし……とりあえず行ってみましょうか」

 

ベンチから立ち上がり銃声の鳴る方へと向かう。暫く歩いて行くと、大橋の先に複数人が橋を横一列で待機している姿があった。

 

「あれは、検問……?」

 

「止まれ!ここから先は立ち入り禁止になっている!」

 

「そもそも今日は、街全体に外出禁止令が出ているはずだ!早く戻って――――」

 

検問を行っているのはゲヘナの風紀委員会であり、すぐに止められたが、ヒフミ達の制服を見て一瞬だけ風紀委員会の子達が固まる。

 

「………その制服、トリニティ?」

 

「どうしてここに……!ゲヘナに何しに来た!目的は何だ!」

 

「い、いえその、本当にここを通りたいだけでして……」

 

「何の目的も無しに、トリニティがゲヘナにいる訳があるか!」

 

「はい、私達は本当にただ試験を受けに来ただけなんです。特に問題を起こしに来た訳ではなく……」

 

「トリニティの生徒達が試験を受ける為にゲヘナに来る?せめてもっとまともな嘘をつけ!」

 

「せ、正論……あうぅ……」

 

これに関してはあまりに風紀委員会の子達が正しい過ぎる。ドキマギと何とかして通ろうとしている時に一人の子がコハルの存在を見つけてしまった。

 

「……っ!そこのお前!正義実現委員会じゃないか!?」

 

「なっ、ほ、本当だ!襲撃!正義実現委員会が襲撃しに来たぞ!」

 

「上層部に報告!正義実現委員会か遂に来た!!」

 

「ええっ!?いやその、そ、そうなんだけど違うって言うか、うぅっ……」

 

「仕方ない、倒そう」

 

「えぇっ!?誤解が深まりませんか!?」

 

「仕方ない……アズサ、倒すにも限度を……」

 

コハルの制服が正義実現委員会の制服だった事で風紀委員会の子達が誤解し、聞こえた限りでも上層部への報告、即座に戦闘態勢が成された。

流石に私でもこの騒動を収める事は難しそうな上、アズサが倒す気満々だった為仕方なく気絶を条件に戦う事を選択する。

 

いざ戦おうとした瞬間、私達の後ろから何か黒い物が飛んできて風紀委員会の子達に当たった瞬間辺り一帯が大爆発し煙が私達を襲う。

 

「アズサちゃーーーん!?」

 

「いや、私じゃない。他の誰かだ」

 

「そうですね、今のは私達の遙か後方から飛んできました。しかし、一体誰が……」

 

後ろを振り返ると、黄色いトラック?の様な車が私達に向かって全速力で加速し、ギリギリの所で止まると運転席と助手席、後ろの開いているバックから顔が飛び出た。

 

「あらっ★やっぱり先生でしたか!」

 

「大当たりでしたわね、御機嫌よう。ここで何をなされているのですか、先生?」

 

「その声は……美食研究会の皆んな!」

 

風紀委員会の子達が爆発でボロボロとなり、騒動が大きくなっていく中、それを無視した顔で私達の前へと現れた美食研究会は、驚く程の笑顔で髪をなびかせ、数日ぶりの再会を果たした。




書いてる途中で何故か文全部消えてマジで萎えかけてましたが何とかやり終えました。そんなお話です
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