風紀委員会の戦闘に特化した実力者であれど、守り、逃げに徹したアズサを圧倒できる程の実力は無いと、この時まではアズサ自身もそう感じていた。
目の前に居るのは、風紀委員会ではない赤髪で火炎放射器らしき武装をしている女、そして後ろには風紀委員会であろう服装のツインテールの女が私達だけではなく、もう一人の赤髪も視野に入れながらもこちらを睨んでいる。
連絡用のスマホを取り出し、まだ戦闘が始まる前に先生へ電話を掛ける。その間にハナコを私の後ろに下げ、守る様に相手二人を警戒。そして電話が繋がり、スマホを耳に当てる。
「お前達、覚悟しろ!」
「やべっ、そっちに行きたいだけなんだけどな〜」
風紀委員のツインテールと温泉開発部という部活の赤髪が交戦を始めた。と言っても一方的に風紀委員が攻撃しているだけだが、思ったより持ちそうにない。
その上私達は二人に挟まれている。いつ巻き添えを食らってもおかしくはない。攻撃を避け走りながらスマホに声を出した。
「こちらチームブラボー、チームアルファ応答せよ」
『あ、アズサちゃん!?』
声を聞けばすぐにヒフミだと分かったが、随分と声が遠い。その上、爆発音が遠くからしているが、電話越しだと音が割れるほど近くで爆発が起きている様だ。
だが、せっかく名前を伏せたのに名前を言われてしまっては意味が無い。今は音を外に公開していないお陰でバレずにするだが。
「名前を言ってしまっては隠語の意味が無い……それはそうとして、ごめん。陽動作戦は失敗した。こっちは包囲されている」
『はいぃ!?』
『そっちは、どういう状況?』
風紀委員はあくまで温泉開発部を狙っているらしく、銃声がうるさいが、お互いに撃ち合っているせいで自然と挟み撃ちにされている事は確かだ。
「前方には火炎放射器を持った温泉開発部、後方はやたら強いツインテールの風紀委員。退路を塞がれた」
そうこう言っている間に温泉開発部がやられた。というか上手く逃げ切った。そうすれば次の標的は私達。早い内に話を切らなければ対応が間に合わない。
「ハナコと私は何とか自力で逃げるから、後で落ち合おう。幸運を祈る」
そう言いすぐに電話を切り銃を取り出す。風紀委員は出方を伺っている様で動こうとはしない。私はハナコの指揮があれば時間を稼げると考え声を掛けた。
「ハナコ、指揮を頼む」
「……はい」
一番良いのは話し合いでの解決……だが、そんな希望も淡い夢となる。
風紀委員は向けた銃を降ろし、溜め息を落とす。俄然雰囲気が一変し、何かを目的とした目と殺意を私達へ向けた。一瞬の隙も見逃さない、そんな空間が展開され声を上げた。
「――――一人も見逃さない。固有解放!」
その言葉を発した瞬間、彼女の持っている武器『クラックショット』を中心に赤黒いオーラが彼女の体へ繋がり、やがて一体となる。
「……規則違反者共、全員やられる覚悟はあるな?」
「話し合い……は、無理か」
固有解放まで披露した。もう戦う以外の選択肢は無いと確信したアズサは、ハナコに自身の持っていたスマホを渡し、戦闘が始まる一瞬の内に目的地に向かう様指示をした。
「ハナコ、先に行け」
「でも、それではアズサちゃんが……」
「私の事は良い。今は、自分の事を考えろ」
「……絶対に、帰ってきてくださいね」
「もちろん、友達を泣かせる様な真似はしない」
今のあの風紀委員にはどんな小細工も効かない。ならばハナコが逃げるまでの間時間を稼ぐしか今のハナコを逃がす方法は無い。
「覚悟しろ……全員、委員長の前に突き出してやる!」
「行って、ハナコ!」
「はいっ!」
ハナコが目的地の方面へ走り出すと同時に、風紀委員は私に向けて銃を乱射した。だがその精度は驚く程正確であり、これも固有解放の力だろう。
固有解放は知識と実力さえ有ればどのタイミングでも会得する事が可能な奥の手。ゲヘナやトリニティ等のデカければデカイ程学校で会得させられる事もあり、基本的に二年生から会得する事が多い。肝心なのは『固有解放』の能力だ。
固有解放は一人一人能力の違いはあれど、会得し扱う事が出来ればそれだけで相当の力を得る事が出来るもの。この力を使うか使わないかで相当な差が出る程――――その差、現状のイオリであれば実質ゲヘナよ風紀委員長『空崎ヒナ』と近い実力を持っているだろう。
基本的にはその者に合った能力が与えられる。だがその代償となるものも大きく、制限時間は現在記録されている最大でも二分程、記録してい無い各学校のトップでも三分程度だろう。その上固有解放が過ぎた後は全身への激痛に加え、最速でも十分程度動けなくなる。
もちろん使う時間によっては痛みや動けない時間も変わるが、基本的にはよっぽどの事が無い限り使わない様指示されている。だが、それを知った上でイオリは固有解放を行った。
銃弾をある程度避けるが、それでも当たるものは当たる。しかも今は大橋の上、中々障害物が見当たらず、隠れる事も出来ない。
次の瞬間イオリはアズサの元へと一気に駆け寄り接近戦へと持ち込む。イオリは自身の持っているクラックショットの銃口部分を持ち、後ろにある棘部分をアズサに向けフルスイングで振り回すが、アズサは銃を縦にし衝撃を緩和する。それでも勢いは止まらず衝撃がそのまま銃を通り抜け奥の電柱にヒビを入れた。
「―――お前、名前は?」
「なぜ、そんな事を聞く」
「強い奴の名前は覚えておきたい。それだけだ」
「―――――そうか」
その言葉と同時にイオリは足の力でアズサを上に飛ばす。遠くにあるビルの半分程飛ばされ、アズサは自身の羽を使って空に浮かぶ。そしてイオリはアズサに銃口を向け、こう叫んだ。
「私の名前は、イオリ―――風紀委員会銀鏡イオリだ!」
次の瞬間、イオリから発射された銃弾『一網打尽』直感で真正面で受けるのは危険だと感じ取ったアズサは、不慣れな羽を何とか動かし高速で動く銃弾を避ける。それでも固有解放状態での必殺技は一弾一弾が強力であり、横を通り抜けた銃弾はその風圧でアズサの体勢を不安定にさせた。
「っ!?」
「まだ終わらない!落ちろ!」
イオリは一瞬で位置を変え二発目を放つ。だがアズサの体勢は不安定であれど、空は全てが足場となり、全てが移動出来る空間となる。無理矢理に羽を動かし二発目を回避するが、さっきよりも体勢が崩れてしまう中、最後の弾丸。それは速度も威力も段違いであり、二発目とほぼ同じ位置に撃たれたにも関わらず、その速度に乗り遅れた風が太刀となった。
アズサの左羽を少し掠り、それでも激痛が走る。痛みに耐えながら着地出来る位置を探し、出来るだけ足へのダメージを軽減し着地を成功させた。
「逃げ切れると思うなよ!」
「っち、面倒だ」
イオリが走り出しの一歩を踏み出すと、辺りにヒビが入り込む。そして走り出すとヒビの入った地面により亀裂が入り込み、破片が中に浮きイオリが消える瞬間遅れて破片は加速しイオリの後方へ吹き飛ぶ。
アズサが次に瞬きをすると、既に自身の体は吹き飛び、飛んだ先のビルへ背中なら激突する。そして同時にくる背中の腹への激痛と衝撃、イオリは今の一瞬の内に橋から川を跨いだビル先の壁まで一蹴りで飛ばしたのだ。
「っっ!?ごほっ、ごほっ……っくそ、目が追いつかない」
壁は大体ニmほど穴を作り体をめり込ませ、その穴から体を出すと遠くの方からイオリが飛んできているのが分かる。身体が痛い、血の匂いと鉄の味を感じる。ボロボロでありながらも逃げようと足に力を込め、イオリが飛んできている間に入れ替わる様にビルから橋へと飛んでいく。
「っ……?あれは……ヒフミ?」
アズサの目先には指を指すヒフミらしき黄色髪と、コハルらしきピンク髪が見えた。
だがその隙を見逃すまいとイオリは移動先を変え、移動しているアズサの元へと急接近、アズサが気づき攻撃が当たる瞬間に腕をクロスし防御の形を取るが、関係ないとイオリは上から蹴りを入れるとその衝撃で真下の川へと音と波を立て背中に激痛が走り水中へと入る。
「っがぁ……っ!?」
水面へ上がろうにも上にはまだイオリが居る。肺の中にある息を水中へ吐き出すと赤い液体と泡が生まれ上へ上がっていく。全身の痛みと肺への酸素が足りず意識が薄れていく中脳内では必死でこの先の動きを考えていた。
もし自分が攻めている立場だったとして、私と同じ位置、同じダメージを負った状態で上に居るとすれば、余りのダメージ量と水中ということもあり、上から攻めてくるだろう。そう考えた瞬間、体は既に行動をした。刹那、上からイオリが銃弾の様な速さで爪先を突き立て落ちてくる。地面に当たった時地面から生まれた泥霧と泡が辺りを支配する。
バックステップで何とか避けたものの、水中でも速度は変わらない。それどころか泥霧と泡で余計に動きが読みずらい。すぐにでも水中から出て橋へと飛び上がる。そしてイオリも気づき橋の上へと飛び上がり私と再び向かい合う。
「はぁ……はぁ……」
「もう限界か?なら、ここで――――」
「はぁ……ははっ、いや……これでいい」
ずっとここまで耐えてきた。攻撃しなかったのも、これまで体力を温存する為。私の目的はあくまで『逃げる事』だ。
銃を仕舞い、足に今ある最大限の力を込める。
「固有解放……したのは、早かったな」
「……どういう意味だ」
「……もう、時間だろう……ここ、からは……げほっ、私の番……だ!」
次の瞬間私は目的地の方向、私は後ろを向き今ある体力全てを使い全力疾走で走り出す。アズサ自身何よりもスピードに自信があり、その速度は本気であれば今のイオリにも引けを取らない。
「っち!待て!」
イオリも追いかけようと足を踏み出した瞬間、イオリの体は硬直する。そしてイオリは確信した『時間切れ』だと。
「今のお前じゃ、追いつく事は出来ない……私の粘り勝ちだ!」
「っく……そ……」
視界がどんどんと暗くなり、遠のいていくアズサの姿をただ見る事しか出来なかった。時間にして一分半、その時間を持ってしてもアズサを制圧する事が出来なかった悔しさを最後に、イオリの意識は完全に夜と共に闇へ落ちていった。
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時刻は二時四十五分、現在地ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟へと全身が痛む中何とか動かし辿り着く。
「はぁ……一番乗り……では、なさそう」
三時手前で夏ですら寒い風が吹く上にスーツを脱いでシャツ姿だというのに余りに暑すぎるとシャツで扇ぎながら思う。先を見ると、同じタイミングでヒフミ、コハル、ハナコの姿があった。
「あ、先生!」
「先生、無事だったんですね」
「まあ、何とかね……」
「……あれ?先生、スーツはどうしたの?」
「あぁ……これは、まあ……人助け……?に使ったよ」
「………?」
「というか、アズサは居ないの?」
「アズサちゃんは………」
私の問にハナコは言いずらそうにしている。まあ大体予想はついている。アズサならハナコを逃がすだろうと、だがそう考えればアズサの事が心配になる。
いくらアズサとは言え風紀委員会のイオリに温泉開発部を一人で相手にするのは堪えるだろう。戻るにしても距離がありすぎて助ける事も出来ず、今出来る事はアズサの無事を祈るしか無い。
私達でアズサの帰りを待っていると、廃墟に繋がる裏路地から二秒感覚でゆっくりと足音が迫ってくるのが聞こえた。こんな時間、こんな所に来るとしたら一人しか居ない。そう思い足音の方を振り向くと、路地裏の奥から意識がある事が不思議な程ボロボロの姿で右側の壁に体を預け、左腕を抑えるアズサが来た。
「あ、アズサちゃん……!?」
「はぁ……っく……ははっ、逃げ……切った……」
弱々しい笑顔を見せたその直後抜ける様に崩れ、直前で一番近くに居た私が受け止めるが私如きでは女子高校生一人を受け止める事が出来ず、そのまま一緒に倒れ私は地面が固く背中を殴打、私も死にかけた。
「ぐは……っ、誰か……」
「せ、先生!?」
次に近いヒフミが何とかアズサを抱き上げ私とアズサを救ってくれた。アズサはさっきとは違い安心した雰囲気で眠っている。まだ試験が始まるまでまだ時間がある為アズサの休息に回し、皆んなも共に休憩する。
誰かが見ていては皆んなにとっての休息にはならない為私が色々考慮してアズサを膝枕で寝かる。
周りには何も無い。その為いつも以上に静かな空間が作られた。そうして三分程経ったその瞬間、アズサが突然目を開き急に起き上がる。起き上がる際に寝顔を覗き込んでいた私の顎に思いっきり当たり、まだ背中を殴打した。
「いだっ!」
「……あぁ、すまない。先生」
「………おはよう。アズサ」
「ああ、所で先生。今何時だ」
「ぁあ……今は、ええっと。二時四十八分。アズサが寝てから三分しか経ってないよ」
「そうか……なら、良かった」
安心した表情を浮かべるアズサに、私は問いかけた。
「……少し、何があったか聞かせてくれない?」
「…気になる、のか?」
「気になるというか……なんと言うか……こんな姿になってるアズサを見る事が……苦しくて」
「……そうか」
気づけば自分の顔が暗くなっており、それを見たアズサは再び私の膝へ頭を置き、ゆっくりと目を閉じ深く深呼吸を二回する。
「……余り良い話じゃない。ただ耐えただけだ。それでもいいか?」
「……うん、聞かせて」
そうしてアズサが起きた少しの間、アズサのこれまで起きた事を話してくれた。そうして短い時間が過ぎていく。話している最中のアズサは、今まで以上に落ち着いた声と全てを私に預けている。そんな風に感じてしまった。
そして、長い様で……長かったここまでの道、遂に二次試験への時間が迫り来る。
エデンが進んでいる間公式では全世界アイドル計画が進んでいる模様。