虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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体調が悪くなったり等ありました、体調崩すの数年ぶりです。


痛く苦しい無限の傷

 

「……まあ、だいたいこんな感じだ」

 

「そうだったんだね……お疲れ様、頑張ったね」

 

「私はこうする事が最適だと思ってやっただけ、そんなに褒められる様な事はしてない」

 

 一通りアズサは話を終え、再び私の膝から立ち上がった。休憩している三人の元へ行き、目の前のボロボロで誰も居らず正しく廃墟と言える場所に目線を移した後、三人に問う。

 

「試験会場は、ここか?」

 

「はい、ここで合っています。ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟の一階……今、到着しました」

 

 アズサに続き三人も廃墟の方を向く。その廃墟からはもちろん何の音もせず、周りも静かで誰も居ない。そして他とは違う禍々しい異質なオーラを放つ廃墟に多少の恐怖心を抱くも、ここに来る前から肝試しをした後に大爆発に巻き込まれたので震える程では無かった。

 

「ど、どうしてこんな所で試験を………あ、試験用紙とかどうなるんでしょうか、誰かが来てるんですかね……?」

 

「いや、誰もいなさそうだ。でも何かしらの手順は用意してあるはず………!これだ」

 

「これは……不発弾、ですか?」

 

 アズサが入り口から少し中に入ると何かを見つけ、私達の元へ持ってくる。それは丸い形をしており、爆弾の様な大きさをしている。それを見たハナコはそれを不発弾だと言った。

 

「L118、牽引式榴弾砲の弾頭だ。スローガンとかの散布用なのか、雷管と爆薬を取り除いて爆発しない様にしてある」

 

「なるほど。L118という事はティーパーティーの……つまり、ナギサさんからという事ですね」

 

「この中に何かあるはず。開けてみよう」

 

 カチャ、という音と共に弾頭の蓋が開き、中には綺麗に半分で折られている紙が四枚入ってあった。

 

「中に紙が……これが試験用紙という事ですね!」

 

「特に破損も見られない。こっちは……通信機か」

 

 アズサが何の躊躇いも無くボタンを押すと、ホログラムで過去に撮ったであろうナギサがいつも通り椅子に座り、紅茶のカップを片手に話し始める。

 

『……これを見ているという事は、無事に到着された様ですね』

 

「な、ナギサ様!?」

 

「…………!」

 

「え、じゃあこの方が、ティーパーティーの……?」

 

「ナギサ………!」

 

『ふふっ……恨みの声が聞こえてきますね。ですがこれは録画映像なのですので、リアルタイムには聞こえないのですが。ですので、今の私に話しかけても無意味ですよ』

 

 事を先読みして無意味だと伝えるナギサに、私達は黙り込んでしまう。そして一瞬の静寂の後、ナギサは再び口を開き私達にこう伝えた。

 

『それでは約束の時間までに試験を終えて、戻ってきてくださいね。一応引き続きモニタリングはさせていただきますので、その事をお忘れなく……では幸運を祈りますね「補習授業部」の皆さん』

 

どうかお気を付けて・・・・・・・・・

 

 そこで録画は終わり映像が消える。ヒフミは常に監視されている事を怯えながら弱々しい声を上げるが、ハナコは最後の言葉がどうしても引っかかってしまう。

 

「……なんだか、最後……含みのある言い方でしたよね……?」

 

「とにかく時間が無い。早く始めよう」

 

「は、はい!皆さん入りましょう!いよいよ第二次特別学力試験です!」

 

「そうですね」

 

「う、うん!」

 

「………よし、頑張ろう!」

 

 そして、私達は廃墟の中へと足を踏み入れた。何か違和感を感じたが、特に気にせず。そうして進んでいき数秒後、私達が入ってきた入り口付近でまた別の誰かが近づいてくる。

 

「……で、ここが例の場所?」

 

「うん、住所的にはここで合ってそう。ここから向こうの方まで全部かな」

 

「へへっ、どこからの情報だかよく分からないけど、親切に温泉がありそうな場所を教えてくれるだなんて有り難いこった」

 

 近づいてきたのは、温泉開発部だった。温泉開発部の部員は皆シャベルや温泉開発に必要そうな武器を持ち目を光らせる。一人がシャベルを担ぎ、温泉開発部のいる皆んなの方を向いて勢い良く腕を上げる。

 

「よぉし、発破準備!」

 

「開発だぁーーー!!!」

 

 そして勢い良くシャベルを地面に突き刺した瞬間、廃墟全体が粉々になるほどの大爆発が起きた。

 爆発の直前、嫌な未来を見た。だがそのお陰で気付く事が出来た。力を四人に付与、そうする事で気付けなかった四人へのダメージを相殺し無効化。このままでは何も纏ってい無い私は爆発に巻き込まれるが、私には私の守り方がある。

 

 四人に力の付与、そして爆発するほんの一瞬の時頭の中で大きく叫ぶ。

 

『アロナ!私を守って!』

 

『………はっ!はい、任せてください!』

 

 その瞬間の大爆発、余りに急な事だった上に衝撃までは緩和出来ずに私達は吹き飛ばされてしまう。私以外は一瞬気を失ってしまい、私はアロナのお陰で意識も失わず無傷だった。そしてその一秒にも満たない一瞬で全員の意識が戻る。

 

「っ、今のは……!」

 

「一体……何が……?」

 

 辺りを見渡しても、そこにはさっきまで居たとは思えない程殺風景であり、天気も悪く雲が空を覆っている。

 

「っ試験用紙が、試験用紙が……!?」

 

「跡形も無く吹っ飛ばされた……」

 

 答案用紙は散り散りとなり、風が渦を巻く。そんな中でもヒフミは私の心配をしてくれた。

 

「せ、先生、ご無事ですか………」

 

「だ……いじょうぶ……じゃない、かも」

 

「……先生?」

 

 ヒフミが私の方を振り向くと、私は右腕を抑えて座り込んでいた。ヒフミは近づき、私を見下ろす。そして抑えてある右腕を見た瞬間、ヒフミの瞳孔が開く。

 

「せ、先生――――先生!」

 

 ヒフミの叫び声に三人も気が付き、先生の方へ近づくと、そこには抑えられた右腕全てが真っ赤に染まっており、少し経った後から鉄の匂いが漂う。

 三人も焦りを隠せずに直ぐに駆け寄った。そして、先生本人は息が荒くなっていく。

 

「はぁ……はぁっ、まさかこんな副作用があるとはね……」

 

「ま、まさかさっきので……!?」

 

「いや……違う、これは力の副作用………だから」

 

 アロナに守って貰った事で爆発には巻き込まれなかったものの、力に慣れていないのに突然莫大に使ってしまうと体が耐えきれずに何かしらの副作用が起こる。

 さっき四人に向けて爆発無効化の恩恵がある力を付与した結果、こうして右腕が血だらけになってしまいシャツも駄目になってしまった。

 

「……なるほど、ここまでやるという事ですね……面白いじゃないですか。ふふふっ……♡」

 

 手に力を込め、ハナコは笑ってそう言うが声は冷たく、頭の血管が浮き出る程の不快感と憤怒感に飲まれながら空を見上げる。

 試験どうこうの話では無い。ハナコは最後にナギサの言った言葉を思い出し、さっきよりもより重い怒りを募らせた。

 

 

 第二次特別学力試験、結果―――――

 

 ハナコ―試験用紙紛失(不合格)

 アズサ―試験用紙紛失(不合格)

 コハル―試験用紙紛失(不合格)

 ヒフミ―試験用紙紛失(不合格)

 

 

 補習授業部、第二次特別学力試験―全員不合格。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 全員太陽が昇る頃にはいつもの別館へと戻り、私は腕の怪我がある為一度皆んなと離れる。

 離れた先に向かう場所は、トリニティ本館にある救護施設。施設と看板が吊るされているが中には本格的な病院の様であり、負傷者が良く出る、為一年経つ度に一回り大きくなっていっているらしい。そんな救護施設の扉を三回ノックすると中からどうぞ。と声が聞こえた。

 

 右腕を抑え、扉を開ける。開けた先には机の上で事務作業をこなしているセリナが居た。

 

「あ、先生でしたか」

 

「うん、ちょっと包帯が欲しくて」

 

「包帯……ですか?」

 

 最初は困惑していたセリナだが、右上を抑えている私をじっと見ると、何かを察したかの様に席を立ち上がり、私の元へとやって来る。

 

「少し、良いですか?」

 

「あ……ぅ、うん」

 

 セリナがそっと右腕に触れると、激痛とまではいかないが骨に響く痛みが走る。次にセリナが目に付いたのは私が付けている手袋だった。それを外そうと触れた瞬間、体が耐えきれずセリナの手を弾いてしまう。

 

「っ!、ぁ……ごめん」

 

「い、いえ……私の方こそごめんなさい……まさか、そんなに嫌がるとは……」

 

「…………」

 

 ただでさえ誰にも言えない事なのに、それを救護騎士団の子に言える訳が無い。だが、彼女は特に心配性だと聞く。そるに包帯を貰う為にもその説明が必要だ。という事は、私にはもう言うしか包帯を貰う方法は無くなってしまった。

 

 言うしか無い。そう考えるだけで手が震える。その手の震えを優しく包み込み、心配そうな目でセリナは私を見る。

 

「……理由は分かりませんが、言いたく無ければ良いんですよ」

 

「……でもっ」

 

「無理に聞きたいとは思いません。私は、皆さんを助けたいだけ……ただそれだけなので」

 

「…うん」

 

「包帯、でしたよね?」

 

 セリナは手を離し奥へと歩いて行く。そして何かを漁る音がした後に包帯を持ったセリナが帰ってきた。そして、包帯を私の手に置く。

 

「奥にあった余り物ですが……これで良ければ、差し上げます」

 

「本当に、ありがとう。セリナ」

 

「いえ、先生の為なら幾らでも」

 

「あ、後こちらが先生へ届いていました」

 

「……届き物?」

 

セリナが奥から袋を取り出し、中から一着のスーツを取り出した。それは私がフウカを寝かせる時に使ったスーツと全く同じで、綺麗に折り畳まれている。

 

「今時珍しいですが、どうしてもと……ゲヘナの子が直接届けてくれました」

「どうにも、『ありがとうございました。この恩は必ず返します』と伝えてくださいと言って直ぐに行ってしまいましたが……」

 

「やっぱり……フウカか」

 

 スーツを受け取り、大丈夫な左腕に掛ける。この条約が終われば、またゲヘナにで向こうと頭の中で考えた。

 そして包帯を手に取り、踵を返す。扉に手を掛け開けようとする直前、セリナが後ろから声を掛けた。

 

「……やっぱり、言えないですか……?」

 

「………っ」

 

 元々言おうとしていた事、今更怖がる必要は無い。そう思っていても上手く口が動かない。そう思いながらも言おうと、深呼吸をする。

 

「……大した事じゃないよ。ただ……凄く痛くて、見れたものじゃない…から」

 

「………そう、ですか」

 

 扉を開け、廊下に出る。扉を閉めようと後ろを振り向きまた扉に手を掛けると、最後にセリナは私を見て優しい笑顔を浮かべる。

 

「困った時は、何時でも来てください!私は、待っていますので!」

 

「……うん、ありがとう」

 

 扉をゆっくりと閉め、近くの空き室へと入る。近くの椅子に座り、手袋を外す。

 手袋を外した手首から上は、無数と言っても済まない程の切り傷や痣、何かの痕が残っている。だが私はこれを初めて見た時から、痛みなんかは感じなかった。だが、見る度に首を絞められる様な息苦しさと、心臓を直で掴まれているかの様な恐怖に襲われる。

 

 右腕の袖を少し上げると、真っ赤な包帯が肌が見えない程に巻かれており、解いていくと手にあった傷や痕が無限に続いていた。

 包帯を変える為に赤くなった包帯を右腕全て解き、セリナから貰った新しい真っ白な包帯へと変えていく。戻る最中に血は止まり、ただ痛みだけが残った状態だったので良かった。

 

 もし血が止まっていなかったら、言わなきゃいけなかった。セリナにも、補習授業部の皆んなにも。

 大人だからと、先生だからと大人ぶって皆んなを『正しい』と思う方へ導いていただけの子供だったんだと感じさせられる。現にこの傷を、誰にも言えていないのだから。

 

「……そろそろ、皆んなの所へ戻らなきゃな」

 

 何かが欠けた様な気がする。あの時セリナに言っていれば、少しはこの気持ちも変わっていたのだろうか。

 時間を気にしつつ椅子から立ち上がり、空き室を出る。

 

「………戻るか」

 

 受け取ったスーツを再び着直し、色を隠せる真っ黒で薄い手袋を嵌める。

 そして、また一歩と踏み出した。

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