虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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短すぎます


貴方が居れば何度でも(涙はそして覚悟となる)

 

 昨日は大体の範囲を一通り目を通し、今日から本格的に始めていこうと考え昨日とは違い今回は皆んなよりも少し早く起きた。しっかりと時間を残し支度を済ませると、少し早めに教室へと向かう。

 少しゆとりを持って教室に着く。そして扉を開けると、教室の中独りで机に向かってずっと何かを書いているコハルの姿があった。

 

「―――――コハル?」

 

「……………」

 

 声を掛けても反応が無く、近づいてみても見向きすらもしなかった。後ろからコハルが何をやっているのか覗いてみると、教科書とノートを開き、昨日やっていた範囲の問題をただひたすらにやり続けている。表情も固く、見つめているノート以外音すら聞こえない程の集中、普段のコハルでは無いと感じさせる空気感が辺りを制していた。

 これだけ早く起き、誰にもバレない様教室に来た後ずっと独りでやりた続けていたのは、コハルの焦りからだろうか。昨日のヒフミに話していたものは恐らくコハルの本音、皆んなとはまた違う責任と自分の居場所正義実現委員会に戻る為の覚悟が生んだコハルの姿。答えてやらない訳にはいかない。

 

「コハル……コハル!」

 

「っっ!?」

 

 耳元で少し大きな声を出すと、コハルは体を大きく震い上がらせ椅子から飛んでいく。飛んだ時に足が椅子に引っかかり地面に顔からダイブし鐘の様な音がコハルから響き渡った。

 乙女座りで起き上がり小さな羽根で赤くなったおでこを抑えながら私に向かってファイトポーズを取る。

 

「な、何誰何!?」

 

「お、落ち着いて……私、先生だから」

 

「え……せ、先生?何でここに……」

 

「コハルの方こそ、こんな朝早くに教室に居て……何かあったの?」

 

「そ、それは……」

 

 立ち上がり座っていた椅子に座り直すと、少し戸惑い言葉が詰まるのものの話をしてくれた。

 

「……私だけ、皆んなより置いていかれてると思って……その、置いていかれてるというか……ほんとに出来るのかが不安で……ずっと、何かをやってないと落ち着かなくて」

 

「………なるほどね」

 

「全然寝れなくて、頭の中で……どうしても、私が足を引っ張るんじゃないかって怖くて………」

 

「……分かった。私も手伝うよ」

 

「手伝う……?」

 

 机に向かってペンを持ったコハルに、前にある椅子をコハルの使っている机の前に置きコハルと向い合う。タブレットで教科書の問題文を写真で取り私の方で問題を見れる様にした。

 

「教、ハナコの方が圧倒的だから。私が出来る事は少しの教えと、えるのは復習とか覚えなきゃいけない事とかの手助けをするよ。珍しくこんなに早く起きたコハルの時間を、無駄にしたく無いからね」

 

「ちょっと、珍しくは余計よ!いつもちゃんと起きて……起きて……起きてるわよ!」

 

「そうだね〜。しっかり起きれる様になったね〜」

 

「な、何それ!!」

 

 軽い談笑もしながらコハルと私の二人だけの勉強会を始めた。三人が来るまでの少しの時間、朝の日差しと乾いた風が少し教室の中に吹く―――勉強が、始まった。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 午前八時二分を超えた辺り、アズサ、ハナコ、コハルの順で教卓の一番前の席に座り、ヒフミは少し高い段差に乗り教卓に両手を置いた。

 ヒフミから見て右側には無印の赤井シールで止めてある茶色い封筒がシワ一つ無い状態で置かれている。何が始まるのか何も知らされていない為困惑している最中、先生はコハルの隣に座っていたが、椅子から立ち上がりヒフミの斜め後ろに立った。

 

 最後の試験まで後四日となった今、ヒフミはこれ以上無い真面目な顔でアズサ達を見渡し口を開く。

 

「これから、模試を行います」

 

「模試?」

 

「はい。範囲は昨日やった所まで、昨日の夜頑張って先生と作りました」

「制限時間は試験と同じ、しっかりと覚えているかをチェックします。先生が」

 

「はい、私がチェックします」

 

 試験範囲の拡張。これをするという事は補習授業部が想定よりも早くクリアしそうだったからだと考えた。相当広い範囲となったが、同じ様にヒフミ達は出来ると思っている。故にこの模試は今までやった模試より相当難しくしてある。正直一人ハナコを覗いて誰も合格出来ないを装丁して作った。

 だが、寧ろそれで良い。今回の模試用紙は大量に作ってある、正直一つ一つを丁寧に時間掛けていると試験まで間に合わない為こうするしか無かったんだ。

 

「それじゃあ、模試試験を始めるよ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 試験時の様にヒフミ、コハル。後ろにアズサ、ハナコの正方形に座らせ、答案用紙と問題用紙を配る。時計のタイマーを五十分に設定し私は教壇の上に立ち声を掛けた。

 ヒフミの声を聞き、開始ボタンを手に持つ。そして試験開始の声を上げた。

 

「それじゃあ――――試験開始!」

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 静かな教室には筆が走る音しか聞こえない。一人一人の表情を見てみると、今までより何段階も難しくなっている問題に苦戦している様子だ。辺りを見る余裕も無く、誰かの心配をする暇も無い。ただ一人を覗いては。

 私の見える範囲で一番近くに居るコハルを見てみると、今まで見た事が無い程の集中力を見出していると一瞬で理解出来た。

 

 何よりも、誰よりも集中しているコハルの姿は何より格好良かった。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 待っている五十分という時間は意外にもあっという間に終わり、回収し点数の表示が出た。結果は―――

 

 第四補習授業部模試、結果―――――

 

 ハナコ―百点(合格)

 アズサ―八十二点(不合格)

 コハル―八十八点(不合格)

 ヒフミ―七十九点(不合格)

 

 その点数結果を見て様々な反応はあれど、ある事について驚きを隠せなかった。

 

「コハルちゃん凄い!」

 

「後もう少しで合格じゃん!」

 

「す、凄い……まさかこんな実力が……」

 

 ハナコに続きコハルがギリギリ落ちているとはいえまさか二番目に点数が高いとは思わなかった。ほか二人も空いているとはいえ合格点に近づいている。私が思っているより何倍も早く終わる可能性が高いな。

 現にコハル本人も予想外ではあるが思ったより上手くいっていたのか驚きと嬉しさに同時に襲われ情緒がおかしくなっている。

 

「………まじか」

 

「コハルちゃん、口調がおかしくなってますよ」

 

「ですが、まだまだ合格ラインには遠いですね……」

 

「―――ひとまず、結果が出たならここから失敗した所を中心にやっていこう」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

 そのまま日が暮れるまでやり続け、私が見ていない間もずっと、ずっと、問題用紙や一日のスケジュールを決めているヒフミが最後教室の電気を消すまで―――そして、零時を超えても部屋の電気が消える事は無かった。

 

―――――最後の特別学力試験まで、あと四日。

 

 

︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

「次こそはいける!」

 

 昨日の事を生かす為、忘れず内に慣れよ様と決めた勉強会の最中、コハルはそんな事を口走った。コハルは先に問題集を終わらせておりずっと何かを考えてノートに何かを書いていたが、それが理由かと思い何がと聞いてみると、前回やった模試の問題、次こそは合格ラインを越えられる自信があると断言した。

 

 コハルの表情を見る限り相当の自信を持っている事が分かる。ならばそのコハルの意志を試してみる事他ない。

 

「それじゃあ、予定とは違うけどやっちゃおうか。昨日の復習がてら」

 

「構いませんけど……じゃあ、準備しますね」

 

 ヒフミは困惑しつつも、全員の了承を得て準備を始める。いつも通り座る位置を決め持ってきた問題用紙と回答用紙を全員に配る。

 一通り準備を終えると、昨日と同じ様にタイマーを設定し合図を貰う。皆んなの姿を見ると、コハルの言葉を聞いた時は何とも思わなかったが、よく見ると他の三人も不合格という文字が似合わない表情を浮かべている。そんな姿を見て私も自然と笑みが零れた。

 

 そして、皆んなに期待を寄せる中再び声を上げる。

 

「それじゃあ―――試験開始!」

 

 開始の声と同時に紙と筆が触れ合う音、紙の擦れる音が小さく響く。五十分が過ぎ、答案用紙を回収した。

 結果発表の時、全員の点数を表示する。

 

 第五補習授業部模試、結果―――――

 

 ハナコ―百点(合格)

 アズサ―九十二点(合格)

 コハル―九十五点(合格)

 ヒフミ―九十七点(合格)

 

 全員合格が決まった瞬間、その日は喜びが消える事は無かった。皆んなの急激な成長、鯉の様に登る皆んなの姿は何より逞しく、覚悟はここまで人に道を作るのか驚く様な瞬間でもあった。その日も決して明かりが消える事は無く、夜一時を超えるまで互いの部屋の電気が消える事はもちろんの如く無かった。

 

―――――最後の特別学力試験まで、あと三日。




短すぎてペロロ様と一緒に腹切ってきます。あと次回はアヤネバースデー回です
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