今日道を歩いていたら一頭身サイズの白くて丸い鳥のような生物が目の前を歩いていきました。今夜は鳥にしようと思いました。⚠ペロロ様ではございません
「トリニティの裏切り者の裏切り者、は――――私だ」
「………はい?」
まさかこの瞬間に言うだなんて、思いもしなかった。
困惑はしなかったが、驚きは隠せない。私はミカから、ハナコの反応を見る限りハナコ自身も薄々アズサの正体に気付いていたのだろう。いつか言う、いつか話す、そしてその瞬間が今来たのだと見開く瞳の奥から感じ取れた。
視線をアズサに戻すと、アズサは扉に肩を預け冷や汗も微かに震える手の事も気にせず話を続けた。
「私は元々、アリウス分校出身のの人間だった。今こうしてトリニティに居れるのは、書類上の身分を偽って潜伏しているだけ」
「あ、アリウス?潜伏……?」
「な、何それ……アリウス?どういう事……?」
「アリウスは、過去にトリニティ連合に反対した分派の学園です。その反発でトラブルとなり、その後はキヴォトスのどこかに身を潜めていると聞きましたが……」
「ああ、そのアリウスの自治区にここに来るまでは居た」
アリウスで生まれ、アリウスとして生きる。そして任務を受けこうしてトリニティ総合学園に潜入しているのだと、アズサは語った。
任務、それはアリウスの上から命じられたもの――――内容は『桐藤ナギサのヘイローの破壊』 言わずと知れたトリニティフィリウス分派のリーダーであり、現ティーパーティーのホストでもある人物。
「う、嘘でしょ……!?そ、それってつまり……」
ヒフミ達は驚く事しか出来なかった。アズサの言った事、それはトリニティの転覆を話していると同等と言える程の言わば大犯罪。所属の偽造、そしてティーパーティーの崩壊を考え、それはエデン条約にも繋がっている。
「アリウスはティーパーティーを消す為なら、何でもしようという覚悟でいる。何でも、だ」
「アリウスはまずティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学園に入れた。どう言った経緯かは知らないけれど、きっとトリニティと和解したいとかそういう嘘だと思う」
その話の中で、ハナコが反応する。
それはミカの事であり、ミカ自身政治には向いていないと言われ、それを知ったアリウスは全てが終わり次第その全ての罪をミカに着せるという流れを想定しミカを使ったのだと予想をした。
「アリウスがトリニティを憎んでいる事は知っていましたが、なるほど……まさか、ここまでとは」
ハナコが何かを理解すると、コハルは困惑を隠せずに質問をアズサに聞いた。
「ま、待って……急に何の話……?いや、嘘だとは思わないけど、別に今の私達には関係の無い事じゃん……?」
「アリウスの事はよく分かんないけど、私達の補習授業部もどういう関係がある訳?アズサは何で、急にそんな話をしてるの……?」
コハルの疑問は当然の事だ。何も知らない、無関係である補習授業部にはこの話をする必要も無い上、関わる事も無いはず。そのコハルの質問と疑問に、誰も正しい答えを持っている訳も無く暫くの間沈黙が流された。
空気が冷たくなる様な静けさ、やがてアズサがこの話をした理由、そして目的を私達に明かし始める。
「明日の朝、アリウス分校の生徒達がナギサを狙ってトリニティに潜入する。私は―――ナギサを、守らなきゃいけない」
「あ、明日……ですか!?」
「うん、明日は試験日……私が、それをどうにか阻止しないと」
アズサは左腕を訳もなく抑え、少し顔を下に落とす。
ナギサを狙うアリウス、本館には戒厳令が出されており誰も居らずそこにはもちろん正義実現委員会も居ない、誰にも見られず、誰にも知られない。そう考えればナギサを狙う瞬間に最適とも言える様な日だ。
「ち、ちょっと待ってよ!よく分かんないけど、アズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ?なのに守るってどういう事?話が合わないじゃん!」
再び生まれる疑問に、コハルはもう一度質問する。顔を俯けたままのアズサが口を開く直前、ハナコがそれを遮った。
「……それは」
「―――アズサちゃん自身は、最初からその目的でトリニティに来た……そういう事ですよね」
「………!」
図星を突くかの様に聞いたアズサの表情が固まる。
ゆっくりと顔を上げ、少し見開いた目でハナコの目をじっと見つめた。そう見られたハナコも構わず話を続ける。
「最初から、ナギサさんを守る為にあえて会う口実を作れる襲撃任務に参加した……言わば二重スパイ」
「アリウス側には連絡係を担当し、常に問題無しと嘘の報告をひながら……本当は裏切る為の準備をしていた」
次に飛んだ質問は、至って単純な事。なぜ『桐藤ナギサ』という人物を守ろうとするのか。それは誰かからの命令で行っている可能性だってありえるし、そのまた別の理由でやらざるおえないじょうきょうだったのかもしれない。
だが、そんな質問にアズサはキッパリと否定を返す。
「……これは、誰かに命令されたとかじゃない。私自身の判断だ」
「桐藤ナギサという人物が居なければ、エデン条約は取り消され、その平和を象徴する条約が無くなった事によるキヴォトスの未来は、更なる混沌に深まるだろう」
「……その時に、またアリウスの様な学園……存在が生まれないとは思えない」
「………その平和を維持する為に、誰も不幸にならない為にナギサを守る……そういう事だよね?」
「……あぁ」
アズサが顔を俯かせたままそう答えると、それを聞いた皆んなの反応ではどうする事も出来なかった。だが、そんな中一人アズサに鋭い刃を向けた。
「―――――とっても甘くて、夢の様な話ですね」
「まるで―――いえ、今回の条約の名前と同じぐらい、虚しい響きです」
「―――ハナコ……?」
話し始めると同時、ハナコは立ち上がり扉にもたれているアズサにゆっくりと近づきながら声を上げ続ける。
「アズサちゃんは嘘つきで、裏切り者だった。トリニティでも本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠し続け………」
「それは、アズサちゃんの周囲にいる全ての人を騙して、欺き続けた……そういう事、ですよね」
「ハナコちゃん……」
「………あぁ、全部言った通りだ……私は、皆んなの事も、皆んなの信頼も………皆んなの心も、何もかもを裏切ってしまう事になる」
ハナコを目の前に肩を落とす。ヒフミは声を掛けようと名前を呼んだが、それ以上の言葉が見当たる事は無く無に消えた。
直後、アズサは補習授業部の事について話を始める。
「彼女が探している『トリニティの裏切り者』は私だ。私のせいで補習授業部は、こんな危機に陥っている」
「本当にごめん。私の事を恨んで欲しい。今この状況は、全て私が生み出した事だから」
私は、そんな悲しい事を彼女に何て言葉を返せば良いだろうか。何者でも無い私が、掛ける様な言葉を持っているだろうか。
なぜ、苦しまなければいけない。なぜ悲しい想いをしなければいけない。それは誰が、何を持って決めた事なんだ。
何も背負う必要の無い子供が、そんな責任を持ったままで良いのだろうか――――私は、そうは思わない。
「それは違うよ。アズサ」
「……先生?それはどういう………」
「こう考えてしまう、元々の「信じられなかった事」が原因だって」
「ナギサがもっと素直にヒフミを、ハナコを、アズサを、コハルを……ハスミ達の事を信じていたら」
「ミカがもっと、ナギサの事を信じていたら」
一つ生まれた傷を注視し過ぎて、また別の傷を生んでしまった。それは何者でも無いナギサが、ミカが『仲間』を信じれなかったから生まれたもの。
もっとお互いを信じられていたら、もっと深く通じ合えていたら――――そんな淡い想像をしてしまう程、単純で、それでも何よりも難しい事だった。
だが、それ程までに答えはすぐ傍にあったんだ。
「――――どこで間違えたんだろう」
「………そうですね。そうかもしれません」
「今のナギサさんの様に、誰も信じられなくなってしまった人を変えることは、早々に出来るものでは無いです。元々、誰かを信じるという事は難しい事ですし」
「……ですが、アズサちゃんはこうして私達に本心を語ってくれました。失望の目を向けられるかもしれない、自分では想像も出来ない様な仕打ちが待っているのかもしれない。そんな苦難に悩まされながらも、謝ってくれました」
そう言い終えると、ハナコはアズサを優しく抱きしめていた。言い詰められ、戒めを感じさせる様な『恨んで欲しい』と言い放ったアズサも、震えながらハナコ腕をギュッと握った。
さっきとは裏腹に、今までより何倍も優しい声でハナコは謝罪を伝える。
「……ごめんなさい。先程は何と言いますか、どうしても意地悪したくなってしまったんです。アズサちゃんの真っ直ぐな顔を見ていると、どうしても落ち着かなくなっちゃいまして」
「……………」
「補習授業部は、ちょっと変わった意味で、ある種の舞台の様な注目を浴びる存在として生まれました」
「本来なら、アズサちゃんの様な「スパイ」がこんな注目される所に居てはいけないはずです」
「………誰にも気づかれない、知られない様に消える……そういった手段や方法、タイミングは今まで幾らでもあったはず」
「……しかし、アズサちゃんはそうしなかった」
何も言わないアズサにとってハナコの言った言葉がそのままのと通りだったのか、それともまた別の言えない理由があったのかは分からない。だが、そのどれかでなかったとしてもアズサが止まりハナコの声を聞く十分な理由となっていた。
いつでも消える事が出来た、この中に居る誰か一人でも覚えていたとして、それを理由に消えないなんて選択肢、ある訳が無い。では何故、アズサは皆んなの前から姿を消さない?
その理由は、自分が知っていると、ハナコは言った。
「その理由を、私は知っています」
「―――補習授業部での時間が余りにも楽しかったから。そうではありませんか?」
「………!」
「皆んなで一緒に勉強したり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたり、お掃除をしたり……何をしても楽しい事ばっかりだったから」
「だから、この楽しい時間を壊したくなかった……」
「目標に向かって皆んなで努力する事………そしてヒフミちゃんとコハルちゃんと先生と、皆んなで知らなかった事を学んでいく事が楽しかった……違いますか、アズサちゃん?」
「………それは……私……は……いや、うん」
ハナコの腕を握ったまま声を詰まらせる。でもすぐに腕を離し、安心出来る笑顔を私達へと向けた。
「―――そうかもしれないな」
「何かを学ぶ、皆んなで何かをする事……そんな楽しい時間を、私は手放す勇気が無かった」
「………まだまだ、知りたい事は沢山ある。海とか、お祭りとか遊園地とか……行きたい所も、知りたい事もまだまだ沢山ある」
「アズサちゃん………」
ハナコの腕を離れ、そう言いながら私達の方へ近づいてくる。その目に、その表情には一切の曇りが無く、諦めたくない―――後悔も、苦しみも全部捨てて―――――だからこうして、ここに居るのだと思わせる様な表情だった。
その後ろで、ハナコが何かを思い出すように声を口を開く。
「……何だか、知った様な口を聞いてしまいましたが……分かるんです、その気持ち。何せ―――同じ様に思った人が、居たんです」
「………それは」
「何故か要領が良くて、何をしても周りからおだてられてしまう様なタイプで………」
「いつしか壊れて、何も考えたくなくなって………いつしか自分を殺したくなるほど………憎んでしまったんです」
「あの瞬間が訪れるまで、頭を空っぽにしてただ受け答えをするだけ、何をしても評価されるせいで自然と何もかも受けてしまうイエスマンになっていました。ですが、その人は……今は幸せだと言っていました」
「………知ってるんですか……?」
ヒフミがそう聞くと、ハナコは落ち着いた声で皆んなに平等な目を向けてこう答えた。
「ええ、私は良く知っています……何者にも囚われず、自分の意思で物事を決められるんだと………自分の意思で、人を助けられるのだと」
「その人は―――――今も、ずっと幸せですよ」
今年中に二章終わるかな………?