「アズサちゃんは、ここに待機していて下さい」
「了解した」
夜の帳が降りる今、ある場所の屋根裏部屋にハナコとアズサの二人が辿り着く。
ハナコがアズサに指示を出した待機場所は、屋根裏部屋のもっと薄い本来なら見向きもしない穴場であり、普通に生きていれば見つける事の出来ない程の隠れ場所だった。
アズサの身長で少しよゆうが生まれる程小さな空間に、アズサはガスマスクを付けて近くに座り込む。
「……時間まで、後どのくらいだ?」
「予定通りに来ているので、アリウス襲撃まで後一時間半程ですね。例の人物は恐らく三十分前にはこの場に来ると思います」
「………分かった」
そこからは、互いに沈黙の時間が出来てしまった。本来ならハナコもアズサも状況にすぐ応じれる様常に集中している事が条件だが、それでもアズサは何か話題を振ろうと思考を巡らせている。
ハナコは補習授業部、そして先生の位置が表示される地図を持ってきたタブレット端末で確認しながら、外の様子を伺っていてハナコ自身から話し掛ける事は無さそうだった。
少し寂しい顔をしてしまうが、幸か不幸かガスマスクを付けている為ハナコにバレる事は無い。
寂しい気持ちを抑え、作戦に集中しようとした瞬間ハナコが口を開いた。
「……アズサちゃんは、あの人についてどう感じましたか?」
「あの人?」
「先程私が話した人の事です。私は一人前にアズサちゃんと同じ人だなんて言ってしまいましたが、本人はどう感じているのかと思いまして」
「………そうだな、私は……同じだとは思わなかった」
「……そうですか」
「――――けど、私よりも凄い人だとも思った」
その言葉に何も返さずアズサの方に振り返ると、アズサはガスマスクを外してハナコをじっと見つめた。
アズサにとっての『あの人』は救われるべき人だと思っていたから同じだとは言わず、同時に救われると知った日まで生き続けていた事こそが、アズサ自身より凄いと思わせな原因だろう。
それは、アズサが全てが虚しくとも足掻き続けると決めた時がつい最近の事だったから。諦めない事を教えてくれた人は、補習授業部の皆んなであり、先生だったからだ。
「諦めないという事は、案外悪くないものなんだ」
「………そうですね。本当に……諦めないという事は、手放さないという事ですから」
ハナコは立ち上がり扉に手を掛ける。作戦開始まで一時間を前にした、この作戦が終われば皆んなで仲良く犯罪者、失敗に終わればそれに応ずる罰が待っているだろう。
ヒフミとコハル、先生も行動を開始し始める頃合い。ハナコは先生と共にある人物に会いにいくと言った。
「ヒフミちゃんとコハルちゃんにも頑張ってもらわないといけませんね……私も行動を始めなければいけません」
「……分かってる。私はここで待機してるから」
「なら、安心ですね」
扉を開けると、夜風にしては少し冷たい気がした。
穏やかで冷たい風が部屋全体に広まる。この風を感じる間、無限に近い時間と不穏な雰囲気が漂った。互いに見合い、話す言葉は要らない。
ハナコが扉の向こうに行き、手を離すと扉はゆっくりとしまっていった。そしてハナコは独り言の様に口を開く。私はそれを無意識に聞き入ってしまった。
「Vanitas vanitatum―――全ては虚しく、それでいて得るものは何も無い……お互い、大変な道を進んできましたね」
「………ハナコ」
「諦めない事を教えてくれたのは、誰でも無い貴方でした―――――ありがとうございます」
「………それは、お互い様だろう。ハナコ」
返答を待つ間も無く扉は空間を断絶した。二人の気配が一つになり、さっきより何倍も心做しか寂しく感じる。
数秒して扉の奥から足音が遠のいていくのが分かった。恐らくハナコの足音だろうが、何かが足りない音だった。
最後の最後まで、互いに言葉は足りず。愛を知る者は誰も居ない。
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同時刻、ヒフミとコハルは周辺を護衛する正義実現委員会を遠ざける為に動いていた。
ハナコに教えて貰ったルートを逃走用として用意し、戦闘は許可されているが出来るだけ事態は避けに逃げる事だけを目的とする。この二人はアリウスとナギサを孤立に追い込み理想の動きをする、その為に必要な今回の作戦の中でも重要な役割を担っていた。
すぐ近くの建物の影に隠れ、誰かが来るのを待つ。ゆっくりと時間が進み二人が小さく息を吸い吐く音すら聞こえる程の静けさがただ流れ続ける。身を任せる様、ゆっくりと時間が流れ―――――
護衛自体は既に始まっている。ナギサが来る前に行わなければ最悪本人にバレて来ない可能性も有り得、後もう少し動き始めなければいけない状況。そんな中待機している二人には薄々と思う事があった。
「………コハルちゃん」
「う、うん。なんか言いたい事分かる気がする」
「……誰も居ませんね」
日時を間違えたのかと思う程の人気の無さ、正義実現委員会の部員数を考えるとこの場所に人を配置出来ないとは考えずらく、逆にハナコの指示された待機場所が間違っているとも考えずらい。なぜなら指示されたここはナギサの来る場所で唯一通る両脇の空いた廊下、あのナギサが来る道中で一番狙われやすいであろうこの廊下を守らないはずがないと予想し二人を配置した。
それなのに未だに一人もこの場所に顔すら出さない。護衛ならどこかに隠れている可能性も有るが、ヒフミとコハルが隠れている場所以外隠れる場所は見当たらない為隠れている可能性も無いと言える。そうと考えればやはり配置場所が間違っていると考えるべきか―――――その疑念は、次の瞬間に恐怖へと裏返される。
二人が痺れを切らし移動を考えた瞬間、どこかから足音が二つ聞こえた。
「……!誰か来ます……!」
少し顔を傾け足音のする方を見つめた。足音は少しづつ近づき、遂にその姿が二人の目に映し出される。
「ここで待機です」
「ここっすか?見た感じ何も無いですけど……委員長は本当にここを指名したんすか?」
「はい、ホストがここを通ります。狙われない様最大限辺りを警戒する様に」
「……了解っす」
ヒフミの視界に映った姿は、一人は見覚えがあり、もう一人は見た事のない生徒だった。
会話を聞く限り今回相手にするのはあの二人、どちらも制服は正義実現委員会の物で作戦開始時間のギリギリ、もう始めなければいけない。
「二人しか居ませんが………コハルちゃん?」
「………あぁ、だ、だめ……勝てない」
「コハル……ちゃん?」
消えそうな声で呟くコハルを見ると、表情は青ざめ、怯えている様子だった。ヒフミが再び視線を戻すと、二人はまだ辺りを見渡しているだけ。覚えている限りだと片方は正義実現委員会の副委員長『羽川ハスミ』もう一人は見た事が無いが、黒髪のロングに大きな双翼を落ち着かせ目が見えないのか目を閉じた人だった。
その人はハスミに向かってこう話し掛ける。
「因みになんですけど、もし侵入者や怪しい人物を見つけたらどうするんすか?」
「学園生徒なら捕獲、逮捕。ゲヘナ生徒などの侵入者はその場で対処しろと命じられました」
「へ〜、そうなんすね。学園生徒なら捕獲……それは気絶とかでも良いんすか?」
「気絶などの制限はありませんが、可能であれば三手で終わらせてください。時間の掛かる戦闘は避けるように」
「了解っす〜」
二人は物陰に隠れ様子を伺っていた。二人の会話ももちろん聞こえており、露骨に委員会側のルール説明をしていたがヒフミは特に気にする事は無く体を隠して片目だけで監視している。
気配は出来る限り消しているはずだった。目を閉じた人は突然銃を取り出し、独り言の様に呟く。
「……あ〜あ、一応警告はしたんすけどね」
「まあ良いっす。やる事やんないと怒られるんで……早めに片付けますか」
次の瞬間、その人はゆっくりと目を開いた。白く光る目がヒフミの目先をしっかりと捉え、悪意の無い笑顔を浮かべる。
ヒフミが気付く頃には彼女と三秒以上目が合ってしまい、状況を理解すると同時に心臓を掴まれたと感じる程の恐怖が体を縮こまらせ、咄嗟に体を隠してしまった。
「な……なんでバレて………見えて……?」
「ひ、ヒフミ!目を逸らしちゃダメ!」
怯えていたコハルが突然そう叫んだ。ヒフミも目標とする人物から目を逸らしてしまい叫び声で居場所もバラしてしまった。
「しまっ―――――」
すぐに目線を向けると、そこには既に居なかった。
だが移動をした音も聞こえなければ、気配も感じれない。目を離したとは言えたった数秒、移動するにしても姿は捉えられるはず――――それなのにどこにも姿は見えない。
「ど、どこに………」
「後ろっすよ」
「っ!」
ヒフミが振り返ろうとした瞬間、後頭部に冷たい物が当たる感覚がした。視線を横に移すと、コハルは後ろの人を見て怯えている。よく見るとコハルの方にも拳銃が向けられていた。
「侵入者って事で良いっすか?」
「……ま、待ってください」
「待つも何も、今はどんな期間中か全トリニティ生徒に伝わってるはずっすけど」
「それなのに、まるでホストを狙っているかの様な動き、ここが唯一通る場所って知った上で隠れてましたよね?」
「それじゃあ、言い訳は聞けないっす」
「っ………」
冷たい物が後頭部に抑えられ、姿は見えないのに圧だけで潰されそうになる。ゆっくり引き金が引かれる感覚、余裕を持ってなのか引かれる音が微かに聞こえた。
一発でも弾丸を受ければ気絶、意識があっても戦える訳が無い。
―――――バレた。バレてしまった。
もしここで二人がダウンすればすぐにでも正義実現委員会に情報が行き、その場でナギサが保護されるはずだ。そうなれば作戦は失敗、最悪関係者の先生にすら悪影響を及ぼす。そうなれば―――――死んだ方がマシだと思えてしまう。
死に際で五感が鋭くなったのか、撃たれる直前「来る」も感じ取れた。
刹那、動きづらい体を無理矢理動かしコハルに勢い良く倒れ込む。
「あ、避けられた」
同時に発射された拳銃も倒れ込んだお陰でコハルに当たる事は無かった。すぐに体制を立て直そうと立ち上がった瞬間、ヒフミの身体が宙を舞った。
吹き飛ばされた先はさっきまで二人が来ていた護衛場所、そこを通り過ぎ本館の壁に背中を勢い良く打ち付ける。
「っげほ……げほっ!?」
肺が一時的に圧縮される感覚、余った空気が物凄い速さで吐き出された。全身を打ち付け痛む中何とか目を開けると、目の前には正義実現委員会副委員長、ハスミが立ちはだかった。
「そっちは任せましたよ〜ハスミ先輩」
「……はぁ、全く」
彼女が銃を取り出し、ヒフミも何とか立ち上がって銃を構えた。戦う意識は感じれないものの、気配の事もあり騙している可能性が高い。警戒は解かず、何とかしてこの場所から逃げなければいけない。
ハスミを目の前に、ヒフミは思考を巡らせた。
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「やるんすか?」
「っ……」
ヒフミが吹き飛ばされた直後、コハルの前にもう一人立ちはだかった。
体が震え、足が痺れて動かない。それは相手の強さを良く知っているから。戦っても勝てないと知っているから―――――
――――それだけで、本当に諦めてしまって良いのか?
――――後悔するんじゃないのか?
今諦めてしまえば、全員バレて捕まる。テストなんて受けられる訳無く即退学だってあるだろう。情報が行けば先生にだって影響が及ぶ。そんなもの、コハルの思考の中にある訳が無かった。
次の瞬間、コハルはヒフミとは反対方向に走り出し距離を取る。彼女はゆっくりとした足取りでコハルの元へと歩いてきた。
「その制服、ここのっすよね。一年っすか?」
「そ、そう………です」
「なら、私の事は知ってるんすか?」
「し、知って……る。二年生、仲正イチカ……先輩」
「そ、正解」
「なら、自分で言うのも何すけど……本当にやるんすか?」
「っ………はいっ!」
開眼されるその目だけでその圧と強さが分かってしまう。それでも―――あの結末を迎えるのなら、バッドエンドを迎えるのなら、こんな痛み幾らでも耐える事が出来る。後悔だけは、したくない。
「………それが、コハルの正義っすか」
「……え……?」
「綺麗な正義、本来の正義はそうであるべきっすよね」
「今の私は、何を守っているのか分かんなくて………ここに居る意味が、無いのと一緒に感じちゃうんっす」
「コハル――――コハルにとっての正義って、なんすか?」
目は閉じず、じっとコハルを見つめてそう問い掛けた。戦闘の意思は感じれず、ただ単純に聞いている事が分かる。
「私にとっての………正義」
思い返してみると、懐かしい記憶ばかりが蘇る。人を守りたかった。人の役に立ちたかった。自分の正義は、決して正しいと言えるかは分からなかったが、自分なりの正義は果たしてきたつもりだった。
コハルの疑問はただ一つ。彼女にとっての正義は、コハルの正義がどう見えているのか。
それだけだった。
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「さて、一応ですがお名前を聞いてもよろしいですか?」
「あ……阿慈谷ヒフミ……です」
自己紹介を終えると、彼女は銃を持ち突然感謝のの言葉をヒフミに掛けた。
「この前はありがとうございました」
「……この前?」
「ゲヘナ生徒がトリニティ自治区に侵入した時、率先して動いてくれたのは補習授業部でした。だからこそ今が理解出来ないのです」
「先程イチカが言った様に、今の情報は補習授業部にも行ったはずです。なのに何故ここに?」
「………それは」
何を言おうにも、今は正義実現委員会も警戒心を強くしている。守るべき対象のナギサを捉え実質的な犯罪行為をしているだなんて言える訳が無い。それにどれだけ上手く言い聞かせようとも納得させられるとは考えられない。
だから今言うべきでは無い。ヒフミはそう考えて口を開かなかった。
「……沈黙、ですか」
「ならば、侵入者として対象します」
「っ!」
刹那ヒフミのコメカミに一発の弾丸が放たれる。余りの速さに一瞬おでこを掠めるが、しゃがんで避ける事が出来た。少し血が垂れて視界が揺れるその隙を見逃さずハスミが目の前まで迫って来る。
飛んできた拳がヒフミの腹に向かって放たれるが、ギリギリで対応し両腕で腹をガードしその上から拳を受けた。
その瞬間に来た衝撃と激痛は忘れる事は無いだろう。もし守っていなければその一瞬で気絶していたであろう衝撃がヒフミを襲う。それと同時に来た痛みは弾丸を腹に撃たれるよりも圧倒的に痛い、守った上で気絶しそうな程の痛みだった。
そのまま再び背中を強打し、涙が止まらない。それに構わずハスミはゆっくりとヒフミの元へと近づいてくる。
無慈悲に、無表情で拳を振り上げるハスミにヒフミは終わったと確信した。
拳が当たる瞬間、ヒフミはハスミに向かって叫ぶ。
「先生が……!」
「先生……?」
ギリギリで止まった拳は空気だけが押し出され、辺りの草を吹き飛ばす程の風圧が解き放たれたが、間一髪にヒフミには当たらなかった。
そして、ハスミはヒフミにこう問い掛ける。
「先生がそちらに?」
「……はい、げほっ……先生の協力を得て……やってます」
「先生が関与して………何を目的としているのか、聞いても良いですか?」
もう逃げ場は無い、そう悟り正直に話す事にした。あくまで最重要な事以外は嘘偽りの無い内容を話し、銃を仕舞い真剣に説明を聞いたハスミは再び口を開いた。
「………なるほど、そういう事ですか」
「………あの、自分で言うのも何ですけど……信じるんですか?」
「はい、嘘をついているとは思えませんでした」
ヒフミからしてみれば余りにも早い納得が起きた為本当に信じているのかと聞くと、ハスミはハッキリ信じると言った。
先生の名前を出すのは気が引けたが、今ここで倒れてコハルに迷惑をかけるのなら仕方が無いと思ってしまう。
「事情は分かりました……自分の為、仲間の為にこうしてやっている事、評価に値します」
「……ですが、だからこそ分からない」
「阿慈谷ヒフミさん。なぜ貴方は人の為にそこまで自己犠牲をして戦っているのですか?」
「それは………」
そう聞かれて、すぐに答えられる性格では無い。頭で考えても良い答えが出せる訳でも無く、ハスミ自身も満足な答えを待っている訳では無いだろう。瀕死状態から無意識に深く息を吸い、言葉と共に吐き出されていく。
「……私なりの、正義だと思ったから……です」
「ヒフミさんなりの………正義……?」
正義だなんて格好良い名前を付けているが、本音はそんなものじゃない。私の為なんかじゃない、友達の為、先生の為――――バッドエンドは、嫌いだから。
「私は……ハッピーエンドが好きだから……綺麗事かもしれないけど、皆んな幸せになって欲しいから……私の為なんかじゃないんです」
「アズサちゃんも、コハルちゃんも……ハナコちゃんだって、皆んな幸せになって欲しいから……私はここに居ます」
「……そうですか」
すると突然、ハスミは銃を仕舞いヒフミから背を向けた。
困惑しているのも束の間、戦闘状態を解いたのかさっきとは全く逆の優しい声で小さく呟いた。
「……良い、正義ですね」
「その心を、忘れないで欲しいです」
「そ……それって……?」
「あちらもそろそろ終わった頃合いでしょうか……ヒフミさん。先程は攻撃してしまいすみませんでした」
そう言ってハスミは頭を下げる。ヒフミは慌てて立ち上がってハスミの元へと近づいた。
大丈夫と言おうとした瞬間、脇腹の骨がメキメキとズレる様な感覚に襲われ、ヒフミは腹を抑えて座り込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
「たま……大丈夫、です」
「本当に申し訳ありません。後で治療するので、もう少し頑張って下さい」
「……うぅ、は、はい……!」
腹を抑え何とか立ち上がり、ハスミと共にイチカ、こはるの元へと歩き出す。
ヒフミの歩幅に合わせてゆっくりと歩き、ハスミはヒフミの手を取って安定して歩かせてくれる。その二人の間に、さっきまでとは違う感情が芽生えていた。
柔らかくて優しい、ハスミにとっての正義を変えてくれたのはたった一人しか居ない。
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人を助ける正義を遂行したかった。
今だって自分なりの正義をしていると思っている。でもそれは『誰かに縛られている正義』なんじゃないか、そうふと考えてしまった。
人の役に立ちたい。その思い一心で正義実現委員会に入って人の為にを常に考えて動いてきた。だが今の正義実現委員会は何をしている?人の為じゃない、誰かの言いなりになっているだけじゃないのか?
―――――それが私の、私達の正義実現委員会で良いのか?
「私の正義は―――人を助ける事、だと思います」
「………え?」
そう声が聞こえた。
誰の声だと目を開けると、目の前には恐ろしくも戦おうと決めている可愛らしい顔が見えた。彼女の名前は―――コハル、下江コハルだ。一年生でずっと頑張ってて、でも少しおバカだから補習授業部?って言う所に入れられて、それでも諦めずに頑張っている―――――
コハルは、人を助ける事こそが自分の正義だと言った。
「………ははっ、私と同じじゃないっすか」
でも、同じはずなのに……同じなのに、どうしてこんなにも違いを感じる?どうしてコハルとの間に距離を感じてしまう?
―――――そうか。自由だからだ。
「凄く良い正義っすね。私とは全く違う」
「………?でも一緒って………」
「コハル」
「は、はいっ!」
「………その正義、忘れないで。コハルが、今の希望っすから」
今の私達は、何かに犯されどうしようも無い程に穢れてしまった。この条約が終わっても変わらないかもしれない。指示を待つ事しか出来ない私達を救うのは、コハル――――そして、補習授業部と先生だって。
その目を見て、ハッキリと分かった。
「……今の私じゃ、コハルに触れる事すら出来ないっすね」
「え……?えっ?」
「いやぁ、凄く強いっすね……本当に、強いっす」
「願うのなら、その正義……決して変えないで欲しいっす」
「それって……せ、先輩は……!」
イチカに話し掛ける直前、奥から二人の影が近づいてきた。
見てみるとヒフミとハスミであり、なぜかヒフミは脇腹を抑え、もう片方の手はハスミが大事そうに握っていた。
「あら、そっちはもう終わったんすか?」
「ええ、こちらも丁度終わりました」
「あ、コハルちゃん……」
「ひ、ヒフミ!?大丈夫!?」
「一応……」
コハルがヒフミの元へ行き手を取る。落ち着かせる様しゃがみ込んで優しく背中をさすっていた。ハスミとイチカも二人揃い、水を差さずにこの場を去ろうとしていたが、直前でヒフミが止める。
「あ、あの!」
「ん?何か用すか?」
「えっと、今回の事について………」
「……この場所周辺は探索しない様に皆さんには言っておきます。恐らく……何があってもこの場所に誰も来る事は無いはずです」
「っ……ありがとうございます」
「いえ……今の私達には、このくらいしか出来ませんので」
その時にヒフミが見た二人は、初めて見た時よりも、あの冷徹で冷たい圧が掛かっていた時よりも何倍、何十倍優しく、何か新たな希望を見出したかの様に見えた。
もう少しでナギサが来る。もしバレてしまっては本末転倒だ。だからすぐにでもこの場から逃げなければ行けないのに、なぜか今からでも去ろうとしている二人の姿に目が離せない。
それを知っているかの様に、背を向ける二人の内イチカがハスミにこう問い掛けた。
「いやぁ、この場所に来てみましたけど……結局''誰も''見ませんでしたね〜」
「え……?」
「そうっすよね?ハスミ先輩?」
「……そう、ですね」
「私達は、''誰も''見ていませんでした」
「………!」
「ひ、ヒフミ……!今の内に……!」
「……は、はい……ありがとうございます」
二人は何とか立ち上がり、二人の横を切ってその場所を離れた。『誰も見ていない』そんな嘘、二人の立場からしてしていい事では無いと分かっていたはずだ。それなのに、その立場を捨ててまで二人を逃がした―――――それは、何を意味する?
彼女達の『正義』には、どんな変化が訪れた?
そこに『侵入者』と言える様な人物は居らず、正義実現委員会の二人の姿しか映らなかった。夜風が二人の双翼を揺らし、互いに目は合わさずとも、どこかで、何かを感じれる気分だった。
「……さて、先輩にはバレると思うんですけど……どうやって言い訳しましょうか?」
「………本気で探る彼女に何を言っても無駄でしょう。もっと別の言い訳――――いえ、もっと綺麗な聞き方をしましょう」
「あ、多分同じ考えっす」
「………そうですか」
「それでは、私達も……戻りましょう」
「そうっすね。戻ったら先輩の所にでも行きましょ、二人なら……聞いてもらえるっす」
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同時刻、作戦開始前ハナコはアズサの元を離れ、全く別の場所へと辿り着いた。その扉の先には既に人の居る気配がする。そして扉の前には先生が立ってこちらを見つめていた。
「お待たせしました。先生」
「時間より少し早いくらいだから、大丈夫だよ」
「というか、この扉の先って……何があるの?」
「……少々ある人とお話をしたくて」
「この扉の先にいる人は、現トリニティを仕切るトップの一人……そんな人です」
「時間も押しているので、さっさと終わらせましょう」
空の笑顔を浮かべ、扉に手を掛ける。
引っ張ると微かに木の軋む音と共に扉がゆっくりと開いた。右側の窓が夜の光を通り彼女を照らす、後ろにはもう一人護衛だろうか。また別の目的かは知らないが立っている。
「お持ちしておりました」
「わざわざ待っていただきありがとうございます」
彼女はティーカップを片手にハナコと、先生を見つめた。
カップを机に置くと、両手を膝の上に置いて会話の体制を取る。ハナコも向かいのソファに座り同じ様に両手を膝の上に置く。
「自己紹介は……」
「必要無いですよ。トリニティ総合学園シスターフッド所属、リーダーの歌住サクラコさん?」
「あ、私はシャーレの先生をしている者だよ。これからよろしくね」
「……なるほど、あくまで必要最低限の会話しかしないと……私は構いませんが」
「では、早速本題を」
「はい、分かっています……これから起こる、小さな戦争……その手助けをして欲しいんです」
――――――――――第六十九話、正義、そして手助け
正義実現委員会の大体が現在待機している本部、ハスミイチカが戻ると、早速委員長室へと向かった。
扉を開けると、同時にある人物が目の前に現れ二人の目をじっと見つめた。
「……要件は」
「……はぁ、ツルギ」
「まずはその目を辞めてください、敵は居ませんので警戒態勢を解いてから話してください」
「……すまん」
彼女が目を戻すと、緊迫した空気感が一気に解ける。無意識に心臓がドラムを打っている程に動いて止まる気配は感じない。
謝った彼女だが、それでも最初の目を見る限り『扉を開けた時点でバレている様だった』
「それで、を言いに来た?イチカにハスミ、何も無い訳が無いだろ?」
「流石っすね〜先輩」
ツルギは一番奥の委員長用であろう椅子に座り、二人の事をじっと目つめた。一見一触即発の雰囲気が漂っているが、意外と日常茶飯事である。
「少し、私達二人から――――ツルギに申し出たい事があるんです」
「……はい、これからの私達について、話したい事があるっす」
「………まあ座れ、要件はどれだけでも聞く……正直、私も同じ事を想っていた所だ」
「……なら、丁度良いっすね」
「――――話しましょう。私達にも、必要な事ですから」
︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎
ちょいおまけ、もうそろミカ戦が待っています。もう少々お待ちを。