「手助け……ですか?」
彼女は不思議そうな顔を浮かべる。
これから起こる事について、もちろん私達以外は知らない。サクラコからしてみれば突然何の手助けをすればいいのか分からない状態であり、何と答えればいいのか分からないっていない状態でもあった。
ハナコはそれを理解しており、所々を隠しつつ説明を行った。
「手助けと言っても、これから少々私達補習授業部はやらなければいけない事がありまして、その上でもしかしたら……なんですが」
「もしかすると、ティーパーティー……いえ、もっと強大な敵と戦う事になるかもしれません」
「先生が居るので、負ける事は無いのですが……それでも不安は残ります」
「……要するに、負けそうになった時に私達シスターフッドの手が欲しいと?」
「ええ、理解が早くて助かります♪」
「………なるほど」
静かに頷く彼女の辺りには、静寂が訪れている。目を瞑って数秒、彼女は再び目を開きハナコと私を同時に見て口を開いた。
「………現状、却下します」
「……理由をお聞きしても?」
まあそうだろう。そう思っている様な声色と一緒にハナコは続いて理由を聞き出す、それをサクラコは特に考える事もせずに難なくと理由を答えた。
「ええ、もちろん」
「まず単純に、私達にとってのメリットが無い。もし私達シスターフッドが手を貸せば、確かに貴方達の勝利は確実でしょう」
「ですが、それは私達の立場を知った上での発言だと……理解していますね?」
「あらあら、そんなに怖い目で見ないでください」
「……もちろん、理解した上でのお願いですよ」
人によってはそれが遠回しに嫌悪と相手に対しての興味の無さ、別に対象がどうなろうと関係無いと聞き取れる様な発言であり、正しくサクラコはそう捉えていたのであろう。
その発言は敵対とも解釈出来た。ハナコがそう返した瞬間、サクラコの目の前にあったティーカップが冷たい空気と共に小さく振動し始める。
「それであれば、尚更その提案を受け入れる訳にはいきませんね」
「良いじゃないですか、正直言って貴方達上層部は私達にとって下らない話ばかりを長々と話していて、うんざりしているんです」
「でしたら、少しでも人の役に立てる方に付いた方が良いんじゃないですか?」
「逆に聞きますが、私の全てを上っ面だけ知っているのに……私が貴方達に尊敬と敬意を持って接すると思いますか?」
「はい……?」
「……私にとっては、今すぐに貴方をこの場から消す事も出来ます。自分の立場をお忘れなく」
「忘れる訳無いでしょう?それより、自分の立場?ふふっ、貴方の目の前には……三日足らず単独でトリニティを転覆出来ると言われた人物ですよ?」
「貴方『如き』に……時間を割く事すら愚弄な事です」
次の瞬間、サクラコの奥に居る人物が拳銃をハナコに向ける。私はすぐにハナコの前に出て右手をハナコの前に出す。
拳銃を向けている人物は月影で見えなかった。光に照らされているのはサクラコとハナコだけ、護衛として来ている人物が誰かなんて―――――
ハナコは焦る様子も無く冷静に拳銃を向ける人に声を掛けた。
「………貴方はそんなタイプの人じゃないでしょう、マリーちゃん?」
「………え?マリー?」
「―――うぅ、なんでバレたんですか……?」
すると、拳銃を両手に持ち奥からコツッコツッと足音が近づいてくる。
そしてハナコの言った通り、暗闇の奥からマリーが片耳をピョコピョコさせ姿を現した。
なぜか顔を赤くし、あわあわとしている様子を横目にサクラコはハナコに一つ問い掛けた。
「……なぜマリーだと分かったんですか?」
「単純な勘ですよ。あそこまで優秀なシスターは、傍に起きたいものですから」
「あぁ、それと先程の言葉は嘘ではありませんが、流石にもっとしっかりとした理由は用意してあります」
「……そうでしたか。では、聞かせて貰っても?」
「ええ、もちろん」
その後、ハナコは包み隠す事無く今行っている作戦内容を話し始めた。
まず初めに補習授業部の状況を説明した。ナギサの命令で今こうして話している事、ナギサに情報を渡さない事を条件にアズサを待機させている事、指示を受け周回している正義実現委員会を遠ざける為にヒフミとコハルを向かわせている事、今持っている情報とその説明を出来る限り全てし終えた。
「現在、シスターフッドもティーパーティーからの指示で何かしらの動きを封じられているでしょう。恐らく、救護騎士団も」
「今動かなければ、このままシスターフッドも動けず終い」
「今こそ、行動をする時では有りませんか?」
「……それでも」
「それでもではありません!」
ハナコの鋭い怒号が飛ぶ。その声は、しっかりとサクラコにも届いていた。
それもそのはず、私の眼にもそう映っている。先程とは全く違う、迷い、行動を起こそうにも起こせないその狭間で行き来しているその顔が、その表情が、その目が―――――助けを求めている様にも見えた事を。
「貴方達は決して誰かに縛られてはいけない存在のはずです。本来なら、ティーパーティー何かに何を言われても自身の意志を通し続けた貴方が、なぜ今になって縮こまっているんですか!」
勢いで立ち上がり説得するハナコに、サクラコは小さく消えそうな声で今の彼女の思う心境を語った。
「………条約が終わるまで、現状の最高権力者は根元に関わるティーパーティー、そしてナギサさんです」
「今の彼女が何か一言でも発すればそれを必ず実行してみせる。その権力の前に、今立ちはだかる事の出来る存在は……ティーパーティーには、存在しません」
「本当なら、私だって講義したかったんです……ですが、私も幹部に所属する身……彼女に今少しでも反抗の目が立てば、私所か、シスターフッドそのものに悪い変化が訪れるかもしれません」
弱々しい声が部屋を覆う。その発言は、彼女なりの弱音だったんだろう。
ハナコや私が想像していたよりも、何倍とサクラコは考え、交差し今の己の無力さを感じた。思い返してみればこの時が来るまでサクラコの発言、そして声色に少しの張りと緊張があった様な気もする。
そのサクラコの弱音を聞き、ハナコは真面目な声でサクラコに話し掛けた。強く、希望を残す―――――
「……ならば、その今の関係……ぶっ壊してしまいましょう」
「えぇ!?」
「ハナコ……それ、本気なの……?」
「ええ、もちろん本気も本気です」
「正直元々からでしたが、今のトリニティと言うか……ティーパーティーと言うか、もの凄い気持ち悪くて嫌悪感でいっぱいなんですよ」
そう堂々と言い放ったハナコは、サクラコに結論を見つけられる様誘導する形で一言掛ける。
「誰かに縛られなければ自分を保つ事が出来ない……そんなもの、自分じゃないも同然でしょう?」
「……ならば、壊して新しくした方が早いと……?」
「はい、その通りです」
「サクラコさん。現状確実に動く事が出来るのはシスターフッドのみです。救護騎士団は分かりませんが、私が連絡を送って返信所か既読も付かなかったので動けない事は確実でしょう」
「このままいけば、条約が終わった後も名残りで縛られ続けるかもしれない、いえ確実に残り続けます」
「今出来る事を、今やれる事を……トリニティの命運を握っているのは、私達だけじゃないんです!」
「ですから―――――」
その瞬間、ハナコのスマホから電話が掛かってきた。取り出すと匿名からの電話であり、二回ほど振動した後に勝手に切れた。
「……時間ですね」
それはナギサ到着の信号、作戦の要となる始まりの合図だった。その信号を聞きスマホをポケットに入れたハナコはサクラコから背を向け顔だけをサクラコに向けた。
そして、ポケットから一枚の紙を取り出し机に置く。
「………やれるだけの事はしました。これから私達は、トリニティに名を残す大犯罪を起こします」
「必ずとは言いません……必ず貴方の心に届くとも思っていません……ですが、もし私の言葉を想ってくれるのなら」
「その覚悟を決めたのなら、その紙を見てください」
その一言を最後にハナコは扉の向こうへと向かって歩いていった。
サクラコは一言も喋らず、マリーもどうすれば良いのか分からずに私に助けを求めてじっと見てくる。私にもどうしたら良いのか分からないから出来れば見ないで欲しい。
扉を開き、向こう側へと踏み入れる。次にハナコは私の方を向いて一言放った。
「先生、先程言った通りに……よろしくお願いしますね♡」
「う、うん……ハナコも、頑張って」
「はい……私は皆さんを信じていますから。私も信用を返せる様に、頑張ります」
そう言い、ハナコは私以外見る事無くその扉を静かに閉めた。
直後、何とも言えないハッキリ言って気まずい雰囲気がその場に残る。何か言葉を掛けようにも思い付く言葉は無いし、逆効果にだってなり得る。そろそろ私も動かなければいけない、だがせめて一言でも言葉を掛けてあげたい。そんな想いが交錯し―――――
「……そこまで気に負いすぎないでね。ハナコも誇張して言っているだろうし、そこまで気にしすぎも体に毒だから」
「でも………自分の後悔しない選択を、してね」
そんな事しか、私には言える言葉は無かった。
後悔しない選択を、だなんて―――――自分らしくない。
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真夜中、本来ならば当然人は居ないはずだ。それでも彼女の前には存在がバレていた。
そこに居ないはずの人物を詰めるべく校門に近づくガスマスクを付けた少女達を遠目に誰も居ない静かな部屋で小さく、それでも品の高い机と椅子を用いて優雅に紅茶を嗜む人が居た。
紅茶の入ったティーカップを起き、小さなため息をつくと向こうの扉が二回程ノックされる。
「……紅茶でしたらもう結構です」
それでも構わずノックはされ続け、彼女は不思議そうに扉の向こうを見つめた。
別に不気味に思う訳では無い。そう心で言い聞かせながらも心拍数は上がっていく。扉は鍵が掛かっており彼女の鍵解除ボタン以外では開かなくなっている、その事実がより彼女の不安感に拍車を掛けた。
「――――可哀想に、寝れないのですね」
「っ!?」
鍵は掛かっていたはずなのに突然として扉が開く。
四人も居ないこの部屋では足音は良く響き、扉からはみ出る闇がゆっくりと彼女の足元まで這いずり飲み込もうとしている。
扉の奥から歩み寄って来たのは、たった一人―――浦和ハナコ。
「それもそうですよね、正義実現委員会が殆ど……いえ、誰一人として傍に居ない状態……幾ら建物周りに散りばめようと、不安にもなりますよね、ナギサさん?」
「う、浦和ハナコさん……!?貴方がどうしてここに……!?」
「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、と言う意味ですか?それはもちろん、全てを把握しているからですよ。全ては分かりませんでしたが、合計八十七個のセーフハウス、そしてローテーションまで……ふふっ♡」
「……何で」
「変則的な運用も凡そ把握しています。例えば……今の様に心から不安な時は、この秘密の屋根裏部屋に隠れる事も♡」
「ここなら、外にいる相手の動きも人数も、全て分かりますし」
「っな……っ!?」
ナギサは咄嗟に机に置かれている拳銃を手に取るが、一瞬体に違和感を感じた。そう気にした瞬間、ナギサの真後ろからガスマスク姿の少女が暗闇の中から銃を頭に付ける。
「動くな」
「……と言っても、動けないけど」
「これは……動け……ない……!?」
ナギサが身動きを取ろうとしても何か透明な糸の様な物で全身が縛られており、座ったまま動く事が出来なかった。
「あぁ、もちろんここまでの間に警備の方が多少居ましたが、全員片付けさせていただきましたので。だからこそこうやって堂々と来れた訳ですが」
「この……声は、白州アズサさん……これは……まさか……!」
「『裏切り者』は一人では無い……二人……!?」
「……ふふっ、単純な思考回路ですねぇ♡」
恐怖心を感じれないのか、ハナコは守る姿も見せずナギサに堂々と近づき目の前まで来る。
真後ろにはアズサが銃を構え透明な糸で身動きも取れず、正に終わりと言った所だが――――ハナコはより一層ナギサを地獄の底に叩き落とす言葉を掛けた。
「……ナギサさんには残念ですが、私もアズサちゃんも唯の駒に過ぎませんよ。指揮官は別に居ます」
「な……それは、誰ですか……!」
「―――――その前に、ナギサさん……ここまでやる必要、ありましたか?」
「補習授業部の事です。ナギサさんの心労は良く分かります。ですがこうして『シャーレの先生』まで動員させ、何もここまでやる必要は無かったのではありませんか?」
「…………それは」
ハナコから聞かれた問は単純な事、ハナコ自身もナギサの事を知っておきながらもずっと考えていた。
何もそれまでやる必要は無く、やろうと思えばハナコやアズサなどの怪しいと思う人物だけを集めて人狼をさせれば良かったものを、ヒフミやコハル……先生までもを利用して人狼を行った。
全員に平等の条件を課せ、違和感を感じさせないにしてもあまりに酷な事をさせ過ぎたとハナコやナギサ自身も薄々と感じていたはずだ。
ヒフミだって、ティーパーティーを除けば一番と言って良いほどに仲が良かったはずだったのに、リーダーとしての責任を持たせた。
「どうしてこんな事をしてしまったのですか?ヒフミちゃんが……どれだけ気づ付いて、考えて苦しんできたのか、考えなかったのですか?」
「……そう、ですね」
「本当に………ヒフミさんには悪い事をしてしまったと思っています」
「ですが、後悔はしていません。全ては大義の為……トリニティの為、確かに彼女との間柄だけは、守れればと思っていました……ですが、私は………」
「………やっぱり、後悔しているじゃないですか」
「それで良いんです。どれだけ完璧な人間でも、後悔を超えては成長出来ませんから」
「――――では、改めて私達の指揮官からナギサさんへのメッセージ、お伝えしますね」
ハナコはナギサの耳元まで近づき、囁き声で一言メッセージを伝えた。
「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』―――――との事です」
「は………?ま、まさか………という事は……!?」
一瞬思考が停止した。その一言をあの中から選ぶのなら、一人しか居なかったからだ。
驚きと怒りのまま無理矢理に糸を引きちぎって戦おうとするが、身体を動かした瞬間驚く程簡単に糸は途切れナギサの身体は一瞬にして自由になった。
「な……!?」
「残念だったな、最初から動けたものを」
次の瞬間真後ろから不意打ちにアズサの横蹴りが飛ぶ。
勢いは抑えているであろうが、その蹴りはそのままナギサの頭に直撃し、飛ばされたナギサは壁にめり込む程の勢いで打ち付けられた。
煙が立ち、ゆっくりと消えていく。消えた末見えたナギサは無事に目を閉じて気絶していた。
「……アズサちゃん、やり過ぎですよ」
「勢いは付けたが強さは三割だ。ナギサ程度なら衝撃で気絶しただけでまともなダメージは入ってない。安心して」
「……なら、良いんですが」
ハナコは少し不安な表情を浮かべるが、アズサの言葉を信じて気絶しているナギサを回収させる。そしてアズサはすぐにナギサを担ぎ互いに目を合わせた。
「……では、移動しましょう」
「了解」
今の所作戦は順調―――――だが、二人の心には少し引っかかる部分があった。それはもうすぐ訪れる様な―――それは一体なんなのか、それを知る瞬間は、間もなく迫ってきている。