虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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総合pt480いきました。ありがとうございます!


白州アズサの実力

 

 本館と別館を繋ぐ中庭を三人のアリウス生が通過する。

 待機する様に棒立ちで辺りを確認すると、一人の生徒が通信で誰かに連絡を取っていた。そこを遠目にハナコはベンチから立ち上がり、小声で目を瞑って寝込んでいるナギサへ話し掛ける。

 

「まだ厳しい体勢ですが、移動が楽なのでお願いしますね」

 

「…………」

 

 ハナコがナギサを担ぎ、足音を消したまま目的の場所までゆっくりと歩いていく。

 ゆっくりと歩くが環境の音までは消えない。落ちていた小枝を踏み小さくだが小枝の折れる音がアリウス生の一人に聞こえてしまった。

 一人がその音を聞きすぐにハナコを見つけると、慌てて残りの二人に報告をする。バレても焦ってはいけない、冷静に、寧ろ相手の感情を揺さぶり焦りを加速させる様に。

 

 ハナコは見つかった三人のアリウス生を見つめ、舌を出しウインクを見せつけた。直後すぐに目の前の別館に逃げ込む様に走り去っていく。

 一人が通信を起動し無線のザラついた音声で向こう側へと報告行う。切羽詰まった焦りの声が隠せず両手は微かに震えていた。

 

「報告っ!ターゲットを連れたまま目の前の………体育館?に入るのを確認しました!」

 

『何っ!?クソッ……即座にその場から離れろ!今すぐにだ!』

 

「な、何故ですか……?」

 

『そこには……奴が来る!スパイだ……白州アズサだっ!』

 

「……はっ!?」

 

 通信を繋ぐ空間がズレていく様にザラザラとし、音声が何度も繰り返される。直後、通信をする生徒の真後ろから気配だけで殺せてしまう程の圧と殺気を感じ取る。

 振り返ると、目の前には確かにアズサが居た。だがその時点で既にアズサの脚はアリウス生の頭ギリギリにあり、無意識で行った反射神経が身体を仰け反らせ、手から離れた無線だけが中を浮き、蹴りを直で受け取った。

 

 当たった時点で無線はぺしゃんこに潰れ、飛んだ無線は生えている木にめり込んだ。

 

「っ〜!?」

 

 仰け反った状態から立ち上がる事は困難であり、そのまま後ろに倒れてしまうがバク転をする様に一回転し再び地上に脚を着ける。

 アズサの猛攻は続き、無表情でありながら明らかな殺意を込め蹴りと正拳を繰り返す。不定期に訪れるアサルトの銃弾がガスマスクを掠め、防御しか出来ない一人のアリウス生は少しづつまた体勢を崩していった。

 一瞬の隙を突きアズサの手の平がアリウス生の顔を掴む。アズサの踏み込みがその勢いで地面に後頭部から叩き付けられる。衝撃でガスマスクが割れ、受けたアリウス生は血混じりの唾液を吐き出す。

 

「が……ご……ほ」

 

「―――一人目」

 

 たった十数秒後の出来事が一人の生徒を気絶に追い込み、対応出来なかった二人のアリウス生は一瞬その場を離れ遠くから辺りを観察した。

 すぐに追い付いた指揮官はライフルを真正面に乱射し突っ込むが、アズサは暗闇に消えていく。

 

「っどこに行った……!」

 

「し、指揮官!」

 

「お前は………一人は既にやられたか。状況は!」

 

「対戦していたのはスパイ、白州アズサ。辺りを確認しましたが体育館中に通じる入口は二箇所のみ!その内一つは既にバリケードが張られ塞がれています!」

 

「っち……開いている入口は一つ………いや、そっちは罠だ。塞がれたバリケードを破壊しそちらから侵入せよ!」

 

「騒ぎになりそうですが……」

 

「いや、構わん。進め!」

 

 指示を聞いたアリウス生は即座にバリケードの張られた入口に走っていく。残った一人の生徒を止め指揮官はまた違う指示を出す。

 

「「スクワッド」から連絡が来た。すぐに増援部隊がトリニティ自治区へと………」

 

 そう指揮官が発した瞬間、指揮官の視覚ギリギリを攻めた場所から突然蹴りと飛んできた。それを知っていたかの様に指揮官も蹴りで対応する。

 草が飛び木が揺れる程の風圧が一瞬にして生まれ、刀を叩き合わせているかの様な音と共に指揮官とアズサが蹴りをぶつけ合っていた。

 

「っ……やはり、この名前を出すと出てきたな……白州アズサ!」

 

「スクワッドが……来るのか」

 

 指揮官は何かを知っている雰囲気でアズサに語り掛けるが、アズサはそれを無視して指揮官に質問をし続けた。

 スクワッド。それはアズサが現在所属している、エデン条約破綻を目論む組織。だがアズサはそのスクワッドを裏切って戦おうとしている。それをどこかから知った指揮官はそれを利用し中に居る目標を手に入れる為、アズサと交戦し時間稼ぎを考えていた。

 だがアズサがそうそう戦いを長引かせるはずも無く、答えないと分かったアズサは即座に暗闇に消え、別館の方へ音が消えていった。

 

「っち……私達も行くぞ!」

 

「り、了解!」

 

 

︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 中に入ると既に入った数人のアリウス生はその場に倒れ、その先からゆっくりとアズサが歩いて来る。アズサが居なくなってから指揮官達が入るまでそこまでの時間は無く、二十秒も無かったはずだ。部屋の中は少しの煙が漂い、視界不良の中で戦うアズサはアリウス内でもトップクラスの実力を持つ。そう考えれば入ったアリウス生が煙の中十秒耐えたら良い方だと感じてしまった。

 

「白州……アズサァ!」

 

「叫ぶだけで、倒せると思っていたのか?」

 

「貴様……今この建物内には何十人のアリウスが居る。逃げ切れると………」

 

「その事なら安心しろ。すぐにでも減る」

 

 そう言うアズサは突然ポケットからボタンを取り出し躊躇無くボタンを押した。瞬間遠くではあるが至る所から爆発が起き、叫び声が至る所から聞こえてくる。

 

「ほら、減った」

 

「まさか……この事を予想して………!?っ!進め!奴を仕留めろ!」

 

「追い付いてみろ」

 

 後ろの廊下へ走り消えていくと、その後ろを残った数人のアリウス生が追いかけていく。そのまた後ろから指揮官は無線を繋げ、爆発の被害を受け無かった生徒達全員に大声で指示を出した。

 

「全員集まれ!白州アズサを……その連中達を止めろっ!!」

 

 

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 長い廊下を超えると、その先には逃げ場の無い密室な空間へと繋がった。そこに辿り着いたアズサは、奥で待機していたハナコと合流する。

 ナギサは事前に隠しており、アズサの指名で置いた場所だからバレる心配も無しに堂々と待つ事が出来た。そして三十秒もしない内に集まったアリウス生徒が密室へと入り込む。

 

「………手こずらせてくれたな、白州アズサ」

 

「これでいいか?ハナコ」

 

「………ええ、予想以上の出来です。流石アズサちゃん」

 

「貴様は……誰だ?」

 

「あら、私を知らないのですね……まあ、関係の無い事ですし。覚えなくて良いです」

 

 素っ気なく返したハナコの言葉に多少の違和感を感じた指揮官は右手で小さく合図を出し、アリウス生の警戒心を高める。そして指揮官はそれを隠すべく口を開いた。

 

「ここで行き止まり……か、それでターゲットはどこだ?」

 

「隠した」

 

「……そうか、早めに吐いた方が良いぞ。増援部隊もこちらに向かって来ている。既にこの建物を包囲しているだろうな」

 

「増員?」

 

「ああ、そうだ」

 

 言葉を聞いたアズサはハナコの耳元で何かを囁く。その間にも目先はアリウスを刺し、行動を制限させる。言い終えたアズサは三歩前に出ると、指揮官にある事を聞く為質問を投げ掛けた。

 

「………「スクワッド」は?」

 

「スクワッド?ああ、来るまでも無い。それに、他にやる事があるみたいでどの道こちらには来ないさ」

 

「…………なら、問題ない。ハナコっ!」

 

「はい、任せましたよ!アズサちゃん」

 

 知らぬ間にターゲットであるナギサを担いでいたハナコは唯一体育館に続く通路に走って行った。

 それを見た指揮官は即座に前に出るが、一歩前に出た瞬間指揮官の目の前には一個の手榴弾が投げられる。だが多少の距離があった。その隙を狙い、指揮官はライフルでその手榴弾を撃ち抜いた。

 

「―――残念だったな」

 

「なっ……まさかっ!?」

 

 次の瞬間、太陽光の様な光が辺りを多い尽くした。所謂閃光弾であり、それはアリウスで作られた敵軍殲滅様閃光弾。光の強さは本来の閃光弾の何倍もあり、ガスマスク越しでも目が潰れる程の強さだった。

 アズサは直前で光から背を向け無効化。直で受けたアリウス生達も本能で目を瞑ったが、それでも目を開ける事が困難となる。刹那、指揮官の身体が宙を舞い、壁を破壊し吹き飛ばされる。飛ばされた声で判断したアリウス生は声の方向で指揮官の名を叫ぶが、直後アズサの蹴りが数人のアリウス生の頭に直撃し、残ったアリウス生徒の半分を一人で殲滅させた。

 

 咄嗟に出した逃げる様閃光弾と煙玉が同時に起き、半分のアリウス生は何とか生き延びる。目眩が解けた指揮官がすぐに戻るが、そこにアズサの姿は無く、唯一と言って良いアズサの逃げる場所は―――体育館。

 

「やって……くれたな。この期に及んで……!この先は体育館しかない!これ以上トラップは無い!逃がすな!追えっ!!」

 

 怒りが頂点へと達した指揮官は怒鳴りと言える声で残ったアリウス生徒達に命令を出す。そして最終決戦の場所―――体育館へと辿り着く。

 

 

︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 体育館の入口扉を破壊し、中に入る。

 中にはアズサ、そして補習授業部の三人と先生がアズサの後ろで待機していた。

 全て計画通り。そう解釈した指揮官は驚く事もせず状況を理解し、それでも四人しか居ないこの人数有利の状況で負けるとは微塵も思わず、嘲笑うかの様に口を開く。

 

「………なるほど、逃げたのではなく待ち伏せだったと。だが、それがどうした?たった四人……そこに居る大人は、シャーレか」

「だが、所詮四人!この私達に何分耐えられると思っている!こんな退路も無い場所で!」

 

「あうぅ……」

 

「………」

 

「確かに、そうだな。お前達に逃げ場は無い」

 

「………貴方達は、シャーレを、先生を舐め過ぎています」

 

 アズサと横並びになったハナコは、そう指揮官に言い放った。笑う様子も無ければ、怒っている雰囲気も感じない。言わば無関心の様だった。そんな声で反論をする間もなくハナコは言葉を綴る。

 

「補習授業部の担当であり、『シャーレ』の顧問……先生。その力は、トリニティやゲヘナとは比になりません」

 

「殲滅戦を始める。先生、指示を」

 

「それじゃあ、行こうか。補習授業部!」

 

 シッテムの箱を取り出し、電源を付ける。青い背景に白いマークが写し出される。

 白いリボンがぴょこぴょこと動き、来たと言わんばかりに目を光らせた少女が私の目の前に現れた。

 

『やっと出番ですね!先生!』

 

「うん、まあ敵はあんまり居ないし……正直使う必要無いけどね」

 

『そんな事言わないでください!アロナちゃん泣いちゃいます!』

 

 怒っているのか泣いているのか分からない顔でそう怒鳴ってくるが、実際に相手の数は十人にも満たない。だったらもっと楽に倒せる方法を考えよう。

 そう皆んなの表情を見ていくと、アズサの顔付きが普段とはまた違った表情に見えた。それはまるで一人で戦おうとしているかの様に。別にアズサ一人に任せても勝率は変わらない、だったら今のアズサを確認する為にもやってみる価値はある。

 

「アズサ、サポートするから一人で挑んでみる?」

 

「良いのか?それなら、任せて欲しい」

 

「なら……一旦皆んな下がろう。サポートの瞬間は私が指示するよ」

 

 そう言い皆んなを下げると同時に突然アズサは前に脚を出す。相手は数人にしろ人数は不利、それでもアズサよ攻撃手段は変わらず、一番前に居たアリウス生の銃弾を前に走りながら避けると持つ手を蹴り上げ銃を落とさせる。

 他数人がアズサに銃を向けるがアズサは落として素手のアリウス生を両手で捕まえ盾にする。それでもアリウス生徒は構わず銃を乱射し煙を上げさせた。

 

 煙が晴れるとそこには倒れている生徒しか居らず、慌てた様子で周りを見渡している一人を落とし、気付いて振り向いた頃には既にアズサは目の前に居た。そのまま頭に銃弾を食らい、そのままもう一人も倒れてしまう。

 この一瞬で三人を倒し、残り五人程度。その余りな無様な姿に指揮官は呆れ、四人のアリウス生を後ろに下げた。前に出た指揮官は瞬間アズサの方へ走り出し、走りながら銃を的確にアズサの元へ発射する。アズサは右に走り銃弾を避けるが避けた先に指揮官は踵落としの先制攻撃、アズサは受ける直前身体を勢い良く後ろに下げ、攻撃をギリギリで避けた。即座に拳を強く握り指揮官へ飛ばす。

 

 だが、余りの勢いでアズサは後ろに倒れ拳が届かない。背中を打ち付け一瞬目を閉じてしまう。すぐに目を開くと既に指揮官はアズサの顔向けて銃を構え容赦無く引き金を引く。

 

「今、コハル!敵に向かって撃って!」

 

「っ食らえ!」

 

「っ!そこかっ!」

 

 突如指揮官に向かって撃たれた銃弾はコハルのものであり、声で気付いた指揮官は後ろに飛び銃弾を避ける。だがその避けた先、着地した瞬間背中に激痛が走る。

 

「ぐっ!?」

 

「あ、当たりましたっ!」

 

「ナイスですよヒフミちゃん!」

 

 指揮官の背後には配置されたヒフミが銃を向け見事に命中させていた。圧倒的に読みの能力が高い。そうヒフミを睨み付ける様に目力を送る。喜んでいるのも束の間、その殺気を感じたヒフミは焦りながら物陰へと隠れた。すぐに体勢を立て直そうとアズサの方を振り返るが、そこには誰も居ない。

 すぐに攻めてくると辺りを警戒するが、アズサの姿どころか気配すらも感じない。次の瞬間、下から蹴りが飛んでくる。辺りを確認したまでは良かったが、下までは確認出来ていない。それを読み予め気配を消し下でタイミングを見計らっていた。

 

 一瞬にして飛ぶ意識、だが指揮官も伊達にアリウスで生きてきていない。即座に意識を取り戻しアズサの姿を確認すると、叫び声を上げ銃を向けた。

 

「くそがぁっ!」

 

「遅い―――――」

 

 引き金を引くよりも早く、アズサは懐に入り込み、指揮官の耳元で何かを囁いた。

 その瞬間辺りを消し飛ばす程の風圧がアズサと指揮官を中心に巻き起こる。体育館にある全ての道具が宙を舞い、中心では小竜巻が発生、それを切り裂く様に吹き飛んだ何かが壁に打ち付けられ、体育館の壁は壁の存在を保ちながらも限り無い破壊がされている。

 竜巻が収まると、そこには無傷で立っているアズサ。壊れた壁には髪で見えはしなかったが、ガスマスクが割れ、全身を痛く瓦礫等で汚しながら倒れている指揮官の姿があった。

 

「か……勝った……?」

 

「い、一体何が……」

 

 唖然とする中、不思議そうに首を傾げたアズサは集まる私達を見て一言。

 

 ―――――終わったぞ。

 

 そこ一言、少なからず私は嫌な恐怖を植え付けられる一言だ。一瞬の出来事、時間にすれば三分にも満たないこの闘い。アズサは一切の傷を負わず、小さくではあるが体育館内を吹き飛ばす程の竜巻を安易に出せた。もし今補習授業部でアズサに立ち向かっても、私が指揮を出そうとも勝てない。そう感じさせる程の実力、白州アズサ――――アリウス分校。

 

「………アズサ」

 

「何だ?先生」

 

 君は―――いや、アリウスは――――どんな苦しみを与えられてきたの?

 

「……い、いや……何でも無い………」

 

「………?そうか」

 

 そんな事、私の口から云える訳無かった。




戦闘描写ムズ過ぎるんだわ。あと先生もそろそろ活動しましょ?いやもうすぐ先生メインの話出てくるので活動はするんですけどあまりに先生が存在していなさすぎる
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