息の音すら聞こえるこの体育館で、静寂が流れる。
アズサの行った戦闘の異次元さ、その高すぎる戦闘力に驚くヒフミとコハル、直後放った一言である種の恐怖を感じたのは先生だけでは無く、もう一人の生徒も同様だった。それでも今は作戦の最中、油断は出来ない。もう少しで終わる作戦だと言い聞かせる様な声でハナコは口を開く。
「……アズサちゃん、助けてくれてありがとうございます。難所を一つ乗り越えました。次のフェーズに移りましょう」
「そうだな、ヒフミ、コハル、先生。まだ動けるな?」
「は、はい……!」
「そ、そりゃあ動けるけど……」
「………うん、大丈夫」
続けてハナコが話す。
アリウスの増援要請が成功し、この後すぐに到着する。最初は逃げるや制圧かと思われたが、ハナコが云うに私達は時間を稼ぐだけで良い。それは先程起こった爆発音や銃声で正義実現委員会が動き、来た部隊と増援をぶつける為。その為の時間稼ぎだった。
その言葉にコハルも反応し、コハルも作戦が始まった直後副委員長であるハスミに連絡をしたと云う。正義実現委員会は現在ティーパーティーの命令下にあり簡単に動く事は出来ない、それでも唯一動ける手段、それは『ティーパーティーの身辺に問題が生じた時』それを踏んだ上での連絡は有効であり、ハスミも簡単には無視出来ない。
その行動と発言を聞き、感謝を返すハナコと私は何があったのかは知らない。だがこの短い間に明らかな成長をしていると感じた。
後は正義実現委員会の到着が早く来ると信じるしか無い――――その時、突然私達の見る体育館の壁が爆発し、外から無数のアリウス生徒が中へと入って来た。
「増援部隊が……こんなに早く……!?」
「待て……数が多い、大隊単位だ。多分、アリウスの半数近く……それ以上だ」
「あうぅ……こ、こんなに沢山……平然とトリニティの敷地内に……!?そんなに入りやすいですかね……!?」
「この早さだと、正義実現委員会はまだ………」
「―――それは仕方ないよ」
瞬間、体育館の三分の一を埋めてしまう程の数であるアリウス生徒全員が綺麗に一列へと並ぶ。武器を仕舞い腕を後ろに組み並ぶ姿は、まるで誰かを待っているかの様―――直後、体育館に一人の声が響き渡る。
コツッコツッとヒールの音が固い体育館の床を鳴らし、夜風にピンク色の長い髪をなびかせると共にその姿を現した。そんな彼女は並ぶアリウスに目もくれず嬉しそうに口角を上げ、左手の人差し指を立て口元に寄せる。その姿は脅威でありながらも美しく見えた。
「この人達は、これからトリニティの公的な武力集団になるんだから」
「………ミカ」
「やっ、久しぶり先生、また会えて嬉しい。それと、正義実現委員会は動かないよ。私が待機命令を出したから『何も無い、また待機する様に』ってね。ナギちゃんのお陰で正義実現委員会以外も対処は簡単だった。全部事前に片付けられちゃった」
「どうしてそんな事………!」
「ん〜?ナギちゃんを襲うって言うのに、邪魔なんてされちゃ困っちゃうでしょ?」
「なっ………」
平然とそんな事を云うミカにハナコが口を開きミカとの対談を試みる。
「「ティーパーティー」の一人……パテル分派のトップ、聖園ミカさん」
「そんな事も知ってるんだ。まあ正しく黒幕登場☆って所かな?」
「黒幕……?何を言って……」
「私が本当の『トリニティの裏切り者』」
その言葉には誰も言葉を返す事は出来なかった。
静寂―――唖然とする者も居れば訳も分からず困惑する者も居た。ただそこには不可解な事、本当の裏切り者についてだ。私達はアズサが本当の裏切り者だと知っている。このアリウスだって指揮官の言葉だって全てアズサに向けられたものだ。じゃあミカは何を言っている?
その言葉が通りであれば、本当に裏切り者は二人―――そんな訳が無い。あのミカが裏切り者だなんて違う。そう今の私は頭で言い付けるしか無かった。
静寂を切り裂く様ミカは私達に一つの質問を投げ掛けた。
「そう言う事だから、ナギちゃんをどこに隠したのかを教えてくれる?私も時間が無くってさ。ナギちゃんにこんなに姿見せられないし、バレたくも無いんだ。全員消し飛ばしてでも良いけど、それじゃ面倒でしょ?」
「……ミカ、理由だけでも教えて欲しい」
「………ん〜?理由?先生に言われたなら仕方ないなぁ」
銃を片手にそう言い放ったミカに私が質問を送ると、ミカは薄く笑い無理に口角を上げ、仕方ないとその理由を教えてくれた。それは―――
――――ゲヘナが嫌いだから。
本当に、本当に。心に、神に誓える程心の底からゲヘナが嫌い。大っ嫌い。そう云うミカの言葉に私は思考を巡らせる。ミカの理由であれば、仮にもゲヘナとトリニティの争いを辞め仲良くすると決めるこのエデン条約は本気じゃ無いにしろ嫌悪しか抱かないはずだ。それを取り消す為に今動いている、それなら理にかなっていると思う。じゃあ何故ナギサを………?
それに関して、ハナコも同様な考えだったらしくミカへ質問した。
「エデン条約を取り消す為……でも、何故ナギサさんを……?」
「………あぁ、えっと……誰だっけ?ごめんね、私あんまり人の顔を覚えるの得意じゃなくってさ……ん?あ、思い出した。浦和ハナコじゃん。礼拝堂の授業に水着で参加して追い出されたあの。あははっ、懐かしい」
「…………質問に答えてください」
「あれっ?怒らせちゃったかな。まあ一応答えるけど。ナギちゃんが考えた条約でしょ?そんな変な事を考えてるから考え直して貰いたいなって。だってゲヘナなんて、角の生えたイカれた奴らでしょ?そんな奴らの平和条約とか、考えちゃうだけで死んじゃいそう」
そんな平和な事なんて起こらない。どうせ反感を買う。いつか後ろから刺されてしまう。そんな事が起こる前に止めなきゃいけない。こんなふざけた、おかしい条約を。
この世界はもっとドロドロしていて狂った世界なんだ。そんな世界で生きている一人の住人なんだとミカは言い放つ。
あまりの長い会話と質問に嫌気が差したのか、次の瞬間空気が変わる。鋭い視線が心臓を突き刺す様な感覚、そんな中ミカは続けて口を開いた。
「そう言う訳だから、ナギちゃんを早く渡して?大丈夫、素直に渡せば痛い事はしないよ。まあ、残りの学園生活は全部檻の中かもしれないけど」
「……本当の平和条約なら……そんな事で壊す理由には……」
「………ごめんね、先生。嫌いになっちゃった……?でも、私だってアリウスも仲良くしたかった」
そう言い、軽く指パッチンを響かせると数人のアリウス生徒が前へと出る。
「この子達、全員が同じゲヘナを憎む仲間。私よりもずっと憎んでる子達。だから手を差し出したの。志を共にして、ゲヘナと平和条約を結ぼうとしている悪党達をやっつけない?って。ナギちゃんには正義実現委員会、私にはアリウス。一時的に手を取り合って、アリウスを密かに支援してたの」
「アリウスを……トリニティのクーデターの道具としたのか」
「………?うん、確かに。ある意味クーデターとも言えるかな。最終的にナギちゃんを失脚させて、私がティーパーティーのホストになるんだから」
「あ、でも白州アズサ。貴方には感謝してるんだよ?だって今から貴方には、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわないといけないから」
「は……?」
満面の笑みでそう言うミカに無意識に口は言ってしまう。それでも驚いたとミカは笑った。それはミカの報告からは正体不明の誰かから襲撃されたと聞き計画が崩れると思ったから、そしてそれが補習授業部であり予想外だったから。
その全てはミカ自身がティーパーティーのホストになる為、それでも権力の為じゃない。全てはゲヘナをキヴォトスから消し去る為、本当にそれだけだと。
「全部やり直して、新たな武力集団を得る。それで再構築されたトリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける!そう、これが私の計画!」
「……ミカ……!!」
「っ……先生、そんなに怖い眼も出来るんだ。もっとしっかりと話したいんだけど……まずは色々と邪魔なのを片付けてからにしよっか」
銃を構えたミカにアズサが前へと出る。アズサも同時に銃を構え戦闘態勢を取り一触即発は空気へと変貌した。
「白州アズサ……貴方で持つかな?」
「私は皆んなを守る使命がある………皆んなに攻撃したら、どうなるか分かってるな?」
「そんなに怖い顔しないでよ。安心して、全員同じ末路を辿るから」
「自身を本物の裏切り者と名乗っておきながら、その目は助けを求めている様に見える……そんな奴に負ける訳が無い」
「………あっそ」
静寂には一瞬の怒りが含まれ、二人が向き合う。だが今のミカが簡単に出るとは言っていない。ミカは即座に後ろへと下がり、同時にアリウス生徒が前へと出た。
「邪魔だ」
「皆んな、私を守って。そして白州アズサを止めて」
「先生、指揮を!」
「分かった!皆んな、手を貸して」
無数のアリウス生徒、そしてミカもの大決戦。小さな戦争が今、開幕する。
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「ヒフミ、前方に爆弾。コハル、出来る範囲で良い、前に出て敵を一箇所に集めて」
「わ、分かりました!」
「了解っ!」
先生の指揮を前にヒフミとコハルが動きを見せる。
ハナコは先生より一歩下がり後方支援を担当、アズサも先生の指揮無しでの単独行動を許可され動きを見せる直前、そのギリギリまでミカは動こうとせず棒立ちで私達を見つめて笑っていた。
次の瞬間、ミカがほぼ見えないスピードで姿を消す。アズサも常に警戒していた為動いた瞬間は捉えたが、その姿は残像であり気付けばアズサより後ろ、コハルの前へと突然として現れた。
「ごめんね―――」
「―――っ!」
「っコハル!」
コハルが目の前のミカを認識するまでにミカの行動は二歩先へと進んでいる。
既に手刀は首元へと進んでいた。敵への集中で意識を削がれたアズサ、ハナコ、先生はミカの姿を見ると即座に行動へと移す。手刀が首元に当たるほんの数cm、ミカの手は何かによって進めず、その直後首と同じ大きさの青いシールドがミカの方向首元に出現し攻撃から身を守る。
「これは……先生?」
「はぁ……はぁ……久しぶりに……使った」
「これって……先生の力?」
その現象にミカが驚き一瞬動きを止めた刹那、アズサのノールックの振り向き撃ちがミカへと向かう。ミカは背後の銃弾を素手で受け止め距離を取った。即座にアズサが数人を倒しつつミカへと近付き目の前まで行くと、ミカとアズサの近距離戦が始まる。
ミカがアズサの蹴りをコピーし頭に目掛けて放つがアズサは同時に膝を極限まで折り懐へと入り込んだ。地面に手を付け下から上へと蹴り上げると避けれる訳も無く直撃し、すぐにアズサは数歩後ろへと下がった。
ミカは痛がる様子も見せず口角を上げ、次はミカが動きを見せた。アズサへとまた近づき再び近距離戦へと突入する。今この場に居る者は一人も近付ける事は無く外側では無数のアリウス生と補習授業部は激線を繰り返していた。
先生の指揮があり所々ミカへの妨害が入る。煙幕、軽めの閃光弾、銃弾を囮として扱い攻撃を有利に進める。それでも三分も経たず状況は一変し、飛ばされた衝撃で私達の元へアズサが飛び、それでも倒れる事無く何とか受け止め立つ事が出来ていた。
「はぁ、先生。結構厳しい」
「……やっぱり?」
「ああ、一度見た攻撃は即座に適応。可能なら再現してくる。それも無限にな。このままだとジリ貧……奥の手もあるが、今使える代物でも無い……どうする?」
「……もう終わっちゃった?」
あれだけ居たアリウス生徒もアズサとミカの巻き添え、先生の指揮有りで勝てる勝負では無かった。既に壊滅状態、気付けばミカ一人となっている。
「う〜ん。状況は悪いし、このままじゃどうしようも……あ、そうだ!」
それでもミカは焦り一つ見せず笑みを浮かべた。少し考える仕草を見せたミカは何かを思い付いた様な目をし、先程とは違う勝ちの笑みを浮かべる。
次の瞬間ミカは一瞬にしてアズサの前へと現れた。アズサは対応し蹴り上げるがそれは残像を切り裂き、ミカは姿を消す。アズサと共に私も周辺を警戒し見渡すがミカの姿は見えない。すると、後ろでヒフミの叫び声が聞こえた。振り返ると、ミカはヒフミを掴んでおり―――――
「やるなら、まず主役からじゃんね☆」
「っ待て!」
「間に合わない……!」
ヒフミの身体は宙を舞い、ミカの拳はヒフミの腹へと飛ぶ。誰もが落ちると思う瞬間、その場に砂嵐が起きまた体育館の装備達を吹き飛ばす。声にならない衝撃、この嵐が収まればヒフミはどうなっている?身体は無条件に動き出し嵐の中へと走っていく。
嵐が収まると共に風圧で多少吹き飛ばされた。眼は真っ直ぐを向いており、ヒフミの状況を確認する。
「ヒフミ………っ!」
「――――へぇ、そんな事するんだ」
音だけが反復する体育館、私の眼の先にはヒフミを支えミカの拳を片手で受け止める少女の姿があった。
刹那、ヒフミが軽く飛びマットレスのある私の元へと辿り着いた。痛みは無く、マットレスも先生の力が衝撃を緩和し身体への影響すらも無かった。その姿に安堵を感じ、次に頭の中ではミカの姿が浮かぶ。すぐに視線を戻しミカの方向を見ると、ヒフミが飛ぶと同時に何かの衝撃によって数メートル吹き飛ばされ軽く腕を鳴らしていた。
「許可は出した覚えないよ……委員長」
「君は………もしかして、正義実現委員会の………!」
「つ……ツルギ先輩っ!?」
雨が降るその空には暗雲が月を隠していた。それでも彼女が現れると共に月の光は彼女を照らす。
私達に背を向け、ミカを見つめる。その後ろ姿には無意識に信頼と安心を覚えさせるような姿であり、不思議と声が出せなかった。
私の目の前に居る彼女、それは正義実現委員会の委員長であり、トリニティの戦略兵器とも謳われていた。
クリスマス終わっちゃった……クリスマスは何も無かったしガチャを結構回しましたけど普通に運は悪かったです。クリスマスプレゼントなんて無いんだ