「顔を出す事を許可した覚えは無いよ、正義実現委員会?」
「………知らない」
背を向ける彼女はそう呟いた。
彼女は剣先ツルギ―――言わずと知れた正義実現委員会の委員長であり、トリニティ公式として唯一無二認められた『戦略兵器』の称号を持っている人物。
そんな彼女はミカに無愛想な態度で接すると、ミカ自身気にしていなさそうだが、それでも厄介なものが増えたと言わんばかりの表情だった。
ミカが少し面倒そうな声のトーンでツルギの言葉について質問をする。
「知らないって、副委員長とか、大体の部員には知らせたはずだよ?貴方にだってしっかりと………」
「―――そういう意味では無い」
「………?」
何を言っているのか分かっていない顔を浮かべるミカに、ツルギは冷徹の声色で言葉を付け足す。
「今の私は、正義実現委員会の委員長では無い」
「ん〜?よく分かんない、それと今の状況になんの関係があるの?」
「……はぁ、今の私は『正義実現委員会の委員長』では無く『戦略兵器』としての……剣先ツルギだ。トリニティが公認する『戦略兵器』の称号を受け取った生徒はあらゆる障害を無視し『単独』での行動が可能となる」
「つまり……今こうやって私の前に立っているのも、その戦略兵器?ってやつのせいって事?」
トリニティが公認している数少ないルールの一つ『戦略兵器の称号を受け取った者はあらゆる障害を避け、単独での行動を可能とする』このルールは今まで無いも同然だった。それものそのはず、その称号を受け取ったのはトリニティ史上たった一人。それが『剣先ツルギ』その力はあまりに強大であり、キヴォトス規模で見るとツルギたった一人でキヴォトスの三分の一を壊滅出来る程のものだった。
ミカの予想にツルギが小さく首を縦に振る。
それを知ったミカは改めて面倒そうな表情を浮かべ、小さくため息を付いた後さっきとは打って変わり少し笑いながらツルギへと近づく。そうしながらもミカの口を開き続けた。
「それは分かったけど、どうして貴方が此処に?もしかして言えない理由とかある感じ?」
「音が聞こえた……それに情報も届いている。その場から動くな……これだけの戦闘を行っておきながら待機命令が出るとは思えなくてな」
「ありゃ、バレちゃってた?まあそうか、委員長だもんね。でも、珍しいね……正義実現委員会の委員長は、上に従うものばかりだと思ってた」
少し棘のある言い方でツルギに言い放つと、ツルギは表情を変えずともその眼力だけで辺りの空気を凍りつかせる。それだけの存在感。ミカの子笑いが体育館に小さく渡る。
ミカの簡単な問いがツルギの表情を変えた。近づきながらも警戒は解かず、何時でも拳を振り上げる事の出来る状態でだ。
「その顔、ここに来た理由はしっかりとあるって顔だね。教えて欲しいな〜」
「…………同僚と、後輩に私なりの『正義』を教えて貰っただけだ」
「……ふ〜ん、よく分かんないけど。まあ関係無いし良いや」
やがてミカとツルギが真正面で見合う。
ミカよりツルギの方が多少身長が高く、少しミカがツルギを見上げる形になっているが、オーラや存在感。圧倒的強者の持つ力は二人ともそう変わらなかった。
ツルギが目線だけを見下す様にミカに寄せ、見られたミカは笑みを崩さず口を開く。
「アズサちゃんの次はトリニティの戦略兵器……面白いじゃんね」
「勝てると思っているのか?この私に?」
「勝てる………そりゃね。私だって立場が違えば貴方と同じ称号を得ていた。力の差は大して無いよ」
「そうか。それは、楽しみだな」
「そうだ――――ねっ!」
刹那、ミカの突き指が跳ぶ。
ツルギの喉元目掛けて飛び出すが、それを知っているかの如くツルギは指二本で指先をずらし、ずれた指はツルギの真横の空気を切り裂いた。その一瞬の動作も見えない指突きは風圧真後ろの壁に指一回り分程の穴を空け、体育館に軋みが起こる。
「――――やるか?」
ツルギの問いにミカは無言で見つめ、その瞳の奥には常に笑っていた。
その問いには勿論イエス。ミカの身体は目の前にありながらもすぐに消える事の出来る体勢であり、顎は常に引いている。それを感じ取ったツルギは拳を固く握り大きく振り上げ、空間を凝縮していく。
振り上げただけでその異質さを感じた私達は数歩後退り、直前で何かに気付いたコハルがツルギに大声で云った。
「ツルギ委員長!体育館は壊したら……!」
「……なるほど」
当てる気でツルギは拳を振り下ろす。
当たる直前、ミカは身を引き拳を避ける。
体育館の床に当たった拳はそのまま振動し、体育館を揺らす。それどころかトリニティに渡る地震の様な振動は体育館を壊さずギリギリで保つが、それでもこれ以上暴れるとすぐにでも崩れそうだった。
「危ないなぁ、体育館が壊れたらどうするの?」
「力は三分の一に抑えた。だから壊れなかった」
「そういう問題じゃ……まあいいや。どうせアズサちゃんとそのまま戦ってても壊れてただろうし」
ミカが銃を取り出すと扉から再び続々とアリウスの増援が現れた。ツルギの隣にアズサが並ぶ。警戒を強めアズサはツルギに云う。
「正義実現委員会の委員長。目標は私が取る。手助けを頼む」
「……今は戦略兵器の剣先ツルギだ。勝手にしろ」
「助かる」
改めて戦闘の意識を変える二人に、ミカは思わずため息をついた。それは二人に対してでは無く、私に対してだった。
「というか、あれだけいたアリウスは何で倒れてるのかな?アズサちゃん以外まとも所か傷一つ付いてないじゃん。それが「シャーレ」か……面倒な存在だけど、ナギちゃんとセイアちゃん。どうせ消えるんだし、邪魔しないで欲しいな〜」
「……っ、それはっ!」
「ミカさん、一つ聞かせてください!セイアちゃんを襲撃したのも、貴方の指示だったんですか!?」
ミカの言葉に語源の強くなるハナコ。 それを聞いたミカは予想外と言わんばかりの表情を浮かべるが、その奥底では笑っている事変わりは無い。
ハナコはセイアが今どうなっているのかを知っている。だからこそ言葉を強くし怒りを顕にしなければいけない。聞くハナコにミカはすんなりと言い返す。
「うん、私の指示だよ。セイアちゃんってばいっつも変な事言ってて、楽園だのなんだの。難しい事ばっかり………でも、ヘイローを破壊しろとは言ってないよ。私は人殺しじゃない」
その時、ミカの空気が一変する。
銃口を下に向け戦闘意識が多少薄れる。ミカの一言、それは『セイアのヘイローを破壊した』そうと聞こえるに違いの無かった。ここキヴォトスで全ての生徒が持つ命同然の存在『ヘイロー』を壊した。それはキヴォトス内でも最大と言って良いほどの犯罪行為、だがミカはそんな指示をしていない。だが、結果としてミカ自身の口で壊したと云っていた。
―――じゃあ、誰を悪いとする?
ミカはあくまでセイアを動けない様にしたいだけだったのかもしれない。ミカはそんな事微塵も考えていなかったはずだ。直後、ミカはセイアを檻の中に閉じ込めた方が楽だと思ったからと語った。
そして、ミカは空いた手でアズサを指した。
「私は何も知らなかった。だから当事者に聞いた方が良いんじゃないかな?ねえ、白州アズサ……渡しだと誤解を生むと思うし、私の代わりに説明してくれない?」
「…………」
「セイアちゃんがあんな事になったの、こんなに事態が大きくなったきっかけなんだよ?もうここまで来たら取り返しはつかない……ねえ、その辺どう思う?答えてよ」
声色が徐々に強くなる。
笑顔を作りながら、それでも隠せないミカの静かな怒りは質問へと込められた。問われるアズサ瞳はその一瞬、過去の様な、別の未来の様な、そんな『自分の姿』が映し出される。
ほんの一瞬、一秒にも満たないその景色は何も無く、全てが白い世界だった。目の前には全ての気力を無くした様に座り込み、愛用している銃すらも手に取っていない。
それが鎖になる様、『今のアズサ』の動きを止めた。
「……それ……は……」
「アズサちゃん……?一体、な、何の話ですか……?」
「ち、違う……あれ……は……」
私達から見ても明らかに同様しているアズサの頬から汗が落ちる。浅く小刻みに呼吸をする音が聞こえる。
アズサが問いに答える直前、体育館が揺れた。扉に何かをぶつけられ扉より大きな穴が空く。ミカの意識はそっちに向き、何だとアリウス生徒を見ると、ミカの手前にいたアリウス生徒が何かに気付き焦った様子で報告をした。
「トリニティの生徒の一部が、こちらに向かって来ています!」
「……はぁ、単独行動に次はティーパーティーの戒厳を背く人たちか……」
「……確かに、ティーパーティーの命令で動けなかったはずでした。ですが、貴方はティーパーティーとしての地位を高く見過ぎている」
「それは……どう言う意味?」
「確認出来ました!大聖堂からです!という事は……シスターフッド!?」
ミカが片目で穴を見ると、奥から今のアリウスと同等、もしくはそれ以上の数を持ったその制服。そして正面一番前にはリーダーと思わしき人物が先導して歩いていた。
アリウス生徒が警戒を強める。状況とハナコの言葉を多少理解したミカは呆れた表情でシスターフッドを見つめると、ハナコはトリニティ上層部の定義、関係を説明し始める。
「ティーパーティーは校則上、何にも囚われない最高であり最大の権力者集団。そう伝えられています。確かにそう聞けば、ミカさんの様に一言でシスターフッドや正義実現委員会を抑えられると思います。いえ、実際その様な力も持っているはずです」
「何が言いたいの?」
「トリニティ創設から存在している正義実現委員会とシスターフッド、そして後に作られた救護騎士団等の最高権力者、つまりツルギさんやサクラコさんの様な人達は自分達の部活内だけなら自由に行動が出来ます」
「つまり、本来なら権力に縛られず動く事の出来る最高権力者も、ティーパーティーの一言で動けなく出来る。それは矛盾していると思いませんか?その一言すら無視出来るサクラコさんはなぜ動けなくなっているのですか?」
各部活の最高権力者、そしてティーパーティーと繋がっている幹部達はトリニティの規則『自身の従えている部活等の部長、もしくは従えている権力者は自身の判断で縛りを無効し、自由に動く事を可能とする』
本来であればティーパーティーの待機命令も無視し自由な意志で動く事が出来たはずだ。それでも始まりの校則、ティーパーティーの校則では『ティーパーティーはトリニティの最高権力であり、トリニティ内全ての生徒及び部活はティーパーティーの意志に従う事を強制する』と決められていた。
それではトリニティの校則とティーパーティーの校則で矛盾が生じる。そうハナコは指摘し、それを知っていたハナコはサクラコに想いを伝えていた。
穴を塞ぐ様アリウス生徒が前へと出るが、投げられた爆弾が穴を攻撃しアリウス生徒を吹き飛ばす。砂埃が立ち、そこからシスターフッドがゾロゾロと入ってくる。
咳をしながら涙目になっている彼女が、本心であろう想っている言葉を口にし始まりを切った。
「けほっ、今日も平和と安寧が……けほっ、皆さんにありますように……けほっ」
「す、すみません。お邪魔します………」
「ヒナタさん、マリーさん……!」
率先して入る二人はよく知っている者であり、サクラコとも仲が良い事も知っている。
その間から煙と共に現れたのは、あの時とは違う。何かが変わったサクラコの姿があった。
「シスターフッド、勝手ながら……ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます」
「貴方は、シスターフッドの歌住サクラコ……あはっ、シスターフッドと戦うのら初めてかな。面白いね」
笑うミカは改めてその面倒さに呆れを取った。
アリウス生徒、それを頭であるミカ。対する者は補習授業部にトリニティの戦略兵器、シスターフッド――――そして、先生。
第三者から見れば、圧倒的にミカが不利な状況。誰もが降参すると考えていた。だが、ミカは違う。
『興味深い』その一言でその全てを一掃し、より一掃笑みは深く浮かばせる。
「どうせホストになれば、大聖堂も掃除しようと思ってたんだ。逆に、都合が良い」
「……本当に、やるつもり?」
「貴方とて、この状況がいかに不利か。分からない貴方では無いでしょう?」
「……そうだね、先生。でも、ここまで来て「大人しく降参します」だなんて、あまりに呆気ないでしょ?」
――もう私は、行く所まで行くしかないの。
一瞬、ミカの表情が曇る。
脚を強く踏み出し、少し落ちた木屑すらも退き、宙に浮く程の衝撃が辺りを支配した。
戦意を強め前へ進むその瞬間―――体育館に声が響き渡った。その声にあのミカですら動きを止め、全員その声に衝撃を受ける。
はぁ、はぁと息を切らし、汗を垂らす彼女の前に、ミカは全身の血がひんやりと冷たくなる様手が微かに震え、声にも動揺が現れていた。
誰の手も届かない闇の中へと進むミカの手を取り、光を指した彼女はミカに対して云う。
「はぁ……はぁ……ミカさん。お話が、あります」
「な………ナギ、ちゃん……?」
「ナギサさん……!?なぜここに………?」
「ミカ……さん、なぜこんな事をするんですか?なぜ、皆さんを……!」
固まり動けないミカに向かい、ナギサは声を掛け続ける。ミカは震えながらナギサに質問を返す。
「何で……ここに、ナギちゃんが……」
「私の事は良いんですっ!なぜ争うんですか!?ミカさんに何があったんですか!?」
「………っ、ナギちゃん………ごめんね」
「何が……今聞きたい事は、謝罪では――――」
「―――ごめんね」
「っ!ナギサ!!」
謝った瞬間、ミカはナギサに向かい銃を向け、引き金を引いた。予感していた私が力を使いナギサの前に壁を貼る。だが撃たれた勢いと壁に時間を掛けなかったせいか、すぐに壁は壊され、銃弾はナギサの頭をギリギリに掠める。
数多の感情が入り乱れ情緒が不安定になっていたナギサにはそれだけでも十分過ぎる程であり、その衝撃でナギサは気を失ってしまった。
「……聖園ミカっ!仲間を傷付けてまでやる事なのかっ!」
その一連を見たアズサが突然怒りを顕にする。
刹那、アズサは最高速で走り出しミカに拳をぶつける。ミカは両腕をクロスさせ受け止め、先程までの勢いも多少落ち着いた様子だった。
アズサが動き出し、全員が動こうとした瞬間アズサが叫ぶ。
「全員聖園ミカには攻撃するなっ!私が……お前を正しくする!!」
「……来なよ、白州アズサっ!」
腕でアズサの拳を弾いた瞬間、同時にアズサの横蹴りが飛ぶ。すぐに気付いたミカは脚の方向を腕でガードするが、怒りと勢いで威力もスピードも上がったアズサの蹴りを受け止められる訳も無く、その勢いで体育館の壁を突き破りそのまま別館の持つ校庭へと吹き飛んだ。
アズサは即座に空いた穴へと飛び出しミカの方向へと向かって走っていく。
残ったのは私達だけ、ならば残ったアリウス生徒を片付ける事が先だ。
「皆んな、アズサは任せて、私達はアリウスの対処をしよう」
「り、了解!」
「私はナギサさんを連れて行きます!」
「お願いハナコ、数が多い………ツルギ、サクラコ、手を貸してくれる?」
「……は、はい!もちろん貸します!」
「もちろん、ハナコさんに先生……お二人のお陰で、今の私が居ます。恩返しをさせてください」
補習授業部、ツルギ、そしてシスターフッド。
アズサの無事を祈り、私達も行動を開始させる。
本当わぁ、ナギサのターンをもっとやりたかったんですけどぉ……思ったよりも短くなってしまいました……許してね☆