虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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あけましておめでとうございます〜!今年ものんびり投稿していきますので、何卒よろしくお願いします。


子供と大人(子供)

 

「これで……最後だ」

 

 首を鷲掴みして気絶した最後のアリウス生徒を山になったアリウスの中に放り込む。私達が介入する間もなく全てを片付けたツルギはため息をつきながら頬に付いた血を指で拭き取る。

 

「凄いね……まさか全員を一人でやるなんて……」

 

「こ、これぐらいなら……私一人でもやれたので……」

 

 私が言葉を掛けた瞬間、数秒前まで戦闘中だったとは思えない程おろおろとしていた。

 ふとツルギの頬を見ると、多少裂けた頬がゆっくりと再生している瞬間を見てしまう。それはあまりに異常であり、瞬きをする合間に完全に傷が塞がってしまう程だ。異質過ぎるがあまりツルギに問い掛ける。

 

「ツルギ……怪我してたはず………」

 

「わ…私は、怪我とか傷とか……治りやすい体質でして……」

 

「……それ、体質で片付けて良いのかな……?」

 

「先生、アズサの方が!」

 

 ヒフミの声に目を向ける。

 アズサが直前に空けた穴の方から外を見ると、そこでは校庭の真ん中でアズサとミカが接近戦をしている最中だった。大雨と言える程の雨雲の中、雨を諸共せず空気を切り裂き、そこら一体では雨が地に落ちる事すら許さなかった。

 戦いの中で調子が戻りつつあるミカと怒りが収まりつつあるアズサの中では明確な差が生まれ始まり、少しずつミカが押し始める。その上アズサはミカが私達に意識が向かない様、私達に一切背を向けなかった。その為か場所が固定され動く事が困難となる。

 

 応戦しようにも、あの中でまともな動きを実現出来るのは恐らくツルギとサクラコのみ。その上調子に乗り始めているミカに余計な刺激を与え本気にさせでもすれば、それこそ作戦失敗に近づく。ミカだって既に三年生、固有解放を覚えていないはずが無い。

 だが、このままいけばアズサに不利――――

 

 それを見たツルギが銃を構え、私に相談を持ち掛けた。

 

「先生、このままだと……予想はついていると思いますが」

 

「うん……このままだと、負ける」

 

「だから、応戦という形で手助けをしても……良いですか?仮にも一度、互いに約束しましたから」

 

「……どうしよう」

 

 今動けずこうやって見る事しか出来ない自分に心底腹が立つ。だが、今はミカを倒す事が第一優先なのに、なぜこんなにも躊躇っている?

 

 ―――アズサちゃんを、助けて欲しいの。

 

 あの言葉に、一切の偽りなんて無かったはずだ。ミカはゲヘナが嫌いだとしても、大切な友達を、仲間を傷付けてまでやろうだなんて考えない子なんだ。じゃなきゃ、私の目の前で『あんな言葉』言える訳が無い。

 今まで言っていた事が全てだとしても、ミカの心の中までは、誰も見る事は出来ない。

 

「………じゃあ、嘘だったのかな」

 

「……先生?」

 

 雨に混じって銃声が、殴る音が、蹴る音だけが鮮明に聞こえる。雨なんかよりも大きく、耳鳴りなんかよりも大きく―――

 

「――――先生っ!」

 

「はっ……」

 

 再びヒフミの声で目が覚める。

 気付けば雨の方が音は大きく、片目でヒフミを見るとヒフミは焦った表情でアズサが居る方を指す。遅れて指された方を見ると大きな影が私の方へと近づく。だが、目の前では無い。

 影を追うよう見上げると、そこには目の前まで近づく大きな瓦礫。対応する間もなく私へ直撃しそうだった。

 

 当たったら死ぬ―――私の眼には『そう映された』

 

「先生!!!」

 

 直撃する前、私の前にツルギが立つ。

 拳を構えたツルギが瓦礫に大きな一撃を入れた瞬間瓦礫はバラバラに崩れ辺りに突き刺ささる。その一連の動作は一瞬であり、目の前に来てから秒もかからずツルギは目の前に立ち私から身を守ってくれた。

 

 その代わりツルギは拳も全身も瓦礫の餌食となり、全身がボロボロとなり出血もしていた。

 

「つ、ツルギ!?」

 

「私は大丈夫です。もう完治したので」

 

「……え?」

 

 意識が戻った私が焦りながら怪我したツルギに駆け寄るが、ツルギは完治したと私に姿を見せる。

 その姿は云った通り全身綺麗に治っており、改めて本当にそういう体質なのか疑わなければいけなくなった。

 瞬間、次々と飛んできた瓦礫をツルギは拳で破壊していき、手を出しながらも私の身を守ってくれている。数秒した後、ツルギのポケットからバイブが二回程鳴り、一通り瓦礫を壊したツルギがスマホを取り出す。瞬間、ツルギの顔が少し固くなり、言いずらそうにしながら私に声を掛けてきた。

 

「……先生、すいません。どうやら私が突然居なくなったせいで正義実現委員会の皆んなが暴れているらしいです」

 

「な、なるほど……?」

 

「これ以上はハスミもイチカも止められそうにないので、すいませんが先生、この先お任せ出来ますか?」

 

「う、うん。私は大丈夫だから、ツルギは自分の心配をして」

 

「ありがとうございます……それと、最後に一つ」

 

 ツルギは怒りを顔に表しながら体育館の柱を折る。

 野球ボールを投げる様なフォルムで投げる体勢を取り、怒りを言葉に変え腕に力を込めた。

 

「一発ぐらい――――貰っておけっ!」

 

 投げた柱は高速で吹き飛び、ミカの元へと的確に向かっていった。

 直前までアズサに意識が向いていたミカは寸前まで気付かず、気付いた時には目の前まで迫っていた。ミカは即座に空いた手を柱に向け柱をキャッチする。

 

「あっぶ……なっ!?」

 

 一瞬の焦りを見逃さず、アズサが脇腹へ蹴りを入れるが柱を脚に向け威力を緩和させる。

 威力は落ちながらも柱を貫通し、ミカの脇腹へ直撃、何かが軋む音と共に表情には多少の焦りが生まれた。すぐに脚を掴みアズサを吹き飛ばす。先程の蹴りが効いたのか、お互いに戦況は五分五分と言った所だ。

 息を切らしながら、丸を歩きながら描いていく。笑みを浮かべミカはアズサへ言葉を投げかける。

 

「まだ、本気出してないでしょ。アズサちゃん」

 

「はぁ……随分と、余裕そうだな」

 

「見てみたいな、アズサちゃんの本気。その『見せたくない本気』を」

 

「……知っているのか」

 

 ミカの言葉に動きを止める。

 見せたくない本気―――それが何なのか、私達は知らない。だが、ミカはそれをアズサの弱点と知って言っている様に見えた。アズサの顔は刻々と暗くなっていき、強く歯を噛んだ。

 ツルギにも負けない鋭い視線をミカに突きつけ、羽を大きく揺らす。

 

「見たかったら……その気にさせてみろ」

 

「……そうこなくっちゃ」

 

 次の瞬間、アズサはミカの元へと走り出す。

 ミカの物理攻撃の範囲内へと入った刹那、止まらずとも当たる距離でミカは思いっきり拳に力を込め、真っ直ぐアズサの顔面に当たるよう突き出した。

 当たるギリギリ、滑る様に脚を曲げミカの懐へと入り込む。アズサはすぐに地面に両手を着け、真下から蹴り上げ、再び当たるかと思われた。だが、寸前ミカは頭を引き、脚は空を切り裂く。

 

「二度は喰らわないよ」

 

「っち」

 

 ミカが突き出した腕を引こうとした瞬間、アズサは上がった脚を使いミカの腕を脚で固める。

 直感で折られると感じたミカは腕に力を込め、その瞬間からその腕は鉄塔の様に固く、どんな衝撃でも傷つかない様だった。

 それを利用し、脚に力を込め勢いだけで真逆である上へと振りあがった。その勢いにミカは対応が遅れ、逆にミカが逆さへと振り上げられた。

 

 不味い―――そう感じたミカは即座に腕を振りアズサから離れると、そのまま空へと飛んでいく。

 羽を使い空に浮くミカ、それを見上げ降りてきた瞬間攻撃出来る様構えを取るアズサ、その状況にミカは口角を上げ、逆さずりに真上から真っ直ぐアズサを見つめた。

 

「見せてよ、白州アズサの本気をっ!」

 

 靴底に大粒の雨が当たる。

 次の瞬間、雨粒の当たった衝撃を使い高速で下へと降りていく。拳を力強く固め一瞬でアズサの真上へと着く、その直前無意識な危機を感じ取ったアズサは腕を真上へクロスし防御の形を取った。ミカの拳が当たった瞬間、空間が歪む様な衝撃、一瞬で少なくとも私達よ居る体育館まで落ちる雨を消し去り、風が逆行、渦を描き始め、やがて巨大な竜巻を生み出した。

 

 校庭には何も無かった。それだけが救いだと思ってしまう。あれだけ距離のある体育館ですらその風と勢いで壊れそうになる程の次元。竜巻は十数秒渦を描き、ゆっくりと収まっていった。

 再び雨が地を濡らし始めた時、状況自体は変わっていない。だが、アズサの姿には目に見える程の変化が現れていた。

 

「それが見たかった。それが、アリウスが欲していた『真の天才』!」

 

「―――固有解放」

 

 長く白い髪は雨の中でもより輝き、常に光が照らしていた。ミカの攻撃に焦り一つ見せず、寧ろ眼光はより強くなっている。閃光が如くその場から消え、中に浮き強く横蹴りを振る。ミカは腕を脚方向へと向けガードに入るが、当たった瞬間鈍い音、冷や汗が落ちる間もなく連続で来る蹴りがミカの腕に確実なダメージを入れていく。

 痛みに慣れていないせいか、少しづつ涙目になっていくミカに、一瞬の緩みが生じた。その瞬間を逃さずアズサは羽で中へ浮く。そして、真上からの踵落とし。

 

 一瞬の対応が遅れ、頭に直撃する。

 その勢いで顔から地面に叩き落とされ、地面を凹ませ辺りに亀裂を生み出した。雨が少しずつ止み、薄い光明が差し込む。

 

「……私の、勝ちだ」

 

 立っていても不定期に揺れる程のギリギリな状態、息を切らしながらそう云い放つ。

 アズサ力を抜き、本来の姿に戻ると私達の方を見て軽く笑みを浮かべた。そうしてこの事件は幕を閉じる―――そう思っていた。

 突然ミカの指が動き始める。手を着き、脚で抑えていた頭が少しずつ浮き始める。

 

「まだ……まだぁ……これから………だよ」

 

 ミカは身体全体を後ろに引き脚から逃れると、その抑えられた体勢のまま手と腕に力を入れ宙に浮く。

 頭から血を流し目を通して下へと垂らしながらも直前アズサがしていた蹴りの体勢へと無理矢理変える。固有解放を終えた直後のアズサに避ける術も受け流す術も無くそのまま直撃し、体育館へと目に見えないスピードで飛ばされミカが空けた穴を通りそのまま一番奥の壁へと激突し壁全体が崩れていく。

 

「アズサっ!?」

 

「アズサちゃん!」

 

「……やっと、一人」

 

 再び体育館へと戻ってきたミカに私達は向き合う。

 既に全身ボロボロだったミカに未だ弱まる様子は無く、このまま戦いを続行する事も出来た。だが時間が無い。最悪誰かにバレる可能性がある、その場合、最悪な結末を迎える事は誰だって分かっていた。

 あの時のミカとの会話を思い出し、今のミカと照らし合わせる。そうやって見ると、どうしても今のミカが正しい存在とは云いずらい存在だった。

 

 未だ戦う意志を見せるミカに、私は目の前に立ち皆を後ろへと下げる。そうしてミカに云う。

 

「……ミカ、もう終わろう」

 

「終わる……先生、私にその言葉は通じないよ」

 

「それは、ミカが既に戻れる様な存在じゃないから……?」

 

「……そうなのかもね」

 

 私の質問に言葉を詰まらせるミカ、ミカは懐から一丁の拳銃を取り出した。そして、それを私へと向ける。

 全員がその一瞬に目を見開き、私の元へと駆け寄った。

 

「せ、先生!後ろに―――」

 

「いや、いいよ」

 

「……先生?」

 

「――――ミカ、答え合わせをしよう」

 

「……私がこれを持ってるのに驚かないなんて……変な人」

 

 その拳銃は私が渡した物―――ミカに渡した『選択肢』

 本当かは分からないが、あの中に入っている銃弾は私の摩訶不思議な力でも抑えられない様な強力な銃弾。あれが当たってしまえば、私は助かる術は無い。

 その拳銃を向けられ、怖い訳が無かった。怖い。怖い。怖い。嘘だと分かる笑みの裏には、それだけが支配していた。

 

 それは、ミカも同じ。

 見れば見る程、ミカも怖がっている。微かに銃口が震え表情だって固くなっている。

 ミカの選択肢一つで、私は死ぬ。だが、それに後悔は無いと云える。それは、私が与えた、苦しくて、辛くて、子供なんかに任せるものじゃない選択肢だから。

 

「ミカがその引き金を引くまで、私はここから離れない。ミカを説得し続ける」

 

「どうせ変わらないんだ。ここまでするって事は……先生だって分かるはずだよ。もう、戻りたくないの」

 

「ミカなら、その道がどんな道か分かるはずだよ。私は嫌だ……ミカはそんな子じゃないって信じていたんだ」

 

「私は………私の方法で幸せになりたのっ!戻りたくなっちゃう前に……それ以上いけないように、しなくちゃいけないの」

 

「……じゃあ、そう云えば良かったのに」

 

 歩き出す。ゆっくり、一歩一歩。

 微かに揺れた銃口を目の前に、避ける素振りも見せず、歩き続ける。

 そうしてミカの目の前まで、数秒も掛からなかった。

 

「ミカ……その引き金を、引いて」

 

「……っでも」

 

「私は絶対に死なないよ。その選択肢呪いがミカを縛っていたのなら……ミカが幸せになる方法を、自分で見つけられているのなら、良いんだよ」

 

「…………先生」

 

 ミカの表情は、最後まで見えなかった。

 泣いているのか、怒っているのか、そもそもそんな表情を浮かべていたのかすらも分からない。

 私は、ただの弱い大人で、偶然この世界で『先生』だなんて名前の大人に命名されただけの弱い子供同然だった。だからこそ、空回りでも、相手の気持ちに共感しようとしてしまった。

 

 私は、弱い弱い子供だ。

 

「―――ありがとう」

 

 たった二人にしか聞こえないその声を最後、小さな体育館世界に銃声が一つ、鳴り響いた。

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