虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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誤字報告感謝いたしますわ〜


三度の死

 

 体育館は、静寂に包まれた。

 皆のその目に映し出されたものは、脇腹に空いた小さな穴と、地面に付いた赤い血痕。それは水の様に少し揺れ、まだ生きている事を示した。

 

「せ……ん……せい……?」

 

 一夜に鳴り響いた銃声、重く、単純な引き金から生まれた『殺人』まだ未遂だろうか。どちらにしよ、先生は動かない。

 この場に居る全ての人間が、先生は弱く、銃弾一発で死に至ってもおかしくはない事を理解していた。だからこそ動く事ができない。

 

 ――――先生は、死んでしまったのだろうか。

 

「せ……せんせい……先生っ!」

 

 直後、全員が先生の元へと駆け寄る。

 ミカから身を剥ぎ、ミカの顔を見ると、青を超える真っ白な顔をしたまま、その場で涙を流し、目を閉じていた。先生の方へと目をやると、先生は険しい顔をしながらも言葉は発しず、全員が見守る中、突如としてカラカラで軽快とした声で先生は云う。

 

「何とか、耐えれられたみたいだね」

 

「え……だ、大丈夫ですか……?」

 

「……うん。力で何とか抑え込めたから」

 

 先生はそう云っているが滲む服と抑えている脇腹は変わらず、それでも右眼は確かに青く光っていた。

 先生が無事であった事から来る安堵、同時に撃たれた衝撃から今の先生に何を言葉掛ければいいのか分からず戸惑っていると、後ろからガラガラと瓦礫の崩れる音と共に直前まで気絶していたアズサが頭から血を流し、今にも倒れそうな満身創痍の状態で私達の方へと近づいてくる。

 不定期な足音を立てながら浅く息を切らし、片腕を抑えていると、一番に気付いたヒフミがアズサの元へと駆け寄った。

 

「あ、アズサちゃん!?だ、大丈夫ですか!?」

 

「げほ……だ、いじょうぶ……げほっ」

 

「いやどう見ても大丈夫じゃないですよ!?二人とも今すぐ保険室に……!」

 

「――――待って……!」

 

 保険室へ催促するもその前にアズサの言葉が遮った。

 目の前に来たヒフミを退けて倒れるミカの元へ着くと、砕けたガラスの破片を片手に気絶しているミカに馬乗りし破片を首を切り裂くギリギリまで近付けた。それを見た全員が目を見開き、動きを止める様近づく。

 だが、その歩みを止めてしまう程アズサからの殺気が辺りを制する。

 

「あ、アズサちゃん……!?」

 

「アズサ……な、何して……?」

 

「……げほ……げほっお前……だけは……お前……だけは!―――やっぱり私には、出来ない」

 

「え……?」

 

 見えたアズサの目は恐ろしい殺意の目となっていて、誰も止める事が出来なかった。

 今アズサを止めなければミカが殺されてしまうかもしれない―――その後一歩を、アズサは動こうとしなかった。

 

 アズサは出来ない。そう答え、ミカを避け横に倒れる。慌ててアズサの顔を見るが、気絶していると言うよりかは疲れて眠っている様だった。

 最後の言葉がどんな意味だったのか。それはアズサ自身に聞かなければ分からない。それでもあれだけの戦闘意識を見せていたアズサが最後に云ったあの言葉は、少なからずアズサから見たミカの印象が変わった―――そう考えざるを得なかった。

 

「アズサちゃん……お休みなさい」

 

「皆んなは、アズサを保険室へ連れて行ってあげて」

 

「それでは先生が………!」

 

「私は大丈夫。私は……ミカが起きるまで、見守っておきたい。その代わり、ミカが起きたらすぐ連れて行ける様に、正義実現委員会の子達を数人連れてきてあげて」

 

「先生……分かりました。私達は、アズサちゃんを連れていきます」

 

 ハナコがそう云い倒れたアズサ、ヒフミとコハルと共に体育館を後にした。

 その後、残ったシスターフッドは小さい戦争の終わりを祝し、軽く体育館を掃除した後体育館を去って行った。私は正座しミカを膝の上に寝かせる。大きく深呼吸をし、力を込めて脇腹を抑える。それでも数分もしない内に汗が出始め、呼吸も乱れ浅くなっていく。視界がゆっくりとボヤけていき―――――

 

 

︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

 時々、夢を見る。

 それは誰よりも幸せで、怖いものなんて一つもない世界。

 望めばどんなものだって手に入る。嫌なものはその場ですぐにでも消せる。そんな自分都合の良い夢。

 

 そんな夢をまた見た時、夢の人からこう言われた。

 

 君の、今望むものは?

 

 私はその時、なんて答えたかな。

 確か……何も要らない。そんな答えだった様な気がする。そう、そんな気がする。

 

 望むもの、何でも手に入る夢の世界で、今の私は……何と答えるかな?

 

 生きていても許されて、行動一つ一つ縛られず、意志一つ示す事も出来ず、人の、世界の操り人形から―――脱出したいな。きっと、その為に今日を生きている。その日がいつか来ると信じて、また『あの日』を繰り返す――――

 

 いつか来る夢が、永遠に続きますように。

 

 

︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

「――――か――――ミカ」

 

「………んぅ」

 

「……起きた?」

 

「ん……ん……?」

 

 ミカの微かな声を聞き、起きたと判断した私はミカに話し掛けた。

 最初はそこまで反応しなかったものの、何度か声を掛ける内に目が開き始め、眠気まなこでありながらも私の方を見る。そして数回瞬きをし終えた瞬間、突然爆発する様飛び上がり私の前へと立った。

 

「び……びっくりした……なんで先生がここに……!?」

 

「え……?それは……ミカが起きるまで心配だった……から?」

 

「……あぁ、な、なるほど……」

 

 状況を理解したミカは安堵の声を漏らし、落ち着いた様子で再び私の隣へと座った。

 ミカが気絶してから約数時間、ずっと同じ体制のまま寝てしまった為か、身体を鳴らしながら私に質問を投げ掛ける。

 

「私が心配で見てた……か。でも、もう外明るいよ?いつまで見てたの?」

 

「え?ずっとだけど」

 

「ふ〜ん、ずっとね……ずっと!?」

 

「え……う、うん。心配だったから……」

 

「え、え?今何時?」

 

「えっと……大体五時くらいだね」

 

 改めて時計を確認してみると、私は気付けばずっとミカの事を見ていた事が分かった。

 作戦開始からミカとの戦闘までが大体零時を回った頃、そう考えれば本当に長時間、ずっと同じ体制で見続けていた私もおかしいのかもしれない。

 

「先生もちゃんと寝なよ……?」

 

「………うん、大丈夫。しっかり寝るよ」

 

「ほんと〜?というか、私気絶する前の記憶あんまり無いんだよね。私最後に何してたっけ?」

 

「え……えっと、確か……っ、普通にその後戦闘で、私達が勝ったから、その衝撃で気絶したんだと思うよ」

 

「そっかぁ、負けちゃったか〜……やっぱり強いや、シャーレの先生」

 

 光の差し込む窓を見上げ、ミカはそう呟いた。

 目を瞑り数秒、静寂が流れる。再び目を開けた時、ミカの目はまた変わった様子で、少し儚げな目をしていた。

 ミカは立ち上がる。

 そして、体育館の扉の方へと脚を踏み入れた。

 

 背を向けるミカに、私は質問する。

 

「……もう、大丈夫?」

 

「ん〜?何が〜?」

 

「いや……うん、なんでも無い」

 

「どうせ外には既に正義実現委員会やらが来てるんだろうし、私はすぐに捕まっちゃうかな。あ、でも安心して。私は抵抗したり、逃げたいしないから」

 

 壊れた壁を横目にミカは扉を開け、外へと足を踏み入れた。

 外は太陽が眩しく輝いており、奥から数人の正義実現委員会がこちらに向かって走ってきている事が分かる。

 ミカは最後に私の方を振り向く。そして、何も言わず、目線だけを合わせ、再び前を向いた。

 

 私は立ち上がる事はせず、そこに座ったままミカが連れていかれるのを見続けていた。私の視界からは完全に消え、これで、全てが終わったとその時に感じる。

 

 それと同時に正座していた脚を崩し、背中から床に倒れ込む。

 

「……良かっ……たぁ……」

 

 正直身体がもう限界だった。

 もう力も入らない。脚を動かす気力も声を出す力も無い。なぜこの数時間耐えられたのか、それすらも分からない。

 最後ぐらいは、格好付けたかったと言われればその通りだろう。ミカが起きるよりも先に私が行ってしまったら、ミカも悲しむと考えの事だ。

 そりゃあ、死ぬのは怖い。最初の内は、ずっと怯えてた。でも、ミカと話して、アズサの姿を見て、サクラコの覚悟を感じて、不思議と恐怖も無くなっていた。

 

 どうせこんなにも早く死ぬと分かっていたら、もっと皆んなに何かしてやれた。それだけが心残りだろう。

 私が死んだら、ミカはどう思うだろうか。きっと自分のせいだと自分を責めるだろうし、きっと誰よりも泣いてくれるだろうと思ってしまう。本当は、私が目の前まで行って『君のせいじゃない』って云いたい。

 

 どうせこんなに考えていても、もう一分も経たずに死ぬだろう。既に手足の感覚も、五感もほぼ死んでいる。

 

「―――い――――せ――い――――!」

 

 最期ぐらい声を出しておけば良かった。

 最後ぐらい皆んなと顔を合わせておけば良かった。

 

 どうせ死ぬなら――――――

 

 

︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

「―――――みんな」

 

 鉛の様に重い瞼を上げると、真っ白な壁が見えた。少しずつ目を開けていくと、それが壁ではなく白い天井だと気付いた。

 周りを確認しようと身体をゆっくり起き上がらせようと腕に力を込めた瞬間、この世のものとは思えない劇痛が全身には知った。

 

「っ〜!?」

 

 突然の痛みに耐えきれず、痛ませながらも勢いだけで身体を起き上がらせる。自然と目元からポロポロと涙が零れ、指一本動かせば痛みが走る状況を呪いつつ虚無を保ちながら涙を流し続けるしか無かった。

 深呼吸の感覚を覚えていると、突然部屋の扉く。

 

「先生……ん……?」

 

 何とか顔を動かし誰が来たのか見てみると、そこにはセリナが居り、その時にここがトリニティの医療室何だと予想した。1報セリナは私を見た瞬間固まってしまい、身体を震わせながら私を指すと声も一緒に震い始めた。

 

「せ……せ……せんせ……っわぁ!?」

 

「ぁ……」

 

 後退りした拍子に勢い良く後ろに倒れるセリナ、大丈夫と声を出そうとした時、声は微かに、そして全くと言っていい程出なかった。

 すぐに起き上がったセリナは走って私の元へ着いた途端、私に抱き着いてくる。その瞬間再び想像を絶する激痛が走った。セリナそれに構わず大泣きで私を見た。

 

「せ……せんせぇ……良かったぁ……生きてたぁ………」

 

「ぁ………ん……」

 

「……あぁ、そうでした……とにかく先生、まずはこの薬を飲んで下さい……」

 

「っ……ん……ぅ」

 

 セリナが考える暇もなく手で薬を飲ませてくれる。

 感覚的に身体が楽になっていく気がした。それと同時に力が入りずらく、再びバッタリとベッドに倒れてしまう。

 セリナは優しく私の手を握り、薬の効果で身体が軽くなると言った事を最後に、私はもう一度眠ってしまった。

 

 

︎︎ ✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎︎✦︎

 

 

「先生の様態は当時、腹部の銃跡から大量出血の放置だと考えられていました。ですが、あまりに腹部の怪我が小さすぎたんです」

 

「なるほど………」

 

「それに誰が先生を傷付けたのかも未だ分からずで……先生、知っていますか?」

 

「……知らないな」

 

「そうですか……絶対に見つけたいですね」

 

 少しだけ袖を掴む力が強くなった気がした。

 セリナからの話では、私が見つかった時は大半の脈が動いていないか微かに動いている程だったらしい。その後、すぐに救急医療室へ連れていかれた後、圧倒的な出血量からすぐに『助からない』そう明言されていた。

 それでも生徒達からのお願いで力を尽くし、私が発見されてから三日の時が経った。

 

 セリナは唯一三日間、仕事があるにも関わらず毎日私の元へと訪れてくれた。助からない、そう言われていたのに。

 私の治療のほぼ全てはセリナが行ったらしく、今日も来た時、ちょうど私が目を覚ました事であんな反応をしていたのだとその話を聞き分かった。

 

 その話を聞き、私は一つ不安な事があった。

 

「それで……その……私の身体の事は、皆んな……見ちゃったの?」

 

「……それは……はい、すみません。そうするしか無かったので……」

 

「いや、大丈夫……どうせその内、言うだっただろうから。というか……何にも、思わなかった……?」

 

「あ……それは、えっと………言っても、良いですか?」

 

「………うん」

 

 私の身体には、無数と言う言葉ですら言い表せれ無い謎の切り傷や痣、焼けた様な痕もあり、痛み何かは感じないがあまりに痛々しい姿は人によっては吐いてしまう程だ。

 だが、痛みは感じないが、なぜか日が進むに連れて身体が衰退していく。それ故の虚弱体質なのだ。

 

「あまりに痛くて……真っ直ぐに先生の事が見られなかったんです」

 

「そう……だよね」

 

「だから……こうやって、見られる事が……本当に……嬉しいんです」

 

 少し弱々しい声でそう云ってくれる。そして私の手を両手で握り、少し涙を零した。

 痛みが和らぐ中、私がどうやって生き返れたのかが心に残る。

 

「そう言えば、私って出血多量だったんだよね……って事は、誰かが輸血をしてくれたって事……だよね」

 

「あぁ……はい、えっと、丁度先生を救急医療室に連れてきてくれた人が……ハナコさんです」

 

「ハナコ……が……」

 

 最期に目を閉じた時、誰かの声が聞こえた気がした。

 優しい声だった。そして走って来てくれた様な気もした。

 

「ハナコだったんだ……うん、ありがとう。教えてくれて」

 

「あ、それで何ですけど……仮にも、先生はここキヴォトスの住人では無いので、その人がキヴォトス人から血を受け継ぐと言うのは大丈夫なのかと会議になりまして……」

 

「え……だ、大丈夫だったの?」

 

「あ、実際には大丈夫だったんですけど……もしかしたら、身体に違和感が生まれるかもと……言われて」

 

「違和感……違和感なんて……ん?あれ?」

 

 セリナの言葉に自分の身体を見てみるが、特に違和感は無いと両手をにぎにぎとしていた瞬間、ある事に気付いた。

 数十分前まであった痛みが一切無くなっている。それどころかどんどんと身体の痛みが引いていっている。

 

「痛みが無い……けど、いつもの気怠さとか、虚弱体質は変わってない……もしかして、キヴォトスの血と言うか……キヴォトス人の身体の硬さとか、回復スピードが人間じゃなくてキヴォトス人寄りになってる……?」

 

「そ、そうかもしれませんね……本当かは分かりませんけど」

 

「身体の痛みも引いてるし……キヴォトス怖い」

 

「でも……ここの人達でもそこまでの回復力は、ツルギさん並じゃないと無いはずです」

 

「……何も無いと良いな」

 

 ベッドから立ち上がり、患者が着る用の服からセリナが持って来てくれたスーツに着替える。

 置いてあった手袋を付け、あっという間にいつも通りの服装へと元通りとなった。すぐに補習授業部の皆んなの元へ向かおうと踵を扉に向けた時、セリナが私の前に立ち、軽く服装を整えてくれた。

 

「……先生も、しっかり自分を大切にしてくださいね?」

 

「うん、ちょっと無茶しちゃったみたいだから……自重します」

 

「はい、皆んな心配してますので、早く向かう事をお勧めします」

 

「うん……ありがとう。セリナ」

 

「……ふふっ、私はトリニティの救護騎士団に所属する鷲見セリナですよ?怪我をしたら、いつでも来てください。待っています」

 

「ありがとう……じゃあ、行ってきます」

 

 部屋を出る。

 一度死んだ身とは思えない程の身軽さに驚きつつも、こうして生き返れた事を噛み締める。

 思い出してみれば、あの時、あの夢の中でセイアと出会った時『三度死ぬ』そう言われた。もし、この死が一度目の死だとすれば――――後の死は、二回。

 

 三度死ぬ時、それが別れの時となるのなら、私は、私のやり方で誰かを助けて死にたい。

 掴んだ深呼吸の感覚を思い出し、再び歩み始める。

 

 補習授業部の最後の試験と、ハナコに感謝と皆んなに謝罪をしなければいけない。そう考えながら、いつもの教室へと向かい歩き続けた。

 再び来る二度の死を迎える為、二度目の人生をもう一度スタートさせる。

 

 私は、私の使命を果たしに行かなければいけない。




 分かる人は居ると思いますが、恐らく次回でエデン条約編第二章が完結すると思います!地味に長かった。
 次回エデン条約編第三章に行く前に、長いお休みと見直しをしますのでご了承ください。まあ次の話の後書きにて詳しく話しますわ〜

という事で残り一話、最後の時までお持ちください。
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