プロローグ
エデン条約締結の数ヶ月前――――百合園セイア襲撃事件の前日。
目を閉じる彼女の部屋は彼女意外と誰も知らない、秘密の部屋。彼女が動かなければ辺りは静寂に包まれ、空気が揺れる事は絶対に無い。
そんな中、彼女は小さな気配を見る。次の瞬間、後頭部からの銃器のリロード音、その音は彼女に向けられている銃口だと連想させ、それを的中させる様、尚口を開く事の無い彼女と対称に声が響いた。
「……百合園セイア、か?」
その声は作られた様に低い男の人の様な声、何も知らない者であれば彼女が暗殺を企んでいるだなんて思いもしないだろう。
それを肯定させ、名を自覚する。百合園セイアは銃を向ける彼女を待ち焦がれていた。そしてその名を呼ぶ。
「ああ、そうだよ。君を待っていたんだ――――アリウス分校所属『白州アズサ』」
「……待っていた?」
引き金を引く音が止まる。
彼女は振り向こうとはしない。そうすれば頭に一撃、一瞬にして勝負の着く戦いだからだ。だからこそ、その瞬間を待ち焦がれていた。
「夢でも、このシーンを繰り返していた―――固有解放」
「っ!」
瞬間、二人の間には長い机が用意され、対になる様に二人が座らされる。
一瞬彼女が困惑する事も確か。だがそれとは別に空間に干渉する幻の固有解放、それだと確信したそれに興味を示さない訳が無かった。
「これが……固有解放か」
「驚いたかい?もう既に名が知られていると思うと、考えるものもある」
陽が分からない程に真っ暗だったあの秘密の部屋から一変、夕陽が小鳥達をさえずらせ、安心させる空気が充満する。一度この空間に入ったなら出る事は不可能、例え戦いに慣れた暗殺者であろうと、キヴォトス最強であろうと。
「この空間は、一切の暴力は禁止だ。条件は、話し合いのみ」
「……要件は何だ?」
「要件も何も、私のヘイローを壊しに来たのだろう?」
秘密の部屋に居た時から、セイアは攻めに来るアリウス兵を見てきた。だが、全ての罠を初見で掻い潜った実力。それは戦いを始め数年で辿り着いたとは思えない領域。そのレベルは最早敵だったのにも関わらず、拍手と賞賛を送らざるおえなかった程だ。
「分かっていたのか――――じゃあ、何故逃げなかった?」
「……『無意味』だからさ」
本来、死ぬと分かればどんな手を使ってでも逃れようとする。それをセイアはしなかった。
本来であれば死ぬ事に恐怖を覚える筈、それが近付いていると分かった上で、何故逃げなかったのか。その問に、セイアは一言――――無意味だと。
頬ずえを着き、脚を組むセイアを目の前、アズサは一言も喋ろうとはしていない。
「『死』と云うものが、ここにおいて見えない概念である事もまた確か。それでも私達は生きているのだし、ともすれば『死』が隣り合わせでない事なんて有り得ないだろう」
百合園セイアのヘイローを壊す。それは、誰かが彼女の死を願っていると云う事。
そして、それを実行するべくここまで辿り着いた彼女自身も、また何か別のものに操られている『人形』
人を殺す為に生まれてきた存在に、何をしても無駄だと知っているセイアだからこそ、足掻いても無駄だと――――固有解放をせざるを得ないと。
「まあ、云っても、それ以外の理由が無い訳では無いが……所で、君は以前にもヘイローを破壊した事があるのかい?」
「……無い。だが――――方法なら教わった」
「………教わった?」
人を殺す方法。
ヘイローと云う異例の概念を身に付けた人間を殺す方法。それは、余り他と違った様な内容でも無い。
方法の一つ、肉体が取り返せない程の致命的なダメージを与え続ける。
街に生きる皆んなが使う様な銃弾では、相当なダメージも入らない。だが、完全な零では無い。
簡単な話、キヴォトス人が基準として持つその異常なまでの回復力を超える程の弾薬、それを相手が抵抗出来ない様に固定し途方も無い時間撃ち続ける。それは『尋常では無い程に』それだけの事を成し遂げれば、ヘイローを壊す事が出来る。
だが、アズサの云う方法は他にもあった。それも、銃よりももっと簡単な方法で。
病気、飢餓、無酸素、流血による死、低体温または高体温での拘束――――その方法は、人間と変わらない。結局は血を流せば死ぬし、病気にかかれば衰退しいずれ死ぬ。
「『死』なんて、思ったよりも隣にあるものだ。それに、『百合園セイアは身体が弱い』と聞いている」
「だから、その銃火器でも十分だと?」
使う事が不可能なだけ。だが、アズサの机の上には使う為のアサルトライフル、そしてサブ用としての拳銃が一つ置かれていた。それを指差し、十分なのかと聞いた瞬間、アズサは使えないと分かっていても拳銃を手に取り、座っている椅子を土台に飛んだ。
長い机を飛び越え、セイアの目の前まで来た瞬間、その銃口をセイアへ向ける。敵意は無い、撃つ事も、その引き金に指を置く事すらこの空間では不可能。それを知っていたからセイアも動こうとはしなかった。
「有り得ない話では無い。今の私には十分な時間も、優位性も保証されている。だから、この特殊な爆弾を使用する」
「それは……話の流れ的に、有り得ないとは思うが」
ヘイローを破壊する爆弾。もしそれが可能であれば、その時点で即逮捕、処罰は死刑か無期――――この世界でそれを作る事は、最早暗黙の了解と云える程の禁忌、あのミレニアムですら作らなかった爆弾を、目の前で見せられては幾ら無敵の空間と云えど怯えはする。
「なるほど……アリウスはそう云った研究もしているんだね『ヘイローを破壊する方法』と『人を殺す方法』を」
「……ああ、そう云う事を習った『学校』とは、そう云う事を『習う』場所なのだろう?」
瞬間、アズサの拳銃が落ちる。
違和感を感じたアズサはその場を離れようと身体に力を入れても一切の反応が無い。その時、アズサに初めて焦りが浮かんだ。
全身の力が入らず、地面に倒れ込む。何なのか理解出来ず、起き上がる力さえも無くなっていた。
「―――白州アズサ、一つ聞かせて欲しい」
「っ!」
セイアがアズサを見下ろし目の前に膝を着いた。その瞬間、これはセイアの力だと直感で感じる。
これが『空間に干渉する力』この空間自体が百合園セイアの手の中に有り、あらゆる法則も捻じ曲げ、自由にルールを追加する事の出来る。異次元過ぎる力。
何も出来ないと悟ったアズサは、一度戦う事を諦めた。その瞬間、全身に力が巡り戻る感覚がした。
「君は、『人殺し』になってしまっても大丈夫なのかい?」
「……………」
セイアは、ずっと見てきた。アズサの事を。
彼女が『人殺し』を恐れ、拒んでいた姿を。それを、望まない選択を選ばざるおえなかったその姿を。
『人殺しは如何なる善人であろうと、善行を行おうと、人殺しである』それを明確に分かっていた。それを知っていたから、絶望していた、怖がっていた。
もし人を殺した君が感じる絶望、苦しみ、怒り、後悔、挫折、無力感。そして全てを感じさせない『虚無』それは全て虚空へと消えていく。
このイメージは一生纏わり付く。誰もがそれを忘れたとしても、その血はその身に刻まれ、誰も知らない所で、永遠に残り続ける。
それを全て知っているから、その一歩を踏み出したくないから、ここで留まっていた。
――――vanitas vanitatum
「私は、知っているんだ。君がこの言葉に同意しながらも、何処かで否定していると云う事も」
そうだろう。
その何も無い道に生えた一輪の花を見つめ、君はそう考えていた。
『全ては虚しいもの』だ――――しかし『それでも足掻かなければならない』と。
「これが君の根源に根差すもの、君を生かし現す心象……私にはよく分からなかったけれど」
「……私の事は、何も知らなくて良いんだ」
「君は、私を殺しに来たんじゃなくて……私に助言を貰いに来たんじゃないのかい?」
小さな窓から月光が射す。
既に空間は解かれ、セイアはしっかりとした目で彼女を見つめた。
呼吸一つさえ五月蝿いと思える静かな空間に、アズサだけに光が射された。震えるその瞳を奥を捉える様、二人だけの空間が、新たな歪みを生み出そうとしている。静寂が五月蝿い、それを切り裂く様、アズサが口を開いた。
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―――午前三時、トリニティ本館及び、ティーパーティー専用の部屋を含めた数部屋を巻き込む大爆発が発生。
―――午前三時二分、トリニティ救護騎士団団長、青森ミネ到着。
「っげほ……こ、これは……!」
結果として本館の一割を丸ごと燃やす大爆発が発生、中心となったであろう百合園セイアの部屋に到着後、百合園セイアの探索が始まる。
以下、当時の情報からのまとめ。
午前三時五分、損傷が酷く、身体共にヘイローが大体八割割れた状態での発見。発見者青森ミネは即座に保護後、最低限の処置を施し、その現状をティーパーティー全体へ報告。
部屋の損害は大きく、他とは違う幽閉された謎の部屋であったが、中心と云う事もあり、部屋と呼べる様なものでは無くなっていたと語られた。
午前三時十二分、突如として起こされた百合園セイア襲撃事件を隠蔽するべく、情報の隠蔽工作共にその犯人探しが行われた。
その後、午前三時四十五分。
『ティーパーティー百合園セイア共に救護騎士団団長青森ミネ、行方不明』
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「……未だにお二人の行方は分からず、ここまでとなっております」
「……成程」
シスターフッドの扱える固有の図書館での合間、木の少しの軋みだけが静寂を揺らす。
エデン条約が間も無く締結を迎える。その時点で情報を纏めるべく、セイア襲撃事件からの情報を持つシスターフッドのリーダー『歌住サクラコ』への対談を求めた。
結果話す事に成功し、今こうして纏めている。
セイア襲撃事件、そして同時に二人の失踪。それをサクラコはこう解釈した。
ティーパーティーから私達へ伝わる情報では『百合園セイアは遺体となった』と云われていた。だが、その情報こそがフェイク。それを利用しミネは『ヘイローが破壊された』と云う偽の情報を流し続け、セイアを安全な場所へ隔離したのだと。
そう情報を流し続ける事で、『ヘイローが壊された生徒を狙う訳が無い』と思わせる。それこそが最前の方法だった、ティーパーティーと云う高位な存在が襲撃される異常事態、現場を見ているミネは誰を信じるべきかは難しい所。ならば自分の手で――――
「実際の所、犯人がミカさんだった事を考えると、彼女の判断は正しかったと云えますが……しかし、セイアさんはまだ目を覚ましていません。爆発の傷は癒えたものの、未だに眠り続けている状態……団長も、原因は分からないと……」
「……なるほど。それでまだ二人の居場所は分からないと」
「これが、大体のセイアさんと、その襲撃までの経緯です」
この話をサクラコに聞いた事には理由がある。と云っても、エデン条約の終結。それをセイアにも伝えたいだけなのだが。
結局セイアの居場所は分からずじまい、どうしようかと悩んでいると、図書館の扉がゆっくりと開いた。開けた本人は、ハナコだった。
「先生、お元気ですか?」
「ハナコ、ちよっと話をね」
「あらあら、それは……失礼しました♡」
「何か勘違いをしていませんか!?」
珍しくサクラコが大声を上げた。別にそんなつもりは無かったが、そう思われてしまったのか。
少し威嚇的な目で見つめるサクラコを背に、ハナコも近くの席に着いた。サクラコをため息をつくと、真剣な眼差しでハナコにある『約束』の話を持ち出した。
「……ハナコさん。あの時の約束、忘れてなどいませんよね?」
「……勿論ですよ」
約束、それは補習授業部としての最後の試験が終わった数日後の出来事だった。
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聖堂の中、マリーに突然来て欲しいとモモトークを貰った。
現場に行ってみると、マリーとサクラコ、そしてハナコが居り、その時にその『約束』の話を思い出した。
「もしかして、前に云ってた。シスターフッドの約束……?」
「あら……口に出ていましたか?」
「……シャーレの先生、これは貴方の介入するべき問題ではありません」
約束の話は、少し前にハナコがボソッと云っていたのを聞こえてしまった。それは分かっていた。その上、私が介入するべきではない事も理解していた。
だが、今この状況はまずマリーから送られてきたもの。と云う事は、少なからず問題が発生していたと云う事。
そして、介入するべきでは無い事は分かっていた――――だが、『シャーレの先生』と云われる事は違う。
「シャーレを担当する顧問は、理由されあれば如何なる問題も介入が可能なんだ」
「……介入する理由が有ると?」
「勿論」
そう云い、ハナコの肩を私の方へと寄せ、少し強い視線を向けた。
私を覗いたその場の全員が一瞬、目を見開く。あのハナコでさえその想定外の動きに対応が遅れ、半分先生に抱き締められている様な状態である事を理解した途端、少しだけ顔を赤くしていた。
「ハナコは補習授業部の、私の生徒だから。これ以上に理由、いる?」
「……成程、理解しました」
「……す、すいません!私がお願いしたんです!」
お互いに火花が散る時、マリーがそう謝罪の声を上げた。
マリーがお願いした事、ハナコを助ける為に、サクラコを説得して欲しいとお願いし、ハナコを助ける代わりに、ハナコには退学を撤退して貰うと云う条件を付け、いざサクラコと対面し、結果として私を呼ぶ事になったのだとマリーは説明をした。
「私では、ハナコさんを止める事が出来なくって……ハナコさんの事を、全く分かってあげられなくて……こんな事になってしまって、ごめんなさい。でも、私には、ハナコさんに学園に残っていて欲しいんです……」
「マリーちゃん……マリーちゃんが謝る事ではありません。色々と勝手な事をして、皆んなを心配させたのは私なんですから」
寧ろ謝るのは私の方だと、ハナコもマリーに対して謝罪を返す。
それと同時に、ハナコは退学を考えていないと明けてくれた。それを聞いたマリーは表情が少し明るくなり、本心で思っていた事が分かる。
心配を掛けてしまったと、謝るハナコに、マリーはもう一度本当なのか、と聞いた。そして、ハナコは私の方を向き、云った。
「私は辞めませんよ……補習授業部で習ったんです――――『足掻く事』は悪い事では無いのだと、泥臭く汚くとも、その価値は失われるものでは無いのだと。ねぇ、先生」
「……うん」
微笑むハナコには、微笑みで返した。
退学はしないと改めて伝わったマリーは、私もハナコに感謝の言葉を述べ、お辞儀までをして感謝を伝えてくれた。
そのまま笑って終われるかと思った矢先、サクラコが不服そうな目で私達に云う。
「……ですが、それ一つでは足りませんね」
「……サクラコ様?」
「もう一つ、お願いがあります。ハナコさん」
それが『約束』私とマリー、そしてサクラコとハナコだけが知っている秘密の話。
その約束の話、それは―――――
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「『登校時の制服には、裸のみを認める』……そんな校則を作り、トリニティを『裸の楽園』つまり新たなエデンへと変える計画に手を貸して欲しい……でしたよね?」
「………はい?」
ハナコの云った『約束』それは到底人間が思い付く様なものでは無く、突然の事にサクラコも戸惑う所か、何を云っているのか分からない様な顔をした。
サクラコの話す隙を与えない様ハナコは続けてその『約束』の事について真面目に語り始めた。
「まさかあのシスターフッドがこんな陰謀を企んでいただなんて……流石はサクラコさん。侮れませんね」
「あ、あの……何の話です?」
「もしやお忘れですか?あの例外に関する条項『原則は全裸、ただしシスターフッドのみ登校時にベールの着用を認める』――――こんな私でも思い付かない様な『新しい世界』を見せてくれるだなんて……そんなうらやま……私の立場上、今は協力せざるを得ません。必ず、成功を――――」
「あ、あの、勝手に話が飛躍していますけど!?」
「しかし、そのベールの件はズル過ぎます!ですから私の提案ですが『原則は全裸、ただし全生徒、靴下だけは着用可能とする』で如何でしょうか!」
サクラコが今まで見た中で一番声を出し、真剣な眼差しをしているハナコにそれならその要件を飲むと、終始何を云っているのか分からない提案をされてしまい、サクラコも怒りや戸惑いを通り越したまた別の感情が思考の一面を塗り潰していた。
私も聞いていたが理解が追い付かず本能が思考を放棄してしまった。そしてその隣では、何時どのタイミングで来たのか分からないマリーがこの世の終わりの様な青ざめた顔をしながら、そんな偽りの計画を立てていたらしいサクラコに目を向けている。簡単な地獄絵図だ。
「何を云ってるんですか!貴方はっ!」
「そんな……あの話は無かったと云うのですか!」
「無かったもどうも、そもそもそんな話してません!!」
あの常に冷静を装っていたサクラコが大きな怒りの感情を露わにし、立ち上がったと同時、あの時の『約束』を大きな声で叫ぶ。
『サクラコ達がハナコの頼みを聞く代わりに、ハナコもサクラコ達からの頼みを一つ聞く!』
それが本来の『約束』の意味であり、この約束を果たす為にシスターフッドは私達の要件を深くは聞かず、全面的に協力していた事の理由にもなる。
怒りのまま叫び空気が抜ける様にため息をついたサクラコにハナコは思い出したかの様に苦笑いで「そんな事もあった」と云い、本当に忘れていた様に聞こえた。
その一瞬でサクラコはハナコの行う全ての一挙手一投足が目障りに感じ始めたが、それを何とか自分の内側に収め、約束の話を続けた。
「本当なら、ハナコさんがシスターフッドに入ってくれれば一番楽なんですが……それは、今のハナコさんには違うと感じます。今回の協力も、あくまで私とハナコさんの間であった『契約』ですがこれを理由に、私達の『無干渉主義』も変わってきます。これからは政治的な事も徐々に踏み込む事になるでしょう」
「ハナコは、それで良いの?」
ハナコが自分の命を捨てるよりも嫌いなトリニティの中心部、それに関わる事自体がストレスであり、抵抗のある事の筈だ。
決断を決めようとした時、それよりも先にサクラコは話はまだ終わってはいないと付け足した。内容は無茶な要求はしない。あくまで『手伝ってもらう』と云う形であり、無理矢理にでも無く判断はハナコに任せると云うもの。
ハナコは本当のトリニティを知ってから性格が変わったと云う。その根本にはシスターフッドを含む『トリニティ』本当ならば、首を括った方がよっぽどだと云えるだろう。
だが、その脳裏には幸せに笑う自分が居た。独りじゃ作れなかった、純粋な笑顔。
ハナコは補習授業部に来てから、偽の笑顔を皆んなに向ける事は無かった。それ程までに《ruby》皆んな《rt》補習授業部がハナコを変えた。それをハナコは一番理解していた、だからこそ、その約束を持ち掛けた。
――――ハナコは、端からその提案を受ける気で居た。
「……仕方ありませんねぇ。セイアちゃんの襲撃事件、その実行犯はお察しの通り、アズサちゃんでした。セイアちゃんの部屋が爆発されたのは夜中の三時、しかしその部屋に侵入した時刻は夜中の二時頃。この一時間、アズサちゃんとセイアちゃんは共に、そのお部屋に居た事になります」
「……その間六十分、何の話をしていたのか。ですね」
話は戻り、ハナコから話された内容で一番気になるものは『空白の一時間』その間に何を話していたのか、何をしていたのか。
その件について、事前に話を聞いていたハナコからも「余り聞けなかった」と語った。それ程までに話せる内容では無いのか、それともまた別の理由があるのか。真相は分からないが、疑問点である事には変わらない。
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セイアはこう云った。
エデン条約が締結すれば、ゲヘナとトリニティ間での無駄な紛争が終わり、アリウスの問題は時期に解決出来るかもしれない。
少なくとも、この両校の根深い問題を解決する為の最後の手段――――最後の砦であるのは、このエデン条約しかないだろう、と。
『既に期待などしていないのさ。五番目の古則『楽園の証明』それが不可能だと、このキヴォトス内で誰よりもよく知っているからさ』
「だが、尚全てが破局へ向かっていると知っているのに、私が足掻くと云うのなら………」
『私の、知恵を貸そう』
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「『セイアが死んだ』と偽装する為には必要な事だった。アリウススクワッドを騙す事がどれほど難しいのか、私はよく知っている。手段は限られていたんだ……。セイアは全ての出来事を隠蔽するのなら、その助っ人として救護騎士団の団長を指名した『何も深い事は考えず、思うがまま爆発させろ。この後は全て彼女に託せ』と云い残して」
その後の爆発はアリウススクワッドが見えない場所で確認していたらしい。
だが、そこまでの会話は聞かれていない。その後の爆発を実行し、トリニティ内での騒動や情報を総合した。そうした事によりアリウススクワッドは皆アズサが任務に成功したと信じ、信頼を得る事に成功した。
そこまでが、セイア襲撃事件の全貌だった。
事情聴取部屋でアズサ、そしてハナコとヒフミが部屋の中でソファに座り待機をしていた。そうして暫くすると、その部屋にティーパーティー専用の監察官が入り、対面側の椅子に座る。
一連の話を聞くと、監察官は一言云った。
「……成程」
「その後については、私も知らなかった。まだ意識を取り戻せていないと云う事も……」
意図してセイアを傷付けた事に罪悪感が残っているのか、少しだけ気分が落ち込んでいる。そんなアズサを慰める様、外傷は完治しているとハナコは云った。
監察官がアズサへ襲撃命令を出した人物が『聖園ミカだと知らなかったのか?』と聞くと、アズサはたじろぐ様に言葉を詰まらせた。
目を細める監察官に、ハナコはアズサを庇う。大前提、ミカは全体の姿を隠し正体を分からない様にしていた。その為、命令を受けるだけのアズサでは正体を知る事は不可能。そんな中、隣に居るヒフミがアズサの弁護を行った。
「あ、アズサちゃんは人殺しではありません!あの時も、ナギサ様を守る為で……!」
「済まない、怒らせるつもりは無かった。ただ立場上、聞く事が仕事でね」
庇う二人を抑え、アズサが云う。
実際に命令を下したのは聖園ミカでは無く、アリウス分校から生まれた、アリウススクワッドのリーダー『錠前サオリ』正確には、アリウススクワッドの指揮を行っているのも彼女だと白状した。
つまり全て人物の狙う目的は誰一人協力しておらず、偶然状況が噛み合い今の状況が出来たと云う事。
その上、ヒフミの云っていた『ナギサを助けた』と云う事は事実となる。
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「……セイアさんを襲撃した事は事実。ですが、ナギサさんを守り抜いた事もまた事実……その過程で数多の試練がありました。特別学力試験にも合格。結果としてアズサさんを含む補習授業部は、明確な結果を残しています」
「と、云う事は……?」
「私達から云える様な文句は一つも御座いません。彼女の書類は、私が正式な物にしておきます。我々が、シスターフッドがその事実を、変える様な真似はさせません」
アズサのした事、確かにセイア襲撃事件は到底許される様なものでは無い。だがそれ以上に、得た功績が大きすぎた。
ナギサの死守、最終試験含む補習授業特別学力試験の高得点にその為戦闘での補習授業部共に先生の護衛、そして命令にも関わらず隠し事をしない様に直ぐ様白状したその姿勢がサクラコへの評価へと繋がった。それを聞いた瞬間、ハナコは立ち上がり、笑顔でサクラコへ感謝の言葉を送った。
「ありがとうございます、サクラコさん!」
「……私からも、ありがとう」
「ええ、これで、今この瞬間白州アズサさんは正式にトリニティの生徒へとなりました」
これで無差別にアズサが怪しまれる事は無くなった筈だ。だが、サクラコが云う様に、正式にトリニティの生徒になったからと云って問題が解決した訳では無い。それに、元々居たアリウス分校の事については全くと云って良い程手が付けられていない事も事実だ。
「では、私達はまたやるべき事があるので、これで」
「はい、お二人共、頑張って下さいね」
正式な書類はまた後日だが、口先だけでもこの瞬間にアズサはトリニティ生徒へとなった、これだけでも十分過ぎる成果と云えるだろう。
サクラコとマリーが部屋を出た後、二人で軽くハイタッチをした。一先ず、これで今出来る範囲の事は出来た。それだけで
十分だ。
「先生も、お疲れ様でした」
「ハナコも、お疲れ様」
二人で褒め合っていると、ハナコがふと思い出したと口に出した。
最終試験が終わり、合格を叩き出した補習授業部は無事卒業となり、その間の期間は基本自由となったのだが、その自由な期間を使い、ヒフミはナギサの元へと行ったらしい。ナギサの事は、一連の事で酷い事をしてしまったと云うのは自覚していた。もし二人出会えるタイミングがあれば、謝ろうと思っていたぐらいだ。
ナギサも一連で、癒えない傷を与えてしまった。直接的では無いにしろ、助けられずその影響で怒りに身を任せてしまったアズサは合わせる顔を持っていないと顔を出そうとはしておらず、その代わりにヒフミが出向いたと云う訳らしい。
「……私も、後で顔を出そうかな」
エデン条約が、間も無く締結する。その最後の時まで私は見守る者で居なければならない。
それが、大人としての責任と云うのなら。
第三章が始まりましたが、一応報告しておきます。
もう暫くお休みが続きますので、投稿まだ遅れます!すいません。
理由としては、過去話を見直ししていたら実質書き直しみたいになってしまい、シンプルにリアルとの時間が無くやり切れていないからですね。大体の理由はこれです。
投稿も再開していきたいので、全話見直しをしてから再開はしないと思います。更新分が出来たら投稿と云う感じでやっていきますので、今までの様な投稿速度では出来ません断言します。
一応、三章自体の進行や構成は考え尽きているので、やろうと思えば直ぐにやれる感じです。なので単純に投稿速度が激遅になるだけですね。
私の悪い癖で見切り発車をしたり先の事を考えているのに手は動いていなかったりなど本当に長編に向いていない身体をしているので、私はこのレベルだと思いながら見てくれると有難いです。
第三章、主に先生の事メインでやっていきます。過去?前世?先生が先生として成る物語でしょうか。軽い気持ちで待っていてください。
密かに目標にしていた総合pt500を達成しました。ありがとうございます!