「――――コハルちゃん!」
「っ……?」
ハナコの叫び声も聞こえる、そんな声で目を覚ました。頭を強く打った様な衝撃が脳を揺らす。ぶれる視界の中コハルはハナコが押し倒している事に気が付いた。
普段であれば調子に乗ったハナコがおふざけでコハルを押し倒す。そんな事何度だってやってきた。こんな時に限ってやるだなんて――――
「な、何して……!」
「無事ですか、怪我は……?」
「け、怪我?何の事……?」
コハルはハナコが何を云っているのか、一瞬理解が出来なかったが、両手を着いて真上から見下ろすハナコには焦りと謎の息切れがあった。滲み出る汗がぽたぽたと地面に落ち、少し濁った色がコハルの頬に落とされる。
その瞬間、コハルにも正体不明の不安が襲い掛かる。何をそんなに焦っているのか、声も出せずただ全身が痛い事だけが脳内を染め上げ、コハルがハナコに触れようとした時。
「なら……良かった」
「は、ハナコ……ぇ?」
ハナコがコハルを避け倒れ込む。視界が晴れ、辺りを見渡す。まるで別世界に来てしまったと思ってしまう程に建物は燃え、崩れ、大勢の人々が倒れていた。
息が出来ない程壊れたこの場所は、地平線まで、無限に思える程続いている。倒れているハナコを見つめると、気絶しているハナコの背中にびっしりと赤と黒の混じった何かが張り付いていた。近付いてみると、妙にぐちゃぐちゃしていて、凸凹している。
そして、それが何なのかを知ってしまった。
「これ……って……え……?」
キヴォトスの人々が耐えられないもの、そんなものこの世界には無い筈。だった。
だが、確かにコハルが見たものは『ニク』外からでは見られない見るに堪えない部分。それは皮を破り内側から――――それを想像した瞬間、脳はそれを拒否し手は口を抑えた。ただでさえ『地獄』の言葉が似合う状況、辺りを見渡しても立っている人は愚か、座っている人も見えない。
「だ、誰か……誰か!」
「ぁ……ひ、ヒフミは!?」
正面にはヒフミが居た。それだけを考え立ち上がる。ハナコが身を呈して守ってくれたお陰でコハル自身に大きな負傷は無し、五体満足に動ける状態。それだけを確認した後周りを一周見渡すと、見慣れた金髪が倒れているのを発見した。
急いで近付いてみると、案の定倒れてたのはヒフミ。だがこちらも負傷が酷く、右半身に大きな火傷の跡が残っていた。だがハナコ程では無い。これは建物の構造上ヒフミは分厚い部分に位置していたお陰でハナコの様にはなら無かったのかもしれない。
「ヒフミ、大丈夫!?そ、そうだ救急車……救護騎士団!」
苦しそうに眠っているヒフミに揺さぶりを掛けてもピクりとも動かなかった。頭は段々と冷静さを蘇らせ、二人を助ける方法と状況を理解する為に必要な事。同時に考えていると頭の中に『救護騎士団』と云う言葉が思い浮かんだ。
急いで電話を取り出し、電話を掛ける。中々出ない事にどんどんと強い焦りを覚えてきたコハルは、ヒフミの手を握り涙を堪えながら待つ事しか出来なかった。
︎ ✦︎
瓦礫が山を作っている。――――何が起きた?分からない。ただ、眼の前の事に必死で、自分の事なんて考える暇無かった。瓦礫から手が伸びる。守れた。本当にギリギリだった。
直後、瓦礫の山から無傷のヒナタが現れる。対象一人を遠距離からでも身も守る事の出来る青の眼。突発に使った筈だが、久しぶりにしては上手く扱えた気がする。何せ、傷一つ付いていないのだから。
ヒナタが辺りを見渡すと、当然の様に固まった。それは無理も無い。草原の様に見渡せる赤黒い空、そして燃える街。私の居る小聖堂所か、ここら一帯――――いや、恐らくトリニティの半分以上が同じ焼け野原状態だろう。突然の事に状況を掴めていないヒナタは、先生を見た瞬間表情が見た事も無い程絶望的に変わっていった。
「――――先生!!」
「……ぇ?」
ヒナタが泣きながら座る先生の元へ近付いた。ヒナタが先生に触れると、先生は自分が今どうなっているのか。理解した。
左腹、左脚、右脇には鉄パイプの様な何かが突き刺さっており、包帯を超え、スーツの外側まで血が滲み出ている。道理で、動けなかった訳だ。
脳が理解をした瞬間、口から有り得ない程の血が溢れ出る。心臓が一度一度音を鳴らす度血液が逆流し全身から溢れ、滲み。息を切らした。
「先生……先生!どうすれば……どう、すれば」
「無事で……良かった」
青の眼は健在、一度ヒナタのを解除し私自身、特に突き刺さっている部分に焦点を当てる。
「ヒナタ……この刺さってるやつ……どうにか出来る?」
「は、はい!今すぐに!」
ヒナタは刺さってる鉄パイプの根元に行くと、根元を手刀で断ち切り、傷付かない様素早く抜いた。同時に血が滝の様に溢れ出る。正直先生自身『もう助からない』それを悟っていた。だがこの状況、そして皆んなの安否を確認するまでは死ねない。その一心で右手に力を込め青いシールドを刺さっていた部分に埋め込み出血を止めた。
試してみると思ったより上手くいき、頭はぼーっとするが、腕や脚は多少正常に動くレベル。満足とはいかないものの、充分過ぎる程だ。
「先生、今すぐ救護騎士団の元へ……!」
「うん……でも、皆んなはどこに?」
「皆さんなら……」
――――ここに居ますよ。
その声と共に現れたのは、随分とボロボロになっているツルギとハスミ。どちらも不明の爆発の影響で所々焼け跡や飛んだ瓦礫による傷跡が多くの箇所に付いていた。
一先ず安全な事を確認した後、近くの病院を調べようとタブレットを取り出した。
「アロナ、近くの……あ、あれ……アロナ?」
普段なら、いの一番に飛び出し生徒にバレかけるなんて日常的だった。それなのにタブレットの電源を押してもロック画面すら映らない。電源が切れたか、衝撃で故障したかだがそうなると中にいるアロナはどうなる?
考えている時間は無い、ツルギかハスミに聞けば病院なんて――――
そう考えていると、視界の端に何かが立っているのが見えた。
「君達は……?」
「貴方達は……もしかして……!?」
「……ユスティナ聖徒会か」
その言葉に、目を見開く。
シスターフッドの前身、そして正義実現委員会の役割を担っていた武力集団。その実力は、当時のトリニティを代表するには充分過ぎる程だった。
青い炎の様な肌を上げ、黒い聖服で身を包む。神聖な存在はトリニティを超え神から恩寵を授かっている。それを伝えんとばかりに異様なオーラを解き放っている。そして先生達の目の前に立つ数百人のユスティナ聖徒会の中心に、他とは違う武器を持っていない聖徒が居た。
「古書にも書いてあったが、あの古書に書いてある事は本当らしいな……行くぞ、ハスミ」
「えぇ、分かりました。先生はヒナタさんと共に……」
「い、いえ!私も行きます!」
立ち向かう二人に、ヒナタも着いていこうとした。ハスミは一瞬止めようとしたが、ヒナタの顔をジッと見つめた後その目は優しく、微笑み、三人は前へ立つ。
先生を守れる様三人で先生の正面、両脇に位置しツルギが口角を釣り上げた。
「ユスティナ聖徒会……私の目の前に居る奴は、当時の委員長だ」
「っ!?」
「やはり……一人だけ、レベルが違うと感じられますから」
当時のユスティナ聖徒会は現代の正義実現委員会にも対抗出来る程強かったと云われている。実力は同等、ツルギは自分と同等、それ以上に強い奴を初めて見たと笑い同じく武器を捨てた。心の底から笑えなくなった自分が、これだけ気が高まっている。その事で笑いが止まらず、久しい死闘に底知れない興奮を覚えた。
「お前ら、固有解放は使うなよ――――目の前の奴は私が殺す」
「先生を第一優先に!」
「分かりました!」
ツルギが一歩踏み出した瞬間、辺りの聖徒達が見た事も無い銃を取り出し先生達に向けた。刹那、ツルギが飛ぶ。
︎ ✦︎
トリニティ廃墟地点。
通功の古聖堂から数十km離れた廃墟からでも爆破の影響は大きく、瓦礫の先は赤く、折れていた鉄骨も本来の半分になっている程溶けていた。
元から人の居なかった廃墟、今更気にする必要も無い。だが片方にとって、それは必要な作戦の場でもあった。
爆破から数分後、恐ろしくも綺麗な満月の下、彼女が帰ってくる。
「全員、武器と配置は確認したな?」
「してあるよ……それよりも、あの爆破はどれだけ被害を出したの?」
「あ、それ気になります……どれだけによって配置を変えるとかも出来ますしね……」
アリウス分校所属、主部隊『アリウススクワッド』錠前サオリをリーダーに戒野ミサキ、槌永ヒヨリ、そして姫の血を持つ者『秤アツコ』エデン条約破壊を実行し、これから先生に立ち向かう者達が今出向こうとしている。
ミサキがサオリに問うと、サオリは小指サイズの小さな瓶を取り出した。
「『彼女』から直接手渡しされた試作品、この中に入っている紫色の液体を一滴街外れのどこかに落とした」
ゲヘナ、トリニティの視覚を掻い潜り街外れ。五百メートル上から一滴落としたと云う。落とされた液体は空中の空気に触れ、落とした数秒後、今の状況を作り出した。
今の状況、トリニティ特に通功の古聖堂周辺そしてゲヘナ半分程度を巻き込んだ大爆発は、現時点でも多くの怪我人と死者を出している。建物も範囲に入っているものは全て破壊され、どこから見ても地平線まで見える程破壊の限りを尽くされている。
「数十万は云わずとも、少なくとも数万人は確実に出ている。クロノスも動いていないとなると、巻き添えでも食らったんだろう」
「そう……ならいい」
「トンデモナイ威力ですね……一体何をしたらそうなるんでしょう……?」
「『彼女』の知り合いが作った物だから素材は知らない。だが、見た限りではゲヘナの奴等はトリニティの奴等に比べてダメージが少ない様な気がする」
トリニティでは既に相当の人物が即死もしくは大怪我を負っており、それに比べゲヘナは即死、大怪我も出ているものの実力を持っている者であればある程度抑え込まれている。
トリニティもゲヘナも最強クラスの者達は五体満足に動ける他、即座に対応が開始されている。
「ヒヨリとミサキはゲヘナの風紀委員長、トリニティの戦術兵器を相手にする。奴等も怪我を負っているとはいえ、簡単には殺れない……油断するな」
「は、はい!」
「……了解」
地獄に、アリウススクワッドが脚を踏み入れる。
︎ ✦︎
赤い夜、燃える街中に黒塗りの車が横転し瓦礫の山に覆われた。直後、瓦礫は全て弾かれ風圧で風を消す。
通功の古聖堂、ゲヘナ通りの道。そこに現れたのはゲヘナの風紀委員長『空崎ヒナ』
既に全身を打たれ、頭からは血が流れ落ちている。赤い月の元その姿を顕にした。
「……なんなの、これ」
ふらふらと今にも倒れそう、それでもそれを『敵の攻撃』と確かに認識した。
やったのは誰?トリニティ?ゲヘナの誰か?どれも違う。目の前には青いシスターが見える。それはトリニティの古書に書いてあった見た目とそっくりだ。
「貴方達……貴方達がやったのね」
「――――思ったよりも、傷が浅そうですね……」
声が聞こえた。私の目の前に居る。彼女は誰?ゲヘナでも無ければ、トリニティでも見た事の無い生徒。
空崎ヒナの目の前に現れたのは、槌永ヒヨリ。正体を知らずとも、彼女の目には冷静に、誰なのかを理解した。
「貴方……誰?」
「止めろって云われたので……辛いですよね、苦しいですよね……傷は浅くとも、内部へのダメージは大きい……今、立っているのがやっとな筈です」
「……答える気は無さそうね」
すると、ヒヨリは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、大型のスナイパーライフルを取り出した。それはどこのものでも無い、ましてや見た事も無い銃。
その銃を見て、ヒナは内心別の感情――――ただしくは『怒り』を感じた。そして云う。
「私相手に……武器を扱うだなんて、幾ら有利とは云え油断し過ぎじゃないかしら」
「私なんかじゃ勝てないので……出来るだけ、足止めを……」
「……そう、随分と舐められたものね。私も」
息を吸い、両翼を大きく広げる。視界が朦朧とする中、無理矢理身体の内側から力を入れ、正気に戻した。
彼女の周り、空気が一変する。重く、苦しい。常人では耐えられない様な圧。久方ぶり、風紀委員長が本気を出す。
「後から増援も来る……ここで、主力は一人でも多く潰してとくべき――――覚悟しなさい」
「お手柔らかに、お願いします……!」
︎ ✦︎
トリニティ本館、セイアの眠る病棟へ大軍が押し寄せる。誰もが一級の力を持つユスティナ聖徒会であり、狙いは百合園セイアの首。
既に半分以上が爆破の影響で倒壊し、セイアの居る病室ギリギリまで顕になっていた。絶体絶命、そんな時病室の壁が粉々に砕かれる。苦しそうな顔で眠るセイアの前線を、一人の少女が大軍の前へと立ち塞がった。盾とショットガンを持ち、怯える事無く。
「状況、理解するまでに少々時間が掛かりますが……一先ず、目の前の御方達からですね。セイア様を命に代えても守ると云う命令、必ず成功させて見せましょう」
大軍の目の前に現れると、盾を大振りに地面へ突き刺す。その瞬間、辺りの数十メートル先まで瓦礫が吹き飛ぶ程の風圧がユスティナ聖徒会を襲いそして、静かに空気が震えた。
「トリニティ救護騎士団団長――――蒼森ミネ!参ります!」
命令:『命に代えティーパーティー『百合園セイア』を死守せよ』
全員が全員視点が違うせいで作る視点が多すぎる。狂いそう( ᐛ )<ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!