「貴方達の目的は何?」
「私達はアリウスを……えっと……?」
「……分かってないの?」
赤い戦場の上で会話を交える。アリウス分校所属アリウススクワッド二年『槌永ヒヨリ』は特殊に改造されているであろうスナイパーライフルの銃口をヒナに向けたまま、質問に答えようとした。正確には答えようとしても答えられなかったヒヨリを見てヒナは何の為に戦っているのかを理解しているのか心配していた。
敵にして心配を掛けるなど戦場では言語道断、それを理解していても辞められはしない。その間にも、ユスティナ聖徒会はどんどんと湧き上がってくる。
早い所決着を着けよう、その考えでヒナは愛銃でもある巨大なマシンガンを取り出し、片手で担いだ。
ついに始まる――――ヒヨリは次にヒナがどう行動してくるのか予想を立てる。マシンガンを取り出したのなら、先ずは遠距離からユスティナ聖徒会を処理もしくは皆纏めて一蹴するつもりだろう。油断はしない、目を凝らし警戒を解くな。
次の瞬間、ヒヨリの視界からヒナが消える。脳をがそれを認識した時、ヒヨリは顔面を掴まれ地面へ叩き付けられた。衝撃が地面を抉り、余波で周囲の瓦礫を吹き飛ばす。飛んだ瓦礫は異常なスピードでユスティナ聖徒会を消し飛ばしていき、余波が収まる頃にはクレーターを作った上聖徒会も数人まで減っていた。
「これで、終いよ」
「風紀委員長相手に油断し過ぎたのよ、貴方達は」
初手のマシンガンはブラフであり、ヒナは既に一撃で仕留める準備を思い付いていた。今の状況で行える技術、そしてアコ達の増援と相手の状況を知るのには、『この一撃で終わらせなければいけなかった』逆に云えばこの選択肢か選べなくなってしまった状況を作り出した時点で、ヒナ自身は負けを認める部分もある。そう感じていた。
相手は何人居るのか分からない。少なくともヒナ一人に出ている時点で複数人の行為、ここまでの大規模な犯罪二人や三人等では到底不可能――――
「彼女達の狙いは……今もこうしてのうのうとしている場合じゃ……誰の元に行くべき?先ずはナギサの所へ……いや、違う……!先生っ!」
忘れていた。先生は今日エデン条約調印式に出席している。となればこの近く、確実に被害は出ている。怪我所か即死の可能性だって――――想像した瞬間、額から冷や汗が垂れ落ちた。これ以上考えてしまうのは『嫌だ』だけどこれだけの被害、既に数万の負傷者は出ている、無事では済んでいない事なんて有り得る訳が無い。今優先すべきは『先生』
「せんせ――――」
古聖堂の方を向き全速力で向かおうとしたその時、後ろから震える程の殺意を感じ取った。振り返った瞬間目の前にスナイパーライフルの銃弾が迫っており、ギリギリで避けた銃弾は髪を掠め後ろの瓦礫に丸型の穴を開けた。
当たれば即死、そう感じさせると同時クレーターの中からボロボロになりながらも立ち上がりヒナの元へ向かうヒヨリの姿があった。
「まだです……まだ、終わってませんよ」
「中々にしぶといわね……」
「皆んなと……姉さんとやり遂げるって『約束』しました……から……っこんな所で寝てられないんです」
大ダメージを与えたとは云えヒナも爆破の影響で満身創痍、立っているのがやっとな程だ。これ以上長引かせてしまえば先生の元へ駆け付ける頃にはどうなっているのか。想像もつかない。
一番の可能性は固有解放だが、この戦争ともいえる状況。ヒナ一人の影響で全てが変わりかねない状況では簡単に使ってなどいられない。使用後の硬直、後の影響と考えればその選択肢は無し。次はこのまま突破する。これも奥の手である固有解放を残しながら進む事が出来るから戦略上安心ではあるが、その間に無事で居られる保証は無い。
今でこの状態、ヒヨリとの戦闘でより削られる上そもそも突破出来る事自体が怪しい。となればどうする?
「使うか……『もう一つの固有解放』」
「っ!?もう一つの……固有解放……?」
キヴォトスがゲヘナやトリニティを作り出した時、各学園に差を着けない様連邦生徒会長から直々にある力を設定させられた。
それは各学園のトップにはその学園の『本来の姿』になる事が可能と云うもの。ゲヘナは悪魔の学園、学園のトップ『風紀委員長』と『議長』には本来の姿『悪魔』に変異する事が出来る。悪魔になる事で膨大な力と高い戦闘力を持ち、躊躇う事の無い残虐性を身に付ける事が可能になるが、勿論デメリットも存在する。
それは『制御が効かない』高い戦闘力と残虐性を身に付ける代わり、脳すらも悪魔に支配され自分自身の意思で止める事は出来ず『倒される』か『満足する』まで意思関係無く殺し続けてしまう。
名前が無い、それ故各学園のトップ達はこの力を『もう一つの固有解放』と名付けている。
これを使えば自分意志関係無く悪魔が代わりに戦ってくれる。余程の事が無い限り負けないが、デメリットである止める事が出来ないのがデメリットとして大き過ぎていた。
「……もっと私に人を想う心が無ければ、今直ぐにでも使っていたでしょうね」
「……使わないんですね」
「使わない。この戦場一つ抜けれないで何が風紀委員長よ」
風紀委員長としての意地、そして今居る人々を出来る限り助け先生の元へ辿り着く。これを一度にやり遂げる事こそ『キヴォトス最強』に相応しい。
一度見せた技は二度効かない、それは強者の間で無意識に理解している事。初手の一手で倒せなかった以上ヒナは劣勢のまま、負ける事だろう。
頭から垂れる血を拭い、髪を掻き揚げる。薄く引っ付く手袋をしっかりとはめ直し、気合いも入れ直す。ヒヨリも以前劣勢のまま戦況を変えるべく、自爆も覚悟の『固有解放』で動きを見せた。
「勝ちますよ―――固有解放!」
「貴方も、中々に本気ね」
彼女の武器『アイデンティティ』自身の底上げと共に武器自体の性能を高く上げる。瞬間放たれた銃弾は孤を描きヒナの真後ろまで行った直後、操作したかの様に銃弾は軌道を変え速度を残したままヒナの後頭部へ突進し始めた。
ヒナは即座にその銃弾を上から叩き落とすと、落ちた銃弾は地面に当たった瞬間ゴムの様に弾き返し、ヒナの左目からおでこまでの一線を掠めた。
「っち!」
「ユスティナ聖徒会!ヒナさんの周囲を囲んでください!」
ヒヨリの声に反応したユスティナ聖徒会は複数人でヒナの周りを囲み、銃を構えた。聖徒会の持つ銃は現代では使われていない特殊な銃であり、その威力は一般的なものとは比にならない。それ故簡単に当たる事は許されない、それを知っているヒナは直ぐにヒヨリの方向へと走り始め、正面に居る二人の聖徒を打ち破り突撃した。
ヒナは勢いを着けるとそのまま高速でヒヨリに向かって蹴りを入れる。固有解放状態で身体を強化されているヒヨリにはその一瞬が見えアイデンティティを盾に蹴りを受け止めるが、そのまま数百メートル先まで飛んで行ってしまった。
一瞬の休息、息を整えるヒナは後ろを向きユスティナ聖徒会を見た。指示をしなくとも動き意志を持って彼女は戦闘者であってヒトでは無い。今更気を躊躇う必要も、無い。
中には武器を持たない聖徒もおり、目の前まで迫った所ヒナが顎に向かって掌底を繰り出すと、その勢いで聖徒は首から上を粉々に砕かれてしまった。その現象に一瞬ヒナは驚く。
「今のは……一撃で……?」
余りにも弱すぎる。実際には一人一人がしっかりとした個体であり戦闘力は高いが、防御面に関するステータスが明らかに低い。これでは一般市民や、先生の方がまだマシに思えてしまう程だった。だが、ユスティナ聖徒会の持つ力はそれだけではなかった。
ヒナが数歩後退ると、首から上の飛んだ聖徒はユラユラと炎を出しながら再生を始めた。まるで何事も無かったかの様に復活し、再び戦おうと向かって来ている。
「成程……高い戦闘力と不死の力を与えた代わりに、防御力が限り無い……いや、完全な零になったと云う事ね」
「流石風紀委員長さんです……」
声が聞こえ振り返ると、無傷のヒヨリが立っていた。ヒヨリを見つめているとふとヒナはある事に気付く。左目がぼやけているのだ。正確には銃弾が左目を掠めた時点で、左目だけが変にぼやけズレ、焦点が合わない。
毒なんかの異常性のあるものでは無い。掠めただけでもこれだけの障害が出るそれこそが『固有解放』であり、彼女の力でもある。
「貴方、強いのね」
「私何かより、ミサキさんやリーダーの方が……私なんかより、よっぽど凄い人ですよ」
「……ふふっ、自分に厳しい人ね」
曇りなき晴天の目、嫌味や自分を下げる為では無い『尊敬』を指す目。その姿に敵ながら微笑みを掛けた。
もしかすると和解が出来るかもしれない。もしかしたら――――そんなもしかしたらが、いつかの自分の首を絞める。一度決めた事は曲げるな。一選択で戦況が変わりかねないこの時に『和解』なんか願うんじゃない。
「私も、大人にならないとね」
「――――行きますよ」
次の瞬間、遠距離の利点を捨てヒヨリは一気にヒナの元へと近付いた。その速度は現状のヒナを超え、焦点が合わないと明かした事を有利に取った選択、ヒナは対応出来ず未だ棒立ち。一撃でも入れれば勝ち――――その勝機が、頬を緩めさせた。
ヒヨリが自身のアイデンティティをバットの様に持ち下から上へと振り上げる。『完全に入った』そう思った時、ヒナは棒立ちでありながら身体から力を抜き方向の流れるがまま『見て』『避けた』一瞬の出来事に理解が追い付かず、脳が理解した時既にヒナは構えていた。
「貴方は強い、強いからこそ自分の限界を知っている」
「強者を倒せる可能性を見せた実力者でありながら『謙虚』に『真面目』に自分の強さを閉じ込めていた――――その時点で、貴方は負けていたのよ」
懐に入り、ヒナは同じ澄んだ目をしていた。成長の可能性を魅せ、その一撃に強い力を込め誰よりも速く、衝撃的なものとした。
ヒヨリは咄嗟にアイデンティティを捨て両手での防御へ回る。両手を重ね合わせ迫り来る拳を受け止めた瞬間、酷い軋む音と共に本能が衝撃を受け止め切れないと判断。衝撃を逃がすべく当たった拳ごと上げようと弾くが、それも虚しくその拳はヒヨリの心臓より下、腹と心臓の間、横隔膜へと直撃した。
強い衝撃はヒヨリを通り抜け、線を描く。次の瞬間、その線をなぞる様に地面が崩れ、爆発音と共に数百メートルにも及ぶ巨大な渓谷を生み出した。
「――――あぁ」
「また何処かで、会いましょう」
血を吐きながら、表情を作る余裕も無く衝撃に身体が持っていかれ、そのまま後ろに作られた暗闇の渓谷の中へと落ちて行った。ユスティナ聖徒会はその衝撃で全滅、即座に生み出された個体はヒヨリを助ける為か躊躇う間も無く渓谷の中へと飛んで行ってしまった。
どれだけの深さがあるかも分からない渓谷の前で、静寂の中ヒナは立ち尽くしている。一瞬の安寧を求める様にも見えたが、ヒナ自身はやるべき事があると今にも動き出しそうだった。
「はぁ……はぁ……先生の、元へ……」
体力はまだあれど精神的、何より爆破の影響に慣れる間もなくヒヨリと戦闘を繰り広げたせいで身体が完全に対応出来ていないのだ。息も切れ切れ、瞼が異常に重たい。今にも倒れてしまいそうだが、先生の元へと今直ぐに行かなければいけない。
「動け……私の身体……!」
鉛の様に重い身体を壊れそうな程に動かし、走り始める。所々居る聖徒達を通り抜け、ヒナは古聖堂の方へと向かった。
︎ ✦︎
「敵が多いな……!ハスミ達は先生の近くへ!」
「ここは私達でどうにかします!シスターヒナタは先生を安全な場所へ!」
数十人のユスティナ聖徒会に加え、ツルギですら多少苦戦するリーダーらしき聖徒。戦況は一向に変わらず、先生の身体にも限界が近付いてきていた。
ハスミの命令を聞いたヒナタは即座に承諾し先生の元へ来る。何処に連れていけば良いのか一瞬の迷いが生まれ、動きを止めた瞬間――――突然の爆発音、そして空から小さなミサイルの様なものが降り注いだ。一瞬だけ力を解除しヒナタと先生の上へシールドを貼る。爆弾は的確にヒナタと先生を狙っており、もし仮に解除していなければその時点で即死だった。
それでも一瞬の解除だけで左半身に死に絶える程の痛みが走る。叫び声も上げられない様な圧倒的な痛み、即座にシールドを解除に先程の同じ様な抑え方をする。
「今の爆発音は……!」
「先生……相手が顔を出して来ました。今すぐ逃げた方が良いです」
リーダーらしき聖徒の後ろから、誰かが姿を現した。それはユスティナ聖徒会とは違う制服を身に付け、先程撃ったであろう武器を両手で持った生徒。
黒いマスクで顔を半分隠し、手首には赤い色が滲んでいる包帯を雑に巻き既に死んでいる様な目で私達を睨み付ける。
彼女の名前は、以前アリウスの情報を調べた時に知っている。アリウス分校所属アリウススクワッド二年生『戒野ミサキ』
エデン条約を破壊した、テロリスト集団の一人だ。