虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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その人は『戦術兵器』と呼ばれた

 

「ナギちゃん!大変だよ!?」

 

「ミカさん……!」

 

 トリニティ第二本館、ナギサの四番目の秘密部屋である場所へ中傷を負いボロボロになっているミカが押し寄せた。

 ナギサは偶然にも包帯を解いており違和感無くミカと合流、部屋の中から外の情報を粗方入手している。トリニティ所かゲヘナも巻き込んだ歴史的大事件にナギサは思考を遅らせており、救護騎士団や正義実現委員会に上手く指示を出せていなかった。

 

 どうすればいい。そんな焦りに心臓の鼓動が速まっていたその時、ミカの乱入によってある事を思い付く。

 

「ミカさん、これから私は固有解放を使います」

 

「固有解放!?使っても大丈夫なの!?」

 

「保証は無いですが……狙われる可能性が潰えた今、使う他ありません!」

 

 そう云うナギサは部屋の中心へ行くと、羽を大きく広げた。桐藤ナギサの固有解放『ロイヤルブレンド』役割は『護る力』トリニティ全体に天使としての恩恵と恵み、そして必ず『勝利』へと導く女神の力を持つ。

 ゲヘナと締結を完了させていればゲヘナ生徒にも適応されたが、締結が完了していない為トリニティ生徒限定に身体的強化と超回復を与える。その代わり、相手全体に桐藤ナギサという存在を明かし標的になってしまう事、そして固有解放使用中、ナギサ自身は身動きが取れない。

 

 固有解放時の標的の処理、そして解除後の気絶。その二つを同時に補える存在が今ナギサの隣に居る。

 『聖園ミカ』トリニティ最強に最も近い存在でありナギサの『親友』

 

「護衛は任せましたよ――――ミカさん」

 

「っ……ああもう!そんな事云われたら……!」

 

 次の瞬間、部屋全体が爆発する。

 ナギサへ向かい飛んだ瓦礫を全てキャッチし、爆風に耐える。薄々ミカは感じ取っていた――――既に居場所はバレている。

 

 答え合わせをする様に大量のユスティナ聖徒会がナギサ達の前に現れた。ナギサが一歩後ろへ後退った時、ミカが一歩前へ出る。

 

「――――やるしかないじゃんね!!」

 

「ミカさん……!――固有解放!」

 

 ナギサが固有解放を行う。ナギサの羽が大きく広がり、ヘイローが大きく、黄金色に輝き、その羽とヘイローから黄金色に光る粒の光が辺りの空間へ飛び交った。

 光の粒がミカの傷口に当たった瞬間、傷はまるで無かったかの様に綺麗に消え、瞬く間に全身を完全に回復させる。それ所か気持ちが昂り、身体が軽くなっていく。『護る力』その規格外にミカは笑みを浮かべた。

 

「流石、ナギちゃん」

 

「油断しないでくださいね、ミカさん!」

 

「りょ〜かい♪」

 

︎ ✦︎

 

 先生の目の前に現れた少女『戒野ミサキ』先程の様な爆発を連続で放たれてしまえば、流石に耐える事は出来ない。

 相手にはツルギと同格、そしてアリウスの一人。戦力としては先生側に有利があるにしろ、云わばどんぐりの背比べだろう。

 

「首謀者の一人か……ハスミ、行けるか?」

 

「問題ありません」

 

「私は先生の護衛を……!」

 

 視線は常に相手へ向け警戒は怠らない。言葉だけで役割を決め、ツルギはリーダー聖徒へ走り出した。途中でショットガンを連射し、懐に入った瞬間拳を繰り出した。同時にショットガンで翻弄されたリーダー聖徒も同じく拳を繰り出したが、当たった瞬間リーダー聖徒の腕は完全に砕かれ、その風圧で数体の聖徒も消し去った。

 だが、リーダー聖徒に効いている様子は見えず、即座に蹴りがツルギへ直撃。嫌な軋む音と共にツルギは再び先生達の元へと吹き飛ばされた。

 

「げほ……っけ」

 

「大丈夫ですか、ツルギ?」

 

「あぁ……それより、指名されたぞ」

 

 血を吐き捨て、ハスミに心配されるも平気そうな顔でそう云った瞬間、再びミサキからのミサイルが数発飛んできた。

 ハスミは冷静にスナイパーライフルを取り出すと、到達するより速く一つずつ着実に破壊していく。爆風が辺りの瓦礫を飛ばし、ミサキは嫌そうな顔でツルギ達を見つめ、云う。

 

「……面倒」

 

「それは光栄ですね」

 

 ミサキが舌打ちをする。合図の様に数人の聖徒が二人の横を通り抜け先生達の元へと突っ込むと、目の前にヒナタが立ち塞がる。戦闘力は無いものの、ヒナタの持つ圧倒的な『力』はトリニティ一番を云える程だ。

 崩れた古聖堂を支えられる程高い柱を片手持ち上げ、もう片腕で私を持ち上げた。そしてバットを振る要領で思いっきり振ったと同時、ツルギ、ハスミ、リーダー聖徒、ミサキはジャンプで避け、それ以外の聖徒達は古聖堂の破壊と同時に完全に消滅し、古聖堂も跡形も無く壊されてしまった。

 

「や、やり過ぎてしまいましたか……!?」

 

「いえ、寧ろ有り難い」

 

 辺りがより開け、戦闘への幅も広がる。だがこれ以上戦闘を長引かせてはいけない。先生のタイムリミットが近付く中、どうすれば良いかツルギは警戒しながら思考を巡らせた。

 ヒナタと共に逃がすか、増援を呼ぶか。ヒナタの戦闘力を疑っている訳では無いがこの規模感、簡単に逃れられはしない。増援に関しても待っている間、相手が増援と知れば戦略を変えてくる筈。様々な可能性と選択を考え、上手く動く事が出来ない。

 

 そんな時、尋常では無い速度でこの中にある人物が現れる。

 

「先生っ!!」

 

「ヒナ……!」

 

「あれは……ゲヘナの風紀委員長?」

 

「……!それだ!風紀委員長!先生を連れて病院へ!」

 

「えぇ……!先生、掴まって」

 

 ヒナが現れ、先生が手を差し伸べた瞬間ヒナの翼が先生を包み、再び高速でその場を離れて行った。

 ヒナと云う特異点を視野に入れ、一番重量な『先生の護衛』が取り除かれた。そう考えた瞬間、ツルギは緊張の糸が途切れた様に気を楽にし、息を整えた。

 

「シスター、お前も仲間を探しにいけ……ここは、私達だけで何とかなる」

 

「で、ですが……!」

 

「……ツルギ、考えがあるのですね。なら、ツルギを信じましょう。ここは危ないですから」

 

 私とは別の次元に居る人達、だから想像もしていない事を――――それを信じたヒナタは恩義を感じつつ、その場を離れた。先生とヒナタが居なくなり、状況は劣勢の様に見えるがツルギは笑みを浮かべている。

 

「これでやっと本気を出せる――――ハスミ、武器を捨てろ」

 

「武器を捨てる……何でそんな事するの?」

 

「知らないのですか?何故、私達がこれだけの力を持っていながら『武器』などに頼っているのか」

 

 護衛に意識を持っていかれ上手い事戦闘がいかなかったのは、先生に巻き添えがいかない様無意識に力を制御していたから。だがそれも今は無し。思う存分力を出せる。

 そして何故『武器』を使うのか。それは連邦生徒会長が最初に皆に植え付けたもの。余りにも力が強すぎて均衡が保てない、だからその力を抑える武器を造り出す事で皆にその力を制御させていた。だがそれでは決まりを守る者も、納得する者も居ない。だからその不満を無くす為に生まれた力が『固有解放』

 

「私達は本来の力を制御する為に武器を持った……勿論、今では武器を使った方が強い生徒も居ます」

 

「武器を捨てた私達は今までの何倍も力を発揮出来る……云わば、常時固有解放の様なものだ」

 

「……そんな常識、ある訳……」

 

「今や忘れられてしまったものですからね……ですが、貴方達も無意識に『蹴る』や『殴る』を使っていますよね」

「それが、本来の戦い方。武器を使うなんて綺麗すぎる」

 

 そう云い捨て、二人は武器を置いた。

 手首を鳴らし、準備運動を始めると同時に空から光の粒が二人を覆った。それに聖徒達は銃弾の嵐を浴びせるが、傷一つ付かず寧ろ弾き返していく。やがて光が消えると、そこには今までの傷を全て癒し、笑みを食らわせる二人が居た。

 

「もうこの際だ……被害を抑える必要は無い!」

「少し乱暴に行くぞ、貴様達ぃ!」

 

 そうツルギが叫んだ瞬間、ツルギも光の様に消え気付けばミサキの目の前まで迫り拳を構えた。それを察知したリーダー聖徒はミサキに被害が行かない様身体を盾にし二人の間へ挟まる。

 拳の当たる位置、みぞおち辺りに両手を広げ出来る限りの防御を取る。拳が当たった瞬間、抵抗する間も無く、二人は数キロ先へ吹き飛んで行った。それに加え、竜巻が起こると思わせる程の風圧が辺りを渦巻く。

 

「多少は加減したんだがな」

 

「ツルギはあの人達を追い掛けてください。私も追い付きます」

 

「ああ、任せた」

 

 それを云い残しツルギは消える。

 残った数十人のユスティナ聖徒会に背を向け、飛んで行った二人の方向を見ていると、背後から一人、鉄製のバットを持った聖徒が振りかぶり思いっ切り頭を打った。その瞬間、鈍い音と共にバットは『へ』の字型に曲がる。

 振り向いたハスミはその聖徒をじっと見つめると、突然心臓辺りを手刀で貫き薬程に小さな赤い玉の様な物を取り出す。それを潰した瞬間、貫かれた聖徒は抵抗も無く砂の様に崩れ消滅した。

 

「……成程、理解しました」

「ナギサ様の力は本当にお凄い。身体的以外にも『五感』にも強い影響を及ぼす……貴方達の弱点はその本当に小さな玉を破壊すること」

 

 不死身とまで思っていた聖徒会に弱点を見つけた。それを知ったハスミは締結時に喧嘩が起こった時助けを呼ぶ緊急用の無線を取り出すと、近くの情報部へ情報を送った。

 

「こちら古聖堂前先生護衛役割の羽川ハスミです。返事は聞きません。現在不明の聖徒が現れているその弱点を発見しましたので報告します」

 

『心臓中心に極小の赤い玉が存在します、それを破壊すればその聖徒は完全に消滅、恐らく二度の復活は無いか、相当な時間を要します』

 

 ――――以上。

 

︎ ✦︎

 

 飛ばされたミサキ達の前にツルギが立つ。そして冷徹な声で云った。

 

「これで終わりでは無いだろ?」

 

「……ほん、とう……馬鹿みたい」

 

 リーダー聖徒で守ったにも関わらずミサキは頭から血を流し手で抑えた。そして黒いマスク越しでも分かる程血を吐き、睨み付けるとはまた別の殺意の目をツルギへ向けた。

 リーダー聖徒も今ので上半身全てが吹き飛ぶ程の一撃を受け、回復に多少の時間が掛かっている。周りのユスティナ聖徒会も衝撃でほぼ全員が消し炭、居た所で邪魔でしかならない。形勢は逆転、ツルギが優位に立つ。

 

 瞬間、ミサキがミサイルを数発放つと同時走り出しツルギに攻め入る。ツルギは笑いながら腕を振ると、ミサイルは完全に砕かれ爆散。ミサキの進行を止めた。

 

「終わりとは云わんな?」

 

「そりゃ……ねっ!」

 

 武器を捨て再び勢いを付け懐に入り込むと、白いパーカーの内側に手を入れ、中から小型ナイフを取り出した。見せる隙も無く下から振り上げると、ツルギの脚から肩まで一本線の斬撃を喰らわせる。

 ツルギが拳を振りかぶり、思いっ切り振り下ろすと衝撃がミサキを吹き飛ばし、そこら一帯の地形ごと平面にさせた。飛んでいる途中再び手を入れ一丁の拳銃を取り出すと定格に狙いを定め数発連続して撃ち込む。

 

 放たれた銃弾はツルギの右肩、左腹部、右脚と左脚に命中し血を吹き出した。そのまま膝を着き、思いがけない戦闘力にツルギは内心驚いていた。

 

「中々に強い……一筋縄ではいかないな」

 

「はぁ……はぁ……これで終わってくれれば楽なんだけど」

 

「残念だが――――もう完治している」

 

 既に傷は塞がっており、ただでさえ高い回復力が桐藤ナギサの恩恵によってより高い生命力を手に入れている。それがどれ程相手にとって絶望的か、ミサキは今それを目にしていた。

 その瞬間、ミサキの脳内で『勝利』は消えた。本来は足止め、生きて帰れれば十分と云われていたがその言葉に正直な所微かではありながらも勝利は有り得る事だと思い切っていた。だが、いざ対面してみるとこうも――――高い壁なのだと実感させられる。

 

「アンタ達……早く起きて」

 

 ミサキがそう呟くと、地面から魂が湧き上がり至る所からユスティナ聖徒会が生まれた。リーダー聖徒も復活を果たし、その姿をツルギ本人へと変えていた。

 

「私を模倣でもしたか」

 

「そんなもの……今ゲヘナもトリニティも街中大騒ぎ。中心部にも強力な聖徒達を送っている……私がアンタを足止めするだけで、状況は悪くなるばかり」

 

「そうか……それは大変だ」

 

 そう云うツルギは冷静で、冷徹だった。まるで焦りの一つも無い。ここで足止めを喰らっている時点で全体としての状況が悪くなる事、そんな事は既に理解している。

 だが、ツルギの判断としてここで首謀者の一人を取る事、そして単純な戦闘、破壊する者としての本来をさらけ出せる事にとてつもない幸福を覚えていた。

 

 今のツルギに煽りや焦りは効かない。それは全て興奮へと変えてしまうから。

 

「もうすぐハスミも来る。楽では無いが、この調子であればお前もやれる。状況が悪いのは……どっちだろうな」

 

「……っち、本当に嫌いだ」

 

 戦いは未だ終わる事無く、状況は常に変わる。その時まで。

 

︎ ✦︎

 

 事件発生から数分後、本部からの派遣で戦場へと仲正イチカが現着する。

 

「ここを最後に裁判官からの情報が途絶えたらしいっすけど……本当に居るんすかね。何も無い」

 

 裁判官の情報が途絶えた事により本部全体へ焦りが見えていた。その為動ける人員で一番実力のあるイチカが派遣され、到着したは良いもののその場所、本館一階は爆破の影響で壊滅。聖徒会の影響で到底生き残れる状況では無かった。

 

「一応、戦いに備えておかないと……」

 

 無論、戦わない事が一番である。

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