虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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黒見セリカの後悔

 

 セリカが失踪した。

 理由は分からない、ただ、何の理由もなく失踪なんて、ありえないことだけは分かる。これは、セリカが意図して失踪した訳では無い。私には分かる。この頭が、体が、記憶が覚えている。

 

 朝の四時、太陽が顔を出すと同時、ホシノと一緒にシャーレのコンピュータ室へ篭っていた。

 

「これは失踪なんかじゃない、誘拐だ………セントラルネットワークにアクセス完了」

 

「うへー、先生、そんな権限まであるんだね」

 

 タブレットをパソコンへ繋ぎ、アビドス全体を解析する。セリカの居場所まで特定し、完了を知らせると、ホシノが後ろでそう云った。

 

「これは特別だよ。バレたら怒られるのは私。私だって怒られるのは嫌」

 

「……だったら、なんで?」

 

「……それは、ホシノと同じ理由だよ」

 

 その返しに、ホシノは頷きも、横に振る事も無くただ淡々と画面を見続けていた。この行為は、本来であればある程度許可を得てから使わなければいけないもの。それ程までに強力なこのコンピュータ室は、時間と労力があればキヴォトス全体を知る事も出来るものだ。

 

 それの全てを一点に使った。全てはセリカを助け出す為、セリカは欠けがえのないアビドス対策委員会の一員で、皆んなの大切な仲間で、友達で、私の大切な生徒だ。

 

「『私の大切なセリカ』に手を出したなら、容赦はしなくて良いよね、ホシノ?」

 

「……さあね、私はそういうの分かんないや〜」

 

「……そう」

 

 パソコンを閉じると、軽く首を鳴らす。

 タブレットに情報を移し終え、ホシノと一緒にコンピュータ室を後にした。その朝の帰り道、ホシノが懐かしむ様に云った。

 

「いや〜、それにしても懐かしいや。ああ云う画面を見るのは」

 

「ホシノは、昔何かやってたの?」

 

「まあ、おじさんも昔はやんちゃでね……どうしても生きる為に、ね」

 

 ホシノの口調も、少し重い。そりゃあ当たり前だ。たった五人しか居ないアビドスで、大切な家族友達が連れ去られたのだから。気が気では無い。

 私達から何かを奪うのなら、それ相応の代償を受けなければいけない。

 

︎ ✦︎︎

 

「……っ、う………ん」

 

 暗い……何も見えない……ここは……?

 私が何処にいるのか、それに気付くことは遅くはなかった。重い瞼を上げ目を開けても、目の前が暗い。それは目が悪いわけではなく、私の周りが光すらも遮断されているから。そして身体が、いや私の今いる場所自体が小刻みに揺れている。

 

「こ、ここは………私、どうなって……」

 

 体に異常はない、そう思った瞬間視界が揺れる。

 私は何も出来ずその揺れに吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付けた。よく見ると、両手首が後ろ向きに縄で縛られている。

 

「っう………頭が……」

 

 頭が割れる様に痛い。内側的な痛みでは無い、外側から、何かをぶつけられた痛み。最後の記憶が曖昧で何があったのか思い出せない。最後に目に映ってたのは、赤いヘルメット団だったか?

 

「ここ……トラックの荷台……?」

 

 もし私が気を失う前に見た奴らがヘルメット団だった場合、私を何処へ連れていくのか、奴らの思考はそうそう理解出来なかった。

 

「……あれ…?あそこから光が……」

 

 ふと横を見たら、少しだけ荷台のドアが開いていた。

 私は縛られた両手首を何とか動かし直ぐに近付き、今何処に居るのかを確認しようとその光から外を見つめる。陽の光が特に強い、時間帯は昼間に近いだろう。

 

「……砂漠……線路!?線路がある場所って……ま、まさかここ、アビドス郊外の砂漠!?」

 

 少し声を荒らげると、頭痛と成って頭に響く。

 空気がむせ返り、咳が止まらない。此処がアビドス郊外なら、ここは電波が届かない場所だ。もし借りに今脱出出来たとしても、対策委員会の皆んなに知らせる所か、此処が今何処なのかも分からない。

 

 そう気づいた時、全身の力が抜け、座り込んでしまう。

 私は私のプライドに負けて皆んなから逃げて、挙句の果てに誘拐され、自分の力で脱出出来たとしても皆んなと会うことが出来ない。誰がどう見ても、詰みだ。

 

「……このまま何処かに埋められちゃうのかな……誰にも気づかれないように……」

 

 今助けに来たとしても、皆んなも私がどこにいるのか分からない。アヤネちゃんや先生が探しても、最低でも三日は掛かる。それよりも早く、私は死ぬだろう。

 きっと皆んなはそう思わない筈なのに、こんな状況になってしまって、呆れられて、街を去ったって思われてたら……私は、本当の意味で帰ることが出来なくなってしまう。

 

 諦めたくない、諦めたくないからと云って、状況が変わる訳では無い。どれだけ頑張っても、この所から逃げることは出来ない。

 

「そんなの……ヤダよ……」

 

 視界が揺れる、冷たい雫が零れ落ちる。

 死にたくないより、皆んなに謝ることが出来ない事が今何よりも嫌だ。

 

「っう……ぅぅ……」

 

 もう、私に何かをする力は残っていない。何もしたくない、このまま、いっその事死んでしまいたい。

 遠い記憶、初めて私達が此処に来た事を、走馬灯の様に思い出した。

 

︎ ✦︎︎

 

「く、黒見セリカです!宜しく、お願いします!」

 

「一年生の、奥空アヤネです。宜しくお願いします」

 

「うん、宜しくね〜二人とも」

 

 初めてこの学校を見た時『ここしかない』と感じた。

 理由は分からない。けど、ここしかないと思った。それを友人のアヤネちゃんに云ったら、一緒に来る事になって、無事に入学する事が出来た。

 先生達からは、皆んな反対された。

『もっと他の良い所がある』とか『こんな場所、もう直ぐ無くなるよ』とか、散々云われてきた。けど、最後まで変える事なんて無かった。

 

 初めてホシノ先輩と、シロコ先輩と、ノノミ先輩を見た時、憧れたな。こんな人が居るんだって。まるで『大人の様だな』って思った。格好良くて、頼もしくて、信用出来る様な人達。

 借金の話を聞いた時も、やる気に満ち溢れていた気がする。だから兎に角色んな高そうなバイトを見つけては、皆んなに相談して、見事に惨敗してきた。もう、覚えてないぐらい。

 

 戦いを得て、お金を得て、人を知った。

 私は誰よりも皆んなが好きで、好きで、大好きだ。だから、どれだけ止ませようとしても、私の雨は止まる事を知らない。

 

 死ぬ最期の時ぐらい、先生に謝っておけば良かったな。本物の大人、格好良かったな。

 私にとっての大人はホシノ先輩で、シロコ先輩で、ノノミ先輩だ。だから、無駄なプライドが邪魔をした。とても歪で、気持ちの悪い、大嫌いなプライド。

 

 ―――最後は『ごめんなさい』の筈だったんだよ。先生。

 

︎ ✦︎︎

 

 私は、きっと死ぬ。けど、そんなこと対策委員会の皆んなが、先生が、許す訳が無い。

 この場所がバレる事も無いだろう。だから私から連絡するんだ『ごめんなさい』って、云うんだ。絶望のまま立ち上がった次の瞬間、大きな爆発音と共に、トラックが大きく揺れ、吹き飛ばされそうになる。

 

「う、うわあああっ!?」

 

 さっきの感情が何処かへ飛んで行き、叫び声がトラック中に響く。爆発でドアが壊され、砂が舞うと同時、元々そこまでキツく縛られ過ぎていなかったのか、両手首の縄が千切れ、解放状態へとなった。

 

「けほっ……けほっ……な、何っ!?爆発!?トラックが爆発した!?」

 

 トラックから顔を出し、周りを確認する。辺りは砂漠だが、奥の方にビルが数棟見えた。郊外と云えまだそこまで離れていない様だ。

 辺りを見渡し、上を見上げるとドローンが頭上に現れた。

 

『セリカちゃん発見!生存確認しました!』

 

 その時私の目の前には、ホログラム状態のアヤネちゃんがこっちを見ていた。

 呆気に取られていたのも束の間、震えた脚でトラックから出ると同時、真後ろの乗っていたトラックが豪快な音と共にU字型に潰れてしまった。驚きと余波の余り尻餅を着いてしまう。ペシャンコにしたトラックの頭の上にはシロコ先輩が拳握り、私を見つめていた。

 

 シロコ先輩は表情を強くし直ぐに私の元へ駆けつけると無線で誰かに伝える。

 

「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」

 

「なっ!?」

 

『ナイスですシロコ先輩!』

 

 アヤネちゃんの声が聞こえる。

 その方向を見ると、人が数人、私の大好きか人達だ。

 

「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんね〜!!」

 

 さっきまで遠く見えていた筈の皆は既に私の目の前まで来ていた。そしてホシノ先輩が茶化す様な嘘涙と共に抱きついてくる。確かに泣いていたかもしれない、そんな事気にしてすらいなかったけど、でももしそうだったとしたら―――恥ずかしい

 

「う、うわああ!?う、うるさいっ!!な、泣いてなんか!!」

 

「嘘!この目でしっかり見た!」

 

「泣かないでください、セリカちゃん!私達が、その涙を拭いて差し上げますから!」

 

 そう云い先輩三人が私の周りを囲む。私をまるで子供の様にあやす事に恥ずかしさを超え怒りを覚えた。そしてさっきまであった疲労感や悲観的な私は居なくなり、その場で暴れてやった。

 

「あーもう、うるさいってば!!違うったら違うのっ!!黙れーっ!!」

 

「良かった、セリカ!」

 

 そう云い奥から先生までもが来てくれた。

 よくよく思い出せばホシノ先輩の後ろに誰かが背負われていた様な気がする。

 だが、先生は何故か脚をぷるぷると震わせゆっくりとした脚取りで来ていた。何故生まれたての子鹿の様になっているのかと聞くと、ホシノの移動速度に身体が追い付かず痺れてしまったらしい。何をやっているんだと、少しだけ顔が絆される。

 

 そんな顔も一瞬、次に私の頭には何故ここに来たのかが疑問として生まれた。

 

「と、と云うか何で先生まで来たのよ」

 

「私のお姫様を助けに行く為に理由なんてないよ」

 

「なっ……!?何言って!?」

 

 ドヤ顔で云っているが、脚が震えている事に変わりわなく、むしろ変な姿を見せられている。

 そんな中突然『お姫様』だなんて訳の分からない嘘を聞いて、嘘の筈なのに、どうしても頭で繰り返されて、顔が熱くなっていく。

 

「バッカじゃないの!?だ、誰がお嬢様よ!!冗談やめて!!ぶ、ぶん殴られたいの!?」

 

「うへ、元気そうじゃ〜ん?無事確保完了だね〜」

 

『よかった……セリカちゃん私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって……!』

 

「……アヤネちゃん」

 

 アヤネちゃんはホログラム越しに泣いてまで私を心配してくれる。シロコ先輩は真面目に、ノノミ先輩とホシノ先輩は茶化しながらも私を安心させてくれる。先生は――――

 

「まだ油断は禁物だよ。戦術サポートシステムを使ってトラックは制圧……と云うか潰しちゃったみたいだけど、まだここは敵陣のど真ん中だから」

 

「だね〜。人質を乗せた車両が破壊されたって知ったら、敵さん怒り狂って攻撃してくるよ〜多分」

 

 両目を擦り少し目元が赤くなったアヤネちゃんがマップを確認する。少し詰まった声色でアヤネちゃんが叫んだ。

 

『前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!さらに巨大な銃火器も多数確認しました!徐々に包囲網を構築しています!』

 

「敵ながらあっぱれ……それじゃ、せっかくだから包囲網を突破して帰りますかね〜」

 

 こんな事をしてまで私を助けてくれた。それが凄く嬉しい。

 助けられてばかりの私が皆んなにこれ以上任せる訳にはいかない。私だって、皆んなの力になりたい。

 

「……気を付けて。奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ」

 

「知ってる、Flak四一改良型」

 

「セリカ、まだ戦える?」

 

 そう先生が聞いてくる。

 それは、私を見ての遠慮なのか。私の事を思ってだろうか。だけど、今の私は過去を振り返った弱い私だ。だけど、もう次は負けられない気持ちもある私だ。

 今この瞬間、シロコ先輩にだって、ノノミ先輩にだって、ホシノ先輩にだって負ける気はしない。もう負け続けた私は、過去そこには居ない。

 

「もちろん!先生も指揮、間違えるんじゃないわよ!」

 

「うん、任せてよ」

 

 次は、私がみんなを助ける番だ。




シロコも車潰せるしアビドスはやっぱりパワーバランス崩壊してますね。
全然アビドスの人達って車とか使うより走った方が速いし(ホシノシロコのみ)普通に建物とか破壊できるし色々とぶっ壊れキャラ達の集まりなんですね。他人事の様に云ってるけど私の世界やろがーいって話ですけどね
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